TCIポンプの使い方を知ろう!|使い方と注意点
- 公開日: 2022/5/7
手術室では、プロポフォール(ディプリバン®︎)を投与するTCIポンプをたびたび見かけると思います。実際に麻酔科医がどのように使っているのか気になりませんか? 今回はTCIポンプの使い方や注意点を具体的に解説していきます!
①TCI (Target Controlled Infusion)ポンプって何?
TCIは目標濃度調節注入という意味で、この仕組みが搭載されたTCIポンプは目標とするクスリの血中濃度を設定すると、ポンプ内のソフトが計算し、クスリの持続注入速度を自動的に変化させ投与するシリンジポンプです。日本ではプロポフォールのみ商用のTCIが認められており、テルモ社のテルフュージョン®︎TCIポンプに専用のプレフィルドシリンジ(1%ディプリバン®︎注キット)をセットして使用します。
②TCIポンプでの投与できる持続注入方法
3種類あり「TCI」、「mg/kg/h」、「mL/h」から選択できます。TCI投与では、1%ディプリバン®︎注キットのみ使用可能です。「mg/kg/h」、「mL/h」を選択する場合、一般的なシリンジポンプ同様に通常のシリンジで他の薬剤の持続投与も可能です。
③TCIポンプの麻酔前準備
1、ポンプへのシリンジセット
ディプリバンキットのシリンジを組み立て、TCIポンプにセットします。シリンジの目盛りが見えるようにシリンジを回転させておくと残量を目視しやくなります。
2、シリンジ固定
シリンジのフランジ(羽部分)をスリット部にはめて緑色のクランプで固定、シリンジの押し子はスライダー部分に挟んで固定します。フランジには青い識別タグが埋め込まれており、ポンプ側の識別タグと書かれたフランジ押さえの下のほうに押し込んで専用シリンジであることポンプに識別させます。
3、シリンジの識別後の表示確認
識別タグが正しく認識されると「ディプリバン1%」と画面に表示されます。
4、設定項目の入力
「TCI」を選択、F1ボタンを押して、各項目(年齢、体重、目標血中濃度)を入力していきます。ポンプ右脇の設定ダイアルを回して数値を合わせ、F1ボタンでOKをして項目を順に入力していきます。目標血中濃度はデフォルトでは3μg/mLに設定されています。
5、プライミング
設定が完了したら本体左下にある「プライミング」ボタンを押し、シリンジに繋げた延長ラインを満たします。
④TCIポンプでの薬液投与・投与量調整
1、投与開始方法と目標血中濃度
緑色の「開始」ボタンを押して薬液投与を開始します。目標血中濃度は3μg/mLで開始されることが一般的です。実際には5-7μg/mLなど3より高い設定濃度で開始して、早く就眠を得ることもよくありますが(始めの薬液注入速度が早く、短時間で就眠を得る量が注入されるため)、初期設定濃度が高くなるほど予測血中濃度と患者さん体内の血中濃度のズレが大きくなり、シミュレーション結果の信用度は低下することにはなります1)。TCIポンプに表示される血中濃度や効果部位濃度を最大限に活用するには、目標血中濃度3μg/mL以下で投与開始するほうが望ましいです。
2、目標血中濃度の設定変更
設定ダイアルで目標血中濃度を変更し、「開始」もしくは「F1」ボタンで確定します。麻酔導入時では設定した目標血中濃度に向けて、予測血中濃度が急速に上昇し、効果部位濃度が遅れて上昇してくるのが画面上の数値でわかります。
患者さん就眠時の効果部位濃度を見ておき1.0μg/mL程度の安全域を設けた血中濃度で麻酔維持(例:効果部位1.8μg/mLで就眠したら、1.0を足して目標血中濃度を2.8μg/mLで維持)することが一般的です。しかし実際の現場では、患者さん就眠のタイミングと同時にTCIポンプの数値を確認するのはなかなか忙しいです。
麻酔覚醒時には薬液を停止しますが、「0.1μg/mL(最低限の設定目標血中濃度)に設定値に下げて投与」とします。ここは一つのポイントで、停止ボタンでも薬液注入を停止は出来ますが、こうすることで麻酔覚醒後まで各種パラメータを見続けることができます(血中濃度が0.1になるまでポンプは注入しないため、仮にラインが繋がっていても薬は患者さんに注入されません)。
注意:プライミングボタンを使用して薬液を患者さんに投与した場合、TCIポンプ自体は体内には注入していない分だと判断しますので、血中濃度や効果部位濃度には反映されません。
麻酔覚醒時の例:目標血中濃度2.0μg/mLから0.1μg/mL(実質の投与停止)に設定を変更してから3分後の画面。予測血中濃度が低下し、遅れて効果部位濃度が低下してきているのがわかります。
⑤画面に表示されてる数値の意味は?
麻酔中の例:この写真では目標血中濃度、予測血中濃度、効果部位濃度が2.0で等しい
●脳のマーク:効果部位濃度。血中濃度に遅れて変化
●日の出マーク:麻酔覚醒までの予測時間。デフォルトでは1.2μg/mLに設定され、麻酔覚醒時間が表示されています。就眠時の効果部位濃度(就眠時と覚醒時の濃度は理論的には同じ)を参考に数値を入力設定します。ここで設定した数値まで予測血中濃度が低下するまでの時間が麻酔覚醒時間として表示されます。
「F3」を押すと設定情報を確認でき、Σの部分でポンプが注入した薬の総量がわかります。そして、この画面で日の出マークの濃度設定が変更できます。
「F1」はグラフ縦軸の目標血中濃度のスケールを変更、「F2」はグラフ横軸の投与時間のスケール変更ボタンですがあまり使用しません。
設定情報画面の例
引用文献
1)森本康裕,原田郁:研修医から指導医まで役だつTIVAの実際、日臨麻会誌 2012;32(1):52-8.