輸血とは|適応とリスク、輸血用血液製剤の種類、実施の基準
- 公開日: 2021/9/23
輸血とは
血液は、細胞成分(赤血球、白血球、血小板)と血漿成分からできています。十分な血液成分を作れない場合や、大量出血により生命に危険が生ずる場合にはそれらを補う必要があります。それを補う方法が輸血療法であり、補うことができる成分は、主に赤血球、血小板、血漿成分および凝固因子です。
輸血の適応とリスク
輸血は補充療法であり、根本的治療ではありません。また、臓器移植と同様の医療行為であり、感染症や免疫学的副作用、合併症が生じるリスクが存在します。血液製剤が本質的に内包するリスクを認識し、リスクを上回る効果が期待されると判断された場合にのみ行う必要があります。言い換えれば、輸血療法を行わないと患者さんの生命に危険が及ぶ、あるいはその状況が予想される場合に輸血療法を選択します。代替治療が存在する場合には、まず代替治療を優先して治療を開始し、その効果が不十分である場合に輸血療法を併用するのが原則です。
輸血の種類(成分輸血・自己血輸血)
<成分輸血>
輸血には、採取された血液をそのまま用いる「全血輸血」と、患者さんにとって必要な血液成分のみを血液から取り出して用いる「成分輸血」があります。
成分輸血は、「赤血球製剤」、「血小板製剤」、「血漿製剤」の3つに大きく分けられます。
成分輸血は患者さんにとって不必要な成分が輸血されないため、循環系(心臓や腎臓など)の負担が少なくてすみます。
全血輸血は、現在はほとんど使用されません。
<自己血輸血>
自己血輸血とは、手術時の出血の際に、自分の血液を手術中または手術後に輸血する治療法です。術直前採血・血液希釈法(希釈法)、出血回収法(回収法)、貯血式自己血輸血法(貯血法)の3 つの方法があります。詳細は第5回で解説します。
輸血用血液製剤の種類(赤血球製剤、全血製剤、血小板製剤、血漿製剤、血液分画製剤)
輸血用血液製剤には、主に「赤血球製剤」、「全血製剤」、「濃厚血小板製剤」、「新鮮凍結血漿」や「血漿分画製剤」があります。
輸血後GVHD(移植片対宿主病)を予防するため、赤血球液や血小板濃厚液には放射線照射を行います。放射線照射(15~50Gy)が行われた製剤には「Ir」が表示されます。また、日本赤十字社から供給される製剤はすべて白血球除去製剤となっており、製剤に「LR」がつけられています。
赤血球製剤
全血製剤と成分製剤(人赤血球液、洗浄赤血球液、解凍人赤血球液、合成血)があり、それぞれに輸血後GVHD予防のための放射線照射血があります。
投与目的
赤血球補充の第一義的な目的は、組織や臓器へ十分な酸素を供給することにあります。
血液製剤の種類
赤血球液-LR「日赤」・照射赤血球液-LR「日赤」
白血球および血漿の大部分を除去し、血液保存液(MAP液)を加えた製剤です。
※製剤写真とラベルの写真は日本赤十字社に許可を得てhttp://www.jrc.or.jp/mr/product/list/(2021年4月14日閲覧)より転載
赤血球液-LR「日赤」 |
照射赤血球液-LR「日赤」 |
容量 | 貯法 |
有効期限 |
RBC-LR-1 |
Ir-RBC-LR-1 |
140mL(血液200mL由来) |
2~6℃ | 採血後 21日間 |
RBC-LR-2 |
Ir-RBC-LR-2 |
280mL(血液400mL由来) |
洗浄赤血球液-LR「日赤」・照射洗浄赤血球液-LR「日赤」
血漿成分等による副作用を避ける場合の輸血に用いられます。
※製剤写真とラベルの写真は日本赤十字社に許可を得てhttp://www.jrc.or.jp/mr/product/list/(2021年4月14日閲覧)より転載
解凍赤血球液-LR「日赤」・照射解凍赤血球液-LR「日赤」
長期保存ができるため、主に稀な血液型のための保存用血液となっています。
※製剤写真とラベルの写真は日本赤十字社に許可を得てhttp://www.jrc.or.jp/mr/product/list/(2021年4月14日閲覧)より転載
合成血
ABO血液型不適合による新生児溶血性疾患に用いられます。
※製剤写真とラベルの写真は日本赤十字社に許可を得てhttp://www.jrc.or.jp/mr/product/list/(2021年4月14日閲覧)より転載
人全血液-LR「日赤」・照射人全血液-LR「日赤」
全血製剤は、現在ほとんど使用されていません。
血小板製剤
