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がん治療を行っている患者さんへのスキンケアと治療|2024年2月開催セミナーレポート【PR】

  • 公開日: 2024/5/27
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がん患者さんへのスキンケアの基本

西澤綾先生

がん患者さんへのスキンケアで抑えておきたいポイント

 がん治療での薬物治療や放射線治療には、高率に皮膚障害が生じるケースがあります。皮膚障害の発症メカニズムを理解することによって、メカニズムに基づいた皮膚障害の予防、悪化防止のための対策を行うことができます。

 皮膚障害の発症を予防するためには、がん治療が始まる前からスキンケアを開始するとともに、患者さん自身が副作用を早期発見できるように日常生活における注意点、観察ポイントを指導し、適切なケアを継続していくことが重要です。

スキンケアの確認・指導のポイント

 どの皮膚障害に対しても予防として重要なのは、健常な皮膚を保つことです。患者さんには、皮膚のバリア機能を保つことにより、外的な刺激や異物の表皮内への侵入を軽減できることを説明します。

 薬剤によって出現する皮膚障害に違いがあるため、発症しやすい皮膚症状や時期を示し、皮膚の状態を確認する部位や、薬剤別の発症予防対策をアドバイスします。

 また、治療開始前から患者さんの状態をチェックし、悪化因子がないかを把握しておくことも必要です。

がん治療前に行うチェック項目

 患者さんの皮膚の状態に加え、生活習慣や仕事内容、日常的なスキンケアの方法を確認します(表1)。

表1 がん治療前に行うチェック項目

日常的なスキンケアの状況 ・保湿剤を使用する習慣の有無
・炊事などの際の手袋使用の有無
入浴方法 ・シャワー浴か浴槽浴か
・入浴の頻度
・お湯の温度設定
入浴時の洗浄方法 ・洗浄剤の使用・種類(石けん、ボディーソープなど)
・洗浄用道具の種類(手、ボディータオル、ナイロンタオルなど)
メイク ・化粧品の種類(ファンデーションの場合:パウダー、クリームなど)
髭剃り ・髭剃りの種類(電気シェイバー、かみそりなど)
仕事・趣味 ・長時間の歩行の有無
・手や足に負担がかかる動作の有無
・日光に当たる時間、頻度
皮膚状態 ・手や足の亀裂、胼胝などの病変、巻き爪の有無
セルフケア ・セルフケアの能力
・セルフケアの実施が困難な場合は、協力を得られる家族や介護者の有無

入浴(洗浄)・保湿・保護についての指導

 患者さんの指導では、理想的な入浴(洗浄)方法と、スキンケアの基本となる保湿・保護の方法について、具体的に説明することが大切です(表2、3、4)。

表2  入浴に関する指導のポイント

治療中の入浴 ・がん治療中でも入浴は可。傷など皮膚の損傷がある場合には、シャワーで洗い流す
入浴の頻度 ・1日1回が理想的
お湯の温度 ・40℃以下
身体の洗浄 ・石けん(ボディーソープも可)をよく泡立てて使用
・ゴシゴシと擦らない
・刺激の強いナイロンタオルを避け、ガーゼタオルなどの柔らかい素材のものを使用する


表3  皮膚状態・部位別の保湿剤と使用の目安

乾燥が強い(手足など) 軟膏 1日1回
べとつくのを避けたい(顔など) クリームやローション 1日2回
手が届きにくい(頭皮、背中など) スプレー 1日数回
頻回に洗浄する(手など) 撥水作用の優れたバリアクリームを併用する
全身の保湿 保湿成分を皮膚に付着させ、浸透させる作用のある入浴剤の使用も有効


表4 保護に関する指導のポイント

手袋の着用 ・綿素材のものを使う
・外出時・作業時に着用する
・水仕事でゴム手袋を使う場合は、綿の手袋を着用してから着用する
・使い捨てタイプのポリエチレンの手袋を使用する場合は、ラテックスフリーなどアレルギーを引き起こしやすい物質を除去したものを選択する
日焼け防止対策 ・日焼け止めを塗る
・日傘や帽子を使う
衣服 ・硬い生地の服は避け、柔らかい衣服を着用する

皮膚障害それぞれへの対応(爪囲炎、手足症候群、放射線皮膚炎)

爪囲炎

【発症予防対策】
 抗がん薬の影響で、爪は脆く割れやすい状態にあり、爪が引っかかって割れてしまうと爪囲炎の悪化につながります。手は清潔に保ち、保湿剤(ヘパリン類似物質や尿素含有軟膏など)を1日2回外用し、しっかりと保湿を行います。

