【図解】誤嚥を防ぐポジショニング
- 公開日: 2017/5/28
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体位変換とポジショニング
ポジショニングで大切なことはおもに2つ
食事のときのポジショニングで大切なのは、1)姿勢が安定していること、2)身体がリラックスしていることです。患者さんが、基本姿勢がとれているかチェックしてみましょう。
いすの場合
■ポジショニングの基本
正しい座位とは、下半身と体幹を安定させることで上肢や頭頸部などがリラックスした状態になり、食物の取り込み・咀嚼・嚥下がスムーズに行える姿勢(ベンチ座位、いす座位)です(図1)。
高齢者は筋肉減少から座位の不安定を招きやすいため、床面には足底、座面には両坐骨をきちんとつけて、筋肉の相互作用で下半身を安定させます。下半身が安定することで上半身がリラックスし、両手、口、のどが働きやすくなります。
図1 いす座位
車いすの場合
■足底が床につかない
食事の時はフットレストから足を床におろします。身体よりサイズの大きな車いすを使用する場合は、車いすに足台を利用して、臀部が前滑りになることを防ぎます。
■両坐骨や背中がつかない
サイズが大きい車いすは前滑りになりやすく、姿勢が前後左右に傾いて全身に余計な力が入ります。また、数年も使えば背もたれにも座面にもたわみが出てきます。背もたれがたわめば前滑りになりやすく、座面がたわめば、身体が傾きやすくなります(図2)。
前滑りの防止や姿勢の保持には、硬めのクッションを使うと効果的です。ほかに、適切なサイズの車いすを選択する、両足を床面につける、足台を使用するなどして身体を安定させます(図3)。
図2 座面のたわみによる傾き
図3 前滑り防止と姿勢の保持
■座面高とアームレストの高さが合わない
低床車いすでは、机やテーブルと高さが合わないこともあります。また、アームレストの位置が高い場合、手の可動域が制限されることもあります。
その場合は、クッションで座面高を上げることも考えます。ただし、左右の安定の弱い患者さんでは、アームレストが低くなることにもなり、側方へ転倒の危険性があります。
側方への転倒防止対策として、両体側や両骨盤部で側板との隙間を埋めるように、枕などを用いて上体を安定させる工夫が必要です。
■頭部が後屈し、口が開いたままになってしまう
臥位から座位への移行期の患者さんで、頭部が後屈し、口が開いたままになっている患者さんでは、頭までサポートできる背板(バックサポート)を用意します。
ほかに、背板の腰椎部を膨らませて腰のくぼみをサポートし、坐骨支持を強調するランバーサポートクッション、背中を包んで状態を安定させるクッションなどを用いるのもよいでしょう。
これらのクッションを使って上体を安定させ、両足を床に着けた状態で様子をみます。上半身が前に倒れるようであれば、大きめの抱きクッションや、車いす用のカットアウトテーブルを用いて両肘で身体を支えます。
頸が安定しない場合は、背板の高いヘッドレスト付きの車いすを選択します。このとき、ヘッドレストは頭を包みこむような形状だとより安定します。頭位は軽く顎を引くぐらい(下顎-胸骨間約4横指を目安)に設定します。唾液嚥下を観察し、頭位が適切か否かを確認します。
■頭や上体が安定しない
頭や上体が安定しない、あるいは起立性低血圧を起こしやすい患者さんでは、背中から頭までを支えるリクライニング車いす(図4:左)を選択します。
リクライニング車いすは背もたれを倒せる機能があり、ストレッチャーのように平らにできるものもあります。ただし、臀部の前滑りを招きやすいので注意が必要です。臀部の前滑りを防ぎたい場合は、背もたれの角度はそのままで座面角を変えることができるティルト車いす(図4:右)を使用します。
また、リクライニング車いすとティルト車いすの機能を合わせた、ティルト・リクライニング車いすもあります。使用方法は、まずティルト0度、リクライニング0度の状態で患者さんを移乗します。次にティルト機能を使って臀部を座面奥にしっかりと落とし込むようにしてから、リクライニングを行います。最後にヘッドレストを頭頸部が軽度顎引き姿勢になるように調整します。背板や座シートの張り具合を調整できる背張り調整機能のあるものでは、ティルトを行った状態で背張り調整を行うとよいでしょう。