血小板成分を補充することにより止血を図る、または出血を防止することを目的とします。輸血後GVHD予防のための放射線照射血があります。
貯法の注意点
血小板製剤は、振盪しながら保存します。静置すると、血小板の代謝によって生じる乳酸が原因でpHが低下し、血小板機能障害が起こり、輸血の効果が低下します。血小板のバッグはガス透過性があり、振盪することにより乳酸と重炭酸との平衡反応により生じた二酸化炭素が放出されやすくなり、pHと血小板機能を保持できます。
血小板製剤の種類
濃厚血小板-LR「日赤」・照射濃厚血小板-LR「日赤」
※製剤写真とラベルの写真は日本赤十字社に許可を得てhttp://www.jrc.or.jp/mr/product/list/(2021年4月14日閲覧)より転載
濃厚血小板-LR「日赤 |
照射濃厚血小板-LR「日赤」 |
容量 |
貯法 |
有効期限 |
PC-LR-1 |
Ir-PC-LR-1 |
1単位 約20mL |
20~24℃ 要振盪 | 採血後 4日間 |
PC-LR-2 |
Ir-PC-LR-2 |
2単位 約40mL | ||
PC-LR-5 |
Ir-PC-LR-5 |
5単位 約100mL | ||
PC-LR-10 |
Ir-PC-LR-10 |
10単位 約200mL | ||
PC-LR-15 |
Ir-PC-LR-15 |
15単位 約250mL | ||
PC-LR-20 |
Ir-PC-LR-20 |
20単位 約250mL |
濃厚血小板HLA-LR「日赤」・照射濃厚血小板HLA-LR「日赤」
HLA抗体を有するため通常の血小板製剤では効果が見られない場合に適応します。
※製剤写真とラベルの写真は日本赤十字社に許可を得てhttp://www.jrc.or.jp/mr/product/list/(2021年4月14日閲覧)より転載
照射洗浄血小板製剤-LR「日赤」
アナフィラキシーショック等の重篤な副作用が1度でも観察された場合や、種々の薬剤の前投与の処置等で予防できない、蕁麻疹、発熱、呼吸困難、血圧低下等の副作用が2回以上観察された場合に用いられます。
※製剤写真とラベルの写真は日本赤十字社に許可を得てhttp://www.jrc.or.jp/mr/product/list/(2021年4月14日閲覧)より転載
血漿製剤
凝固因子の欠乏による病態の改善を目的に投与します。特に、凝固因子を補充することにより、止血の促進効果(治療的投与)をもたらします。
※製剤写真とラベルの写真は日本赤十字社に許可を得てhttp://www.jrc.or.jp/mr/product/list/(2021年4月14日閲覧)より転載
品名 | 容量 | 貯法 |
有効期間 | |
新鮮凍結血漿-LR「日赤」120 |
FFP-LR-120(血液200mL由来) |
約120mL |
-20℃以下 |
採血後1年間 |
新鮮凍結血漿-LR「日赤」240 |
FFP-LR-240(血液400mL由来) |
約240mL | ||
新鮮凍結血漿-LR「日赤」480 |
FFP-LR-480(成分献血由来) |
約480mL |
血漿分画製剤
血漿分画製剤には、アルブミン製剤、免疫グロブリン製剤、血液凝固因子製剤などがあります。
アルブミン製剤
等張アルブミン製剤(5%アルブミン製剤、4.4%加熱ヒト血漿蛋白)と高張アルブミン製剤(20%アルブミン製剤、25%アルブミン製剤)があります。有効期限:30℃以下の室温保存で2年間です。
免疫グロブリン製剤
免疫機能の改善、感染症予防および治療、炎症症状や神経症状の改善等を目的に投与されます。
その他
多くの血漿分画製剤がありますが、本稿では省略します。
血漿分画製剤も人の血液から作られる医薬品なので、特定生物由来製品「特生物」の記載があります。使用時には注意しましょう。
実施の基準
輸血を行う際は、適応となる基準値(トリガー値)を満たしていることをあらかじめ確認し、毎回の投与時に各成分の到達すべき目標値を臨床症状と臨床検査値からあらかじめ設定します。また、毎回の投与後には、輸血の有効性の評価と副作用、合併症発生の有無を観察し、診療録に記録します。看護師としても、輸血前後の臨床症状や臨床検査値の改善の程度を観察し、看護ケアにつながるアセスメントに活かしていくことが重要です。
<赤血球製剤の使用指針>
①目的:組織や臓器への十分な酸素の供給です。
②目標:Hb値6~8g/dL
