NPPVのマスクの特徴・種類とフィッティング方法
- 公開日: 2014/2/27
機器のトラブルや操作のミスが患者さんの命の危機に直結します。そこで実施にあたっては、メカニズムや種類、使い方などをよく理解しておくことが大切です。
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マスクのタイプと特徴
NPPVのためのマスクのタイプは、
- ●鼻だけを覆う鼻マスク
- ●鼻と口を覆う鼻口マスク
- ●顔全体を覆うマスク
の3つに大きく分けられます。
いずれのタイプにも回路内に流れている空気(フロー)を逃がす呼気ポートがついており、意図的にエア漏れ(リーク)を起こさせています。これはNPPVの回路が1本で、呼気と吸気をまかなっており、呼気を逃がすポートが必要なためです。そこで、閉鎖式のIPPVなどと同じに考えて、「空気が漏れている、大変だ」と、呼気ポートを塞ぐようなことは絶対にしてはいけません。
また、鼻マスクと鼻口マスクには、酸素を供給する酸素ポートやマスク内の圧を感知するための圧ライン接続ポートが付いているもの、前額部のアーム(サポートアーム)が可動式のものがあります。
1. 鼻マスク
意識がしっかりあり、鼻呼吸ができる人や、慢性期の呼吸不全など、長期にわたり使用する患者さんに向いています。口から飲水できますが、誤嚥に注意します。また口からのリークにも注意が必要です。
■鼻マスクの構造と各部の名称
トゥルーブルー ネーザルマスクの場合〈フィリップス・レスピロニクス合同会社〉
- ●ヘッドギア:頭頂部のストラップでマスクを安定させる
- ●フォーヘッドパット:患者さんの額に合うように、角度が自在に変わる
- ●フェイスプレイト
- ●フリーフォームスプリング:患者さんの動きに追従してリークを防ぐ
- ●呼気ポート付エルボー
- ●ヘッドギアグリップ
2. 鼻口マスク
意識が鮮明でない場合や、口呼吸の患者さんに向いています。基本的構造は鼻マスクと同じですが、鼻と口を一度にマスクで覆っているため、回路内のフローが停止するなどのトラブルが起きたとき、回路内で呼気を再呼吸してしまうことを防止するために、開放弁(再呼吸防止弁)が付いています。
また、嘔吐した場合には誤嚥のリスクが高くなるため、嘔気の強い患者さんには向きません。
■鼻口マスクの構造と各部の名称
ミラージュクアトロ(R)マスクの場合〈帝人ファーマ株式会社〉
- ●ヘッドギア
- ●額パッド:ダイヤル調整により顔にぴったりフィットする
- ●額アーム:患者さんの額に合うように、角度が自在に変わる
- ●ダイヤル:ダイヤルを回転させて額アームの高さを調整し、エアリークがないようにする
- ●呼気排出孔
- ●マスククッション:肌にやさしくフィットし、エアリークを防ぐことができる
- ●エアチューブ接続口:NPPV回路の蛇管に接続する
- ●ヘッドギアクリップ
3. 顔全体を覆うマスク
ワンサイズしかなく、顔面にフィットしやすいため、基本的に急性期の導入に使用します。使用中は顔全体にハイフローがかかり、目の乾燥などが起こりやすいため、病態が改善すれば速やかに鼻マスク、あるいは鼻口マスクに切り替えます。
■顔全体を覆うマスクの構造と各部の名称
トータルフェイスマスクの場合 〈フィリップス・レスピロニクス合同会社〉
- ●安全(大気開放)バルブ:送気が停止した場合、室内空気を呼吸できるように開放バルブが開く
- ●フェイスプレート:顔全体を覆うため、局部への圧迫や痛みがなく、スキントラブルが起こらない
- ●シール部:NPPV回路からの送気圧により、シール部が顔表面を覆い、リーク量が最小限に抑えられる
- ●圧力ポート:圧チューブをつなぎ圧力測定を行う。またモニター機器もここに接続する
- ●マジックテープ:ストラップのマジックテープを留め、頭部に装着する
- ●呼気ポート:回路内から一定のリークを排出する
マスクの選択と回路の組み立て方
NPPVは急性期ではほぼ24時間、慢性期ではたとえ睡眠中だけの患者さんでも、毎日、装着し続けるものです。患者さんが拒否したり、嫌悪感を抱かないためには、最初が肝心です。スムーズな導入のための手順を頭に入れておきましょう。
マスクの選択のポイント
マスクの装着に患者さんが拒否を示したり、嫌悪感を抱いたりすると、NPPVを実施することは不可能になります。つまり、マスクの選択は、NPPVを成功させるための最も重要な要素なので、フィットと機能性を考慮して患者さんとともに丁寧に行うことが大切です。
まず、フィット感に関しては、(1)マスクが患者さんの顔の形・大きさに合うかどうか、(2)マスクの材質が患者さんにとって好ましい装着感を与えるものかどうかをみます。慢性期の導入にあたっては、患者さんに実際に鼻マスクあるいは鼻口マスクを装着してもらい、フィットするものを選んでもらうとよいでしょう。
一方、そのような余裕のない急性期では、フィットしやすい顔全体を覆うマスクを選択することも一つの方法です。機能面において、鼻マスクか鼻口マスクのどちらを選択するかに関しては、明確な基準は示されていません。ただし、意識レベルが低下し、呼吸促迫から口呼吸になっている患者さん(急性期)や、もともと口呼吸の患者さん(慢性期)などでは口からのリークが多くなるため、鼻口マスクを選択します。
