臨床的認知症尺度(Clinical Dementia Rating:CDR)
- 公開日: 2020/3/10
1.このスケールは何を判断するもの?
臨床的認知症尺度(Clinical Dementia Rating:CDR)とは、認知症の重症度を評価するためのスケールの一つです。このスケールの特徴は、認知機能や生活状況などに関する6つの項目を診察上の所見や家族など周囲の人からの情報に基づいて評価する「観察法」です。それぞれの項目は「健康」な状態から「重度認知症」まで5つの段階に分類されています。評価表に基づいて分類することで認知症の程度だけでなく、特に障害されている機能を把握し、予後の見通しを立てるのに役立ちます。
しかし、このスケールは認知症の診断自体に用いられることはなく、あくまで認知症によるそれぞれの機能障害の重症度を判定し、その後の生活支援などのプランを立てることに利用されます。
2.スケールはこう使う!
臨床的認知症尺度(CDR)では、記憶、見当識、判断力・問題解決、社会適応、家庭状況・興味・関心、介護状況の6項目について、評価表に基づいて「健康(CDR0)」、「認知症疑い(CDR0.5)」、「軽度認知症(CDR1)」、「中等度認知症(CDR2)」、「重度認知症(CDR3)」の5段階に分類します。
健康 (CDR0) |
認知症の疑い (CDR0.5) |
軽度認知症(CDR1) | 中等度認知症 (CDR2) |
重度認知症 (CDR3) |
|
---|---|---|---|---|---|
記憶 | 記憶障害なし 若干の物忘れ |
一貫した軽い物忘れ、出来事を部分的に思い出す良性健忘 | 中等度記憶障害、特に最近の出来事に関するもの、日常生活に支障 | 重度記憶障害、高度に学習した記憶は保持、新しいものはすぐに忘れる | 重度記憶障害、断片記憶のみ残存 |
見当識 | 見当識障害なし | 左同 | 時間に対しての障害あり。検査では場所・人物の失見当はないが、時に地理的失見当あり | 常時、時間の失見当、時に場所の失見当 | 人物への見当識のみ |
判断力 問題解決 |
適切な判断力 問題解決 |
問題解決能力の障害が疑われる | 複雑な問題解決に関する中等度の障害、 社会保持判断は保持 |
重度の問題解決能力の障害 社会的判断力の障害 |
判断不能 問題解決不能 |
社会適応 | 社会的グループで普通の自立した機能 | 左記の活動の軽度の障害、その疑い | 左記の活動にかかわっていても自立した機能が果たせない | 一般社会では自立した機能を果たせない | 左同 |
家庭状況 興味・関心 |
生活、趣味、知的関心が保持されている | 左同、若干の障害 | 軽度の家庭生活の障害、複雑な家事は障害、高度の趣味・関心の喪失 | 単純な家事のみ限定された関心 | 家庭内不適応 |
介護状況 | セルフケア完全 | 左同 | ときどき激励が必要 | 着衣、衛生管理などの身の回りのことに介助が必要 | 日常生活に十分な介護を要する、しばしば失禁 |
Hughes CP et al.:A new clinical scale for the staging of dementia.Br J Psychiatry 1982;140:566-72.より引用
このスケールは、認知症の重症度を評価するための「観察法」によるスケールとして1980年代から世界中で広く用いられています。評価方法は診察や家族などからの情報に基づいて評価表に当てはめて行えばよく、簡便さもポイントの一つです。しかし、検査所見などの客観的なデータに基づかないため、評価を行う際には患者さんの状況を正しく把握しておくように注意しましょう。
3.スケールを看護に活かす!
臨床的認知症尺度(CDR)では、認知症によって障害されやすい機能や生活状況について、どの部分の障害が特に強いかを把握することが可能です。患者支援の際には、より機能が低い部分をメインにするように計画を立てましょう。
統計によると、軽度認知機能障害(MCI)に相当する「認知症疑い(CDR0.5)」と評価された方の10~15%は、1年間のうちに認知症に進行するとされています1)。また、評価的には「健康(CDR0)」であっても必ずしも背景に認知症がないとは言い切れません。このため、患者さんの評価がCDR0~0.5でも油断せずに経過を追い、状態に応じた支援を行うことが大切です。
一般的に、認知症は緩やかな経過をたどります。しかし、患者さんの年齢や認知症の種類によっては症状の進行が早い場合もあります。そのため、このスケールで繰り返し評価を行い、患者さんの状態を適切に把握していきます。
再評価の結果、認知症の重症度が大きく上がっている場合は、頭蓋内疾患や代謝内分泌疾患など認知症と似た症状が現れる病気を発症している可能性もあります。日々のケアでこれらの疾患に関連する症状を認めた際は、できるだけ早く医師に報告するようにしましょう。
引用文献
1)厚生労働省 認知症有病率調査について(2020年1月16日閲覧)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000033t43-att/2r98520000033t9m_1.pdf