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【連載】麻酔にかかわる看護技術

麻酔器の構造を知ろう|看護師が知っておきたい麻酔器の仕組みと扱い方

  • 公開日: 2022/1/1

はじめに

 普段から手術室で見ている麻酔器ですが、その構造は知っていますか? 手術室の看護師も、時には麻酔器の立ち上げ、呼吸回路の組み立てやリークチェックなどを行う機会はあるかもしれません。麻酔器の構造って、何だか難しそうと感じるかもしれませんが、基本をおさえればより身近なものに感じられて、さらに一歩外回り看護の幅も広がるはずです。

麻酔器
写真:麻酔器と周辺機器の例

麻酔器とは

 酸素、空気に笑気や揮発性吸入麻酔薬(必要時)を加えて患者さんに投与可能で、安定した呼吸管理が行える器械です。

麻酔器の構造

 麻酔器は大きく2つの部分から構成され、蛇管や呼吸バッグなど患者さんに接続してガスを投与する「呼吸回路」部分と、中央配管やボンベのガスを減圧して気化器の麻酔薬と混合して新鮮ガス流入口から呼吸回路に届ける「ガス供給」部分(麻酔器本体)に分かれます。集中治療室などにある人工呼吸器と違う最大の特徴は、患者さんの呼気ガスを再利用する仕組み(後述)です。

麻酔器の構造

ガス供給部分(麻酔器本体)

中央配管

 酸素の供給圧は約4気圧(0.4MPa、大気圧の4倍)で、笑気(亜酸化窒素)や空気よりも0.3気圧ほど高くなっています。これは、麻酔器で不具合が起こっても、圧の高い酸素が優先的に供給されるための仕組みです。配管の酸素は緑色、空気は黄色、笑気は青色です。安全のためピンインデックス式となっていて別のガス配管には繋がらないようになっています。

中央ガス配管

ガスボンベ

 中央配管の酸素カラーは緑色ですが、酸素ボンベは高圧ガス保安法によって黒色ですので注意しましょう。充填時の酸素ボンベは約150気圧(15MPa)になります。ちなみに笑気と空気ボンベは灰色です。

減圧弁

 麻酔器に繋がった中央配管やボンベからのガスの圧力はそれぞれ異なります。麻酔器内の減圧弁を通して一定の圧力になるように低下させて、呼吸回路に供給します。麻酔器内にあるため外側から減圧弁を確認することはできません。

新鮮ガス流量計(フローメーター)

 酸素、空気、笑気のガス分時流量(L/min)が目視できます。ガラス管に浮子がついた流量計ですが、最近の麻酔器ではデジタル表示も多く見られます。ちなみに再呼吸される前、新たに呼吸回路に注がれるガスなので新鮮ガスと言います。ガス流量の調節ノブ(電子化機種では異なります)では、酸素のノブは酸素や笑気のならびで最右端もしくは最下端に位置して、他のガスよりノブのサイズが大きく、ぱっと手が届きやすい設計になっています。吸入酸素濃度は空気と酸素流量の割合で設定されます。例えば、空気3L/分&酸素3L/分では酸素60%、空気3L/分&酸素1L/分で酸素40%です。混合したガスの総流量はトータルフロー(Total Flow)と呼ばれます。

酸素フラッシュ

 配管やボンベからの供給された酸素を、流量計や気化器を経由せずに直接呼吸回路に送る、専用で手動でプッシュする装置です。ボタンを押している間、毎分35〜75Lの酸素が流れ、緊急時に呼吸バッグを膨らませたいときなどに使用されます。

気化器

 セボフルラン、デスフルラン、イソフルランなど麻酔薬ごとに専用の気化器が存在します。デスフルランは常温で沸騰し、安定して投与するために加温加圧が必要になるため、電源コンセント付きの気化器なのが特徴です。麻酔薬の吸入濃度の調節は、ダイアルをひねるタイプと電子パネルのタッチ画面のものに分かれます。気化器への薬液注入口と注入用アダプターは麻酔薬ごとに異なる形状で、誤って別の麻酔薬の気化器へ注入できない構造になっています。

余剰ガス排出装置

 手術室内の医療者が麻酔薬に曝露されないよう、患者呼吸回路内の余ったガスを手術室外へ排出する装置です。

余剰ガス排出装置

付属の酸素流量計

 フェイスマスクやネーザルカニューラなどを酸素投与用チューブが接続できる麻酔器の呼吸回路とは独立した酸素流量計があります。

酸素流量計

電子化された新鮮ガス流量や麻酔薬濃度設定画面

低酸素ガス供給を防止する仕組み

 酸素供給圧が低下した場合、他のガス供給を停止する、警報が鳴る仕組みが備わっています。また笑気使用時、酸素濃度が30%以下になると笑気の流量を自動的に低下させる仕組みもあります。

患者呼吸回路(蛇管、呼吸バッグ、二酸化炭素吸収装置、APL弁など)

