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千葉県で初! 人工膝関節置換術支援ロボット導入

  • 公開日: 2021/8/9

2021年7月、名戸ヶ谷病院(千葉県柏市)にて、最新の人工膝関節置換術支援ロボット「ROSA Knee(ロザ・ニー)」が千葉県で初めて(国内7施設目)導入されました。同院整形外科部長の國府幸洋先生に、手術支援ロボットの特長や、導入により患者さんにもたらされるメリットなどについてお聞きしました。


健康寿命の妨げとなる運動器疾患「変形性膝関節症」

 日本をはじめ先進国の多くで超高齢化が進むなか、注目されているのが「健康寿命」です。健康寿命とは、介護や支援を要せず健康に問題なく日常生活が送れる期間のこと。


 その維持を妨げるものとして、「認知症」や「脳血管疾患(脳卒中)」などが筆頭に挙がりますが、下肢の障害につながる「関節疾患」と「骨折・転倒」が要支援の原因として上位にある1)ことも見過ごせません。下肢の障害は日常の活動性を低下させ、最終的には寝たきりにもつながってしまいます。


 下肢障害の原因として多くを占めるのが「変形性膝関節症」です。変形性膝関節症は早い人では40歳代から発症し、現在の日本における患者数はおよそ1,000万人と推定されています。加齢や骨折、外傷、化膿性関節炎などにより、軟骨が擦り減って膝関節が変形し、歩行に困難が生じるもので、スポーツなどによる膝への過度の負荷、いわゆる使いすぎもその原因となります。


 症状が軽い段階では、生活指導や運動器リハビリテーション、ヒアルロン酸注射、膝装具の作成といった保存療法が行われますが、進行してしまうと日常動作や歩行が困難になり、手術療法が選択されます。


手術支援ロボット導入で患者さんの不安を解消

 変形性膝関節症に対する手術として代表的なものが人工膝関節置換術です。米国では年間およそ70万件の手術が行われているのに対し、日本での実施件数は年間約8万件と少なく、多くの患者さんが膝の痛みを我慢し続けています。


 実施が進まない大きな原因として挙げられるのは、患者さんが感じる不安です。手術そのものに対する不安もあれば、人工物を体内に入れることへの不安もあるでしょう。さらに、効果や術後に対する不安も考えられます。


 このような不安を解消するため、当院では十分なインフォームドコンセントを行っていますが、さらにできることがないかを検討してきました。そこで出合ったのが人工膝関節置換術支援ロボット「ROSA Knee(ロザ・ニー)」です。


 人工膝関節置換術は変形性膝関節症に対する優れた治療法のひとつですが、ロザ・ニーを用いることで患者さんの不安をさらに和らげ、前向きな気持ちで手術を受けてもらえると期待しています。


ロザ・ニー

千葉県での導入は初となる人工膝関節置換術支援ロボット「ロザ・ニー」


手術の精度向上とオーダーメイド治療を実現

 ロザ・ニーは、神経外科領域・整形外科領域向けに開発された手術支援ロボット「ROSA(ロザ)」に、人工膝関節置換術のプログラムを搭載したものです。世界で200台以上導入されており、2020年までに1万人以上がロザ・ニーを使用した手術を受けています。


 現在の人工関節(インプラント)の性能はすでに進歩しきっているといえます。そのため、人工膝関節置換術の成績を向上させるためには、手術手技の精度を高めるしかありません。


 ロザ・ニーは、専用カメラと光学トラッカー(測定機)によって、手術中に患部の解剖学的特徴(骨形態)と軟部組織のバランスを解析し、執刀医にリアルタイムで情報提供を行います(ナビゲーション)。さらに、専用のロボットアームが骨切りやインプラントの設置を補助することで、従来と比べ、より適切なインプラント設置が可能となります。


 ロザ・ニーの特長はなんといっても正確性の高さです。


 人工膝関節置換術では、疾患のある膝関節の骨・軟骨の損傷面を切り取り、インプラントを固定します。その際、インプラントの装着感や靭帯の緩みなどについては、手術時でないと正確に把握することができません。そのため、今までの手術方法では、執刀医の経験と感覚に依存する部分が少なからず生じます。


 しかし、ロザ・ニーを用いることでさまざまな情報が正確に把握でき、骨切りの際には0.5mm、0.5度単位での精密な調整が可能となることから、誤差の少ない、より患者さんに適した手術を実現します。


 われわれ整形外科医は、患者さんの背景や術後のライフスタイルに合わせて手術計画を立てます。それをベースに、ロザ・ニーによるナビゲーションとロボットアームによる補助で、個々の患者さんに最適な手術を提供できるようになりました。これは、将来的にオーダーメイド治療につながるものだと感じています。


測定

専用カメラと連携して膝の位置を正確に把握する光学トラッカー


手術計画

詳細な解析データにより、手術計画の個別調整が可能


ロボットアーム

高精度の手術手技(骨切り)を実現するロボットアーム


患者さんにもたらされるメリット

 ロボット支援手術が患者さんにもたらすメリットは主に3つです。


 まずは、長期成績の向上が期待できます。手術時の誤差でわずかでも傾きが生じると、インプラントの軟骨部分にあたるポリエチレンへの荷重が均等でなくなり、長期に使用する間に摩耗が生じる恐れがあります。場合によっては、インプラントの緩みが早期に生じることもあります。


 しかし、ロボット支援手術は精度が高く、患者さんの状態にフィットしたより適切なインプラント設置が行われ、その誤差は微小です。その結果、インプラントが長持ちし、再手術のリスクが減少することが期待されます。


 次に、手術がより低侵襲になります。人工膝関節置換術に際しては、筋肉や骨、靭帯といった組織に少なからず侵襲を加えることになりますが、ロザ・ニーを使用することで、切り直しや剥離といった追加の手術操作がほとんどなくなるため、それらを最小限に減らせます。


 最後に、術後の症状の軽快が期待できます。先のメリットに起因するものですが、海外の報告では「術後疼痛の減少」「入院期間の減少」などが報告されています2)、3)


 ちなみに、ロザ・ニーによる手術では、使用する器械の種類や数が劇的に減ります。ですから、手術室スタッフにとっては、その準備や消毒・滅菌に要していた時間が短くなるというメリットもあります。


 この新しい「ロザ・ニー」を使うことで、一人でも多くの人に変形性膝関節症を乗り越えてもらいたい。それにより、健康寿命の延伸に貢献したいと考えています。


引用文献

1)厚生労働省:2019年 国民生活基礎調査の概況.(2021年7月21日閲覧) https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/14.pdf

2)Nikhil Agarwal et al:Clinical and Radiological Outcomes in Robotic-Assisted Total Knee Arthroplasty: A Systematic Review and Meta-Analysis.J Arthroplasty 2020;35(11):3393-409.

3)B Kayani at al:Robotic-arm assisted total knee arthroplasty is associated with improved early functional recovery and reduced time to hospital discharge compared with conventional jig-based total knee arthroplasty: a prospective cohort study.Bone Joint J 2018;100-B(7):930-7.

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