第24回 看護師が知っておきたいアセスメントのコツ
- 公開日: 2016/2/15
- 更新日: 2021/1/6
今回は、アセスメントするときに念頭においておきたいことを解説していきます。
ゴールがどこなのかを認識しよう
アセスメントは入り口もゴールもバラバラで、ものすごく幅があります。求められる程度は、在宅か病棟かなど看護の現場によっても違います。
疾患名に結びついた処置が必要な職場であれば、より端的に表せたほうがよいでしょうから疾患名まで落とし込んでいったほうがよいのでしょう。
しかし、訪問看護なら、疾患名がなんであれ、その人が自分の暮らしができるかどうかの評価を優先しますから、疾患名の重要性は前者よりも薄まるでしょう。
アセスメントの加減をどうすればいいのかは、ゴールがなんなのかをしっかりと認識することで決まります。例えば、前述した訪問看護の場合のゴールは、この人が自宅にいていいか、病院へ行ったり医師にすぐに報告したりしたほうがいいかを判断することです。
これを判断するために必要な情報を集めるのがアセスメントです。
アセスメントの目的をはっきりさせる
アセスメントを行う際には、どうしたいのか、何のためのアセスメントなのかをしっかりと考えて、どこまでアセスメントすることが必要なのかを見極めていってほしいと思います。
アセスメントの話になると、疾患名が気になる人が多いようです。例えば、呼吸をするときにヒューヒューといった呼吸音が聞こえると「これは喘息ですか?」とすぐに疾患に結びつけようとしてしまいがちです。
確かに喘息でもそういった状態になるけれど、誤嚥でもなる可能性はあるでしょう。疾患名が明らかにならなくても、空気の通り道が狭まっていて苦しそうだ、ということはわかりますよね。
これでけでも十分アセスメントといえると思うのです。疾患名がわからなくたって、その患者さんの状態を知ることはできるでしょう。
今、こういう状態にある人ですと明らかにするのも一つのゴールです。疾患名を知ることが何より大事なのではなく、疾患名という手掛かりがあったほうが、その人を捉えやすい、活用できる情報の一つだと思えばよいでしょう。
かもしれないリストってなに?
みなさんは、あまり意識的に行っていないかもしれませんが、患者さんの状態をアセスメントするときには、「今、患者さんにはこのようなことが起こっているのではないか」ということを考えていると思います。
「○○かもしれない」→「アセスメントをする」→「ほぼ間違いなさそう」→「ケアを実施」という手順を踏んでいるはずです。1回で「ほぼ間違いなさそう」に進めることもあれば、「違った」となり、また「○○かもしれない」に戻ることもありますよね。
このとき、1つしか「かもしれない」というのが思い浮かばず、さらに「違った」場合には、行き詰まってしまいます。
ですから、アセスメントするときは、どれだけ「かもしれない」をリストに上げることができているかが大事になります。
この「かもしれないリスト」は、基本的にはみなさんのこれまでの経験から「こういうことが考えられるのではないか」と患者さんの状態を推察し、リストアップしてできていると思います。
そうなると、より経験を積んだ人のほうがリストアップできて、経験の浅い人にはできない、となってしまいます。しかし、実際はそうではありません。
経験はあっても自分の中である程度体系化されていなければ、とっさに思い浮かべることは難しいでしょう。
そこで体系化するには日々の看護の中でなぜそのような状態になっていたのかと振り返っておくこと。特に失敗してしまったことに対しては、自分がなぜそこでつまずいてしまったのか、間違ってしまったのかを考えてみることが大切です。
また、経験が少なければ知識で補う、ということもできます。症状や疾患についての知識を得ることはもちろん、この連載のようにカンファランスなどで、他の人が体験したものを自分の経験として取り込むこともできるでしょう。
そうすることで「かもしれないリスト」の内容を増やすことができます。ですから、こういったカンファランスの場も大切にしてほしいと思います。
リストを絞り込んでいくには知識が必要
リストアップした「かもしれないリスト」を合理的に選別していくためには、知識が必要です。
この一連の作業は、九九を覚えるのや因数分解をすることと似ています。
「 2つの数字をかけて12になるものにはどんなものがあるか」と言われたとき、1×12、2× 6、3×4などが思い浮かぶでしょう。もっと頭を柔らかくして考えると24×0.5や36×1/3というのもあるかもしれない。
これが「かもしれないリスト」を作ることにあたり、推論するということです。推論をしたら、次は絞り込むための情報収集を行います。
例えば、「整数の掛け合わせで」「一桁の数字の掛け合わせで」などという情報があれば、さらに、絞り込んでいくことができますね。この情報収集から絞り込んでいく作業がアセスメントをすることにあたります。
このように九九と因数分解に例えると、因数分解を行うには九九というかけ算の基礎知識が必要だということがわかります。
ですから、アセスメントを行うためには、基本的な知識は欠かせません。
キーワード中心の学び方の落とし穴
参考書のような本では、キーワードだけを学んだり、箇条書きで簡潔に書いてあるものがあります。
十分に勉強している人が、そういったものを参考にするのはよいのですが、時間がないからキーワードだけ覚えればいい、というのは危険です。
例えば、イレウスー金属音と書いてあるものはよくありますよね。そこだけ覚えていると、イレウスの人の腸蠕動音を聴診したときに、「イレウスなのに金属音がしません。変です」となってしまう。
でも、実際は、イレウスのときには、金属音がすることもないわけではない、というくらいなのです。
キーワードだけだと、てにをはやその他の説明を自己流で埋めてしまう。このようにあるキーワードがあったらこれ、なかったらこれ、というように途中はわからないけど、とにかくパターンで覚える、ということはとても怖いことです。
人間を相手にすると、症状の出現の仕方ひとつを取ってみても多少の揺れ幅はありますよね。パターンどおりにはいかないことはよくあることで、ちょっとパターンと違うと応用が利かないというのでは困ってしまいます。
また、記録でも単語だけ、あるいは箇条書きなどにすると、その間のてにをはなどを読み手が自分の思うように埋めてしまって、正しく伝わらないこともあるので、注意が必要です。
異常所見なしも重要な情報
何かおかしいと感じたときに、アクションを起こすことも大事。異常所見がなかったことを自分の勘がハズレたと思うことはありません。
探しもしなかったのとは違います。明らかに異常所見はなかったという事実を捉えたとポジティブに考えてください。明らかに何かおかしいと思わせることが、その段階ではなかったという事実を見つけた。これはものすごく大事なことです。
「異常所見なし」や「変化なし」だった場合、記録に残さないこともあるのではないでしょうか。
その場合、確認して変化がなかったのか、そもそも確認もしていないのかの区別がつきません。「異常所見なし」や「変化なし」も大切な情報として、記載しておきましょう。
記録や報告をするときに結論にたどりついた経緯を省略して「●●だったので、■■を実施しました」と結果しか伝えないこともあるのではないでしょうか。
それでは、それしか考えなかったと誤解されてしまう可能性があります。
みなさんは、患者さんの生活や状態を見て、よりよいケアが何かを判断して提供していますよね。そこをしっかりと記録や報告で出していくことも大切だと思うのです。
そうしていかなければ、処置屋さんとなってしまって、処置の手際のいい人がいい看護師、という評価になってしまいかねません。
急に理想的にするのは難しいかもしれませんが、どう書くといいのか試行錯誤していってください。この連載では、ほかのみなさんのコメントが読めます。
「同じことを考えているけど、こうやって表現するとわかりやすいな」とか「私の言いたかったことがうまく表現されているな」とか、思考の出し方のサンプル例がたくさん見られます。こういった場も活用してほしいと思います。