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【連載】COPDとは全く違う! 知ってる? 間質性肺炎の看護

セルフマネジメント能力向上へのアプローチ|慢性疾患看護の視点で考える 間質性肺炎患者・家族の支援

  • 公開日: 2019/9/1

目次


セルフマネジメント能力向上へのアプローチ

自己効力感理論でセルフマネジメントを実現

 セルフマネジメントとは「疾病を抱えた人が指示された行動を守ること」で、セルフケアは「日常生活行動の全般」のことです。指示された行動を守るとは、即ち生活における行動を変える必要が生じます。そして、患者自身が「自己管理を行おう」と心に決め、行動変容をすることが重要となります。

 では、「自己管理を行おう」と決心するために必要なことは何でしょうか。その1つに「動機づけ」があります。これは自己効力感理論で説明することができます。自己効力感理論とは、カナダの心理学者である、アルバート・バンデューラ1)が提唱した理論であり、必要とされる行動と、その行動に対する“効力予期”と“結果予期”により説明されます。
 
 学生の頃のことを思い出してみてください。「この実習を乗り越えたら、看護師国家試験を受けられる」「国家試験に合格したら、看護師になれる」と自らを励ましながら頑張りませんでしたか? このような行動によってもたらされる結果への期待を、“結果予期”といいます。そして、「実習で頑張れたのだから、国家試験の勉強だって頑張れる。この分厚い問題集を解くこともできる」と思いませんでしたか? このように必要とされる行動をどれくらい実行できるかという自信を“効力予期”といいます。

 ここで、自己効力感理論を用いて「その人らしさを支える援助」を検討して実施した事例を紹介します。

<事例紹介>

●患者背景
Bさん、80歳代、男性
・ 妻と子ども家族と同居
・ 既往歴は、陳旧性心筋梗塞
・ 乾性咳嗽が半年程度続いたため、かかりつけ医で治療を受けるも改善がみられないため、紹介受診し、IPFと診断を受ける。2年が経過し、労作時の低酸素、ならびに呼吸困難感によって、生活行動に支障が出始めたためHOTを導入(安静時、睡眠時1L/分、労作時3L/分)
・ 呼吸困難感は、修正MRCスコア3
・ 呼吸機能は、%VC58.5、%DLco38.1
・ 外来受診時にはカニューレを装着しているものの、「家ではあまり吸っていない。(酸素を)やめたい」などの発言が続いており、外来の医師、看護師から専門看護師へ介入依頼がありました。

●HOTの使用状況の把握
 Bさんの24時間のHOT導入により、医師は「低酸素状態への曝露が減少し、呼吸困難感が改善し、生活行動を自分で行えるために生活の質の向上が見込めると判断していたものの、むしろBさんの生活の質を下げてしまったかもしれない。どのように支えていけばよいのか」と考えていました。
 
 また、看護師は「酸素をしてくださいね」という声かけだけでは、行動変容は起こらないことに気がついており、「現状をどのように捉えて、どう援助をすればよいのか」と考えていました。
 
 そこで、まず日常のHOTの使用状況を把握するために、在宅酸素濃縮器の遠隔モニタリングデータを再度確認することにしました。このデータから、おおよその生活行動が、いつ行われているのかが推測され、入浴や食事、排泄、睡眠などでは、指示流量よりも少ない流量で酸素を吸入する傾向がみられました。また、徐々に酸素吸入時間が延長していることから、生活行動での呼吸困難感の悪化も推測されました。
 

行動変容を促すための取り組み

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 事例では、HOTの使用状況が、おおまかに把握できたため、次はBさんの“結果予期”についての傾聴を試みました。Bさんは、「平均年齢よりも生きられたから、別に酸素はしなくてもいい。酸素をしたからって治らない。それに、知り合いは酸素をつけ始めてすぐに亡くなった。コロッと倒れて死ぬのが目標だったのに、この病気ではその目標もダメじゃないか……」と話してくれました。

 このことから、Bさんが、“結果予期”として「HOTをしても治らない」、“効力予期”として「HOTによりそう遠くないうちに亡くなるならば、やっても仕方がない」と考えており、これらの認識が、行動変容を抑制する因子となっていると考えました。

 慢性疾患は、「これを実施したら治る」という“結果予期”が得にくいため、療養行動の変容を難しくさせます。だからこそ、結果予期をどのように設定し、その人固有の人生を支えるかが大切になります。

 そこで、外来の看護師たちと話し合い、ケア計画として、外来の看護師が交代でBさんの外来受診時にHOTの使用状況や、ストレス、「HOTが嫌だ」という気持ちについて関心を向け、傾聴することにしました。Bさんがケアを受けられることを保障し、Bさんの“結果予期”が「HOTをすることにより、生活行動での息苦しさを減らし、人から大切にされる」に変わっていくことを目指したのです。

 援助を始めると、Bさんは少しずつではありますが、看護師に労作時の生活行動の振り返りや息苦しさの変化などを話してくれるようになり、付き添いの家族とともに傾聴をし続けました。また、面談から得た情報をもとに、携帯用酸素ボンベの同調器の感度を変えて吸いやすくするなどのきめ細やかな対応や傾聴、調整を行い、信頼関係の構築に努めました。

 その結果、Bさんの自宅内でのHOTの使用状況は、指示流量を守る頻度が増加し、指示流量を吸うことにより湯船に浸かれるようになりました。また、「最近、顔色が良くなった」と家族に言われることや、気持ちが穏やかになったと感じていることも聞かせてくれました。実際、以前よりも穏やかな表情になったと私たちも感じていました。

 「人それぞれ人生が違うように、自分の人生でいいよね」と話すBさんの語りからは、“効力予期”の変化が推察され(図)、行動変容が生じたと考えられました。治らない病を抱え、生きることは本当に苦しいことです。「その人らしさ」を共に考え支える援助は、病いとともに生きる人々が、その人らしく生きることを支える一助になると考えます。

自己効力理論を用いた行動変容の例

イラスト/カミヤ マリコ


引用・参考文献

1) Bandura A:Self-efficacy: toward a unifying theory of behavioral change.Psychol Rev 1977;84(2):191-215.
● 猪飼やす子,他:進行期COPD及び慢性間質性肺炎患者の終末期医療に関する横断的研究.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2015;25(2):
225-30,2015.
● 猪飼やす子:特発性肺線維症患者が呼吸困難感と共に生きる体験.日本看護科学会誌 2016;36:238-46.
● 猪飼やす子:特発性間質性肺炎患者が認知する病気の不確かさと関連要因の探索.日本看護科学会誌2017;37:399-407.
● Igai,Y:End of life trajectory of coping and self-care of patients with idiopathic pulmonary fibrosis: A meta-synthesis using metaethnography.
Japan Journal of Nursing Science 2018(In Press).
● 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「びまん性肺疾患に関する調査研究」班 特発性線維症の治療ガイドライン作成委員会編:特発性肺
線維症の治療ガイドライン2017.南江堂,2017.
● 日本呼吸器学会びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎診断と治療の手引き改訂 第3版,南江堂,2016.


この記事はナース専科2018年7月号より転載しています。