頭蓋内圧亢進の看護|原因・メカニズム、観察項目、ケア、注意点
- 公開日: 2022/7/9
頭蓋内圧亢進とは
頭蓋内の容積は、脳実質(87%)、脳血液(9%)、髄液(4%)で構成され1)、外気圧に対して一定の圧を保っています。この頭蓋内の圧のことを頭蓋内圧と呼びます。頭蓋内圧は、正常では5~10mmHg程度ですが、何らかの原因で15mmHg以上の状態が持続することを頭蓋内圧亢進といいます。
頭蓋内圧亢進に続発して脳ヘルニアを認めると、呼吸停止や意識障害をきたし、救命困難な状態に陥ります。大後頭孔ヘルニアやテント切痕ヘルニアが生じた場合は、脳実質が脳幹部を圧迫し、死に至るおそれがあります。
頭蓋内圧亢進の原因、メカニズム
頭蓋内圧亢進は、脳腫瘍、脳膿瘍、頭蓋内血腫といった頭蓋内占拠性病変や、脳浮腫によって引き起こされます。水頭症などによる髄液の通過・吸収障害、髄液の過剰産生、二酸化炭素分圧(PaCO2)上昇による血管拡張や脳静脈の閉塞などの頭蓋内血液量の増大によっても生じます。
病変の容積が増大しても、一定の範囲内であれば頭蓋内圧に大きな変動はみられませんが、調整できる範囲を超えると、わずかな容積の増加でも頭蓋内圧は著しく亢進するようになります。
頭蓋内圧の亢進には、脳灌流圧や脳血流量が大きく関係しています。脳血流量は、脳灌流圧(脳灌流圧=平均血圧-頭蓋内圧)によって調節されており、頭蓋内圧が高まると脳灌流圧は低下し、脳虚血を引き起こします。
脳虚血により十分な酸素供給が行われず低酸素状態に陥った場合、細胞は嫌気性代謝(酸素を使用しないエネルギー代謝)に切り替えてエネルギーを補給しようとしますが、嫌気性代謝でグルコースが代謝されると、乳酸が過剰産生されてアシドーシスに傾き、脳浮腫の誘発や増悪をきたして頭蓋内圧が亢進します。
また、脳灌流圧の低下では、PaCO2上昇による血管拡張も引き起こされるため、頭蓋内圧はさらに亢進します。
頭蓋内圧亢進の症状
頭蓋内圧亢進の症状は、急性と慢性で異なります。急性の症状は、頭部外傷や脳血管障害などに伴い、頭蓋内圧が急激かつ高度に上昇することで起こります。慢性の症状は、病変によって頭蓋内圧が緩徐に上昇することで生じます。いずれも、脳ヘルニアに移行する危険性があるため注意が必要です。それぞれの症状の特徴は次のとおりです。
急性の場合
急性の頭蓋内圧亢進の主な症状として、クッシング(Cushing)現象が挙げられます(図)。
高度に頭蓋内圧が亢進すると、脳灌流圧が低下して脳血流量が減少し、脳虚血を引き起こします。生体は脳血流量を維持するために、血圧を上昇させて脳に血液を送り込もうとしますが、収縮期血圧が上昇する一方で、拡張期血圧は低下することから、脈圧の増大がみられます。
さらに、血圧の上昇に対して圧受容器が反応し、上昇した血圧を一定に保とうと心拍出量を低下させるため、徐脈が起こります。このように、急な頭蓋内圧亢進により、血圧上昇と徐脈が起こることをクッシング現象といいます。
進行すると、頻脈や不整脈が生じる場合があるほか、脳ヘルニアに移行して重篤な意識障害に陥ります。チェーン・ストークス呼吸が出現し、体温の上昇がみられる状態では治療効果が期待できず、予後は極めて不良です。
図 クッシング現象慢性の場合
頭蓋内圧亢進の主な慢性症状として、頭痛、嘔吐、うっ血乳頭の3徴候が挙げられます。