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【連載】手術室で必要な看護技術を学ぼう!

慌てないために知っておきたい手術室での急変時の対応

  • 公開日: 2025/7/3

1.手術室での急変

 手術室では、手術手技や麻酔の侵襲により、患者さんのバイタルサインが変動します。さらに、近年では、高齢化と医療技術の進歩により、複数の基礎疾患をもった高齢者が手術を受けることができます。そのため、予期せぬ急変が起こる危険が常に潜んでいます。急変と聞くとCPA(心肺停止)が思い浮かびますが、今回は急変時に共通した対応と手術室で比較的起こりやすい急変として、脊髄くも膜下麻酔(以下、脊麻)後の急激な血圧低下時における対応について説明します。

2.急変時に共通する対応

 院内で急変が起こった際のコールについては、各施設で「コードブルー」や「急変コール」などとして決められているかと思います。はじめに、どのような急変時でも共通して行わなければならないことを押さえておきましょう。

1)人を集める

 一般的には、1つの手術に器械出し看護師と外回り看護師がいます、その他には執刀医や助手、麻酔科医、臨床工学技士(CE)など多職種が1つの手術室の中にいると思います。しかし、執刀医や助手、器械出し看護師は清潔ガウンを装着しているため、急変時に動ける人数は多くありません。そのため、急変が起こったときはすぐに人を集めることが第一です。急変時のコールやブザーなどで知らせたり、リーダーに電話するなど、各施設で急変時に人をすぐに集められる方法を決めて、看護師だけでなく全職種で統一して周知しておきましょう。

2)物を集める

 人を集めることと共通していますが、人を集めると同時に物を集められるシステムにもしておくとよいです。物とは、除細動器やアドレナリンなどの救急薬品を含む救急カートを指します。手術室から最も近くにある除細動器の場所はスタッフで共通の認識としてもっておきましょう。また、除細動器は常に使用できるように、CEに定期点検をしてもらいます。救急薬品やカートも定期的に点検し、薬品や衛生材料の不足や使用期限を確認し、いつでも使用できるようにしておきます。カートが煩雑では、実際使用するときに探すのに手間取る可能性があるため、本当に必要な薬品や衛生材料のみを置くように見直しもしておくことをお勧めします。

3)リーダーの決定

 急変時は現場が混乱しやすい状況になります。その際に、それぞれが勝手に行動してしまうと、複数の医療従事者で同じことをしてしまい、必要な処置が行われないということになりかねません。そのため、その場の指揮を執るリーダーを決める必要があります。これも日ごろから、急変時は麻酔科医か主治医か執刀医か誰がリーダーとなるか決めておくとスムーズです。そして、急変時は誰がリーダーかを大きな声で周知させることも重要です。

4)記録の重要性

 リーダーとともに重要なのが記録です。手術においては、外回り看護師が記録を担当していると思いますので、基本的には外回り看護師が急変時の記録担当を行うほうがよいです。記録は急変時に行った処置の証明になりますので、薬剤投与や胸骨圧迫、除細動、ルートキープ、輸血、家族への説明など時間経過とともに記録をしっかり行うことが大切です。記録担当は記録のみを行うようにし、リーダーは手を出さずに口だけで指揮を執り、その他のスタッフが手足となって動くのが理想です。

5)メンバーシップ

 リーダーと記録以外のスタッフは、急変時のチームのメンバーとして、動くことが大切です。リーダーの指示があれば、誰が行うのか、はっきりと声に出して伝えます。新人であったり、急変事例が初めてでも、メンバーとして自分ができることをすれば、チームの一員として動いていますので、自分ができることは積極的に実践するようにしましょう。

手術室での急変時のメンバーの動き方

3.脊麻時血圧低下の際の対応

 脊麻は、交感神経をブロックすることで血管が拡張するため、血圧が低下します。高血圧など基礎疾患があると、血圧の変動が大きく、大幅に血圧が低下することがあります。このような場合は、麻酔による作用ですので、慌てずに対応することが重要です。

1)意識確認、血圧測定

 血圧低下を認めた場合、まずは患者さんの観察をしましょう。血圧が低下すると、脳への血流も低下しますので、まずは意識レベルに変化がないか、患者さんの名前を呼んで意識を確認します。急激な血圧低下を見逃さないために、事前に血圧の測定間隔は1~2分おきに設定しておきます。麻酔薬を注入してから固定されるまでに、高比重のブピバカイン塩酸塩水和物では20分程度かかるとされており、その間は血圧が変動しやすいので注意して観察します。また、麻酔薬が固定されると、血圧が下げ止まりとなるため、血圧は入室時からの変化をチェックし、下げ止まりを見極めることも大事です。

2)輸液を全開にする

 脊麻後の血圧低下は血管拡張による相対的な循環血液量不足によるものであるため、まずは、循環血液量を増やします。そのため、末梢に確保した静脈路に接続している輸液を全開にして投与します。ただ点滴滴下速度を速めるのは、血圧が低下してからでなく、入室時の血圧からの変化を見て、低下傾向であれば、主治医に報告し輸液を全開にして、急激な血圧低下とならないようにします。ただし、患者さんの既往として、重度の心不全や腎不全がある場合は、輸液量に注意しなければならないため、主治医の指示を仰ぎます。

3)昇圧剤の投与

 脊麻時の血圧低下の第一選択薬としては、α受容体とβ受容体に作用し、末梢の血管を収縮させるエフェドリンが有名です。1Aは40mg/mLですが、1回に4~8mgを静注しますので、生食で希釈し、総量を10mL(4mg/mL)か8mL(5mg/mL)で使用します。急変時にすぐに使用できるように、脊麻時は必ず吸い上げてシリンジに準備しておくか、手術室全体で希釈方法を統一しておくことで、即座に投与できるようにしておくことをお勧めします。薬剤の投与は医師の指示が必要ですので、医師の指示に従い、投与します。急変時ほど言い間違いや聞き間違いが起こりやすいですので、mgかmLか間違えないように復唱して投与するように日ごろから癖付けしておきましょう。

4)麻酔範囲の確認

 脊麻に使用する麻酔薬は比重による違いがありますが、患者さんの体型や体位(頭高位、頭低位)によって麻酔が高位まで広がる可能性があります。麻酔範囲が高位に及ぶと交感神経を遮断し、血管を拡張する範囲も広がるため、血圧も低下しやすくなります。そのため、麻酔の範囲が高位に及んでいないか、デルマトームを参考にして、アイスノンやアルコール綿を身体に当てて確認します。

デルマトーム

 高位に及びすぎると、手先の痺れや唾が飲み込みにくいといった初期症状から、呼吸停止、循環虚脱、心停止まで起こる危険があるため、早期発見し、麻酔レベルを調節する必要があります。高比重であれば頭高位に、低比重であれば頭低位にすることで、麻酔薬が足元側へ移動するため、麻酔が高位に移動することを防ぐことができます。

4.さいごに

 急変はいつ起こるかわからず、スタッフ全員が、もしも急変したらどうしようと不安を抱いていると思います。その不安を少しでも軽減し、自信につなげるためには、普段からシミュレーションや訓練を行い、どのように動けばよいかを体験しておくことが重要です。手術室の急変には、悪性高熱症や大量出血からの開腹手術への移行、大量輸血、超緊急帝王切開などたくさんの場面が想定されます。これらについても、機会があれば、それぞれ詳しく説明したいと思います。

参考文献

●中尾慎一,編:わかりやすい麻酔科学−基礎と実戦.中山書店,2014.

図/ふるやますみ、マナ・コムレード


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