【深部静脈血栓症】 3つの重要な検査(D-ダイマー他)と治療法
- 公開日: 2016/8/27
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どんな検査があるの?
深部静脈血栓症を診断するためには、以下の表に示すようにさまざまな検査があります。
中でも下肢静脈超音波検査や凝固線溶マーカーのD-dimer<ダイマー>(血液検査)などの検査が不可欠です。
その結果、深部静脈血栓症が疑われる場合は、造影CT検査など画像検査でさらに精査していきます。
特に重要な3つの検査を紹介します。
(1)下肢静脈超音波検査
深部静脈血栓症が疑われる場合、最初に行うべき検査です。
下肢静脈を超音波で描出して評価します。非侵襲的な検査であり、最近では機器の性能も向上しました。
●ここに注意!
中枢側の静脈(下大静脈、腸骨静脈)は、描出困難な場合もあります。鼠径靱帯以下の評価には有用ですが、それよりも上部の血栓が疑われる場合、CTなどの画像検査が必要となります。
(2)D-ダイマー(血液検査)
凝固線溶マーカーの1つ。血栓の存在により線溶現象が亢進し、D-ダイマーが高い値を示します。
深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症(※)の診断に有効な検査で、D-ダイマーが正常であれば、静脈血栓塞栓症・肺血栓塞栓症を否定できます。治療の効果を判定する際にも使用されます。
※肺血栓塞栓症(PTE) :血栓が遊離して静脈血流にのって肺に移動し、肺動脈を閉塞する病態。原因のほとんどが深部静脈血栓症であることから、深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症は1つの連続した病態、さらには深部静脈血栓症の合併症が肺血栓塞栓症であると捉えられている。
●ここに注意!
D-ダイマーは、炎症、腫瘍、消化管出血、臓器出血、リンパうっ滞などでも上昇するため、陽性で必ずしも深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症と確定診断することはできません。他の検査と併せて診断する必要があります。
(3)造影CT検査
血管内に注入した造影剤により血管の形態や走行、閉塞の状態を確認します。深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症を1回の検査で確認できます。機器の性能も向上していることから、CTは有用な検査です。
これらの検査は診断のために行うだけでなく、検査結果を通して患者さんの血栓部位(範囲)・血栓(性状)・血流(還流障害)の把握とケアの判断に役立ちます。
例えば超音波検査で“血栓の動揺あり”とあった場合、肺血栓塞栓症の発症リスクが高く、安静度について医師に確認する必要があります。
【Dr’s Advice】
潜在患者さんが多い深部静脈血栓症
無症候性が多いため、深部静脈血栓症のリスクの高い患者さんに対してはスクリーニング検査を行うことも一法ですが、保険診療の範囲内では問題があるかもしれません。
当院では、臨床研究として消化器がん周術期の入院患者さん60例に超音波検査を行いました。結果、5例(8.3%)の患者さんに術前から静脈血栓があることがわかりました。また手術後はさらに増加して、6週までに全体で17例(28.3%)の患者さんに静脈血栓がみられました (文献1参照)。
こうしたことからも、ハイリスク患者さんへの深部静脈血栓症の予防は非常に重要であることがわかります。
発見のポイント
■ちょっとした「むくみ」のサインを見逃さない
無症候性が多い深部静脈血栓症ですが、患者さんも気づかない、ちょっとしたサインを見逃さないことが大切です。
症状を訴えない場合でも、視診や触診をすると、なんとなくむくんでいる、左右差があると気づくこともあります。特に左右差は重要なポイントで、両下肢に病変があったとしても、どちらかに強く症状が現れることが多いのです。
こうしたサインをみつけるためには、多くの下肢をみて触ってみることが必要です。できれば、すでに深部静脈血栓症を発症している下肢をよく観察し、触ってみるとよいでしょう。
■肺血栓塞栓症の発症に備える!
肺血栓塞栓症は早期に発見し、早期診断・治療することで救命の確率が高くなります。患者さんの変化や原因不明の急変などにおいて、肺血栓塞栓症に関連した症状ではないか、疑いをもてるかが重要です。
よって、深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症についての理解を深め、肺血栓塞栓症が発症しても迅速に、適切な対処ができるように備えておきましょう。
また、肺血栓塞栓症が発症しやすいのは、安静状態から身体を動かしたときです。こうした誘発場面を念頭におき、初回歩行時には必ず付き添い、清拭や体位変換、排泄、リハビリテーション、処置、検査、食事などを行う際には、肺血栓塞栓症の前兆的な症状や症候を見逃さないよう注意しましょう。
図 肺血栓塞栓症の発症の誘因
どんな治療法があるの?
深部静脈血栓症の治療目標は、
①血栓症の進展や再発の予防
②肺血栓塞栓症(※)の予防
③早期・晩期後遺症の軽減
になります(文献2参照)。
治療の第一選択は抗凝固療法で、肺血栓塞栓症や肺血栓塞栓症のセカンドアタックの予防法として最も効果的な療法です。また、深部静脈血栓症の予防として知られる圧迫療法(弾性ストッキング・弾性包帯の着用)は、治療としても広く実施されています。
他に、カテーテル血栓溶解療法、外科的血栓摘除術、下大静脈フィルター留置術などがあります。
抗凝固療法
従来は、抗凝固薬としてヘパリン(注射薬)、ワルファリンが使用されていましたが、最近では注射薬のフォンダパリヌクスが認可され、経口薬もワルファリンに替わる新たな抗凝固薬であるNOAC(novel oral anticoagulant)(※)が登場し、薬剤選択の幅が広がりました。
ワルファリンの問題点は患者さんによって服用量が異なること、効果が不安定で血液検査によるモニタリングが必要なことでした。しかし、NOACは個人差が少なく、モニタリングの必要はありません。
またワルファリンと異なり効果が早く、薬効が短い特徴があります。NOACの問題点として、効果の指標がないこと、中和剤がないことが挙げられ、今後の開発が待たれています。
※NOAC(novel oral anticoagulant):日本国内ではリバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンの3種が静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症の総称)の適応がある。
圧迫療法
弾性ストッキングや弾性包帯で患肢を圧迫することにより、下腿の筋ポンプ作用の増強および、微小循環の改善を図ります。
深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症や血栓後遺症(※)の治療と予防を目的に行われます。ただし、深部静脈血栓症の急性期では肺血栓塞栓症を引き起こすリスクがあり、慎重に実施する必要があります。
※血栓後遺症:血栓が残存することにより血流のうっ滞や静脈高血圧が生じて起こる症状。皮膚炎、二次性静脈瘤、色素沈着、湿疹、難治性潰瘍など。
その他の治療法
■カテーテル血栓吸引・溶解療法
カテーテルを血管内に挿入、留置して、血栓を吸引したり、溶解剤を投与したりすることにより、血栓を減少させる治療法。
■外科的血栓摘除術
外科的に静脈を露出して、直視下に血栓を除去する。
■下大静脈フィルター留置術
下大静脈にフィルターを留置することにより、遊離した血栓が肺まで移動することを防ぐ目的で
行われる(のちにフィルターは回収することが推奨されている)。
【引用文献】
1)小島淳夫, 他:消化器癌周術期における深部静脈血栓症の経時的発生頻度に関する検討̶当院における前向き調査より̶.脈管学 2013;53(September):143-9.
2)安藤太三, 他:肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断・治療・年防に関するガイドライン(2009 年改訂版).日本循環器学会.
(『ナース専科マガジン』2016年6月号から改変利用)
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