 爪を短く切りすぎると巻爪の原因になるため、適度な長さに整えるよう指導します。普通の爪切りでは爪が割れてしまう場合は、ハサミタイプのもの(ニッパーなど)を勧めます。

【保護・保清対策】
 軟膏を毎日塗っていると、爪の下にゴミがたまりやすく感染の原因になります。綿棒などを利用し、石けんの泡できれいに洗うように指導します。

 指の皮膚に亀裂が生じて痛みがある場合は、絆創膏ではなく、ガーゼやハイドロコロイド、ウレタンなど蒸れない素材のもので保護するようにします。

 爪が皮膚に当たって痛みがある場合は、テーピングを行います。テーピングは、患部のギリギリの部分にテープを貼り、側爪郭部の皮膚を斜め後方に引っ張るように螺旋状に巻いていきます(図1)。テープを巻き過ぎて肉芽を圧迫しないようにすることもポイントです。

図1 理想的なテーピング

爪囲炎のテーピング見本

手足症候群

【発症予防対策】
 手足症候群は、物理的刺激が多く擦れる部位、圧がかかる部位の皮疹が悪化しやすく、慢性化すると皮膚が厚く硬い状態になります。

 手荒れや胼胝、巻爪などがある場合は、あらかじめ治療をしておく必要があります。治療開始前から保湿剤を外用して皮膚を柔らかく保ち、炊事や園芸では手袋を着用します。

 靴は足が固定できるような紐靴を勧め、きつすぎず、ゆるすぎず、足に合ったものを使用するようにします。日常生活では、長時間の歩行や重いものを持つなど、手足に負担のかかる作業を避けるようにします。

【ドキソルビシンによる手足症候群の予防】
 ドキソルビシンによる手足症候群予防の特徴的な取り組みとして、手足の冷却があります。手足の血管を収縮させ、薬剤の手足への到達量を減少させることを目的としています。

 ドキソルビシンが血中に残存している投与日から5日間は、ぬるめのシャワー浴にするなど、発汗を避け、薬剤の拡散を抑えように指導します。

放射線皮膚炎

【悪化予防】
 放射線照射により表皮が菲薄化、乾燥し、皮膚バリア機能が低下することで、皮膚は脆弱になり容易にめくれてしまいます。

 照射部位が衣類などで擦れないように柔らかい素材の服を着用し、頸部に照射する場合は襟なしの服を着用するなど、衣類面の注意点を確認します。

 また、落屑やびらん部は細菌の温床となり感染しやすい状態になるため、石けんの泡でガーゼなどを利用してやさしく洗い、洗浄後は必ずしっかりと保湿を行います。

皮膚障害対策とチーム医療

 がん治療による皮膚障害対策では、チーム医療が重要になってきます。患者さんが治療を継続できるように、皮膚症状をコントロールしつつ、チームで連携して継続的にサポートしていく必要があります。

 チーム医療では、異なる職種間でそれぞれの専門スキルを発揮した診療や観察を行うとともに、情報共有、業務分担し、連携、補完し合うことが重要になります(表5)。

 皮膚障害は薬剤の種類により治療法、治癒までの経過に違いがあり、適切な時期に皮膚科へのコンサルトを行うことによって、早期に皮膚障害を回復できる可能性があります。皮膚障害の遷延化を防ぐためにも、皮膚科へのコンサルトのタイミングを逃さないことが重要です。

表5 がん治療による皮膚障害対策チームにおける各職種の役割

職種 役割
治療にあたる担当医師 ・皮膚障害発症予防対策として、あらかじめ皮膚症状別にGrade別セット処方を組み、早期に対応できるようにする
薬剤師 ・薬剤の説明(薬剤の特徴、皮膚症状発症時期、内服、外用薬の確認など)
看護師 ・患者さんの皮膚状態、生活習慣や仕事内容、スキンケアの方法など悪化因子の有無をチェックする
・予防対策の啓発(スキンケア方法、テーピング方法など)、早期発見できるように皮疹好発部位の観察を行う
皮膚科医 ・皮膚症状発現に対し、症状に合わせた適切な治療を行う

