脳血管内治療(血管回収療法)の看護|術前術後の観察項目、注意点、合併症
- 公開日: 2021/12/3
脳血管内治療とは
脳血管内治療とは、血管造影のもと、大腿動脈や上腕動脈などからカテーテルを挿入し、血管内から病変を治療する方法です。
脳血管内治療には、狭窄あるいは閉塞した血管を拡張させる血行再建術と、出血の原因となる血管奇形や動脈瘤をコイルや液体閉塞物質を用いて閉塞させる塞栓術があります(表1)。
それぞれ治療方法が細分化されており、病態により選択される治療方法は異なります。ここでは脳血管内治療のうち、主に急性期脳梗塞に対して行われる血栓回収療法について説明します。
表1 脳血管内治療の種類治療方法 | 主な適応 |
---|---|
血行再建術(血栓回収療法、局所血栓溶解療法、ステント留置術、血管拡張術) | ・頭部主幹動脈狭窄 ・頭蓋内脳血管狭窄 ・急性脳梗塞 |
塞栓術 | ・脳動脈瘤(破裂、未破裂) ・脳動脈奇形 ・硬膜動静脈瘻 |
峰松一夫 監:国循SCU・NCUマニュアル.メディカ出版,2014,p.135.を参考に作成
脳血管内治療における血栓回収療法の適応とリスク
適応
『脳卒中治療ガイドライン2021』では、発症早期の脳梗塞で表2のすべてを満たす症例に対し、血栓溶解薬のアルテプラーゼを用いた静注血栓溶解療法(rt-PA静注療法)を含む内科治療に追加して、発症6時間以内にステント型脳血栓回収機器(ステントリトリーバー)または血栓吸引カテーテルを用いた機械的血栓回収療法を開始することが勧められる1)としています(図)。
また、発症から6時間を超えた内頸動脈または中大脳動脈M1部の急性閉塞が原因と考えられる脳梗塞では、神経徴候と画像診断に基づく治療的判定を行い、発症から16時間以内に機械的血栓回収療法を開始することとされています1)。
表2 適応日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン 編:脳卒中治療ガイドライン2021.協和企画,2021,p.60-3.より引用
図 ステントリトリーバーを用いた血栓回収療法
リスク
脳血管内治療における血栓回収療法では、次のような合併症を起こすリスクがあります。
・頭蓋内出血 ・脳血栓症 ・血管攣縮 ・カテーテル刺入部からの出血または皮下出血 ・造影剤アレルギー脳血管内治療における血栓回収療法の看護(術前・術後の観察項目、注意点)
術前
急性期脳梗塞は、発症数時間以内に適切な治療を行うことが重要です。治療の遅れは予後にも影響を及ぼすため、看護師には迅速な対応が求められます。
一刻も早く治療が開始できるよう、医師やその他の看護師、放射線技師、臨床検査技師、薬剤師など多職種と連携をとりながら、血管造影室への出棟に向けた準備(末梢静脈路確保、足背・後腓骨動脈の触知確認、剃毛、更衣、膀胱留置カテーテルの挿入など)を進めていきます。
患者さんは急な発症に加え、緊急治療が行われることに大きな不安を抱きます。患者さんの表情や全身状態から発せられるサインを瞬時に読み取り、不安や緊張を緩和しつつ、状態把握(バイタルサイン、神経徴候の観察)に努めます。患者さんの突然の発症や治療に際しては、家族の不安も強くなります。家族のアセスメントも行い、状況に合わせた援助をしていくことが大切です。
術後
rt-PA静注療法を併用している場合は、静注血栓溶解療法後の管理指針 (静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針 第三版,p.30を参照)と合わせて、全身状態の観察と評価を行っていきます。
バイタルサイン測定、神経学的所見の観察
バイタルサイン測定と神経学的所見の評価を行い、術後合併症の早期発見に努めます。
血栓回収療法によって症状の改善が期待できますが、リスクとして頭蓋内出血や脳梗塞の拡大が起こる可能性があります。バイタルサインの測定に加え、意識レベル、瞳孔所見、四肢の運動麻痺や異常肢位、構音障害や失語の有無について、術前と術後で比較します。
頻回な観察とアセスメントを繰り返し、状態の変化を見逃さないようにします。症状の悪化が認められた場合は直ちに医師へ報告し、想定される治療や検査の準備を先取りして行います。
