薬剤準備と投薬|手術室編
- 公開日: 2021/9/11
手術室では、全身麻酔薬、電解質補正薬、筋弛緩薬、麻薬、カテコラミン類など、患者さんの全身管理に必要な薬が数多く使われています。その多くは、薬剤の種類や投与量を間違えると致命的となることが少なくありません。麻酔導入や出血時緊急対応など刻々と患者さんの容態が変化し、状況判断から薬剤選択、希釈準備、投薬まで時に秒単位で行われることも手術室の特徴ですし、誤薬・誤投与がどうしても起きやすい環境と言えます。誤薬・誤投与対策として記載内容や薬効別に色分けし標準化されたシリンジラベルの使用が推奨されています1)。看護師にも手術中に急遽、薬剤準備や投薬指示が行われることもあるため、最低限のポイントは抑えておきましょう。
必要物品
手術室で使用する薬は末梢静脈路からの投薬がメインですので、本稿では静脈注射に焦点を当てて解説をします。前述の標準化されたシリンジラベルの使用に加え、同じ薬剤は基本的に同サイズのシリンジで準備(例:ロクロニウムは全て10mLシリンジで準備など)する運用方法が、より誤薬を減らせる可能性があります2)。また硬膜外カテーテルからの投与など、神経麻酔用(黄色)の針やシリンジでの薬剤準備方法があることも確認しておきましょう(第1回 硬膜外麻酔の準備・介助 参照)。
手順
1 薬剤準備
①事前薬剤オーダーがあるかを確認する
患者さんが手術室入室する前に事前薬剤オーダーがある場合、紙面や電子カルテ上の指示書を確認します(ただし、急変や蘇生時など医師が指示書作成が困難な場合、手術室では看護師がその場の医師から口頭指示を受けて薬剤準備をすることもあります)。
②患者の薬剤アレルギーの有無を再度確認します。
③薬剤、希釈用生理食塩水(もしくは注射用水)、シリンジ、注射針を薬剤カート上の調剤スペースに準備します。
準備薬剤が指示どおりであることを、別の看護師と指示内容を照合し確認しましょう(ダブルチェック)。
④手指消毒後、清潔な未滅菌手袋を装着します。
⑤薬液をシリンジに吸い上げます。
アンプルの場合は、アンプルの首をアルコール綿で拭き、印の部分を上に持ってアンプルを折ります。バイアルの場合は、フタを取りゴム栓をアルコール綿で拭きます。アルコールが乾燥したら、シリンジで必要薬液量と同量の空気を注入します。必要量の薬液を吸い上げ、空気を抜きます。希釈が必要な薬剤は、まず生理食塩水を希釈に必要な量だけシリンジに吸い上げ、その後薬剤を吸うと希釈量の間違えが少なく済みます。例えば、ネオシネジン®︎(フェニレフリン)1mg/mLを生理食塩水19mLで希釈して1mg/20mL(0.05mg/mL)にする場合、初めに19mLの生理食塩水を吸ってから、ネオシネジン®︎1mLをアンプルから吸います。アンプルまたはバイアルは手術終了時まで捨てずに薬剤カート上に置いておきましょう。採液したシリンジにシリンジラベルを貼付します。
2 薬剤投与(手術室で看護師が行う場合)
手術中、新たに薬剤準備と投薬指示があった場合(鎮静薬や降圧薬など)、上記1の手順に沿って薬剤準備を行います。看護師同士でのダブルチェックが困難な場合、同室の医師と行う場合もあります。
①薬剤を準備し、医師の指示内容を確認します。
薬剤準備後、投薬する前に医師に指示内容(薬剤名、投与量)を再度確認します。このとき、特に急いでいるときこそmg/mLを正確に伝えて双方向で確認することが非常に重要です。例えば、「ミダゾラム2ミリ入れてください」と言われた場合、ミダゾラムの原液は10mg/2mLですが生理食塩水で希釈して1mg/1mLで数mgを投与をすることが一般的です。2mL/2mgが医師が本来意図した量だとして、原液2mLだと5倍量で、意識消失に加えおそらく完全に呼吸は停止します。必ずどのような薬剤もmgとmLの確認を怠らないようにしましょう。
