シャント術(水頭症の治療)の看護|術前・術後の観察項目・注意点、合併症
- 公開日: 2021/10/19
シャント術とは
シャント術は、髄液還流障害による水頭症に対して行われます。
ここで、水頭症について理解しておきましょう。水頭症とは、くも膜下出血や脳内出血などの脳血管疾患、脳腫瘍、頭部外傷、特発性(原因不明)、先天奇形などにより髄液の循環が障害され、髄液が脳室やくも膜下に過剰に貯留した状態をいいます。特定の疾患を指す用語ではなく、髄液循環の障害に基づく一連の病態を総称したものです。
水頭症は、交通性水頭症と非交通性水頭症の大きく2つに分けられます(図、表1)。
図 水頭症の分類
表1 交通性水頭症と非交通性水頭症
脳表のくも膜下腔に閉塞を認め、全脳室が均一に拡大するのが交通性水頭症です。交通性水頭症の1つに、ゆっくりと髄液が増加し、脳圧が正常範囲内で経過する正常圧水頭症があり、高齢者で多く発症します。正常圧水頭症では、脳室の拡大が慢性的に起こり、特に脳の前頭葉が障害されることにより、歩行障害、認知症、尿失禁の三徴と呼ばれる神経症状が出現します。
一方、脳室内やその出口に閉塞が生じることで、髄液の循環が障害されるのが非交通性水頭症です。閉塞部より上部の脳室が拡大し、小児によくみられます。
交通性水頭症、非交通性水頭症のいずれも、急激に進行した場合は激しい頭痛や嘔吐、Cushing現象、意識レベルの低下、痙攣などの頭蓋内圧亢進が起こり、脳ヘルニアをきたすこともあります。
シャント術は、脳室やくも膜下腔と、頭蓋内外の体腔(腹腔など)をシリコン製の短絡管(シャントチューブ)で外科的につなぎ、過剰に貯留した髄液を体腔に排出させます。これにより、水頭症の病態進行を抑制し、脳機能の回復・維持につなげます。
シャント術の種類
シャント術は、主に脳室腹腔シャント(V-Pシャント)、脳室心房シャント(V-Aシャント)、腰椎くも膜下腔腹腔シャント(L-Pシャント)があります(表2)。
表2 主なシャント術の種類
シャント術の看護(術前・術後の観察項目、注意点)
術前
【観察項目】 ・バイタルサイン ・意識レベル ・神経学的所見 ・頭蓋内圧亢進症状(激しい頭痛、悪心・嘔吐、Cushing現象、意識レベルの低下、痙攣) ・歩行状態 ・尿失禁の有無【注意点】
術前は、バイタルサインや神経学的所見に加え、頭蓋内圧亢進症状、三徴(歩行障害、認知症、尿失禁)といった水頭症の症状にも注意して観察します。
また、患者さんは意識レベルが低下し、状況の理解や言語的コミュニケーションが困難な場合があります。患者さんの状況に合わせた説明を行い、安全に過ごせるよう環境を整備することが大変重要です。
シャント術が実施されるまでの一時的な治療として、スパイナルドレーン(腰椎ドレーン)が留置されることもあります。意識レベルの低下や歩行障害がみられる際は、安全に手術を迎えられるよう、チューブ類の自己抜去や転倒転落の予防に努めます。
術後
【観察項目】 ・バイタルサイン ・意識レベル ・神経学的所見 ・頭蓋内圧亢進症状(激しい頭痛、悪心・嘔吐、Cushing現象、意識レベルの低下、痙攣) ・創部(出血、腫脹、疼痛) ・せん妄の有無【注意点】
シャント術後は、創部感染や髄膜炎などの感染、シャント機能不全に伴う水頭症の再発、髄液過剰流出による低髄圧症候群、硬膜下水腫、硬膜下血腫に留意し、観察を行っていきます。
術直後はセルフケアが困難になります。患者さんが安楽に過ごせるよう、疼痛コントロールに加え、ベッド周囲の環境整備や点滴ルートを整理します。また、いつでも看護師が呼べるようナースコールの位置や使い方について説明しましょう。
シャント手術の合併症とケア
感染症
術後、シャントバルブ*直上の皮膚の化膿や壊死などから、髄膜炎や脳室炎を発症し、シャントの抜去が必要になる場合があります。特に、V-Pシャントでは腹膜炎、V-Aシャントでは心内膜炎といった重篤な状態を引き起こす可能性が考えられます。感染に伴い、高熱、嘔吐、下痢、痙攣発作、意識障害などを生じることもあるため、注意して観察します。
*髄液の量、流れの方向、圧力を調節する装置
シャント機能不全
シャントチューブの閉塞、脳室や腹腔からのチューブ先端の脱出、チューブの屈曲、捻転などにより、シャント機能不全が生じることがあります。
シャント機能不全が起こると、頭痛や嘔吐、Cushing現象、意識レベルの低下、痙攣などの頭蓋内圧亢進症状を呈します。頭部単純X線撮影やシャント造影により機能不全が明らかになれば、シャントシステムを交換します。
低髄圧症候群
頭部の位置が高くなると髄液圧が低下し、悪心・嘔吐、頭痛といった低髄圧症候群が生じるおそれがあります。座位や立位時に症状が出現した場合は、仰臥位になることで改善が期待できます。
急激に脳室内の髄液が流出すると脳室が虚脱し、硬膜と脳組織との隙間が開き、硬膜下水腫や硬膜下血種を引き起こします。術後の離床は、安静度を医師に確認しつつ、症状に注意しながら進めていきます。
日常生活上の注意点
V-Pシャント、L-Pシャントでは、便秘や肥満により腹圧が上昇し、髄液の流れが悪くなるおそれがあることから、食生活や排便コントロールに関する指導を行っていきます。
シャントの中でも圧可変式バルブシステムを使用している場合、バルブの設定圧は磁気を発する器具を用いて調整します。磁気枕や磁気ネックレスを使用したり、冷蔵庫や電子レンジなど磁気を発するものに接触すると設定圧に影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です(表3)。
表3 日常生活上で使用に注意が必要なもの使用を避けたほうがよいもの | バルブ留置部位に接触させてはいけないもの | バルブ留置部位に接触しても影響がないもの |
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・磁気枕 ・磁気マットレス ・磁気ネックレス ・磁気ブレスレット ・磁気治療器 ・磁気腹巻 ・磁気サポーター | ・冷蔵庫や電子レンジのドア ・ヘッドフォン/イヤフォン ・タブレット端末 ・携帯ラジオ、テレビ、ステレオ、携帯電話(スマートフォン)のスピーカー部分 | ・洗濯機 ・掃除機 ・ヘアドライヤー ・コピー機 |
シャント機能不全が生じると、頭蓋内圧亢進症状のほか、歩行障害、認知症、尿失禁の三徴を引き起こすことがあります。これらの症状が出現した場合は、すぐに医療機関を受診するよう伝えます。認知症の患者さんの場合、本人が気づくことに限界があるため、家族にもシャント機能不全によって起こる症状を説明し、協力を得ることが大切です。