慢性貧血、急性出血、周術期等では患者さんの病態によりますが、通常Hb 10g/dL以上にする必要はありません。敗血症患者さんでは7g/dL以上、心疾患を有する患者の心臓手術ではトリガー値は8~10g/dLですが、人工心肺使用手術では9~10g/dLになっています。
③予測上昇Hb値
(Ir-)RBC-LR-1 投与本数 |
体重(kg) | ||||||||||||||
5 | 10 | 15 | 20 | 25 | 30 | 35 | 40 | 45 | 50 | 60 | 70 | 80 | 90 | 100 | |
1 | 7.6 | 3.8 | 2.5 | 1.9 | 1.5 | 1.3 | 1.1 | 0.9 | 0.8 | 0.8 | 0.6 | 0.5 | 0.5 | 0.4 | 0.4 |
2 | 7.6 | 5.0 | 3.8 | 3.0 | 2.5 | 2.2 | 1.9 | 1.7 | 1.5 | 1.3 | 1.1 | 0.9 | 0.8 | 0.8 | |
3 | 7.6 | 5.7 | 4.5 | 3.8 | 3.2 | 2.8 | 2.5 | 2.3 | 1.9 | 1.6 | 1.4 | 1.3 | 1.1 | ||
4 | 7.6 | 6.1 | 5.0 | 4.3 | 3.8 | 3.4 | 3.0 | 2.5 | 2.2 | 1.9 | 1.7 | 1.5 | |||
6 | 9.1 | 7.6 | 6.5 | 5.7 | 5.0 | 4.5 | 3.8 | 3.2 | 2.8 | 2.5 | 2.3 | ||||
8 | 8.7 | 7.6 | 6.7 | 6.1 | 5.0 | 4.3 | 3.8 | 3.4 | 3.0 | ||||||
10 | 9.5 | 8.4 | 7.6 | 6.3 | 5.4 | 4.7 | 4.2 | 3.8 |
(g/dL)
※(照射)赤血球濃厚液(Ir-)RBC-LR-1のHb量=26.5g/1本(日本赤十字社内資料)で計算
[例]体重50kgの成人(循環血液量35dL)に(Ir-)RBC-LR-2(Hb量=26.5g×2=53g)を投与することにより、Hb値は約1.5g/dL上昇することになる。
④不適切な使用
鉄欠乏性やビタミンB12欠乏性などによる貧血等、輸血以外の治療で改善する病態や末期患者さんへの投与です。
⑤問題点
赤血球輸血では溶血性副作用に注意が必要です。頻回輸血時には鉄過剰症、大量輸血時には高K血症にも注意します。
<濃厚血小板製剤使用指針>
①目的:血小板数の減少または機能の異常により、重篤な出血ないし出血の予測される病態に対して、止血を図り(治療的投与)、出血を防止します(予防的投与)。
②使用基準
血小板数が5万/μL以上…一般的に血小板輸血は不要です。
血小板数が2~5万/μL…止血困難な場合には血小板輸血が必要となります。
血小板数が1~2万/μL…血小板輸血が必要となる場合がしばしばあります (造血器腫瘍や固形腫瘍に対する化学療法)。
③予測血小板増加数値
(Ir-)PC-LR投与単位数 | 体重(kg) | ||||||||||||||
5 |
10 | 15 | 20 | 25 | 30 | 35 | 40 | 45 | 50 | 60 | 70 | 80 | 90 | 100 | |
1 | 3.8 | 1.9 | 1.3 | 1.0 | 0.8 | 0.6 | 0.5 | 0.5 | 0.4 | 0.4 | 0.3 | 0.3 | 0.2 | 0.2 | 0.2 |
2 | 7.6 | 3.8 | 2.5 | 1.9 | 1.5 | 1.3 | 1.1 | 1.0 | 0.8 | 0.8 | 0.6 | 0.5 | 0.5 | 0.4 | 0.4 |
5 | 19.0 | 9.5 | 6.3 | 4.8 | 3.8 | 3.2 | 2.7 | 2.4 | 2.1 | 1.9 | 1.6 | 1.4 | 1.2 | 1.1 | 1.0 |
10 | 19.0 | 12.7 | 9.5 | 7.6 | 6.3 | 5.4 | 4.8 | 4.2 | 3.8 | 3.2 | 2.7 | 2.4 | 2.1 | 1.9 | |
15 | 19.0 | 14.3 | 11.4 | 9.5 | 8.2 | 7.1 | 6.3 | 5.7 | 4.8 | 4.1 | 3.6 | 3.2 | 2.9 | ||
