白内障の看護|分類、治療、術前・術後のケア(問診・観察、点眼指導、点眼薬の管理)、生活上の注意点など
- 公開日: 2024/3/20
白内障とは
白内障とは、眼球内の水晶体に混濁が生じる疾患です。水晶体を構成するタンパク質が何らかの原因で変質し、進行すると無色透明の水晶体が白色や黄白色に濁っていきます。水晶体が混濁すると光の散乱や透過性の低下が起こり、視機能が低下します(図1)。
図1 正常な眼球と白内障の眼球
白内障の分類
白内障はその原因により、先天性白内障と後天性白内障に大別され、中でも後天性白内障である加齢白内障がほとんどを占めます(表1)。ほかに、混濁部位による分類(皮質白内障、核白内障、後嚢下白内障、前嚢下白内障)、混濁の程度による分類(初発白内障、未熟白内障、成熟白内障、過熟白内障)があり、白内障の状態や進行の程度を評価するのに用いられます。
表1 原因による白内障の分類
分類 | 主な原因 | |
---|---|---|
先天性白内障 | ・遺伝性 | |
・母子感染(風疹やトキソプラズマなどによる子宮内感染) | ||
後天性白内障 | 加齢白内障 | ・加齢 |
併発白内障 | ・他の眼疾患(ぶどう膜炎、網膜剥離など) | |
全身疾患に伴う白内障 | ・アトピー(アトピー性白内障、アトピー性皮膚炎でリスクが高い) ・糖尿病 | |
外傷性白内障 | ・穿孔性眼外傷 ・眼球打撲 | |
治療による白内障 | ・薬剤(副腎皮質ステロイド薬) ・放射線治療 |
白内障の症状
初期の段階では、自覚症状を認めないケースがほとんどですが、進行するにつれ、ぼんやりと見えにくくなる視力低下、かすんで見える霧視、まぶしく見える羞明、物がだぶって見える複視などの症状がみられるようになります。
白内障の治療
白内障の治療には、薬物治療と手術療法があります。薬物治療では点眼薬を投与し、水晶体に混濁が生じるのを抑えますが、すでに混濁した水晶体を元に戻すことはできません。
進行した白内障に対しては、超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(PEA+IOL挿入術)が行われるのが一般的です。PEA+IOL挿入術は、超音波で水晶体を破砕して吸い出し、その後、眼内レンズ(人工の水晶体)を挿入する方法で、基本的に局所麻酔で行われます(図2)。
眼内レンズには、遠方・中間・近方のうち、焦点が合う距離が1点の単焦点眼内レンズと、2点以上の距離に焦点が合う多焦点眼内レンズがあり、患者さんの希望に応じて選択されます(表2)。風景など遠くをしっかりと見たい、本や新聞など近いものが見やすいほうがいいといった患者さんのニーズを確認し、それぞれのレンズの特徴や費用について、よく説明することが必要です。特に、多焦点眼内レンズは保険適用外で高額になるため、患者さんの経済的負担にも配慮が求められます。
なお、手術後に見たい距離に合わせて、眼鏡やコンタクトレンズで矯正することも可能です(例:遠方に焦点を合わせた眼内レンズを挿入した場合は、近くを見るための眼鏡を使うなど)。
図2 白内障手術のイメージ
表2 単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズ
単焦点眼内レンズ | 遠方・中間・近方のうち、1つの距離に焦点が合うように調節されている |
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多焦点眼内レンズ | 遠方・中間・近方のうち、2点以上の距離に焦点が合うように調節されている |
術前のケア
問診・観察
