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貧血の看護|症状・観察項目・看護計画など

  • 公開日: 2020/7/1
  • 更新日: 2024/8/22

*2024年8月22日改訂

貧血のメカニズム

 人間の生命維持には酸素が欠かせません。

 肺から取り込まれた酸素を全身の組織や臓器に運搬する役割を果たすのが、赤血球に含まれるヘモグロビンです。ヘモグロビンの主成分は、鉄分とタンパク質です。体内に存在する鉄分の量は3.5~5.0g(成人男性)で、そのうち2/3以上がヘモグロビンに含まれています。

 貧血の原因はさまざま(造血機能の低下、溶血亢進、材料となる鉄分の不足、失血など)ですが、代表的な鉄欠乏性貧血は、体内の鉄分が不足することで起こります。

 通常、鉄分は食品から摂取されます。摂取された鉄分は、十二指腸で吸収されたあと骨髄に運ばれ、ヘモグロビンの産生に利用されたり、肝臓や脾臓に蓄えられます。そのため、何らかの原因で体内の鉄分が不足するとヘモグロビンの産生が障害されます。

 ヘモグロビンが低下し酸素の供給が滞ると、全身の組織や臓器は酸欠状態となり、動悸、息切れ、めまいなどの貧血症状が起こります。

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貧血の種類

 貧血は、原因により種類が異なります。主な貧血の種類と原因は次のとおりです。

鉄欠乏性貧血

 体内の鉄分が不足し、赤血球に含まれるヘモグロビンの産生が障害されることで起こります。鉄分が不足する主な原因として、鉄分の摂取不足(偏食、過度な節食)、鉄分の需要増加(成長期、妊娠・授乳期)、鉄分の喪失(月経、子宮筋腫、消化管出血など)が挙げられます。

 男性や閉経後の女性に鉄欠乏性貧血が認められた場合、胃潰瘍、胃がん、大腸がんといった消化器疾患による出血が原因となっている可能性もあるため、原因を精査することが重要です。

再生不良性貧血

 骨髄に存在する造血幹細胞の減少に伴い、赤血球、白血球、血小板など血液細胞のすべてが減少する疾患です。再生不良性貧血の原因は先天性と後天性に大別され、後天性ではさらに、特発性(原因不明)、続発性(薬剤、化学物質、放射線、妊娠など)、特殊型に分かれます。

溶血性貧血

 赤血球の破壊(溶血)が亢進することで起こる貧血です。原因は先天性と後天性に分類され、先天性では遺伝性球状赤血球症、サラセミア(ヘモグロビンの合成障害)などが挙げられます。後天性は自己免疫性溶血性貧血、発作性夜間ヘモグロビン尿症などが原因として考えられます。

悪性貧血

 ビタミンB12の欠乏により生じる貧血で、巨赤芽球性貧血の一種です。胃の壁細胞に対して自己免疫機能が働くことで内因子が分泌されず、ビタミンB12の吸収が障害されることで起こります。

腎性貧血

 主に腎臓から分泌される、赤血球の産生を促進する造血因子(エリスロポエチン)が減少することで起こります。原因としては、慢性腎不全、急性腎不全、ネフローゼ症候群などの腎疾患が挙げられ、透析患者さんでもみられます。

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その他の貧血

高齢者の貧血

 65歳以上の約10%、85歳以上では約20%に貧血を認めるとされています1)

 高齢者の貧血の原因は、悪性腫瘍(特に胃がん、大腸がんなどの消化器系)、感染症、膠原病、慢性腎不全、血液疾患(骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫)、栄養障害など多岐にわたります。また、高齢者は多剤併用の割合が大きく、薬剤の影響も原因の1つとして挙げられます。

 精神神経症状(意識障害、認知機能障害など)、呼吸器・循環器症状(呼吸困難、狭心症、心不全など)、消化器症状(味覚障害、食思不振、口内炎など)といったように、多彩な症状を呈するのも特徴です2)

