腹水穿刺(腹腔穿刺)とは|適応と禁忌、手順、注意点
- 公開日: 2021/8/19
腹水穿刺とは
腹腔内に針を刺し、腹水を抜くことをいいます。原因が特定できない腹水の診断や抗がん剤などの注入、腹水貯留による苦痛緩和を目的として行いますが、安易な腹水除去は逆に腹水貯留を加速させる可能性があります。
腹水穿刺の適応と禁忌
腹水穿刺の適応は、難治性腹水、原因がわからない腹水貯留です。禁忌には絶対的禁忌と相対的禁忌があります。
絶対的禁忌…著明な腸管拡張(腸閉塞)、妊娠、重度かつ是正不能の血液凝固障害、腹壁の感染
相対的禁忌…穿刺部位に手術瘢痕がある、大型の腹腔内腫瘤、腹部側副血行路を伴う重度の門脈圧亢進がある場合
穿刺部位
腹水穿刺の穿刺部位は、臍と左上前腸骨棘を結ぶ線(モンロー・リヒター線)の外側1/3、またはその反対側です。この場所を選択することで、下腹壁動脈への誤穿刺を避けることができます。
穿刺は、穿刺部位・刺入角度・深さを確認したうえで行います。穿刺部位を決めるにはエコーを使用し、奥行きが十分にあり、ほかの臓器の介在がないことを確認しなくてはなりません。ただし、癒着が強い場合は穿刺を実施しないこともあります。
実施前・中・後の看護(観察項目、注意点)
腹水穿刺を行う際は、バイタルサインに変化はないか適宜確認する必要があります。一回で多量の排液があった場合、横隔膜圧迫解除により呼吸状態に変化がみられることもあるため注意ましょう。そのほかにも、排液量・性状・腹痛の有無(腸管損傷による腹膜炎により起こる)・穿刺部位からの出血が観察項目として挙げられます。
穿刺後もバイタルサインを定期的に計測し、異常がないかを確認します。また、穿刺部位からの出血・感染徴候・腹痛・呼吸苦・排液の性状(血性、便汁様)など変化があればすぐに医師へ報告します。
実際の手順
必要物品を用意
以下の物品を用意します。同意書も必ず確認しましょう。
刺し抜き(一回穿刺)・留置共通
消毒液(ポビドンヨードなど)、滅菌手袋、滅菌ガーゼ、キャップ、マスク、穴あき滅菌シーツ、防水シーツ、滅菌ガウン、SpO2モニター、シリンジ、ロックシリンジ、18G針(局所麻酔をシリンジから吸う際に使用)、24G針(局所麻酔穿刺時に使用)、局所麻酔薬、アルコール綿、油性マジック(マーキング用)、ドレッシング材、鋭曲
刺し抜き(一回穿刺)のみ使用
サーフロー針、かめ、エクステンションチューブ、三方活栓、輸血セット(混注ライン)
留置のみ使用
アスピレーションカテーテルキット、持針器、縫合糸、ドレッシング材、固定用テープ、輸血セット(混注ライン)
実施の手順
抜き刺し(1回穿刺)の場合
①オリエンテーションを行い、手技の説明と理解度を確認する
同意書を確認しておきます。実施の前にはオリエンテーションを行い、手技に対する患者さんの理解度を確認します。患者さんの不安や疑問が残らないよう、オリエンテーションは適宜質問を交えながら進めましょう。処置に時間がかかるため、事前に排尿を済ませておいてもらいます。
②患者さんの体勢を整える
基本的には仰臥位で行いますが、場合によっては側臥位や座位で行うこともあるため、クッションなどを使用し、患者さんが安楽な体勢になるように位置を整えます。
③実施のための環境を整える
ベッドの高さ、明るさ、清潔区域が確保できているかを確認します。患者さんのベッドサイドの物を移動する場合は、1つひとつ患者さんに声をかけながら行うようにしましょう。
さらに、防水シートを敷き、患者さんのベッドが汚れないようにします。
④バイタルサインを確認する