②準備した薬剤の確認が済んだら、実際に投薬します。
三方活栓のフタを外し接続口をアルコール綿で拭き消毒します。このとき、ニードルレスキャップやアクセスポートの場合は同部位を消毒することになります。三方活栓にシリンジを接続し、三方活栓の患者さん側とシリンジ側をOPENにして、薬剤を注入します。三方活栓のシリンジ側をOFFにしてシリンジを外し、三方活栓の接続口をアルコール綿で消毒し、新しい滅菌済みのフタをします(ニードルレスキャップやアクセスポートの場合はフタは不要)。そして、三方活栓の向きが輸液剤側と患者さん側が開通している(輸液の滴下)ことを必ず確認しましょう。
③投与後に薬剤の効果を確認します。
輸液剤の滴下がゆっくりであったり、三方活栓から患者さんの静脈留置カテーテルまでの延長ラインが長い場合は薬剤が患者さんの体内に届くまでに時間を要することに注意しましょう。医師の指示(もしくは必要性を看護師側から確認する)があれば薬液注入後、一時的に点滴の滴下速度を早めたり、生理食塩水でフラッシングを行います。
薬剤投与後はすぐに医師に投与した薬剤名と投与量を報告し、患者さんに期待される薬剤効果が適切に現れることを確認しましょう。投与薬剤、投与量、投薬時間は看護記録(所定の処置記録など)に記載します。
注意したい薬剤の吸い方のポイントやコツ
●ラボナール(チオペンタール)・・・添付の注射用水で溶解します。溶解液を乾燥薬剤に向けて勢いよく注入すると薬液が泡立ちシリンジに採液しにくくなるため、ゆっくり注入して溶かすのがポイントです。大きなアンプルのためアンプルカット時に上手く首が折れず手指を怪我しないように注意しましょう。
●アルチバ(レミフェンタニル)・・・バイアル内の白色の乾燥薬剤は少量で、微量の注射用水のみで溶解されます。不慣れな医療者が手術中に急遽追加のアルチバの準備する場合など、間違えて空バイアル(フタが外れ、中身も空だが)に注射用水を注入して溶解したつもりになり水のみのシリンジを準備してしまうケース(俗に水チバと呼ばれる)もあり、原則に従い手術室看護師と麻酔担当医師とでダブルチェックを行うことが望ましいです。
●インスリン・・・手術室ではレギュラー(早効型)のバイアル製剤が用いられます。インスリン投与量はmgやmLではなく単位(unit:U)で規定されおり10mLが1000単位(U)のバイアルが一般的で、調剤時には特に注意が必要です。高血糖治療で0.5-1.0U/時間の持続投与や皮下注射3U程度が行われますが、手術室で使用されるインスリン量は多くの場合は数単位程度に留まります。仮に原液 1mL(100U)が誤って患者さんに投与された場合、どれほど重篤な低血糖になるか想像するだけで恐ろしいことです。0.5mL/50Uのバイアル製剤は正確に希釈し投与する必要がありインスリン専用シリンジ(下の写真)が通常使用されます。当院ではインスリン0.5mL/50Uに生理食塩水45.5mLを加え1mL/1U(50mL50U)となるように調剤するように運用が統一されています。
引用・参考文献
1)公益社団法人 日本麻酔科学会ホームページ. 周術期の誤薬・誤投与防止対策 −薬剤シリンジラベルに関する提言−(2015年3月27日制定).(2021年8月4日閲覧)https://anesth.or.jp/files/pdf/guideline_0604.pdf2)Fasting S, Gisvold SE. Reports of investigation: adverse drug errors in anesthesia, and the impact of coloured syringe labels. Can J Anesth.2000;47:1060–7.