なぜ消化器がんは予後が悪いのか?―胆道がん編―
- 公開日: 2023/1/19
2022年11月10日、「なぜ消化器がんは予後が悪いのか?~予後の悪い三大消化器がん:胆道がん・肝がん・膵がんの現状と課題~」をテーマにしたアストラゼネカ主催のメディア勉強会が開催されました。ここでは、胆道がんについて解説された、横浜市立大学医学部消化器・腫瘍外科学講座主任教授 遠藤格先生の講演をレポートします。
胆道がんの生存率
胆道がんは、生存率が低いがんとされています。理由としては、早期発見につながる検診がないこと、生命維持に必要な肝臓などの臓器に近接しているため、切除が困難であること、抗がん剤や分子標的薬といった使用できる薬剤に限りがあることなどが挙げられます。
ほかに、黄疸や胆管炎を併発して治療が妨げられたり、胆道がん自体の発生頻度が少ないため専門医も少なく、施設によって治療法がまちまちであることも生存率に影響していると推測されます。
胆道がんの疫学
国立がん研究センターがん対策情報センターのデータによると、胆道がんの死亡数と罹患率の増え方は1975年時点と比べて約3倍と上昇傾向です1)。
また、胆のう・胆管がん患者さんの5年相対生存率は膵がんに次いで低かったことが報告されており、非常に治りにくいがんであるといえます。これは、胆道がんが進行した状態で発見されることが多いためで、肝内胆管がんの38.8%、胆のうがんの42%が診断時にはすでにステージⅣ、つまり遠隔転移を伴う手術適応外の状態で発見されています2)、3)。
胆道がんの診断
胆道がんでもっとも発生頻度が高いのは、肝臓の入り口にできる肝門部胆管がんです。次いで膵臓に入るところにできる下部(遠位)胆管がん、そして胆のうがんです。
初期の段階では症状すらみられないことがほとんどですが、がんが成長して黄疸の症状が出た場合は、超音波検査と採血を行います。その後、CT検査や内視鏡検査などでさらに診断を進め、最終的に細胞診で確定診断を行います。ただし、細胞診の正診率は約40~60%と診断が難しいとされています。多い患者さんでは3回ほど細胞診を受けることがありますが、検査を重ねることで手術の時期を逃しかねないため、細胞診だけではなく、胆道鏡を用いた診断を行う場合もあります。
何度検査をしてもがんが証明できなかった患者さんに対して外科的手術を行ったところ、良性腫瘍だったというケースも少なからず見受けられますが、がんの確定診断がついてからでは治療が間に合わない場合もあり、どこかの時点で治療方針を決断することが必要です。
胆道がんの治療
胆道がんに対しては手術だけを行えばいいのではなく、化学療法、放射線療法、免疫療法、遺伝子療法などを組み合わせた集学的治療を行っていきます。化学療法や放射線療法は一時的な効果は得られますが、感受性に個人差があり、5年生存率は2~5%とされています。
外科的切除
外科的切除は、もっとも縮小効果が期待できる局所療法です。しかし、外科的切除も完璧な治療法とはいえず、100%完治するわけではありません。肝切除の範囲が大きければ、患者さんが亡くなる確率は高くなり、残存した肝臓に胆道ドレナージチューブがきちんと挿入されているかどうかによっても、術後生存率は左右されます。
また、黄疸や胆管炎の治療として金属ステントを留置することがありますが、一度金属ステントを留置すると、抗がん剤の効果が認められても腫瘍と一緒に摘出することが原則困難であるため、手術をしたくてもできないといった事態が起こりえるほか、留置位置によっても手術不可となる場合があります。これは、胆道がんの専門医が少なく、切除可否の判断が各施設に任されているという現状を表しており、胆道がん治療における課題の一つであると考えています。
手術でがんを切除したにもかかわらず、腹膜や肝臓に肉眼でも画像でもとらえられない微小転移が存在することがあります。微小転移が数カ月から数年かけて成長し、画像上でも確認できるようなると再発と呼びます。微小転移がありそうなステージⅣでは、まず化学療法が行われますが、最近では初診時に切除不能と診断されても、化学療法が著効した場合は切除できることもあります。
日本肝胆膵外科学会では、年間手術症例数が多い施設に対して「修練施設」の認定を行っています。年間50例以上困難ケースを行っている修練施設と未認定施設を比較すると、術後の死亡率は修練施設のほうが低い傾向にあります。ただし、あくまでも全国平均の数値のため、年間手術症例数が少なくても死亡率が低い病院はあります。重要なのは、自施設の死亡率をきちんと示せる病院で手術を受けることだと考えます。
化学療法
ステージⅠ~Ⅱであれば術後は経過観察となりますが、ステージⅢ~Ⅳになると微小転移が存在する確率が高いため、再発を防ぐために補助化学療法を行う場合があります。再発が確認できた場合や切除不能なケースにおいては、通常の化学療法を行っていきます。
切除不能の胆道がんに対するセカンドラインとしては、ファーストラインで使用していない抗がん剤による化学療法を提案しますが、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)であれば、免疫チェックポイント阻害薬の提案を推奨しています。
MSI-Hは、DNAミスマッチ修復機能に欠損が生じることで起こります。通常、DNAが壊れると、DNAミスマッチ修復機能により修復されますが、MSI-HではDNAミスマッチ修復機能の低下によりDNAが壊れたままの状態になり、ネオアンチゲンと呼ばれる異質なタンパク質が生成され、がん細胞の表面に蓄積していきます。ネオアンチゲンはリンパ球に見つけられやすいのですが、リンパ球は免疫が抑制された状態になっているため十分に機能しません。こうした状態で免疫チェックポイント阻害薬を使用するとリンパ球が働けるようになり、結果としてMSI-Hの腫瘍を攻撃できるといわれています。
遺伝子パネル検査
今やゲノムパネル検査によって、遺伝子変異を一括で調べることができるようになりました。この検査の恩恵を受けて、壊れたそれぞれの遺伝子に対応した多くの薬剤が誕生しています。
ゲノムパネル検査を行える患者さんはそこまで多くはありませんが、当院で検査を受けた胆道がん患者さんの6割(13例中8例)ほどで、薬物療法につながりそうな遺伝子変異が見つかりました。ただし、調べるタイミングが遅く、患者さんの体力が低下してしまったなどの理由から、実際に治療できたケースはごくわずかです。そのため、なるべく早いタイミングでパネル検査を受ける機会を設けるのが我々の努めではないかと考えています。
引用文献
1)国立がん研究センター:がん情報サービス 最新がん統計 胆のう・胆管 5.年次推移 1)罹患数と死亡数(2023年1月13日閲覧) https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/9_gallbladder.html#anchor52)国立がん研究センター がん対策研究所 がん登録センター:院内がん登録 2020年全国集計 都道府県推薦病院等含む.p.91、p.143(2023年1月13日閲覧) https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/hosp_c/pdf/2020_report.pdf
3)国立がん研究センター:がん情報サービス 院内がん登録に関するマニュアル類 UICCTNM分類第8版準拠 がんの拡がりと進行度.(2023年1月13日閲覧) https://ganjoho.jp/med_pro/cancer_control/can_reg/hospital/pdf/toroku09.pdf