SpO2モニターと血圧計を装着し、バイタルサインを測定して問題がないことを確認します。腹水穿刺を行っている際には、常にバイタルサインをチェックするようにします。
⑤穿刺部位に印をつけ、タイムアウト※を行う
医師はエコーで穿刺部位を決定し、マーカーで印を付けます。その後、タイムアウトを医師と看護師で行います。
※タイムアウトとは手を止め、声を出して確認作業をすることです。確認する項目には、患者さんについて(患者さんの氏名・カルテ番号・生年月日・血液型)・検査内容・穿刺部位・同意書などがあります。
⑥個人防護具を着用。穿刺部位を消毒し、穴あき滅菌シーツをかける
医師はキャップ、滅菌ガウン、滅菌手袋を装着し、ポビドンヨードで穿刺部位を消毒して穴あき滅菌シーツをかけます。看護師は、医師の滅菌ガウンの装着を介助します。
⑦局所麻酔の準備をする
看護師は清潔野にサーフロー針(16Gか18G)またはアスピレーションカテーテルキット、シリンジ、18G針、24G針を用意します。
⑧局所麻酔を行う
看護師は局所麻酔薬のアンプルをカットし、医師は薬液を吸って、穿刺部に局所麻酔を行います。
⑨排液を確認して固定する
医師は穿刺をして腹水を確認したのち、留置する場合は穿刺部と周辺の皮膚を固定します。針の固定が浅いとスムーズに排液が行われないこともあるため、排液が問題なく行われているかを確認します。
⑩検体を採取する
必要であれば、検体を採取します。看護師は検査内容に応じて必要な容器を準備しましょう。
⑪針を抜く
腹水を抜き終わったら、医師は針を抜きます。
⑫刺入部を保護する
刺入部を圧迫しながら保護し、漏れがないかを確認します。
以下、留置する場合
①〜⑩までの手順は抜き刺し(1回穿刺)の場合と同じです。
⑪医師から排液量、速度について指示を仰ぐ
排液中は、バイタルサインを30分ごとに計測し、経過を観察します。
⑫排液チューブを固定する
三方活栓・エクステンションチューブ・混注輸液セット※をつなぎ、先端が底につかないようにテープでかめに固定します。スムーズな排液のために、ベッドとかめに高低差をつけます。
※穿刺後にCARTを行う場合は腹水処理用採取液ライン、採取循環バッグを用います。
⑬刺入部をガーゼ、テープで固定する
患者さんの苦痛にならない箇所を選択し、刺入部をガーゼ、テープで固定します。
ルートは抜けやすいため、ループを作って固定します。
腹水のある患者さんは皮膚が脆弱になっていたり浮腫があったり、皮膚トラブルが起こりやすい状態の場合が多いです。皮膚トラブル予防のため、皮膚に当たる部分にはガーゼを巻く、または皮膚保護剤を使用し、カテーテルの接続部など固い部分が直接皮膚にあたらないように配慮します。
⑭環境整備、患者さんへの説明をしてその場を離れる
患者さんの周囲の環境を整えます。使用した物品を片づけ、移動した物があれば元に戻します。事故を防ぐため、周囲の状況について説明し、ナースコールは患者さんに渡すか、位置を伝えておくようにしましょう。
長時間ルートを留置するため、ルートに引っかかるなど転倒のリスクが高くなります。移動の際は必ずナースコールを押すように伝えることも大切です。衣類や体位などは、患者さんが安楽になるように調節しましょう。
腹水穿刺の合併症と看護
腹水穿刺の合併症には以下のものがあります。実施前、実施中だけでなく、実施後も注意して観察します。主にバイタルサインの観察と苦痛症状(腹痛、呼吸苦)がないかを注意します。
留置している場合は、排液の性状が変化が認められたら、直ちに医師に報告します。