妊婦貧血

 妊娠中の貧血の多くは鉄欠乏性貧血です。胎児や胎盤への鉄供給、循環血流量の増加により鉄需要が高まることで起こります。適切な対処をせずに貧血状態が続くと、胎児の発育不全や早産につながるおそれがあります。

 『鉄剤の適正使用による貧血治療指針 改訂 第3版』では、妊娠9週未満で、ヘモグロビン値が11g/dL未満および/またはヘマトクリット値が33%未満の場合は貧血と判断し、治療を行うとしています3)。さらに、妊娠9週以降では、ヘモグロビン値が11g/dL未満および/またはヘマトクリット値が33%未満で、平均赤血球容積(MCV)が85fL未満の場合に、経口による鉄剤の投与(経口投与が困難な場合のみ注射)を行うこととしています3)

術後貧血

 手術に伴う出血で、赤血球数が減少することで生じます。また、胃がん手術(胃切除、胃全摘出)後は、赤血球の産生に必要な鉄やビタミンB12の吸収が著しく低下するため、貧血のリスクが高くなります。

貧血の症状

 貧血では、赤血球数の減少やヘモグロビンが低下し、酸素運搬能が落ちることから、一般的に次のような症状が現れます。貧血の種類によって、特徴的な症状を認めることもあります。

一般的な貧血の症状

●顔面の蒼白
●眼瞼結膜の蒼白
●倦怠感
●易疲労感
●動悸・息切れ
●頭痛
●めまい
●耳鳴り
●食欲不振

貧血の種類による特徴的な症状

貧血の種類特徴的な症状
鉄欠乏性貧血舌炎、口角炎、嚥下障害、匙状爪(スプーンネイル)、氷食症
再生不良性貧血出血傾向、感染に伴う発熱
溶血性貧血黄疸、胆石、脾腫、褐色尿
悪性貧血末梢神経障害、味覚障害、意識障害、食欲低下
※腎性貧血は、一般的な貧血症状が現れることが多い

貧血の観察項目・アセスメント

 貧血は、不足している栄養素を補うことで改善されるものもありますが、重篤な疾患が隠れている場合もあります。原因も患者さんにより異なるため、既往歴や内服歴、生活状況など背景を確認・理解したうえで、身体所見や検査データを組み合わせてアセスメントを進めていきます。

主なアセスメント項目
・既往歴
・内服歴
・手術歴
・妊娠の有無
・バイタルサイン
・血液検査データ(RBC、WBC、Hb、Ht、TP、Alb)
・尿・便検査データ(潜血)
・月経の状態・量・期間
・急激に発症したか、緩徐に発症したか
・倦怠感、動悸、息切れ、めまい、立ちくらみ、易疲労感、頭痛などの有無
・顔色、眼瞼結膜、爪、口腔・頬粘膜の色調
・出血傾向
・黄疸の有無
・食生活の状況(1日の食事回数、食欲、偏食の有無)
・飲酒状況(飲酒量、頻度)

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貧血のケア

 ここでは、貧血のほとんどを占める鉄欠乏性貧血のケアについて解説します。

服薬指導

 鉄欠乏性貧血では、原因に対する治療と、鉄剤の服用で体内の鉄分を補う治療が行われます。

 通常、鉄剤の服用から1~2カ月でヘモグロビンは改善されますが、フェリチン(貯蔵鉄)が正常化するまでは服用を続けることが大切です。自己判断で服薬を中止せず、医師の指示を守って服用するよう指導します。

 鉄剤は嘔気・嘔吐、胃痛、下痢・便秘など消化器系の副作用が現れることがあります。副作用が強い場合、服用時間の変更や薬剤の変更などが検討されますが、それでも経口投与が難しい場合は、注射あるいは点滴による投与が必要になるため、気になる症状がみられたら相談するよう伝えます。