図 麻酔器の呼吸回路
麻酔器の呼吸回路

注意:手動換気と器械換気を切替スイッチは、レバータイプとタッチパネルタイプがあり機種により異なります。

ポイント! 麻酔器の回路は、半閉鎖循環回路?
麻酔薬をリサイクルして効率的に使用する、また大気汚染への影響を減らすために呼吸回路内のガスを循環させて麻酔薬使用量を少なくするのが麻酔器に特徴的な仕組みです。究極のリサイクル法は閉鎖された呼吸回路内でガスを回し続ける方法です。麻酔薬は患者さんの体内でほとんど代謝されないため、呼気で吐かれたガスには相当量の麻酔薬が残存しています。また吸入麻酔薬はフッ素化合物で、大気中に放出されると温室効果ガスやオゾン層破壊などの悪影響につながります。呼気ガスには二酸化炭素が含まれますので、次に送りこむ吸気ガスに含まれないよう二酸化炭素吸収剤で除去する必要があります。さらに、回路内の酸素は患者さんの肺から取り込まれ消費されていきますし、麻酔薬も徐々に利用されていくため、新鮮ガス(酸素、空気、麻酔薬などの混合ガス)をある程度回路に送り込みながらガス循環させ換気を行う必要があるのです。これが完全な閉鎖循環ではなく、半閉鎖循環と呼ばれる理由です。

さらにアドバンス! 新鮮ガスを減らせば麻酔薬を節約できる?
吸入麻酔薬を含んだ新鮮ガス流量を減らせば、呼吸回路から余剰ガスと排出されるガス量が減り、再呼吸されるガス量が増えますので結果的に麻酔薬の使用量を減らせます。注意すべき点は、患者さんは酸素と吸入麻酔薬を一定量消費し続けますので、実際に患者さんに送られる吸入麻酔薬と酸素の濃度が機器の設定値より低くなることがある点です。特に新鮮ガスが回路に送り込まれる量が少ないとき(2L/分以下など)に問題になってきます。リサイクル量が増えれば、二酸化炭素吸収剤の消耗も早くなります。ちなみに新鮮ガス流量が1L/分以下で管理することを低流量麻酔と言います。デスフルラン使用時などガス流量を下げて麻酔管理する場合、吸入麻酔薬濃度と酸素濃度の測定値(設定値ではない)をしっかりモニターしましょう。

呼気弁・吸気弁

 ガスの流れが一方通行になるために必要な弁です。吸気弁は吸気時に回路から流れるガスにより開いてガスを患者さん側へ供給し、呼気時には呼気弁が開き、吸気弁が閉じて呼吸回路内でガスが逆流するのを防ぎます。手動換気でも機械換気でも吸気と呼気で弁の動きが確認できます。

酸素濃度計

 呼吸回路内の酸素濃度を測定する装置で、始業点検時に校正します。麻酔器の内側に内蔵されている機種もあります。

二酸化炭素吸収装置(カニスタ)

 二酸化炭素を吸収剤を入れておく容器(缶)のことです。最近では吸収剤入りのディスポーザブル缶も使用されています。吸収剤は二酸化炭素と反応して熱と水蒸気を放出します。pH感受性の色素が変化することにより吸収剤の消耗がわかり、白や緑色から紫色に徐々に変色していきます。内容量の25〜50%が変色していたり、カプノメータで二酸化炭素の再呼吸を認めるようになったら吸収剤を交換しましょう。

二酸化炭素吸収剤カニスタ

APL弁、またはポップオフ弁(APL: adjustable pressure limiting、調節式圧力制御弁)

 手動換気時に回路内に過剰な圧がかかるのを避けて、余剰なガスを回路外に逃がして肺への圧損傷を防止するため回路内圧を調整する弁です。呼吸バッグが過膨張し過ぎないように手動でダイヤルをひねって圧設定をします。例えば20cmH2Oの場合、回路内に20cmH2O以上の圧力がかかると余剰ガスとして漏れ出るしくみで、回路内圧の上限値を設定するイメージです。マスク換気時、高い気道内圧(20cmH2O以上:APL弁設定値ではなく実際に気道にかかる圧)でガスを押し込むと肺だけでなく食道から胃にもガスが入り誤嚥へとつながる可能性があるため、回路内圧を上げすぎないようにマスク換気を行います。

 また自発呼吸がある場合、患者さんの呼気時に抵抗がないようにAPL弁を開放(患者さんが息を吐くときに設定以上の圧をかけないと吐けなくなるため)しておく必要があります。

APL弁

その他

 最近の麻酔器は、高度な呼吸管理が可能なもの、カプノメータやマルチガスモニター(吸気・呼気の酸素や麻酔薬濃度が測定可能)が内蔵された機種など見た目もさまざまですが基本的な構造は大きく変わりません。

おわりに

 次回からは始業点検や麻酔器の使用方法を解説していきます。麻酔器の構造を知ることで、一歩進んだ外回り看護、緊急時の患者さん対応、麻酔科医のサポートなど少しでも臨床現場での役に立てば嬉しく思います。


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