白内障手術を受ける場合、当院では外来での日帰り手術、もしくは1泊2日(入院当日に手術)か2泊3日(入院翌日に手術)の入院で行います。入院期間が短いため、入院時の問診・観察により、認知機能やADL、家族構成をしっかりとアセスメントし、点眼薬の適正使用が可能か、術後の介助は必要かなどを確認します(表3)。
表3 問診・観察のポイント
認知機能 | 患者さん自身で点眼や点眼薬の管理が可能かどうかを確認する |
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ADL | 術後から翌日まで、手術したほうの眼は眼帯で保護し視界が制限されるため、現在のADLをアセスメントし、術後の介助の必要性の有無を確認する |
家族構成 | 自己点眼や点眼薬の管理が難しい場合、家族による介助が可能か確認する |
点眼指導
当院では、術前の点眼(散瞳薬・抗菌薬)について説明するときに、点眼指導を行っています。
点眼は簡単にできると思いがちですが、高齢者では認知機能に問題がなくても、視力の低下や手指の巧緻性の低下などさまざまな理由から、点眼操作が困難になります。このことを念頭に置き、指導を行うようにしましょう。患者さん自身で点眼ができない場合、入院中は看護師が行いますが、退院後も点眼が必要になるため、家族を含めて点眼指導を行います。
点眼指導では、感染予防、患者さんに合った点眼方法の指導、副作用の予防が主なポイントになります。
感染予防
点眼指導で最も重要なことは、「清潔に点眼を行うこと」です。特に術後は、眼内炎などの感染症を予防する観点からも、点眼前の手洗い、点眼前後の眼周囲の清拭を徹底するように指導します。点眼薬への微生物の混入を防ぐために、点眼容器のノズルが睫毛や眼瞼、眼表面に接触しないように指導することも大切なポイントです。
点眼方法の指導
点眼指導では、正しい点眼方法を説明しながら、患者さんに実際に点眼操作をしてもらいます。手技を確認したうえで、患者さんに合った点眼方法を指導していきます。
【正しい点眼方法】
①点眼前に、手を流水と石鹸でよく洗います。または、手指消毒剤で手を消毒します。
②清浄綿(非アルコール性)で、眼の周囲を眼頭から眼尻に向かってやさしく拭きます。
③点眼薬のキャップを外し、上向きに置きます。
④顔を真上に向けます。座位で顔を上に向けるのが難しい場合は、仰臥位になります。
⑤利き手で点眼容器をもち、もう片方の手で下眼瞼を軽く引き、点眼します。このとき、ノズルが睫毛や眼瞼、眼表面に触れないように、点眼容器を眼から離します(図3)。
図3 点眼の仕方
点眼容器をもつ手が安定せず、点眼がうまくいかない場合は、げんこつ法や点眼補助具の使用を検討します(図4、図5)。げんこつ法では、下眼瞼が下に引きやすくなり、眼と離れたところに点眼容器が固定されるため、ノズルが睫毛や眼瞼に触れずに点眼できます。
図4 げんこつ法
図5 点眼補助具の例
⑥点眼後は瞬きをしないようにして、眼を閉じます。
⑦あふれた薬液は、清浄綿の拭く面を変えて拭き取ります。
⑧眼を閉じたまま、1~5分間、涙嚢部を軽く指先で押さえます(薬液を浸透させるため)。ただし、術後は涙嚢部の圧迫が術創に影響することがあるため、眼を閉じるだけにします。
※2本以上を点眼する場合は、5分間あけて点眼をする
副作用の予防
1滴で確実に点眼することが理想ですが、眼周囲に薬液を滴下してしまうケースが多くみられます。その場合、最終的に点眼できればよいこと、慣れていくうちにうまく点眼ができるようになることを伝えます。ただし、点眼薬の副作用(掻痒や発疹などの皮膚症状)を予防するために、点眼後は眼の周りについた薬液を清浄綿で拭き取るように指導します。
点眼薬の管理
点眼薬は、抗菌薬や抗炎症薬など複数処方されます。点眼薬によって、点眼する時間帯や順番が決まっているため、点眼薬の管理とその指導も重要です。
