肝硬変の分類・診断と看護ケアのポイント
- 公開日: 2019/10/15
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肝硬変とは
肝障害により肝細胞の破壊と再生が繰り返されると、徐々に線維化が起こり、肝臓本来の構造が破壊されます。その結果、肝臓内部の血液の流れに広範な歪みが生じた病態が肝硬変です。
昭和の頃は肝硬変の大多数が肝不全で亡くなっていましたが、最近では肝不全治療や移植医療の進歩により、肝不全で亡くなるのは肝硬変の約3割です。むしろ、肝がんへ進展する可能性が高く、肝硬変の約半数は肝がんで死亡しています。
肝硬変の原因と分類
肝硬変の主な原因として、慢性ウイルス性肝炎、慢性アルコール障害、非アルコール性脂肪肝炎などが挙げられます。
肝硬変は程度により、「代償性」と「非代償性」とに分けられます。「代償性」は肝臓の機能が保たれており、症状は現れないことが多く、「非代償性」は肝機能を代償することができない程度にまで悪化している病態をいいます。代償性か非代償性かは、Child-Pugh分類(表)で評価することができます。
表 Child-Pugh分類
日本臨床検査医学会ガイドライン作成委員会 編集:臨床検査のガイドライン JSLM2015 検査値アプローチ/症候/疾患、2015.p.318より引用一部改変
肝硬変の症状・臨床所見
肝硬変が進行し「非代償性」と呼ばれる状態になると、黄疸、腹水・浮腫、食道・胃静脈瘤、肝性脳症などの症状がみられるようになります。それぞれの症状について以下に解説します。
黄疸・掻痒感
血清ビリルビンが3.0mg/dL以上になると黄疸がみられるようになります。また、ビリルビンは皮膚の末梢神経を刺激し、強い痒みを生じることがあります。
腹水・浮腫
血液が肝臓に流入しづらくなり血液の流れが悪くなることや、血清アルブミンが減少することで、血液の成分が血管外へ染み出して腹部や手足に水が溜まります。
肝硬変が進行し、血清アルブミンが2.5g/dL以下になると浮腫がみられるようになります。また、血清と腹水のアルブミン濃度差(SAAG)が1.1g/dL以上の場合、肝硬変による腹水である可能性が高くなります1)。
食道・胃静脈瘤
食道・胃静脈瘤が生じるのは、肝臓が硬くなることで血液が肝臓に流入しづらくなり、本来肝臓に流入するはずの血液が胃や食道の表面を通る血管を通るようになるためです。血管が太くなり食道の内側に凹凸をつくり脆くなります。
肝静脈圧較差(HVPG)が12mmHgを超えると食道静瘤出血がみられるようになり2)、硬い物など少しの刺激で傷つき破裂する場合があります。以前は静脈瘤破裂での出血死も高率でしたが、現在は内視鏡を用いた予防治療や緊急止血の技術が向上し、死亡率は減っています。
肝性脳症
肝性脳症は、正常に肝臓が機能すれば代謝分解されるはずのアンモニアなどが脳に蓄積したり、アミノ酸のバランスが異常を来たしたりすることによって生じる合併症です。異常行動、羽ばたき振戦、意識障害などのさまざまな神経症状が現れ、重症の場合には昏睡状態に陥ります。
ただ、肝臓の機能が低下すれば全ての患者さんが発症するというわけではありません。発症するかどうかは血中のアンモニアなどの量、どれくらいの期間、脳がアンモニアなどにさらされていたかによります。重症度についてもそれぞれです。
肝硬変の検査・診断
血液検査で血小板数やアルブミン、プロトロンビン時間が異常値となっている場合は肝硬変が疑われます。腹部超音波検査で肝右葉が委縮し、その代償として左葉が肥大している、肝表面の凹凸が目立つといった場合にも肝硬変の可能性があります。同様のことを腹部CT検査でも観察します。最近では肝硬変が疑われた場合、超音波検査時に肝硬度測定を行い、線維化程度を評価することも保険適応になっています。
