心不全薬の種類・作用機序
- 公開日: 2019/3/23
心不全には急性と慢性があり、治療への考え方が異なるため、薬の使い方も異なります。そこで、それぞれの病態を理解したうえで、作用機序によって治療薬をどのように使い分けていくのかを解説します。
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心不全の看護|原因、種類、診断、治療
心不全に使う薬とは
心不全とは、心臓が十分に機能していない病態の総称で、原因となる疾患は心筋梗塞、弁膜症などさまざまです。心拍出量が低下するため、息切れ、疲れやすさ、心臓への静脈還流が妨げられるため、末梢性浮腫などの症状が現れます。
心不全は一度入院すると、その後の5年生存率は約30%となり、がんと診断後の5年生存率(がん全体では約50%)よりも不良です。そのため、心不全ではごく初期の無症状、あるいはリスク因子が存在しているだけの段階から薬による治療を始め、入院に至らないよう早期に改善を図ることが肝要です。
急性心不全と慢性心不全では、治療に対する考え方が基本的に違います。
急性心不全では、循環動態を安定させ症状を改善させること、つまり「今」が優先されます。心筋の収縮力低下に対しては強心薬・血管拡張薬、うっ血や浮腫に対しては利尿薬が使われます。
慢性心不全では、長期生命予後の改善、すなわち「将来」が重要となります。心機能は血液(酸素)を全身の組織へ送り出す働きを指しますが、この機能が低下すると、生物はこれを無抵抗に受け入れるのではなく、これに打ち勝とうとして、さまざまな代償機構を働かせます。この代償機構は短期的にはよいのですが、長く続くと弱った心臓に鞭を打つようなもので逆効果となってしまいます。
まず、心機能の低下が続くと心拍出量と血圧の低下が起こります。すると、体液を増加させることで血圧を上げようとする腎臓のレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)が活性化されます。同じく交感神経系の活動も亢進し、心拍出量の上昇や心筋の収縮力の増強が起こり、血流を維持しようとします。しかし、これらの長期にわたる過剰な活性状態はやがて心臓を疲弊させ、心不全の悪化を招きます。
そこで、慢性心不全ではこの二大代償機構であるRAA系と交感神経系を標的としたアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬が使われます。
急性心不全薬
1.強心薬
強心薬は、心筋の収縮力を増強し、心機能を改善させる薬です。主な強心薬を表1に示します。
表1 主な強心薬
(1)作用機序
強心薬は細胞内のCa2+濃度を上昇させることで心筋の収縮力を増強します。心筋は細胞そのものが自発的に電気的な興奮(活動電位)を引き起こします。この興奮が心筋線維に伝えられ、細胞内のCa2+濃度が上昇し、心筋の収縮が起こります。