【連載】脳神経外科看護のQ&A! 皆さんの疑問にお答えします!
せん妄、意識障害(意識レベルの変化)、高次脳機能障害をどう見分ける?
- 公開日: 2025/12/29
せん妄、意識障害、高次脳機能障害の特徴を整理・理解する
せん妄、意識障害、高次脳機能障害は併存していることがあり、明確な区別は困難なことが少なくありません。しかし、それぞれの特徴や違いを整理・理解し、バイタルサイン、画像データ、検査結果などを踏まえてみていくことで、ある程度、鑑別を絞り込むことができます。
せん妄、意識障害、高次脳機能障害の特徴を整理・理解することは、鑑別を絞り込むための第一歩です。それぞれの特徴を押さえたうえで、患者さんの状態と病態の把握を行い、適切な評価につなげていきましょう。
せん妄
せん妄とは
せん妄は、意識や認知機能の障害を伴う精神状態の変化を指します。要因として、脳卒中などの身体疾患、治療や手術による侵襲、入院による環境の変化、薬剤、疼痛や心理的ストレスなどが挙げられます。意識障害、見当識障害、妄想、錯覚、幻覚といった精神症状が急性に発症しますが、通常は一過性で、数日から数週間で改善する場合がほとんどです。
せん妄の特徴
せん妄の特徴として、主に次のようなものが挙げられます。
●急性に発症
●一過性で可逆的
●夜間の発症が多い
●昼夜逆転が多くみられる
●日内変動がある
意識障害(意識レベルの変化)
意識障害とは
意識障害は、自分自身や周囲を認識できない、または外界への反応が低下・消失した状態を指します。
意識障害が起こる要因は、脳の病変(脳卒中、脳腫瘍、脳炎、脳損傷など)、全身の病変であるアシドーシス、低血糖、低酸素血症、感染症、精神科疾患、薬物の影響などさまざまです。意識障害に対しては原因検索と治療が必要であり、原因によっては不可逆的な意識障害も起こり得ます。
教科書により若干の違いはありますが、意識障害は、「意識レベル(覚醒度)の障害」と「意識内容の障害(意識変容)」に分類されます(表1)。このうち、意識レベルは、JCSやGCSを用いて評価します。意識障害の鑑別ついては、通称「AIUEOTIPS(アイウエオチップス)」(表2)を使って、臨床推論をしていきましょう。
表1 意識障害の分類
| 意識レベル(覚醒度)の障害 | 傾眠 | 呼びかけや軽い刺激で容易に覚醒し、簡単な命令に応じるが、刺激がなくなると意識が低下し、眠り込んでしまう |
|---|---|---|
| 昏迷 | 強い刺激(大声で呼びかける、身体を揺さぶるなど)を与えると、一時的に覚醒し、運動反応を示す | |
| 半昏睡 | 強い痛み刺激(つねる、圧迫するなど)を与えると、逃避反応を示す | |
| 昏睡 | 強い痛み刺激を与えると、反応を示すことがある | |
| 深昏睡 | 強い痛み刺激を与えても、全く反応しない | |
| 意識内容の障害(意識変容) | せん妄 | 何らかの身体疾患や全身状態の変化に伴い、軽度または中等度の意識混濁、幻覚や錯覚、興奮などの精神症状が出現している(夜間せん妄は、夜間のみにせん妄が起こる) |
| 朦朧状態 | 軽い意識の混濁があり、全体的な判断力が低下している | |
| その他 | 急性錯乱状態、夢幻状態(現実と空想とが入り混じり、幻視や意識混濁を伴う)、アメンチア(思考散乱と困惑を伴う) |
表2 AIUEOTIPS(アイウエオチップス)
| A | Alcohol | 急性アルコール中毒、ウェルニッケ脳症 |
|---|---|---|
| I | Insulin | 糖尿病昏睡、低血糖 |
| U | Uremia | 尿毒症 |
| E | Encephalopathy | 肝性脳症 |
| Endocrinopath | 内分泌疾患 | |
| Electrolytes | 電解質異常 | |
| O | Oxygen | 低酸素血症 |
| Overdose | 薬物中毒 | |
| T | Trauma | 外傷 |
| Temperature | 体温異常 | |
| I | Infection | 感染症 |
| P | Psychogenic | 精神疾患(うつ、統合失調症など) |
| Porphyria | ポルフィリア | |
| S | Shock | ショック |
| Stroke | 脳卒中 | |
| Seizure | てんかん | |
| Syncope | 失神 |
意識障害の特徴
意識障害の特徴としては、主に次のようなものが挙げられます。
●意識レベル・覚醒度(量)が変化する
●意識内変容・認識機能(質)が変化する
高次脳機能障害
高次脳機能障害とは
高次脳機能障害は、脳血管障害や頭部外傷などで脳が損傷されたことにより、思考・記憶・行為・言語・注意といった機能に障害が起こった状態を指します。
主な症状として、失語・失行・失認、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などが挙げられます(表3)。また、脳の損傷部位から、出現する症状をある程度予測することができます(図)。
表3 高次脳機能障害の主な症状
| 失語 | 話が理解できない、言い間違える、字が読めない |
|---|---|
| 失行 | 箸がうまく使えない、着替えがうまくできない |
| 失認 | 見えているにもかかわらず、それが何か認識できない |
| 半側空間無視 | 障害された脳の部位と逆側にある空間や物体に注意が向かなくなる(右頭頂葉が障害された場合:左側の食事を食べ残す、左側の物や人にぶつかる、左側からの呼びかけに反応しない) |
| 記憶障害 | 同じ質問を繰り返す、物の置き場所を忘れる、見たことや聞いたことを覚えられない |
| 注意障害 | ぼんやりとしている、集中できない |
| 遂行機能障害 | 段取りよく行動ができない、臨機応変に対応できない |
| 社会的行動障害 | 興奮する、怒りっぽくなる、暴力的になる |
図 脳の損傷部位と症状
高次脳機能障害の特徴
高次脳機能障害の特徴としては、主に次のようなものが挙げられます。
●脳の障害部位により症状が異なる
●リハビリテーションなどで改善する可能性がある
参考文献
●柿本裕子:意識のアセスメント.脳神経外科の全身フィジカルアセスメント,BRAIN NURSING 2016;32(3):10-4.
イラスト/たかはしみどり