図4 リクライニング車いすとティルト車いす
ベッドの場合
■ポジショニングの基本
ベッドの背上げ機能と足上げ機能を用いて、大きないすに座ったような姿勢をつくります(図5)。ベッドの規格はメーカーによって違うため、患者さんの身体に合ったサイズのものを選びましょう。
図5 ベッドでのポジショニング
背上げを行うときには、臀部が足方向にズレて尾骨・仙骨座りとなりやすいので、ベッドの脚上げ機能を用いて底板(ボトム)に腰かけるような姿勢を作ります。具体的には、以下の順序で行います。
1)ベッドを一旦平らにする
2)ベッドの背上げ軸に股関節が来るように、身体全体を十分に頭位に引き上げる
3)身体の中心線(正中線)を整える
4)身体が足位に滑り降りないように、足上げ機能を働かせつつ背上げをゆっくりと行う
5)姿勢が坐骨で支えられているか、直接手を差し入れて確認する
*四肢痙縮がある場合には、両下肢が屈曲していてベッドの脚上げ角度に適合しないのでふとんで作成した大きなロールの上に座るようにするとベッド上でも座位姿勢をとれる場合がある。背抜き、足抜き、肘抜き、腕抜きを行い、全身にかかっている緊張を解放する
6)枕やクッションを用いて頭や上半身を安定させる
■小柄な患者さんでベッドサイズが合わない
患者さんの体格に比しベッドのサイズが大きい場合、患者さんの大腿長よりもベッドのボトム長の方が長くなり、臀部の前滑りを招きます。
適切なサイズのベッドがなく大きなベッドを用いなければならない場合には、患者さんの足の長さに合わせて膝下枕と足底クッションを入れて背上げすることで、坐骨と足底で支えられたベッド座位をつくることができます。(図6)
図6 小柄な患者さんのポジショニング
■嚥下が困難
ベッドでの姿勢が決まったら、次は頭の姿勢を決めます。図7:左のように、頭が伸展位に下がると気道が開き(下顎挙上位)、誤嚥しやすくなります。
図7:右のように枕を用い、軽度顎引き位(軽度前屈位)にすると喉頭口を狭め、食道口を開きやすくします。頭位を軽度顎引き位くらいにし、唾液嚥下のしやすさを観察します。下顎と胸元(胸骨柄)の距離が4横指の距離を基準とします。
図7 ベッドでの食事時の頭位
また、脳幹部障害などによって嚥下のタイミングが悪い場合には、誤嚥を防ぐためにベッドの背角を30°まで倒し、重力を利用して食物を奥舌から後咽頭へ落とし、食道入口部へ導く姿勢が用いられることがあります(図8)。
ただし、その背角には個人差があります。上半身を少しずつ起こしながら嚥下状態を確認し、患者さんにとって嚥下しやすい角度に調整します。最終的には身体を起こして正しい座位姿勢をとれるようにします。
図8 嚥下困難時のギャッジアップ
■片麻痺で唾液の嚥下でむせがある
1)片麻痺がある場合は、顔を麻痺側に向けて麻痺側の喉をつぶし、非麻痺側の喉を通過しやすくすることで飲み込みやすくなる場合がある(図9)
2)枕やクッションを利用して麻痺側を少し持ち上げると、食物が食道を通過しやすくなる場合がある
*1)、2)は、聴診法で確認しながら行いますが、嚥下内視鏡(VE)、または嚥下造影(VF)が行える場合は、側臥位法が適している否かの判断や患者さんに適した姿勢の調整を画像診断で確認します。
図9 片麻痺がある患者さんのポジショニング
■ベッドでの端座位
ベッド側面に端座する場合は、両足底が接地するようベッドの高さを調節します。足下に踏み台を用いて足底接地を援助する方法もあります。
エアマットの縁部が柔らかく端座に適さない場合は、加圧モードスイッチ(「リハビリモード」「背上げモード」)を利用します。スポンジ素材の除圧マットレスでは、端座を考慮して縁の固めにしたものを用いることも考えます。
後背部の過緊張から両方の肩甲帯が後退する場合は、2枚の板を直角に開いて背板として用い、両肩甲帯の後退を防ぐ座位補助装置もあるため、活用するとよいでしょう。
端座位レベルの患者さんでは、移乗が可能であればいす座位へ移行します。そうすることで、姿勢も機能的となりテーブルも使いやすくなります。
回復期リハビリテーション病棟や医療療養・介護療養病棟、介護施設では、車いすへの移行により食堂に出ることも可能にとなるため、仲間と一緒の食事へ展開できます。
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