便秘の看護|種類・観察項目・看護計画など
- 公開日: 2020/7/17
便秘とは
便秘とは、排便回数や排便量が少なく、排泄されるべき便が腸内に停滞した状態をいいます。定期的な排便があっても、硬い便が続いたり、残便感や不快感を伴う場合は便秘といえます。
2017年に発行された『慢性便秘症診療ガイドライン』では、「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています1)。
便秘の分類、種類
便秘は、大腸の形態的変化による生じる「器質性便秘」、大腸の形態的変化はみられず、排便機能に何らかの障害を認める「機能性便秘」に大別されます。原因や症状により、それぞれさらに細かく分けられます。
器質性便秘
器質性便秘は、大腸がんやクローン病などが原因で大腸に狭窄が生じる「狭窄性」と、狭窄はみられないものの、特徴的な形態変化をきたす「非狭窄性」に分類されます。非狭窄性は、症状によりさらに次の2つに分けられます。
症状分類 | 原因、特徴 |
---|---|
排便回数減少型 | 巨大結腸などにより大腸が著しく拡張し、糞便の移送が障害され、排便回数が減少する |
排便困難型 | 直腸瘤や直腸重積などが原因で直腸の形態が変化し、便の排出が困難になる |
機能性便秘
機能性便秘は症状分類(排便回数減少型、排便困難型)に加え、病態により次の3つに分類されます。
病態分類 | 原因、特徴 |
---|---|
大腸通過遅延型 | 代謝・内分泌疾患や薬剤などの影響で大腸の糞便移送能が低下し、便が腸内に停滞しやすくなり、排便回数が減少する |
大腸通過正常型 | 大腸の糞便移送能が正常であるにもかかわらず、便秘が生じる。主な原因として、食事摂取量(食物繊維摂取不足も含む)が少ないことが挙げられ、便となるものがなく排便回数・排便量が減少したり、便の性状が硬くなり、排便困難をきたす |
機能性便排出障害 | 腹圧(怒責力)や直腸知覚の低下、直腸収縮力の減弱などの機能障害により、排便が困難になる |
高齢者の便秘
便秘を訴える人の割合は加齢とともに増加し、特に70歳以上になるとその傾向は顕著になります2)。
高齢者の便秘の原因として、加齢に伴う食事摂取量や運動量の低下、筋力の低下などが挙げられます。ほかに、腸管運動機能低下をきたす疾患(糖尿病、甲状腺機能低下症、腎機能障害、パーキンソン病、脳梗塞、不安障害、うつ病など)を有していたり、薬剤の副作用により便秘を生じていることも考えられます。
便秘を放置し悪化すると、高齢者では腸閉塞や直腸潰瘍、虚血性腸炎といった合併症のリスクが高まります。
便秘の観察項目・アセスメント
便秘かどうかを判断する目安として排便回数があります。しかし、排便回数は個人差が大きいため、便の性状や腹部状態、食事内容や水分摂取量などの情報もあわせてアセスメントを行っていきます。
便の性状は、ブリストル便性スケールで客観的に確認できます。1または2に該当すれば便秘傾向と考えられます。
【主なアセスメント項目】
・既往歴
・内服歴
・便の性状(硬さ、色、形状、量)
・排便回数
・腹部状態(腸蠕動音、腹部膨満など)
・便秘の随伴症状(嘔気、嘔吐、腹痛、腹部膨満感など)
・排便時の自覚症状(残便感、排便困難感、排便時痛、出血、疲労の程度など)
・排便時の体勢や努責の程度
・便意を感じやすい状況や時間帯
・食事内容
・水分摂取量
・一日の活動量
・便秘への理解度
・下剤または浣腸使用の有無
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便秘のケア
下剤の使用
便秘の改善に使用される下剤にはさまざまな種類があり、便やガスが停滞している位置や患者さんの状態により使い分けられます。
例えば、大腸を動かして便秘を改善させる場合、大腸における水分の吸収を抑制し、便の水分量を増加させる緩下剤や、大腸の腸蠕動を亢進させる刺激性下剤などが用いられます。
下剤の目的や作用機序について理解し、なぜその薬剤が処方されているのか、正しく把握できるようにしましょう。
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摘便
摘便は、肛門から指を入れて便を排泄させるケアです。直腸内に便が貯留し、自然排便ができない場合に行います。
無理に便を掻き出そうとすると、腸粘膜や肛門を傷つけてしまいます。肛門付近をマッサージして弛緩させ指を挿入しやすくしたり、硬便の場合は指でほぐして、小さい塊にしてから排泄するようにします。ケアを行っている最中は、疼痛や出血などがみられないか確認することも大切です。
また、摘便は苦痛や羞恥心を伴うため、できるだけ短時間で終わらせるよう心がけます。
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浣腸
肛門にグリセリン液を入れて排便を促します。
立位では直腸穿孔を起こすリスクが高いため、左側臥位にし、膝を軽く曲げてもらった状態で行います。グリセリン液を満たしたカテーテルを挿入(成人は5~7cm、小児は3~4cm)し、注入します。注入後、すぐに排泄するとグリセリンだけが出てきてしまうことがあります。そのため、注入後1~3分はできるだけ排便を我慢してもらうようにします。排便後は流さないように伝え、量や性状を確認します。