皮膚障害の薬剤別発症メカニズムと治療、皮膚科へのコンサルトのタイミング

 皮膚科への適切なコンサルトを行うためにも、薬剤の種類による皮膚障害の発症メカニズムを把握しておくことが大切です。細胞障害性抗がん薬、分子標的薬で現れやすい皮膚障害の発症メカニズムと治療、皮膚科へのコンサルトのタイミングを解説します。

細胞障害性抗がん薬

 細胞障害性抗がん薬は、細胞が分裂して増える過程に直接または間接的に作用し、がん細胞を障害します。さまざまながん種への効果が期待できますが、がん細胞だけでなく、細胞増殖が盛んな正常な細胞まで攻撃してしまうため、健常な皮膚も障害されて皮膚障害が生じます(表6)。

 薬剤中止により軽快することが多いですが、爪甲や毛髪などでは症状が持続する場合もあります。

表6 細胞障害性抗がん薬による皮膚障害の種類

種類 主な薬剤
発疹、紅斑 フルオロウラシル、シタラビン、シスプラチン、ブレオマイシン、リポソーム化ドキソルビシン、エトポシド、ブスルファン
皮膚乾燥 カペシタビン、ティーエスワン®、パクリタキセル、カペシタビン
皮膚掻痒 フルオロウラシル、カペシタビン、エピルビシン、パクリタキセル、ブスルファン、シスプラチン
色素沈着 フルオロウラシル、カペシタビン、でガフール、ドキソルビシン、エピルビシン、パクリタキセル、シスプラチン
爪甲の変化 フルオロウラシル、カペシタビン、テガフール、ドセタキセル、パクリタキセル
手掌・足底発赤知覚不全症候群
(手足症候群)
フルオロウラシル、カペシタビン、パクリタキセル、ドセタキセル、リポソーム化ドキソルビシン、エトポシド
皮膚硬化 パクリタキセル、ドセタキセル
脱毛 【高度】シクロホスファミド、イホスファミド、エトポシド、ドキソルビシン、ドセタキセル、パクリタキセル、エピルビシン、イリノテカン
【中等度】カルボプラチン、ビンクリスチン、メトトレキサート
【軽度】シスプラチン、フルオロウラシル、ゲムシタビン

色素沈着

【発症メカニズム】
 顔面などの露出部や関節部、四肢末端、爪甲に生じ、全身にみられることもあります。関節部など擦れる部位の色調が強くなる傾向があります。

 明確な機序は不明ですが、抗がん薬による表皮基底層の損傷とメラニン産生の増加の可能性、またはメラニンの排泄障害が考えられています1)

【治療】
 色素沈着を改善させる有効な治療はありませんが、多くは治療終了後、数カ月で改善がみられます。

 保湿や遮光対策、物理的な刺激を除去する保護対策を行います。対症療法として、ビタミンCの内服やハイドロキノンなど漂白剤の外用も行われています。

 色素沈着が気になる場合は、メイクやリムーバーが不要なマニキュア〔お湯で落ちるタイプ、ピールオフタイプジェルネイル(剥がすタイプのネイル)〕などを使用して、カバーすることを勧めます。

*皮膚科へのコンサルトタイミング
・色素沈着が目立ち、患者さんが皮膚科受診を希望したとき

爪甲変形・爪甲剥離

【発症メカニズム】
 爪甲や爪甲下にさまざまな変化が現れます(表7)。

 爪甲の変形は、抗がん薬により爪の成長が障害されることで生じると考えられています。爪甲剥離は、爪床、爪母の細胞への障害や、血管変性、神経障害により起こるとされています2)

表7 細胞障害性抗がん薬により爪甲にみられる主な症状

・爪甲剥離、爪甲下の紅斑、爪甲下出血
・爪甲の凹凸、白色の横溝
・爪甲の脱落、爪甲下の角質増殖、脱落後の爪甲肥厚
・感染の併発:痛み、異臭を伴う。緑膿菌感染した場合は黒色爪となる

【治療】
 軽症例では、保湿・保清、ガーゼでの患部の保護を行います。中等度以上で炎症がある場合は、副腎皮質ステロイド薬の外用、感染併発時には抗菌薬の内服や外用を検討します。

 肥厚した爪は保湿(尿素含有軟膏など)し、適宜削り処置を行います。症状を悪化させないためには、まずは発症前からのスキンケアが重要になってきます。

 浸出液を伴う場合はガーゼで保護し、爪甲が脱落しそうな場合や脱落後は、健常な爪甲が伸びてくるまでテープや包帯で保護します。

 循環障害により浮腫を伴う場合は、弾性ストッキングなどによる浮腫への対策も検討します。

*皮膚科へのコンサルトタイミング
・爪甲下の炎症が強く、痛みを伴うとき
・異臭や浸出液が増え、感染が疑われるとき
・爪が剥離しそうなとき、剥離してしまい保護方法がわからないとき
・爪の変形によりQOLが低下するとき
など