点眼薬の管理では、点眼表を活用するとよいでしょう(図6)。当院では、各点眼薬の写真と投与時間にキャップと同じ色のマークを記載した点眼表を作成し、マークの上に点眼薬を置いて管理するように指導しています。
両眼を別日程で手術するケースでは、右眼と左眼で点眼薬が異なることがありますが、後から処方された点眼薬に輪ゴムを巻くなど、患者さんが区別しやすいように工夫します。また、右眼と左眼で同じ種類の点眼薬を使用する場合であっても、感染予防の観点からそれぞれ点眼薬が処方されるため、いずれか一方の点眼薬に輪ゴムを巻いて、間違えて使用するのを防ぎます。
同じ時間帯に複数の点眼薬を使用するときは、水溶性→混濁性→ゲル化→油性→軟膏の順に点眼することが基本になります。その場合、仕切りのある箱をつくり、点眼する順に点眼薬を並べて管理する方法もあります。
大切なのは、個々の患者さん、もしくは介助する家族に応じて、管理しやすい方法をともに考え、退院後も継続して管理できるように支援していくことです。
図6 点眼表の例
散瞳薬点眼後の注意点
白内障手術では、術前に散瞳薬を点眼します。散瞳薬の点眼後は瞳孔が開いた状態になり、眼に入る光量が多くなるため、非常にまぶしく感じ、視界が悪くなることを患者さんに説明します。転倒・転落に注意し、ADLが低下していて介助が必要と判断した患者さんには、トイレなどの移動時にはナースコールを押してもらうように伝えます。
術後のケア
ADLの評価
術後は片眼を眼帯で保護し、視界が狭くなった状態で病棟に帰室するため、転倒・転落には十分に注意します。帰室の際は、車椅子からベッドへ移動するときの様子や歩行状況などからADLを改めて評価するとともに、眼帯を装着した状態での介助の必要度を判断します。当院では、ベッドサイドに必要な介助を示した札を掲示し、スタッフ間で共有しています(図7)。また、挿入したレンズがずれるのを防ぐため、眼に衝撃を与えないように注意することも大切です。
図7 介助の必要度を示す札
合併症の確認
白内障手術では、術後の痛みはほとんどありません。患者さんが強い痛みを訴える場合は、眼圧上昇や眼内炎、レンズの偏位(ズレ)や落下など、何らかの合併症が起きている可能性があるため、直ちに医師に報告します。患者さんには、痛みがあるか確認するのとあわせて、痛みがあったら我慢せずに伝えてもらうようにします。
他の眼疾患の有無によって異なりますが、手術翌日には見え方が改善していることがほとんどです。見えない、見えにくいという訴えがあれば、医師に報告します。
退院前のケア
点眼指導
退院後も一定期間、点眼薬の投与が必要となるため、改めて点眼方法を説明します。当院では、入院時に使用した点眼表を印刷し、患者さんに渡しています。
生活上の注意点
退院後の生活上の注意点や次回の受診に関する説明を行います。特に感染を防ぐために、洗顔・洗髪、入浴などに制限があることを十分に説明することが重要です(表4)。視力が安定するまで1~2カ月を要するため、眼鏡をつくる時期については医師に相談するよう伝えます。
表4 生活上の注意点(日本大学病院の場合)※施設により異なる
時期・期間 | 制限、注意点 |
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術後1日目 | 首から下のシャワー浴ができる |
術後3日目 | 洗顔・洗髪ができる。家庭での入浴ができる |
術後1週間 | プールや公衆浴場は控える |
術後3週間 | 眼や眼の周囲をこすらないように注意する(術後3週間以降も、できるだけこすらないようにする) |
参考文献
●医療情報科学研究所,編:病気がみえる vol.12 眼科.メディックメディア,2019.
●高橋寛二:眼科看護の知識と実際 第4版.メディカ出版,2009.
●内堀由美子,編:眼科ナースのギモン.照林社,2020.
イラスト/たかはしみどり