貧血の原因を特定!(小球性貧血・正球性貧血・大球性貧血とは?)
- 公開日: 2017/6/27
- 更新日: 2024/9/25
原因はどのようにしてわかるの?
赤血球の大きさによる分類で原因を検索します
貧血はさまざまな病因で起こりますが、赤血球を作る素材が不足している、造血機能が十分に働かない、赤血球の破壊が亢進している(溶血)、出血しているなどがおもな原因です。
Hb低下により貧血と判断された場合には、まずは貧血の分類を確定し原因の検索をしていきます。この分類の指標となるのがMCVです。赤血球の大きさを表し、CBCの際に自動算出されますが、算出式をみるとRBCとHtによって決められることがわかります。
MCVによる分類は、次の3つです。
① 80fℓ未満であれば[小球性貧血]
② 80fℓ以上100 fℓ未満であれば[正球性貧血]
③ 100fℓ以上であれば[大球性貧血]
小球性貧血は、赤血球が正常よりも小さく、ヘモグロビンの材料が足りないために起こり、大球性貧血は、逆に赤血球が正常より大きく、赤血球細胞を作る過程で必要な物質が足りないために起こります。
正球性貧血は、赤血球の大きさは正常で、出血や溶血、造血機能の異常などの要因で貧血になっているケースです。
臨床で遭遇するおおよその頻度としては、小球性→正球性→大球性の順になります。
医師から「この患者さんは貧血がある」と言われた場合、まずはこのMCVの値を確認し、どの分類にあたるか把握しておくことが大切です。
■<この検査値を攻略>
MCV:赤血球の大きさがわかる
小球性貧血ってどういうものなの?
鉄欠乏性貧血がその多くの原因です
小球性貧血(MCV80未満)のおもな病因としては、鉄欠乏性貧血や慢性疾患などが考えられますが、前者であることがほとんどです。
これを鑑別するには、フェリチン(血清フェリチン)をチェックします。ほかにチェック項目として、血清鉄(Fe)、総鉄結合能(TIBC)などもあります。
フェリチンとは、鉄とアポフェリチンが結合した鉄貯蔵蛋白で、組織鉄の貯蔵とFeの維持を図っています。
■基準値と判断の目安
フェリチン1ng/mℓは貯蔵鉄8 ~10mgに相当し、体内貯蔵鉄量を反映します。
フェリチンが低下しているときには鉄量も減少していると考えられ、鉄欠乏性貧血と診断されます。
基準値は、男性30~300ng/mℓ、女性10~120ng/mℓで、貧血の診断基準は、男性20ng/mℓ以下、女性10ng/mℓ以下とされています。
フェリチンのみが低下していて、Hbが正常である場合は、潜在性鉄欠乏であるといえます。いずれも、相対的に女性に多くみられます。
フェリチンが高値を示している場合は、貯蔵鉄が増加している鉄芽球性貧血、悪性腫瘍、血球貪食症候群などが疑われます。
■出血源の鑑別
鉄欠乏性貧血の原因で最も多いのは、消化器または子宮など女性器からのジワジワと長期に及ぶ慢性出血か、鉄の摂取不足です。
消化器からの出血があるかどうかは、便潜血検査あるいは病歴聴取が判断の参考になります。さらに出血箇所を確認するには内視鏡検査を行います。
女性器からの出血の場合は、婦人科を受診して精査してもらいます。
■<この検査値を攻略>
フェリチン:Feを反映する蛋白
正球性貧血ってどういうものなの?
赤血球が過剰になくなったり十分に造血できなくなって起こります
正球性貧血(MCV80以上100未満)の場合、急性出血、溶血性貧血、再生不良性貧血、白血病などがおもな病因として挙げられます。赤血球の過剰な喪失や骨髄の造血能が低下しているために起こります。
鑑別診断を行うためには、網赤血球数(網状赤血球数)を確認します。赤血球は、幹細胞で発生した前赤芽球が段階を経て成熟して完成しますが、網赤血球は、赤血球になる直前の段階の若い赤血球のことをいいます。完全な赤血球よりやや大きめで、骨髄の産生能を知る指標となります。
■赤血球喪失の場合の鑑別
網赤血球数を示す単位にはRBCに対する比率(%)と単位容積中の個数を示す絶対数(/μℓ)があります。基準値はそれぞれ0.5~2.0%、5万~19万/μℓとされています。
骨髄での造血能を知るためには絶対数を用い、10万/μℓを超えていたら、骨髄での赤血球産生能が亢進していると考えます。
出血や溶血で血液や赤血球が失われると、身体はそれを補おうとして赤血球をどんどん産出するようになります。それに伴って、未成熟な赤血球である網赤血球も血中に放出されることになるのです。
出血が原因の場合、まずは消化器や女性器などからの慢性出血を疑い、出血源を調べます。溶血を疑うときは、ASTとLD(LDH)、間接ビリルビン(Bil)の上昇や、ハプトグロビン(Hp)の低下から、その可能性を確認します。ハプトグロビンは、おもに肝臓で産生されるヘモグロビン結合蛋白です。
■赤血球産生が低下している場合の鑑別
貧血を示しているのに網赤血球数が増加(10万/μℓ以上)していないときは、赤血球産生が低下していることが考えられます。腎不全、内分泌疾患、肝硬変、薬物、亜鉛欠乏などを視野に入れて鑑別します。
さらに極度な低下がある場合(1万/μℓ以下)は、骨髄機能の低下そのものが貧血の原因です。骨髄性と腎性が考えられます。
骨髄性の場合は、RBCのほかにWBCと血小板数の2系統を調べ、その両方が下がっていれば、よりその可能性が高くなります。疑われる場合は骨髄穿刺検査が必要です。白血病や再生不良性貧血が代表的な病因です。
腎性の場合は尿素窒素(BUN)やクレアチニン(Cr)、エリスロポエチン(EPO)などを検査し、腎不全かどうかを調べます。エリスロポエチンは、腎臓で産生されて骨髄に働きかけるホルモンで、赤血球の産生を促進しています。
■出血が原因の貧血は時期により赤血球形態が変わる
出血による貧血は、急性期は正球性貧血であることが多くなります。しかし、時間の経過に伴って、次第に小球性貧血に移行していきます。
■<この検査値を攻略>
網赤血球数:造血機能の評価に用いる
大球性貧血ってどういうものなの?
赤血球新生因子の欠乏がおもな原因となります
大球性貧血(MCV100以上)は、Hbの材料はあるものの、必要な因子が欠乏・不足して造血できなくなる状態といえます。不足しがちな因子としては、ビタミンB12、葉酸、銅が考えられます。このようなとき、赤血球は巨赤芽球性状態です。
ビタミンB12が減少している場合は、抗内因子抗体(ビタミンB12の吸収に必要な物質・内因子に対する自己抗体)を測定します。その結果が陰性の場合は、ビタミンB12欠乏性貧血、陽性の場合は悪性貧血と診断できます。
悪性貧血は胃がんによることも多く、消化器悪性疾患を想定した内視鏡検査を行います。上部消化管手術に伴って起こることもあります。葉酸が低下しているときは、葉酸欠乏性貧血と診断できます。治療としては、いずれも補充療法を行います。症状によっては、骨髄検査を行うこともあります。
■<この検査値を攻略>
ビタミンB12・葉酸:赤血球新生に欠かせない因子
(『ナース専科マガジン』2013年8月号から転載)
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