手足症候群(手掌・足底発赤知覚不全症候群)

【発症メカニズム】  手と足に好発する病変で、特に手掌、足底に紅斑、腫脹、過角化、色素沈着などが生じることが特徴で、爪甲の変化を伴うこともあります。初期はびまん性の紅斑、腫脹が出現し、進行すると角化、色素沈着も伴います。しばしば、感覚異常や疼痛を訴えるケースもみられます。

 圧がかかることにより、四肢の毛細血管が破壊され、抗がん薬が周囲に微量に漏出することが原因と考えられています。汗などに微量の抗がん薬が排出される影響についても推測されています。

【治療】
 予防は保湿・保護・保清が基本となり、治療は病変のGrade別に行われます(表8)。ヒリヒリ感などの刺激症状出現後、皮膚が角化してくるため、刺激症状出現前からの尿素含有軟膏での保湿をこまめに(1日2回以上)行います。

 有痛性の紅斑や水疱部には副腎皮質ステロイド薬を外用し、適宜クッション性のある被覆材で保護します。角化性紅斑は徐々に進行し、物理的な刺激で悪化するため、綿の手袋を着用し皮膚を保護することも大切です。

 難治性の過角化には、ビタミンD3軟膏、サリチル酸軟膏などの外用も有効です。

表8 細胞障害性抗がん薬による手足症候群のGrade別治療

Grade 1 尿素含有軟膏外用、病変部にvery strongの副腎皮質ステロイド外用薬を併用
Grade 2 添付文書に従い適宜休薬、減量。very strong~strongestの副腎皮質ステロイド外用薬
Grade 3 添付文書に従い適宜休薬、減量。very strong副腎皮質ステロイド外用薬

*皮膚科へのコンサルトタイミング
・手足全体に赤みがありヒリヒリするとき
・過角化が目立つとき
・水疱形成時
・亀裂が多発しているとき
など

分子標的薬

 分子標的薬の中でも、皮膚障害が高頻度に生じるEGFR阻害薬とマルチキナーゼ阻害薬について解説します。

EGFR阻害薬による皮膚障害

【発症メカニズム】
 EGFR阻害薬は、EGFR(上皮成長因子受容体)が発現している細胞にダメージを与えるため、表皮の基底細胞、毛包、皮脂腺や汗腺、爪に皮膚障害が現れます。起こりやすい皮膚障害には、早期にみられるざ瘡様皮疹や脂漏性皮膚炎様皮疹、遅れて現れる皮膚乾燥、爪囲炎などがあります。

【治療】
 EGFR阻害薬による皮膚障害のGradeは、体表面積に占める割合、日常生活動作の制限の有無、抗菌薬投与の必要性によって分類されています。

 治療は皮膚症状のGrade 1(軽症)とGrade 2(中等症)以上に分けて行うことが推奨されています(表9)。副腎皮質ステロイド外用薬の使用では、副作用の出現に注意します。ステロイド外用薬の主な副作用に、ステロイドざ瘡、ステロイド稗粒腫、細菌・真菌感染、皮膚萎縮があり、ステロイドざ瘡やステロイド稗粒腫はざ瘡様皮疹と鑑別するのが困難です。難治の場合は、皮膚科を受診するとよいでしょう。

表9 EGFR阻害薬による皮膚障害のGrade別治療法

Grade1(軽症) Grade2(中等症)以上
ざ瘡様皮疹 副腎皮質ステロイド外用薬
顔:medium or strong
その他部位:strong
副腎皮質ステロイド外用薬
顔:strong、その他部位:very strong+ミノサイクリン内服
★症状が高度、難治の際考慮
副腎皮質ステロイド内服(プレドニゾロン 10mg 1週間)
脂漏性皮膚炎様皮疹 保湿剤、非ステロイド性、抗炎症系外用薬 副腎皮質ステロイド外用薬
頭:very strong、顔:strong
±ビタミン剤、抗真菌薬の内服
皮膚乾燥 保湿剤 Strong以上の副腎皮質ステロイド外用薬
亀裂部:Strongest
爪囲炎 洗浄、ガーゼ保護、テーピング 副腎皮質ステロイド外用薬(very strong以上)
+テーピング、ミノサイクリン内服、フェノール法、液体窒素療法、部分抜爪/人工爪など
白藤宣紀:EGFR阻害薬による皮膚障害と治療.医学のあゆみ 2012;241 (8): 567-72./松原きみ子,ほか:分子標的薬皮膚障害対策.臨床皮膚科 2013;67(5):108-12./山本有紀,ほか:EGFR阻害薬に起因する皮膚障害の治療手引 – 皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議からの提案.臨床医薬 2016;32(12):941-9を参考に作表