食事指導

 偏った食事やダイエットよる鉄の摂取不足が原因で貧血を起こす患者さんもいます。主食・主菜・副菜を組み合わせたバランスのよい食事を1日3食取るように指導します。

 レバーや赤身の肉・魚は、体内への吸収率が高いヘム鉄が多く含まれるため、普段の食事で積極的に取り入れるようにするとよいでしょう。ただし、ヘム鉄を含む食品は脂質も多く、摂り過ぎは禁物です。また、ビタミンCは鉄吸収を促進させますが、タンニンやシュウ酸、カルシウムは鉄吸収を阻害します。例えば、タンニンを含む緑茶、コーヒー、紅茶は食後1時間以降に飲むようにするなど、摂取量や摂取するタイミングに注意します。

保温

 貧血の患者さんは、ヘモグロビンが低下して酸素の供給が滞り、手足に冷えが生じることがあります。患者さんが寒さを訴える場合は、室温の設定や衣類・掛物で調整します。必要に応じて、手浴や足浴を実施したり、湯たんぽ、カイロ、温湿布などを用いた温罨法を行い、保温に努めます。

転倒の防止

 貧血の患者さんは、めまいやふらつきによる転倒リスクがあります。めまいやふらつきを感じた場合は安静な姿勢をとり、急に立ち上がらないよう伝えます。ただし、リスクについて事前に伝えていても、転倒してしまうことも考えられます。転倒すると、骨折や慢性硬膜下血腫などが生じる可能性もあるため、患者さんが転倒した場合は速やかに医師に報告します。

貧血の看護計画

 「術後貧血を起こしている患者さん」を例に看護計画を紹介します。

看護問題
#1治癒過程遅延のハイリスク状態
#2貧血による転倒・転落のハイリスク状態
#3貧血症状に伴うセルフケア不足
#4薬物療法に伴う副作用の出現

看護目標
・術後管理を通して血液データが改善する
・転倒転落などの事故が起こらない
・貧血症状が軽減する
・適切な服薬管理のもと薬物療法が行える

観察項目
・現病歴・既往歴
・術式
・術中の出血量
・輸血の有無及び輸血量
・栄養摂取状況
・バイタルサイン
・血液検査データ(RBC、WBC、Hb、Ht、TP、Alb)
・尿・便検査データ(潜血)
・創部の状態
・ドレナージによる排液量と性状
・眼瞼や爪の色、顔色
・尿量及び排泄回数
・排便の有無と性状
・貧血の自覚症状:倦怠感、動悸、息切れ、めまい、易疲労感、頭痛など
・鉄剤投与時の副作用:悪心・胃痛・便秘など
・in-outバランス
・食事摂取量
・一日の生活状況
・苦痛や不安の有無

ケア計画
・安静度に応じたベッドサイド環境の調整
・安楽な体位の調整
・保温
・創部ケア
・ドレナージ管理
・安静度や自覚症状にあわせた清潔ケアの実施
・移乗・移動介助
・服薬管理
・食事形態と内容の調整
・排便コントロール
・必要な休息が取れるようにスケジュールを調整
・傾聴

教育計画
・貧血の主症状を説明し、これらの症状を自覚した際は報告するよう指導する
・転倒転落のリスクを説明し、自覚症状に乏しい場合も安静度を守るように指導する
・急な体動を避け、めまいやふらつきなどの症状が出現していないことを確認してから次の動作にうつるよう指導する
・安楽な体位を患者さんと家族が把握し、適宜休息が取れるよう指導する
・服薬指導
・栄養指導

引用文献

1)Patel KV:Epidemiology of anemia in older adults. Semin Hematol 2008;45:210-7.
2)Ohta M: Management of Anemia in the Elderly. JAMA 2009; 52:219-2.
3)日本鉄バイオサイエンス学会 治療指針作成委員会,編:鉄剤の適正使用による貧血治療指針 改訂 第3版.響文社,2015.p.60.(2024年8月22日閲覧) https://jbis.bio/wp-content/uploads/pdf/zyouzaiv3.pdf

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