【連載】ビュートゾルフで訪看ステーションを立ち上げるということ
私がビュートゾルフを選んだ理由
- 公開日: 2018/10/11
私とビュートゾルフとの出会い
私がビュートゾルフに出会ったのは、今から5~6年前。ビュートゾルフについて記載されている記事を読んだことが始まりだった。「自分たちの考えとフィットしている」と当時の上司より勧められた記事の内容は、自分たちの理想像そのものだった。
オランダの『在宅ケア』シェア60%、今も拡大を続けている、玉ねぎモデル、管理者不在で看護師おのおのがプロ意識をもった自立型チーム、BZ-WEBというICTシステムを活用したナレッジ・マネジメント、アセスメントツールはオマハシステムを使用している、オランダの医療費削減にも貢献などなど・・・。当時の私には全てが魅力的で、これがあれば自分たちの思い、訪問看護を広めていくことができる、と胸が高鳴ったことを今でも覚えている。
当時、私が勤めていたステーションでは、ビュートゾルフのライセンス取得は叶わなかったが、さまざまなヒントを得た私は、後に3か所のステーションを立ち上げる際の指標をビュートゾルフ型にすると決めた。
自分たちの責任で、自分たちの意思のもとに
先にも述べたが、ビュートゾルフには、看護師が自立できるシステムが揃っている。
利用者のアセスメント、看護計画、介入、評価については、オマハシステムという訪問看護に即したアセスメントツールがあれば、項目を選択する力は必要ながら、大方は標準的な表現で生活モデルの視点をもったアセスメント・ケアができる。自分たちが言葉にしていない潜在的アセスメントも、連携のハブ機能も可視化できる。ちなみにハブ機能とは、創設者のヨス・デ・ブロックがよく話すことだが、介入初期は看護師がしっかり入り、利用者をアセスメントしながら、他のリソースへ移行させていけばよい。
全てを看護師がする必要はない、という考え方だ。
よりよい看護を提供できたとき、それを利用者と看護師間で共有できたとき、チームで認め合えたとき、それが看護師の喜びややりがいになる。利用者、看護師の満足度が高いのはすべてが連動して起こった結果なのだろうと思う。
ビュートゾルフでは、会議の手法の1つとしてSIM(Solution-Interaction Method)を採用している
よりよい看護を提供したい・・・。この想いは、すべての看護師の望みだと思う。自由な発想で自分のやりたい看護をしたい、それには抑圧的な管理は必要ない。人は拘束されると怒りを覚えるし、視野も狭まる。人はニュートラルな状態で最も能力を発揮できるといわれている。反対に緊張が高すぎると十分な能力を発揮できない。ヒエラルキー組織は、高度成長期社会であれば、指示系統がはっきりしており便利で効率が良いが、多様な価値観や変化の激しさ、スピードが求められる現代社会においては、管理者の指示だけではなく、おのおのが判断して行動することをチームで承認する、そんな組織が必要になってきているのだ。
ビュートゾルフは、ヨス・デ・ブロックの思想というフレームをもちつつ、それ以外はチームの責任の下に、自由なやりたい看護をしてもよいというお墨付きをもらえる組織なのではないかと思う。それには自分たちの責任も伴うことになり、管理者1人に責任の重圧が課せられるわけではない。責任はチームにある、という点も集団力動を利用したユニークな組織形態だと思った。
暗黙知を形式知へ、そしてデータベースへ
もう1つ、私が一番魅力を感じるビュートゾルフの特徴に、ナレッジ・マネジメントがある。
ナレッジ・マネジメント(知識管理)とは、個人のもつ暗黙知を形式知に変換することにより、知識の共有化、明確化を図り、作業の効率化や新発見を容易にしようとする企業マネジメントの手法のことをいう。
通常、チーム間でカンファレンスを開催し(カンファレンス手法には、SIM:Solution-Interaction Methodという手法を採用)、カンファレンス内で解決できない事項があれば、BZ-WEBに投げかけ、さまざまな場所にいる看護師たちより回答を得る。その集合知をデータベース化し、タグを開けばそこに答えがある・・・、という状態に整理したのがBZ-WEBを使ったICTの活用方法である。
この暗黙知を形式知へ置換するというマネジメント技法はSECIプロセスともいわれ、私はビュートゾルフを知ってから学んだ。SECIモデル(SECIプロセス)の面白さは、それを講義していた多摩大学の紺野登先生の魅力もあったと思うが、知識変換する4つのフェーズをスパイラルさせて知識を創造し、上昇させながらマネジメントしていく、繰り返しながら少しずつ成長していく過程の面白さであった。ビュートゾルフでは、こうして形成した形式知を集合知として活用できるところに魅力を感じる。
ただし、暗黙知を形式化するためには、それをファシリテートする技術も必要で、その点でSIMは画期的であると思う。このような過程を通してチームで成長を実感できたときに看護師たちは(自分もその渦中にあったが)なんともいえない充実感を味わう。
そして次の訪問につながっていくのだ。