*皮膚科へのコンサルトタイミング
・推奨されているGrade別治療で改善しないとき
・感染が疑われるとき

マルチキナーゼ阻害薬による手足症候群

【発症メカニズム】
 マルチキナーゼ阻害薬による手足症候群は、手や足の圧力のかかる部位に出現します。

 発症メカニズムは、明確に解明されていませんが、表皮基底細胞の増殖能の阻害、エクリン汗腺からの薬剤分泌などが原因と考えられています。

 発現のピークは投与初期数週間で、徐々に症状は落ち着いてくるものの、難治性の角化が生じるケースもみられます。

【治療】
 治療は症状のGrade別の治療が推奨されています(表10)。Grade 1では、尿素含有軟膏などによる保湿、角化部などへの予防処置の徹底と必要時の副腎皮質ステロイド外用薬、Grade2、3ではステロイド薬を使用し、適宜、休薬を検討します。初期の水疱には被覆材での保護も有効といわれています。

表10 マルチキナーゼ阻害薬による手足症候群のGrade別治療

臨床症状 機能領域 対処法
Grade 1 疼痛を伴わないわずかな皮膚の変化または皮膚炎 (例:紅斑、浮腫、角質増殖症) 身の回りの日常生活動作制限を受けない 予防処置徹底、保湿剤(尿素含有軟膏、ヘパリン類似物質など)、very strong~strongestの副腎皮質ステロイド外用薬
Grade 2 疼痛を伴う皮膚の変化(例:角層剥離、水疱、出血、浮腫、角質増殖) 身の回りの日常生活動作制限 very strong~strongestの副腎皮質ステロイド外用薬
Grade 3 疼痛を伴う高度の皮膚の変化(例:角層剥離、水疱、出血、浮腫、角質増殖) 日常生活を遂行できない症状 strongestの副腎皮質ステロイド外用薬、適宜副腎皮質ステロイド薬全身投与(内服)検討
川島眞,ほか:分子標的薬に起因する皮膚障害対策―皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議の報告―.臨床医薬 2014;30(11):975-81./山本有紀:マルチキナーゼ阻害剤による皮膚障害.MB Derma 2017;264;62-7を参考に作表

*皮膚科へのコンサルトタイミング
・Grade 2以上の有痛性紅斑を認めるとき
・水疱形成が著明なとき
・感染が疑われるとき
・水疱軽快後の皮膚の菲薄化、繰り返す水疱のとき
など

まとめ

 がん治療では、すべての皮膚障害に対して治療開始前からのスキンケアが求められます。皮膚障害は、チーム医療で対応することが理想的であり、看護領域の役割として、スキンケアなど予防対策の啓発や、早期発見、悪化防止のための観察を行うことが挙げられます。

 適切な時期に皮膚科へコンサルトすることにより、皮膚障害の重症化、そして治療の中断を防ぐことができる可能性があります。①推奨されている治療で難治のとき、②急な悪化、感染の併発が疑われるとき、③痛みが強いなど、QOLが著しく低下しているとき、④爪囲炎で肉芽形成があり、出血を伴うときは、ぜひ皮膚科への受診につなげてください。

引用・参考文献

1)Giménez García RM, et al:Drug-induced hyperpigmentation: Review and case series. J Am Board Fam Med 2019;32(4):628-38.
2)De Giorgi U, et al:Onycholysis secondary to multiple paclitaxel 1-hour infusions: possible role for its vehicle (Cremophor EL). Ann Oncol 2003;14(10):1588-9.
3)Huang XZ, et al:Clinical evidence of prevention strategies for capecitabine-induced hand-foot syndrome. Int J Cancer 2018;142(12):2567-77.
4)Santhosh A, et al:Randomized double-blind, placebo-controlled study of topical diclofenac in the prevention of hand-foot syndrome in patients receiving capecitabine (the D-TORCH study). Trials 2022;23(1):420.



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