腸閉塞とイレウスの違いは? 治療・看護のポイント
- 公開日: 2020/6/8
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1)腸閉塞とイレウスの区別
腸閉塞とは:腸管が機械的及び物理的に閉塞した状態です。例えば、異物や炎症、腫瘍などにより腸管が塞がれた状態です。
イレウスとは:腸管内腔の閉塞や腸管運動障害により、腸管内容の通過が障害された状態です。例えば、開腹手術などで腸管が麻痺して腸の腸蠕動運動が障害された状態です。
表1 腸閉塞とイレウス の原因
2)治療方法
(1)保存療法
保存療法は、早急な手術を要しないイレウスに対して行います。絶食とし、点滴やイレウス管など減圧チューブの挿入による加療が基本です。抗コリン薬やオピオイドなど麻痺性イレウスを引き起こす原因となる薬剤を使用している場合は、投与を中止します。
表2 麻痺性イレウスを起こす可能性のある薬剤
*麻痺性イレウスを起こす可能性のある薬剤を2種類以上使用すると相加的に麻痺性イレウスを起こす可能性がある
厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 麻痺性イレウスを元に作成
①薬物療法
目的:脱水の補正、疼痛コントロール
実施内容:腸管内に大量の消化液が貯留している場合は、等張性脱水、嘔吐が続く場合は、代謝性アルカローシスを起こしている可能性があります。補正は、血清カリウム値(4mEq/L超[4mmol/L])を維持するようにします。
②イレウス管の挿入
目的:保存的に腸管減圧・排液を図るため
挿入部位:イレウスチューブは胃管同様に経鼻的に挿入し、その先端はトライツ靱帯を越えて空腸以降に留置するのが基本です。チューブ先端のバルーンを蒸留水で膨らませることにより、腸管の蠕動運動に乗ってイレウスチューブの先端は受動的に深部まで挿入されます。閉塞部位により近い部位で、効果的な減圧や造影を行えるようになることがイレウスチューブの特徴です。
閉塞部位の近くにチューブが到達したら、蒸留水でバルーンを膨らませる
合併症:固定部(鼻翼)の潰瘍形成、腸管虚血
抜去の目安:排便・排ガスが生じ、排液量が500mL/日以下になれば抜去可能
(2)手術療法
保存療法でも症状が改善しない場合や血行障害のある絞扼性腸閉塞などに対して実施します。
閉塞性腸閉塞で、腫瘍が原因の場合は、消化管内の減圧を行ったうえで可能であれば腫瘍を腸管ごと切除し、その後残った腸管を吻合します。吻合できない場合は人工肛門を造設します。癒着が原因の場合は癒着部分をはがします。腸管の損傷が激しい場合は腸管を切除する必要があります。
絞扼性腸閉塞で血行障害を伴う場合は、血行を再開させるために腸管のねじれ部分や折れ曲がった部分を修正します。腸管が壊死の場合には腸管の切除・吻合を行います。
3)症状
症状 | |
---|---|
腸閉塞 | 腹部膨満感、腹痛、嘔気・嘔吐(典型的な症状)、排便の停止。腸蠕動音は金属音を聴取 |
イレウス | 腹部膨満感、嘔気・嘔吐、腸雑音の低下若しくは消失。腸蠕動音は減弱、腹痛はない場合もある |
絞扼性腸閉塞は、特に激しい腹痛が出現し、発熱の症状が出現することもあります。腹痛の程度は腸閉塞及びイレウスの種類によって異なります。絞扼性腸閉塞などの複雑性腸閉塞では、特に激しい腹痛(疝痛)が出現し、発熱の症状を呈することもあります。一方、麻痺性イレウスでは疝痛が起こることはあまりなく、軽度な腹痛が持続します。
4)アセスメント
患者さんの症状だけでなく、既往歴、服薬歴、検査データなども把握しておきましょう。また、開腹術後の患者さんの看護にあたる場合、術後早期は腸管機能が低下しているため症状が表れにくく、麻痺性イレウスを発見しにくい状態であることを知っておく必要があります。