また、気道分泌物が多い場合は、頻繁に分泌物の除去が必要になり、そのたびに脱着とフィッティングを繰り返さなければならず、患者さんも疲弊してしまうことが少なくありません。このようなケースには鼻マスクを選択するか、むしろNPPVではなく、挿管・IPPVを選択します。
患者さんへの説明
NPPVが適応になったら、治療の開始に先立ち、医師や看護師から、患者さんや家族に治療方針の説明を行います。NPPVは、患者さんの理解と協力なしに実施することはできないので、従来のIPPV以上に十分な説明が欠かせません。
病状や治療方針、期待される効果、副作用などとともに、NPPVの必要性について理解を促します。器械の補助なしでは換気が不十分で息苦しくなり、つらい思いをすることなどをよく説明します。そして、例えば「どうしても不快であれば、いつでも外せますからね」、「NPPVがうまくいけば、挿管しなくても済みますよ」など、患者さんのNPPVに対する不安を軽減し、前向きに受け入れる気持ちになれるような言葉かけを心がけます。
また、NPPVが不適応や中止になった場合、気管内挿管や気管切開に移行すべきか、またはこれらの処置をとらない選択をするのかについても、事前に確認しておくことが大切です。
(図)NPPVの実施の手順
マスクの種類の選択と回路の組み立て
患者さんの理解と協力が得られたら、最初に使用するマスクの種類を選択します。鼻マスク、鼻口マスク、顔全体を覆うマスクのいずれかを選択するポイントはすでに述べたとおりです。
(図)NPPVの回路
BiPAP Vision 簡易取扱説明書〈フィリップス・レスピロニクス合同会社〉より転載、一部改変
マスクのフィッティング
NPPV回路を組み立て、患者さんの元に運びますが、まずはマスクを回路につながずに、マスクフィッティングを行います。それは、有効な換気効果を得るためや、特に慢性期や在宅療養の患者さんでは、長期にわたり治療を継続するために、適切なマスクの選択や調節が非常に重要だからです。
マスクフィッティングは、主に鼻マスクや鼻口マスクの場合に行われ、鼻クッション位置の調節→フレームの長さの調節→額アームの角度の調節→ヘッドギアの調節→横になって再調整の順で行います。
ただし、初日にフィットしたマスクでも、数日たつとフィッティングが悪くなることがあります。フィッティングの不良は、過剰なリークやスキントラブルの原因となるため、使うマスクがいったん決まってからも、できるかぎり毎日、マスクフィッティングを行い、患者さんと共に使い心地を確認することが大切です。
その上で、どうしても使っているマスクがフィットしないようであれば、速やかにほかの種類に変更していきます
マスクフィッティングの手順
■(1)鼻クッション位置の調整
マスクを試着し、鼻クッションが顔の上で座りの良い位置を探す。このとき鼻孔をクッションの膜が覆っていないことを確認する。
患者さんの頭に手を当て、クッションが顔の上で座りの良い位置を探す。
■(2)フレームの長さの調整
額パッドは、眉の少し上方にくるのが適切。
顔の小さい患者さんで、額パッドが額の上方にくる場合は、フレーム延長コネクターを外し、フレームを短くする。
■(3)額アーム角度の調整
額パッドは、額に軽く触れるぐらいが適当。
額パッドが額から浮いている場合や、逆に額に押しつけられている場合は、額アームの角度を調整する。
額にフィットするように、額アーム角度を調整する。
■(4)ヘッドギアの調整
ヘッドギアのストラップを徐々に締めてやさしく顔にフィットさせる。
多少のリークは、人工呼吸器が補償するので、長期に快適に継続できることが優先される。
ゆえに強く締めすぎないよう注意する。
マスクがやさしくフィットするように、ヘッドギアのストラップを徐々に締める
指が2本入る程度の緩みをもたせるとよい。
下のストラップも指2本の緩みが目安。指を当てたままマジックテープを留める
■(5)横になった姿勢で再調整
患者さんに仰向けに寝てもらい、人工呼吸器を作動させ、弱い圧をかけて微調整を行う。
横になってマスクのフィットやリーク具合を再調整するチンストラップで開口を押さえる。
目側にリークがある場合は、額アームの角度を広くするとよい
口側にリークがある場合は、額アームの角度を狭くするとよい
※1 口からのリークの多い場合/鼻閉がないか確認し、あれば原因の除去に努める。IPAP 圧を下げたり、IPAP 時間の調整、加湿を行うことも大事である。開口が著しい場合は、チンストラップの使用を検討する。
※2 顔全体を覆うマスクの使用も検討されるが、換気効率が落ちること、呼吸の検出感度が落ちること、嘔吐や、人工呼吸器の停止時に危険性があることを考慮に入れる。
参考文献
石原英樹 監修:NPPV療法 導入の実際 改訂版、帝人ファーマ株式会社、2004.を基に作成
こんな時どうする?
■マスクから空気が漏れているみたい…
■喉が渇いた、マスクを外したいと言われたら?
(『ナース専科マガジン2012年12月増刊号 一冊まるごと呼吸ケア』より転載)
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