カテーテル挿入部位の観察
カテーテル挿入の際に穿刺するシース*1は口径が大きく、さらにrt-PA静注療法の併用や抗凝固薬の使用に伴い、易出血状態となります。出血や皮下出血を認めた場合は、穿刺部が拡大していないかマーキングなどをして経時的に観察し、必要に応じて医師へ報告します。
カテーテル挿入部の出血・皮下出血の有無に加え、末梢の循環不全による冷感、チアノーゼ、しびれの有無、足背動脈の触知の左右差の確認も行い、カテーテル挿入に伴う合併症が生じていないかアセスメントしましょう。
*1 カテーテルなどデバイスの挿入・交換をしやすくするために、血管内に留置される管のこと。「シースイントロデューサー」の略
安静に対する援助
治療後は、穿刺部からの出血予防のために安静が必要です。安静が保てない場合、カテーテル挿入部位からの出血リスクが高くなります。安静時間は穿刺部位によって異なり、大腿動脈から穿刺した場合や、カテーテル挿入の際に穿刺するシースが挿入されたままの場合は、安静時間が長くなることがあります。
安静が強いられるなか、いかにして患者さんに安楽に過ごしてもらうか考え、実践することは重要な看護の一つです。
患者さんは、治療後も疾患に伴い意識レベルが低下し、言語的なコミュニケーションをとることが難しい場合があります。身体的、精神的な安楽を保てるよう、安静の保持を見越した体圧分散マットの選択、体位変換、マッサージ、罨法、鎮痛薬、コミュニケーション技法など、さまざまな看護技術を駆使しながら、患者さんに合わせた援助を行うことが大切です。
脳血管内治療における血栓回収療法の合併症とケア
頭蓋内出血
血栓回収療法時に、ガイドワイヤーカテーテル*2で血管を穿孔すると、くも膜下出血や脳出血を引き起こします。また、rt-PA静注療法や抗凝固薬の使用により血液の線溶系が亢進し、出血リスクが高くなります。バイタルサイン測定と神経学的所見の観察を経時的に行い、バイタルサインの変化、意識レベルの低下、麻痺の悪化など、異常を見逃さないようにします。
*2 治療用カテーテルの血管内への挿入を補助することを目的に使用するカテーテル
脳血栓症
カテーテル治療に伴う血管壁の障害や刺激で形成された血栓により、脳血管が閉塞することがあります。バイタルサイン測定と神経学的所見の観察を経時的に行い、患者さんの変化に気づけるようにします。会話が成立しない、時間・空間認識が曖昧、傾眠傾向を認めるといった場合は、意識レベルの低下が示唆され、脳血管の閉塞が疑われます。対応の遅れは予後の悪化につながるため、症状がみられた際はすぐに医師に報告します。
カテーテル挿入部位からの出血・皮下出血
rt-PA静注療法や抗凝固薬の使用、カテーテル挿入の際に穿刺するシースの口径が大きいことなどから、術後の患者さんは出血リスクが高い状態です。前述したように、出血や皮下出血がみられた際は、穿刺部に拡大がないか経時的に観察します。患者さんには、穿刺部に痛みや違和感があるなど、気になる症状があれば、すぐ看護師に伝えるよう指導します。
血管攣縮
ガイディングカテーテル*3は固く丈夫なため、その刺激により頸部の血管が攣縮を起こすことがあります。血管攣縮では、頭痛、発熱、意識レベルの低下、片麻痺、失語の出現に注意します。頭部CT検査や頭部MRI検査で攣縮を認めた場合は、血管拡張薬による治療が検討されます。
*3 治療用カテーテルを病変部まで導くことを目的に使用するカテーテル
造影剤アレルギー
造影剤投与中に、くしゃみ、乾性咳嗽、悪心・嘔吐、掻痒感、発赤、呼吸困難感、SpO2低下といった症状がみられた場合は、造影剤アレルギーが考えられます。まれにショックなどの重篤な副作用が生じることもあります。造影剤アレルギーが疑われる場合は、アドレナリン投与、酸素投与、輸液などが行われるため、速やかに対応できるよう準備します。
退院後の注意点
自覚症状の変化(しゃべりにくさ、手足の動かしにくさ、目の見えにくさなど)や、カテーテル挿入部に異常がみられた際は、すぐに受診するよう説明します。また、退院後は、抗血小板薬の服用などが必要になります。入院時から自己内服の評価を行い、患者さんの状況によっては、家族への指導や社会資源の活用も検討していきます。