①検査
・血液・生化学検査 ⇒ 白血球、CRP、LDH、CPKの上昇
・血液細菌培養、血漿プロカルシトニン検査 ⇒ バクテリアルトランスロケーションや敗血症の評価
・腹部単純X線検査 ⇒ 腸管の拡張とニボーの出現が腸閉塞の典型的な所見
・腹部(造影)CT ⇒ イレウスの原因を把握
②バイタルサイン、腹部所見、消化器症状の観察
・バイタルサイン ⇒ 脱水、炎症、ショックの徴候(体温、血圧、脈拍、SpO2、四肢冷感など)
・消化器症状 ⇒ 嘔気・嘔吐の有無と程度、排便・排ガスの有無と程度
・腹部所見 ⇒ 腹部膨満、打診時の鼓音、圧痛、腸蠕動音(亢進・金属音)
・既往歴・手術歴 ⇒ 消化器疾患や開腹術の既往
・服薬歴 ⇒ イレウスの原因となり得る薬剤の使用
・開腹術後の場合、術式・術中記録
5)看護の視点
(1)イレウス管挿入時
X線透視下で挿入するため、医師・看護師はX線防護服を着用して被曝を避けます。患者さんに適宜声かけを行い、不安の軽減に努めながら介助にあたります。
(2)イレウス管挿入中の看護
①全身管理
・排便、排ガスの観察:排便・排ガスが生じ、排液量が500mL/日以下になれば抜去可能です。
・水分出納:排液量が急激に増加する場合があるため、in-outバランスに注意します。
・症状の確認:嘔気・嘔吐の有無、口渇、口唇・舌の乾燥、全身倦怠感、脱力感、腹部症状の有無、腹痛の有無、輸液量、尿量、採血データのチェック、X線画像の観察を行います。
・感染管理:イレウスチューブ挿入中は、特に感染予防のため、口腔内の清潔を図る必要があります。
②イレウス管の管理
・排液の管理:自然排液または器械による間欠的持続吸引なのかを確認し、点滴台などに装着します。器械による間欠的持続吸引であれば、吸引圧が指示通りであるか経時的に確認します。また誤って吸引圧が変わらないように、ロックが設定されているか確認を行います。
・イレウスチューブの固定:歩行できる患者さんの場合は、イレウスチューブを衣服へ固定する位置の調整、排液バックが挿入部より下位になるよう点滴台にかける、持続吸引器に台車をつける、または点滴台に装着するなどし、歩行できるように配慮します。
・シャワー浴時の管理:三方活栓をオフ方向に固定し、排液バッグを外します。イレウスチューブはキャップをつけて束ね、濡れないようにビニール袋に入れて管理します。シャワー時は固定が剥がれないように注意しましょう。シャワー浴後は、必ず鼻翼などの固定部を再度確認します。
③固定部のケア
<鼻翼固定がある場合>
鼻翼がイレウスチューブで圧迫されないように注意し、必要時は皮膚保護材を使用します。固定用テープは1日1回貼り替え、イレウスチューブの固定位置の確認や潰瘍が形成されていないか皮膚状態の観察を行います。固定部(鼻翼)に皮脂がたまると固定用テープが剥がれやすくなるため、注意が必要です。
<鼻翼固定がない場合>
消化管の蠕動運動が回復すると、イレウスチューブが進み、鼻翼の固定が引っ張られるようになります。この場合は鼻翼固定を外し、イレウスチューブがさらに深部へ移動できるようにします。
頬に固定する場合、イレウスチューブの進行の妨げにならないように、頬から鼻にかけてイレウスチューブのたるみを作り固定します。チューブの長さは経時的に確認します。
参考文献
・厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 麻痺性イレウス(2020年6月3日閲覧)https://www.pmda.go.jp/files/000145979.pdf
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