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【連載】ビュートゾルフで訪看ステーションを立ち上げるということ

訪問看護師が本当に自立して働くとは

  • 公開日: 2018/10/18

 よく耳にする声がある。「あー管理者は忙しい、あれも、これも、やらなきゃいけない」というものだ。訪問看護管理者は忙しい。でもそれ、本当に管理者がやる必要があるのだろうか?

 日本における訪問看護ステーションの管理者に係る責務等の内容を見てみると、1)職員の管理、適切な訪問看護への配慮、2)衛生管理、3)適切な訪問看護の実施に対する必要な管理、4)訪問看護計画書・報告書の管理、とある。
 そして、その他職員(看護師等)の責務等には、1)適切な訪問看護を行うための主治医との連携、2)訪問看護計画書・報告書の作成(准看護師には責務なし)、3)緊急時の主治医への連絡等必要な措置、4)業務上、知り得た秘密の保持(訪問看護業務の手引きより)とある。

 管理者が行うべきは“管理”であり“業務を行う人”とは記載されていない。またその他の職員に関しても、これらを“やってはいけない”とはどこにも記載されていない。要はステーションが正しく運営され、管理されていることが大切なのである。

生命体のように有機的に進化する組織

 オランダのビュートゾルフには管理者がいない。いるのは現場主義の看護師チームとCEO(最高責任者)のみだ。「地域コーチナース」というスーパーバイザー的なコーチはいるが、現場に対する責任は何1つ担っていない。現場の運営、ほか全ての執行責任はチームにある。

 そのため、皆で業務内容を書き出し、誰がそれを担当するのか、自分にできることを看護師チームが話し合いのなかで決定していく。チームを1つの“生命体”と捉え、看護師1人ひとりが細胞と捉える。この生命体が動き出すように、時には栄養を、時には排泄を、睡眠も必要で、そうしていきながら細胞が元気になることで、いい看護を提供できる。それがビュートゾルフの考え方だ。

 組織の発達理論における歴史の変遷をみると、血縁関係の小集団の時代から、部族集団の時代に移り、衝動型組織、順応型組織、達成型組織、多元型組織へと、組織はパラダイムシフトしていった。そして今、新たな組織形態である進化型組織(ティール組織)が注目されている*。
 進化型組織(ティール組織)とは、マネジメントのヒエラルキーがなく、構成員1人ひとりが共通の目的の実現に向けて、有機的に進化していく組織のことだが、まさにビュートゾルフの組織は進化型組織(ティール組織)である。

 はじめて形成された組織形態である、衝動型組織は、この本質を比喩(メタファー)的に表現すると『オオカミの群れ』と言うことができる。では順応型組織のメタファーはというと、『軍隊』になるそうだ。達成型組織は『機械』であり、多元型組織は『家族』である。そして進化型組織(ティール組織)は『生命体』と表現できるだろう。
 また、組織の進化はマズローの自己実現理論とも一致している。欲求5段階説で表現すると、衝動型組織は『生理的欲求の段階』、順応型組織は『安全の欲求の段階』、達成型組織は『社会的/所属と愛の欲求の段階』、多元型組織は『承認(尊厳)の欲求の段階』と合致する。では進化型組織は……もうおわかりのとおり、『自己実現の欲求の段階』である。

 このように、組織は時代の変化、価値観の多様化の流れとともに進化・発達の変遷を辿り、ビュートゾルフは、進化型組織(ティール組織)として、オランダのシェア60%にまで短期間で広がっていった。

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管理者がいないゆえの自立と責任

 看護大学が増えつつある今日、看護理論をより深いレベルで学び、自分なりの看護観と専門性を活かしたいと願う看護師が増えているように思う。いわゆる“指示待ち”ではなく、自分で思考し、自分のやりたい看護を叶える力を発揮できるのは「在宅看護である」と認識しているのは、臨床の看護師だけではない。そのような声は看護学生からも聞こえてくる。

 以前勤めていた事業所では、看護大学の学生も積極的に受け入れていたが、周りからは、「まず病院で臨床経験を積んでからのほうがいい」という声も聞こえていた。そのような先入観があるようだ。「いつかは訪問看護をしたい」という看護学生に対し、私は「いつかっていつ? 今でしょ!」とよく言っていた。

 病院と在宅での看護の違いは、治療モデルと生活モデルといわれている。一度植え付けられた意識は切り替えが難しい。そこで看護学生や新人看護師には、是非、まっさらなままで在宅看護に飛び込む勇気をもってほしいと願う。

 ビュートゾルフの看護チームは、正に自立したチームだ。管理者がいないということは、1人ひとりの看護師が利用者に対し、より良い看護を提供しようとチームで責任を担う。そのためには普段から日々進化する医療技術についての学習や、制度改正についてもアンテナを張り、自ら情報をキャッチしようと努力する。
 管理者に管理されたり、指示を待っていたのでは、自分が思う看護が発揮できない、自由に純粋に看護を提供するには、自分を含めたチーム運営やチーム看護に責任を負う、という姿勢が大切であることをオランダのビュートゾルフの看護師たちは悟ったのだ。

 日本では法律上、管理者を立てる必要がある。しかしながら、チーム全員で責任を取るスタンスで物事を考え、業務分担することは十分可能であり、新たな発想の転換につながると思う。まさに、課題解決を念頭に置いた進化する組織といえるのではないか。
 先にも述べたように、看護師の知識レベルが向上し、より高い看護観をもったナースが増えてきた日本の現状と、本来の訪問看護の在り方を追い求め進化型組織(ティール組織)のモデルとなったビュートゾルフの形態が非常によくマッチしているように思う。

 そしてもう1つの特徴。それは、まず皆でコーヒーを飲んで語り合ったあとでカンファレンスやケアに入ることだ。大変ビュートゾルフスタイルらしい。お洒落で余裕を感じる。


【引用文献】
フレデリック・ラルー著、嘉村賢州 他訳:ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現.英治出版、2018.

*次回は、「コーチとしてかかわり、チームで成長する」がテーマです。

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