また、肝硬変を正確に診断するには組織検査を行う必要があります。方法としては、腹腔をガスで膨らませ、内視鏡で肝表面の観察も同時に行う腹腔鏡下肝生検と、エコーを用いて肋間から生検する超音波ガイド下肝生検があります。
さらに、劇症肝炎との鑑別診断も重要です。劇症肝炎は肝障害が起きてから肝臓の機能が急激に低下し、肝性脳症による意識障害などの重篤な症状が現れた急性肝不全です。脳死肝移植を考慮する病状になった場合、肝硬変から肝不全に至った患者さんよりも劇症肝炎の患者さんに優先して臓器提供されます。
肝硬変の合併症の治療
肝硬変の根本的な治療法はなく、肝機能の悪化や肝がんへの進展を防ぐこと、そして、合併症の早期発見・治療が中心となります。ここでは、非代償性肝硬変で生じる主な合併症の治療について、それぞれ解説します。
黄疸・掻痒感
肝不全に伴う黄疸がある場合には、基本的に安静が必要となります。重症の肝不全では、肝移植(脳死移植、生体肝移植)も考慮されます。黄疸を直接治す薬剤はありませんが、ビリルビンの再吸収を抑えることで黄疸を緩和する薬剤(コレスチラミンなど)を用いることはあります。
また、黄疸による痒みがある場合には、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、ステロイド外用薬などによる治療を行いますが、中枢性の痒みに対しては十分な効果が得られないことがあります。その場合は、ナルフラフィンの投与を検討します。ただし、ナルフラフィンは効果に個人差がみられ高額でもあることから、使用する患者さんを見極める必要があります。
浮腫・腹水
浮腫・腹水の治療は、溜まった水分を体外に出すことがメインの治療となります。塩分摂取の制限や水分摂取量の調節を行うほか、利尿薬(主に抗アルドステロン薬とループ利尿薬)を服用します。利尿薬で効果が得られない難治性腹水では、腹水穿刺排液や腹水濾過濃縮再静注法(Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy:CART)を行うこともあります。
なお、血中アルブミン濃度が低下していると浮腫・腹水は改善しません。そのため、アルブミンを補充したり、分岐鎖アミノ酸を投与する場合もあります。
食道・胃静脈瘤
静脈瘤が破裂すると多量の出血が生じ、命にかかわる非常に危険な状態に陥ります。そのため、血管に硬化剤を注入し固める内視鏡的静脈瘤硬化療法(endoscopic injection sclerotherapy:EIS)や、輪ゴムのようなもので静脈瘤の凹凸を縛る内視鏡的静脈瘤結紮術(endoscopic variceal ligation:EVL)などを行い、出血を予防することが一般的です。出血時の緊急止血にもEISまたはEVLを行います。破裂を未然に防ぐためにも、定期的に内視鏡検査を受けることが重要です。
肝性脳症
肝性脳症では、原因となるアンモニアの産生と吸収の抑制が重要となります。アンモニアは腸内細菌が食物を分解するときに産生されるため、下剤や合成二糖類製剤で便通をよくして、腸内でのアンモニアの産生と吸収を抑制します。また、脳内のアミノ酸タイプ不均衡を調整する薬剤(分岐鎖アミノ酸)が投与されることもあります。
ほかに、経口摂取でも途中でほとんど吸収されず腸に届く難吸収性抗菌薬を用いて、腸管でのアンモニアの産生を抑制することもあります。脳症で経口摂取できない場合などは、分岐鎖アミノ酸製剤の点滴でアミノ酸のバランスを整えることがあります。できるだけ重症度が低い時期に治療を開始することが重要です。
なお、肝性脳症は認知症やうつ病と間違えやすいため、専門医への受診が必要になります。
肝硬変患者さんのケア
肝硬変では、患者さんが自分の状態を理解し、適切に自己管理ができるよう支援していくことが大切です。ここでは非代償性肝硬変を中心に、患者さんへの指導やケアの注意点について解説します。
体重測定の指導
