血管外漏出の防止と早期発見・対応
- 公開日: 2018/5/15
抗がん薬の血管外漏出はがん化学療法における大きなトラブルです。場合によっては患者さんの皮膚や組織を傷害するため、その予防や早期発見は大切な看護師の役割です。限られた時間の中で行う外来では特に注意が必要。知識と対応をしっかりと身につけられるようにしましょう。
血管外漏出とは
血管外漏出(extravasation:EV)とは、血管内に投与されるはずの薬液が何らかの原因で血管外に浸潤したり、漏れ出た状態のことです。抗がん薬は刺激が強く、EVが生じると血管周囲の組織を傷害します。その程度によって起壊死性抗がん薬(vesicants drugs)、炎症性抗がん薬(irritants drugs)、非起壊死性抗がん薬(non-vesicants drugs)に分類されます(表2-1)。
なかでも、起壊死性抗がん薬は、組織への傷害性が高く、少量の漏出であっても発赤・水疱・潰瘍を発生させます。組織の傷害は、皮下組織にとどまらず、漏出周囲の腱や神経にも及び、運動や感覚の障害を引き起こす可能性があるため注意が必要です。
血管外漏出の予防と早期発見
EVを発生させないためには、予防対策としての環境整備、適切な血管の選択が重要です。そのうえで、早期発見に努めることが必要です。
EV予防のための環境整備
EVを予防するためには、化学療法の実施にあたって、「物理的」および「人的」の両面から環境を整備することが有効とされています。
[物理的環境の整備]
●マニュアルの整備
EVを予防し、発生時には適切かつ速やかに対処できるように、以下の1~6についてのマニュアルを整備しましょう。
- 1.EVのリスクアセスメント
- 2.予防のための血管確保のマニュアル
- 3.予防・早期発見のための観察方法
- 4.EV発生時の初期対応
- 5.薬剤別の対応表
- 6.患者教育
●記録の実施
EVに際しては、「発生時」「経過」について、情報を正確に記録することが必要です。いつ、どのように(薬剤名や投与方法、漏出部位、漏出部の状態など)発症したかという情報を集約し、発生した患者さんの経過を追うだけではなく、振り返ることで予防や早期発見に向けた新たな方法につなげることができます。
書式はあらかじめ作成しておき、観察の視点を標準化できるようにしましょう。
[人的環境の整備]
抗がん薬の知識、穿刺の技術など、抗がん薬投与に関する専門的な教育を受けた看護師が実施することで、EVの発生リスクを最小限に抑えることができると考えられています。
当院では院内で認定制度を制定しており、4回の講義と10例の技術演習をコースとする院内研修を行い、抗がん薬を投与する静脈路を確保することができる看護師(IVナース)を育成しています。さらに、技術の質を担保するため、2年ごとの更新制度も取り入れています。
血管選択(静脈路確保)の技術
抗がん薬を投与する静脈路には、末梢静脈路と中心静脈路があります。末梢静脈路は、侵襲的でなく安価であることが利点ですが、短期間での刺し替えが必要とされ、漏出や静脈炎を起こしやすいという欠点があります。一方、中心静脈路は、漏出を起こしにくいことが利点ですが、挿入時に侵襲的な合併症のリスクが高く、厳重な感染管理を要することがあります。
[末梢静脈路の確保]
●適切な血管選択と穿刺
穿刺に適しているとされるのは、太くて柔らかく弾力のある血管です。穿刺部位としては、前腕が望ましいでしょう。手背や肘の関節付近は、腕の運動の影響を受けるため、カテーテルが動揺し、漏出しやすくなります。血管外に漏出する因子(表2-2)を踏まえて血管と穿刺部位を選択することが必要です。
とはいえ、抗がん薬の治療を長く続けてきた患者さんの末梢静脈の血管は、細く、硬く、脆くなってくるため、望ましい血管や部位に穿刺することは難しくなります。その際には皮下埋め込み型ポートなどによる中心静脈路の確保を検討する必要があります。
皮下埋め込み型ポートとは
皮下埋め込み型ポートは、ほかの中心静脈のデバイスに比べて、入浴・外出など日常生活への影響が小さくなります。感染のリスクも低く、長期間使用できるのが特徴です。皮下埋め込み型ポートの例を下図に示します。ポートが皮下ポケットに埋め込まれていて、コアリング(針を穿刺する際に針先の顎部でゴム栓の一部が削り取られ、ゴム片が発生すること)が生じない専用の針を経皮的にセプタムに刺して使用します。
薬剤の注入開始前に、生理食塩水かヘパリン加生理食塩水の入ったシリンジで吸引し、逆血の有無で、針がポート内に留置されていることを確認します。注入時には10mL以上のシリンジを使用します。それ以下のシリンジだと、カテーテルに過負荷がかかり破損の原因になります。逆血が確認されなかった場合には、血管外漏出につながるカテーテルトラブルの可能性があります。
EVの早期発見
[初期症状の見極め]
EVの初期症状としては、灼熱感、紅斑、腫脹、浮腫、違和感、点滴の滴下速度の低下、血液逆流の消失などがあります。まずは、これらの症状が出現していないかを観察することが必要です。訪室時や点滴ボトルの交換時、輸液ポンプのアラーム対処時などに、刺入部の状態、自然滴下の速度、血液逆流の有無などを確認し、漏出の徴候がないかをみていきます。
早期発見については、投与中や投与後に、医療者だけでなく、患者さんにも初期症状がないかを確認してもらうようにします。異常があるとき、増悪しているときは速やかに医療者に知らせるよう、患者さんに伝えます。
[静脈炎とフレア反応の鑑別]
末梢静脈から投与した際には、EVと似た症状を示す病態があります。静脈炎とフレア反応です(表2-3)。静脈炎は、静脈壁内膜の炎症で、血管の走行に沿って疼痛を伴う発赤と腫脹が出現します。また、フレア反応は、薬剤のアレルギー反応によって起こるもので、静脈に沿って局所性じんましんとかゆみを伴う紅斑がみられます。
これらを鑑別することが早期発見と適切な対処方法の選択につながります。
Polovich M,et al:Chemotherapy and Biotherapy Guidelines and Recommendations for Practice 4th ed.Oncology Nursing Society,2014 p157,より作成
血管外漏出発生時の対応
抗がん薬によるEVの皮膚傷害の程度は、抗がん薬の種類と漏出量に影響されます。抗がん薬によるEV発生時の対処方法を図2-1に示します。
特に起壊死性抗がん薬については、細胞内のDNAに結合して細胞を傷害する薬剤とそれ以外とに分けられます(p21、表2-1)。結合型か非結合型かによってEVの病態が異なることが動物実験の段階で確認されています。この違いによって、対処方法も異なります。
●DNA結合型の場合
局所血流部位に冷罨法を施し、漏出した薬液の拡散を抑えるとともに、デクスラゾキサン(サビーン®)を静脈内投与し、フリーラジカル(DNAに結合して細胞を傷害しようとする物質)の産生を抑制します。
●DNA非結合型の場合
DNA障害が伝播しないため、温罨法で局所の血流を促進させ、薬液の拡散を促して速く代謝(分解)させます。
[参考文献]
● 日本がん看護学会,編:外来がん化学療法看護ガイドライン2014年版̶抗がん剤の血管外漏出およびデバイス合併症の予防・早期発見・対処̶ 金原出版.2014.
● Chemotherapy and Biotherapy Guidelines and Recommendations for Practice, 4th ed,Oncology Nursing Society,2014, p155-163.
(ナース専科マガジン2017年8月号より転載)
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