浣腸による強制排便では、迷走神経反射による血圧低下やショックが起こる可能性があります。バイタルサインの変化、顔色不良や冷汗はみられないかなど、患者さんの状態を観察することが大切です。
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温罨法
熱布や市販の温熱シートなどを腰部または腹部に当て、温熱刺激で腸蠕動を亢進させます。便秘や腹部膨満感、排便日数(回数)の改善効果が期待できます。
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腹部マッサージ
腹部をマッサージすることで腸管を刺激し、腸蠕動を亢進させます。仰臥位の状態で膝を曲げてもらい、リラックスした体勢で行います。上行結腸、横行結腸、下行結腸の順に、腸の走行に沿って「の」の字を描くように手のひらで軽くマッサージします。そして、S状結腸をゆっくり押します。この手順を繰り返し行います。
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食事指導
便秘は、偏った食事でも引き起こります。1日3食バランスのよい食事と、水分摂取を心がけるよう指導します。
食物繊維を豊富に含む食材を積極的に取り入れるのもよいでしょう。食物繊維は水溶性と不溶性の2種類があり、それぞれ違った特徴があります。水溶性は果物や海藻、こんにゃくなどに多く含まれ、水分保持能力が高く、軟便形成を促します。不溶性は消化管内の水分を吸収して便のかさを増やし、排便を促進させます。穀物や豆類・きのこ・芋類・野菜・果物などに多く含まれます。
ほかに、適度な運動を行い、便意の有無にかかわらず、毎日同じようなタイミングでトイレに行き、排便習慣をつくることも大切です。
看護計画
「抗がん剤の副作用により便秘を生じている患者さん」を例に、看護計画を紹介します。
看護問題
#1抗がん剤投与に関連した排便の変調(便秘)
#2排便の変調(便秘)に関連した苦痛
看護目標
・便秘が改善する
・便秘に伴う苦痛が軽減する
・患者さんが便秘に対応できる
観察項目
・抗がん剤の種類
・薬物療法で使用している薬剤の種類
・抗がん剤投与前の排便習慣
・便の性状(硬さ、色、形状、量)
・排便回数
・腹部状態(腸蠕動音、腹部膨満など)
・便秘の随伴症状(嘔気、嘔吐、腹痛、腹部膨満感など)
・排便時の自覚症状(残便感、排便困難感、排便時痛、出血、疲労の程度など)
・排便時の体勢や努責の程度
・便意を感じやすい状況や時間帯
・食事摂取状況(in-out量、食事摂取量、食欲の有無)
・安静度
・一日の活動量
・不安や苦痛の有無と表出の程度
・便秘への理解度
ケア計画
・下剤による排便コントロール
・使用薬剤の調整
・温罨法
・腹部マッサージや体位変換で腸蠕動を促す
・腹圧がかけやすい体位を把握する
・毎日同じ時間にトイレ誘導を行う
・患者さんが便意を感じたタイミングでトイレに行ける、安全安楽な排泄環境の整備
・飲水量と食事摂取量のチェック
・水分や食物繊維が摂れる食事内容への変更
・患者さんが食べやすい食事内容への変更
・傾聴
教育計画
・抗がん剤と便秘の関連性を説明し、便秘改善に対する動機づけを行う
・水分摂取の必要性を説明し、意識的に飲水できるよう指導する
・無理のない範囲で離床し、からだを動かすように指導する
・患者さん自身で腹部マッサージが行えるように指導する
・便意を感じたら我慢せずトイレに行く、もしくはナースコールを押すよう指導する
・便意がなくても、一日一回はゆっくりとトイレに座る時間を作るよう指導する
・便秘が悪化したり、便の性状に変化を認めたりした場合は報告するよう指導する
・栄養指導(患者さんの状態に応じた食事)
・服薬指導(下剤の調整など)
【関連記事】
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引用・参考文献
1)日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断・治療研究会:慢性便秘症診療ガイドライン2017.南江堂,2017,p.2.
2)厚生労働省:平成28年国民生活基礎調査の概況.(2020年7月6日閲覧)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/16.pdf
●日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断・治療研究会:慢性便秘症診療ガイドライン2017.南江堂,2017.
●尾髙健夫:慢性便秘の定義と分類.日内会誌 2019;108(1):10-5.
●日本看護技術学会技術研究成果検討委員会温罨法班:便秘症状の緩和のための温罨法Q&A.(2020年7月6日閲覧)https://jsnas.jp/system/data/20160613221133_ybd1i.pdf

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