腹水貯留や浮腫・脱水が生じると体重の増減がみられます。体重が増加した際は腹水や浮腫が考えられることから、塩分や水分摂取量に注意するよう指導します。体重減少時は脱水している可能性があるため、こまめな水分補給を促します。腹水貯留や浮腫・脱水などの変化に早く気付き速やかに対処するために、日々の体重測定は非常に大切です。毎日決まった時間に体重測定を行うよう指導します。
浮腫のケア
浮腫が生じた状態の皮膚は傷つきやすいため、保清・保湿・保護をしっかりと行うことで健全な状態を保ち、バリア機能の低下を防ぎます。ほかに、ゴムの部分が緩めのパジャマの着用や、身体を洗う際はあまりこすらないようにするなど、摩擦を最小限に抑える工夫をできるだけ具体的に伝えます。浮腫を軽減するために、クッションや枕を使用し、足を挙上した状態で過ごすよう指導するのもよいでしょう。
浮腫の治療のために利尿薬を使用することで、脱水が引き起こされることもあります。適切な水分量を補給するよう注意を促すことも大切です。
腹水のケア
腹水を改善するには、食事中の塩分は6g/日以下とし、飲水は1L/日程度とします。利尿薬を投与する場合、尿量が増加することで急性の脱水、低ナトリウム血症、低カリウム血症が起こりやすくなるため注意が必要です。
また、腹水が大量に溜まると横隔膜が押し上げられて呼吸が抑制され、呼吸困難をきたしやすくなります。患者さんが息苦しさを訴えた場合は、セミファーラー位やファーラー位をとることで腹部の圧迫を軽減させます。さらに、腹水貯留時は腹部の皮膚が伸展し、損傷しやすい状態です。浮腫のときと同様に締め付けが弱い衣服を着用するなど、皮膚に過度な負担をかけないようにします。
掻痒感のケア
血中のビリルビン濃度が上昇すると皮膚の掻痒感が出現します。無意識に搔いてしまう場合には、手袋を着用したり爪を切るなどして、皮膚を傷つけないよう予防します。保湿を心がけ乾燥を防ぐほか、刺激の少ない衣類を着用することでも掻痒感を軽減できます。
掻痒感が強い場合は、軟膏や内服薬の使用も効果的です。軟膏は清潔な状態で使用します。清拭後など皮膚が乾燥してしまう前に保湿剤を塗布し、その後、軟膏を塗布します。
軟膏を使用しても掻痒感が増強する場合、内服薬が処方されることがありますが、症状が改善しない患者さんに漫然と使用し続けるのは避けなければなりません。服用後の患者さんの訴えや症状に注意し、改善がみられない場合には医師に診察を依頼します。
肝性脳症のケア
便秘は肝性脳症の誘因となるため、排便コントロールが大切です。下剤や軟便剤で1日1回、十分な量の便が出るよう調節します。肝性脳症により意識が混濁しているときは、点滴や尿道カテーテルの自己抜去、転倒の危険性が高くなります。頻回に訪室し、ベッドサイドまわりの環境を整備します。
食道・胃静脈瘤のケア
固い食事や素材の粗い食物は静脈瘤を破裂させる危険があります。また、便秘などで排便時に腹圧をかけることでも破裂しやすくなります。食事方法、排便管理、服薬管理、日常生活上の注意点(重いものをもたない、力まないなど)について十分な説明を行い、破裂を予防することが大切です。
食後の過ごし方の指導
非代償性肝硬変では肝血流量が減少するため、十分な酸素や栄養素の供給が受けられなくなります。臥位は立位と比べ重力の影響を受けにくく、肝血流量の減少を最小限に抑えることができます。そのため、食後30~60分は横になり、安静を保つようにします。
その他
肝硬変の患者さんでは、血小板減少や凝固能低下により出血傾向がみられます。採血や点滴の後は、必ず5分間圧迫して止血できているかを確認しましょう。
【引用文献】
1)日本消化器病学会 編:肝硬変診療ガイドライン2015 改定第2版,p.87.
2)日本消化器病学会 編:肝硬変診療ガイドライン2015 改定第2版,p.67.
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