20 | 9.0 | 15.2 | 12.7 | 10.9 | 9.5 | 8.5 | 7.6 | 6.3 | 5.4 | 4.8 | 4.2 | 3.8 |
(万/μL)
※(照射)濃厚血小板1単位((Ir-)PC-LR-1):含有血小板数0.2×1011個以上
[例]体重50kgの成人(循環血液量3,500mL)に(照射)濃厚血小板液5単位(1.0×1011個以上の血小板を含有)を投与すると、直後には輸血前の血小板数より19,000/μL以上増加することが見込まれる。なお、一回投与量は、原則として上記計算式によるが、実務的には通常10単位が使用されている。体重25kg以下の小児では10単位を3〜4時間かけて輸血する。
④不適切な使用
末期患者さんへの投与です。
⑤問題点
血小板製剤は20~24℃の水平振盪で保管するため、他の製剤よりも細菌感染の危険性が高いことが知られています。頻回輸血患者さんでは、抗HLA抗体による血小板輸血不応状態を惹起することがあります。
<新鮮凍結血漿の適正使用>
①目的:凝固因子の補充による止血の促進効果です(治療的投与)。
②目標:臨床症状として出血症状の改善です。
③適応
④不適切な使用
循環血漿量減少の改善と補充や蛋白質源としての栄養補給、創傷治癒の促進は適応となりません。
その他、末期患者さんへの投与重症感染症の治療、DICを伴わない熱傷の治療、人工心肺使用時の出血予防、非代償性肝硬変での出血予防なども適応外です。
⑤問題点
ナトリウムの負荷(FFP240でNa:38mEq)があります。大量投与時にはクエン酸中毒(低カルシウム血症)や輸血関連循環過負荷(TACO)に注意が必要です。
<アルブミン製剤の適正使用>
①目的:低蛋白血症に基づく病態の改善(血漿膠質浸透圧の改善、循環血漿量の是正)です。
②投与:高張アルブミン投与は通常2~3日で分割投与し、投与効果の評価を行います。
③適応
等張アルブミン:循環血液量の50%以上の多量の出血の場合に投与が考慮されます。また、凝固因子の補充を必要としない治療的血漿交換療法の置換液として使用が推奨されています。
高張アルブミン:肝硬変に伴う難治性腹水(特殊な場合)等です。
④不適切な使用
蛋白質源としての栄養補給、単なる血清アルブミン濃度の維持、末期患者さんへの投与です。
⑤問題点
心疾患等のある患者さんでは、容量負荷に注意が必要です(ナトリウム含有量が多く、循環血漿量増加作用があるため)。
輸血の説明と同意について
<説明と同意書(インフォームド・コンセント)>
輸血療法において医師は、患者さんまたはその家族が理解できる言葉で、説明と同意に必要な項目を十分に説明しなければなりません。説明後、同意を得たうえで同意書を作成し、1部は患者さんに渡し、1部は診療録に添付しておきます。電子カルテの場合は、院内の手順に沿って適切に保管します。
<輸血用血液製剤の使用に関する説明項目>
1.輸血の必要性と利点
2.輸血に用いられる血液製剤の種類
3.輸血を受けなかった場合に生じる不利益
4.輸血に伴うリスクと頻度
5.輸血のリスクの防止対策
6.自己血輸血、輸血の代替療法
7.輸血後感染症検査と生物由来製品感染症等被害救済制度
8.輸血前後の必要な検査
以上のような項目について説明することが必要です。
看護師は、説明の際にはできる限り同席し、患者さんや家族の不安の軽減に努め、情緒的サポートを行います。医師の説明後には、「わからなかったところはないですか」「何か聞いておきたいことはありますか」等の声掛けを行い、理解が十分でない場合は、さらにわかりやすい言葉で患者さんや家族が得たい情報の補足説明を行います。同時に、いつ、どのような製剤を、どのくらいの時間をかけて輸血するかを患者さんに伝えることも、看護師の大切な役割です。
引用・参考文献
●日本赤十字社:輸血用血液製剤取り扱いマニュアル 2019年12月改訂版.2018.●日本赤十字社、厚生労働省医薬・生活衛生局:血液製剤の使用指針 平成31年3月(2021年1月21日閲覧)https://www.mhlw.go.jp/content/11127000/000493546.pdf
●日本輸血・細胞治療学会ホームページ(2021年1月21日閲覧)http://yuketsu.jstmct.or.jp/
●学会認定・臨床輸血看護師制度 カリキュラム委員会 編:看護師のための臨床輸血 2版.中外医学社,2017.
●日本輸血・細胞治療学会、日本赤十字社:輸血療法マニュアル 改訂7版.