第4回 脊髄くも膜下麻酔(腰椎麻酔、脊椎麻酔)|適応・禁忌、使用薬剤、方法・手順、看護のポイント
- 公開日: 2021/4/17
脊髄くも膜下麻酔とは、どのようなときに行うのか、使用する薬剤や手順などを解説します。
【関連記事】
● 第1回 麻酔総論|全身麻酔と局所麻酔
● 第5回 硬膜外麻酔|適応と禁忌、実施方法、使用薬剤、副作用と合併症
脊髄くも膜下麻酔とは
脊髄を覆っている膜の下、脊髄くも膜下腔に局所麻酔薬を注入する麻酔法で、いわゆる下半身麻酔です。腰椎麻酔、脊椎麻酔とも呼ばれます。成人の脊髄末端は第一腰椎(L1: 腰椎はLumbarを略してLと呼ぶ)付近にあり、それより下は髭のような馬尾神経となっています。脊髄本幹がある場所での穿刺は脊髄損傷のリスクがあるため、第三第四腰椎間(L3/4)辺りから穿刺します。脊髄くも膜下腔は脳脊髄液の中に馬尾神経が走行していて、その空間に直接薬を注入します。硬膜外麻酔と比べ、神経周囲に直接作用するため効果発現は迅速で、強い麻酔作用で知覚神経と共に運動神経も麻痺させます。麻酔持続時間は限定されます。
脊髄くも膜下麻酔の適応
下腹部より下の手術、例えば帝王切開、虫垂や鼠径ヘルニア手術、下肢骨折手術、経膣・経尿道的手術などが良い適応です。
2時間以内の手術が適応となります。長時間の手術が予想される場合や術後鎮痛を目的として硬膜外麻酔を併用することもあります(次回連載を参照)。
脊髄くも膜下麻酔の禁忌
絶対的禁忌:穿刺部位の感染、頭蓋内圧亢進(脳幹ヘルニアのリスクになる)、患者さんの協力が得られない場合
相対的禁忌:脊柱術後や変形、二分脊椎、出血傾向(抗血小板・抗凝固薬服用中や休薬期間不足、採血検査で血小板数や凝固能低下)、病的肥満、循環血液量減少や大動脈弁狭窄など前負荷依存状態
脊髄くも膜下麻酔の使用薬剤
局所麻酔薬のブピバカイン(マーカイン®︎)が多くの施設で使用されています。脊髄くも膜下麻酔用の局所麻酔薬には、主に髄液に対して高比重のものと等比重(髄液内では実際は低比重)の製剤があり、高比重は重力の影響で身体の床側に、等比重では天井側に麻酔が広がるのが大きな特徴です。2-3mLの投与量で2時間程度効果が持続します。その他にもジブカインやテトラカインも使用されることがあります。鎮痛効果の増強や術後鎮痛目的に少量の麻薬を添加することがあります。
脊髄くも膜下麻酔の方法・手順
通常穿刺は側臥位で行います(肥満、妊婦、仙骨領域だけ効かせたい場合などは座位で行うこともあります)。患者さんを横向きにし、医師が穿刺しやすいように患者さんの背中がベッドサイドのぎりぎりに来るように移動してもらいます。穿刺部位のランドマークとなる骨盤の上前腸骨稜を触れます(左右の前腸骨稜を結ぶ線はヤコビー線と呼ばれ、その中央がL4もしくはL4/5。図)。患者さんには、穿刺予定部位を背中側に突き出し、両膝をお腹に抱えるよう、頭はおへそを覗き込み、胎児のように丸まってもらうことで、脊椎間を広げ穿刺しやすくします。体位作成の介助者は患者さんのお腹側から肩と膝を支えます。
処置は清潔操作で行われ、まず医師が滅菌手袋を着用し穿刺部とその周囲を消毒、滅菌布を患者さんにかけます。23-27G程度の細い針で皮膚皮下の局所浸潤麻酔を行った後、脊髄くも膜下針(スパイナル針25-27G)を穿刺します。針は皮膚、皮下、棘上靭帯、棘間靭帯、黄色靭帯、硬膜くも膜を経て、脊髄くも膜下腔に達します。
スパイナル針は大きく2種類に分かれ、クインケタイプは針先が刃面になっており1本の針だけで穿刺しますが、ペンシルポイントタイプでは短いイントロデューサー針を棘間靭帯まで進め、その針をガイドにして針先が丸みを帯びたスパイナル針で穿刺します。
針先が硬膜(くも膜とほぼくっついている)を穿刺する際、プツンと破る感覚があることが多く、脊髄くも膜下腔に達したことは針の内筒を抜き髄液の逆流があることで確認されます。薬液の入ったシリンジを針に接続し、シリンジを引いてさらに髄液の逆流を確認した後、2-3mL程度の局所麻酔液を10-15秒ほどかけ注入していきます。
穿刺時に針先が神経に触れ腰や下肢に放散痛が起こることがありますが、少し針をずらしても症状が継続する場合は、新たに穿刺し直します。患者さんによっては予定の針の長さでは脊髄くも膜下腔に届かない場合があり、長いスパイナル針をオーダーされることがあります。処置後、皮膚穿刺部に絆創膏を貼付します。