頭痛を訴える患者さんのアセスメントと対応
- 公開日: 2020/12/6
事例紹介
患者背景Bさん、60歳代、男性
・既往歴:片頭痛、高血圧、糖尿病
・内服薬:ロキソニン(片頭痛)、抗不安薬(診断はないが最近元気がないため、近所の精神科クリニックより処方)、糖尿病治療薬(お薬手帳の持参がなく、詳細は不明)
現病歴
主訴は頭痛、元気がない、胸のむかつき、肩や首のこり。元々片頭痛があり、鎮痛薬を内服していた。昨日より片頭痛が続いており、鎮痛薬を内服し様子をみていたが、食欲不振や胸がムカムカする感じがありベッドで寝ていたため、家族が心配して独歩で救急外来を受診。
待合のソファに横になっていたが、トリアージを行う際は起きて問診に応答。トリアージが終了するとすぐに横になり、後頸部をさすっている姿がみられた。本人は「大丈夫だけど、妻が心配してね。いつもよりちょっと痛みがひどいだけだよ」と話している。
身体所見
意識レベルJCS 0・GCS 15(E4V5M6)、呼吸21回/分、脈拍76回/分、血圧154/54mmHg、体温37.4℃
瞳孔左右3.0/3.0、対光反射−/−
CPSS陰性、Jolt accentuation陽性
麻痺なし
検査
・12誘導心電図:心拍78回/分、NSR
・頭部CT:くも膜下出血あり。Hunt and Kosnik Ⅱ、WFNS Ⅰ、Fisher 3
くも膜下出血の診断にてICUへ収容。3D-CTA(3次元CTアンギオグラフィー)にて前交通動脈に動脈瘤を認めたため、緊急クリッピング手術となった。
不定愁訴かどうかを見極める
「頭痛」は主観的な体験であるとともに、他覚的・客観的所見に乏しい場合もあり、経過観察で問題ないか、緊急な対応を要するのかの判断が難しいケースがあります。また、事例の患者さんは、普段から頭痛をはじめとする不調を認めるため、不定愁訴かどうかを見極めることから始めます。
事例において見極めが必要な患者さんの訴え
・鎮痛薬を服用しても頭痛が改善しない
不定愁訴かどうかの見極め方
不定愁訴は、「①長期・慢性(時間)」「②全身・非局在(分布)」「③軽度・自制内(程度)」の3要素が適度に存在し続けることとされ、1つでも欠けると、不定愁訴という様相ではなくなるといわれています1)。
Bさんは、この3つの要素(①元々片頭痛があり鎮痛薬を常用している経過がある、②頭痛以外の訴えが漠然としており局在性に乏しい、③いつもより少しひどいだけで大丈夫と話している)が存在していることから、一見、不定愁訴と思われます。詳細は不明ですが、抗不安薬を内服しているという背景も不定愁訴をより疑わせる事例でした。
しかし、常用している鎮痛薬が効かないと訴えており、新たに生じたイベントであることが示唆されます。後頸部をさすっている様子は、髄膜刺激徴候である項部硬直を疑わせる所見であるため、重篤な疾患が隠れていないか確認が必要と判断しました。
状態を把握する
事例から読み取るべき患者さんの状態
・嘔気・嘔吐などの胸部症状がある
・後頸部に違和感・疼痛がある
・首を左右に振ると頭痛が増強する
・微熱がある
状態把握のために必要な知識とポイント
ポイント1:ABCDを評価するA(気道)・B(呼吸)・C(循環)・D(意識)の評価を行います。Bさんはやや血圧が高いものの、気道の開通や呼吸数、意識レベルは問題がなく、特に異常がないことを確認しました。
ポイント2:頭蓋内病変の可能性を確認する
頭痛のほとんどは良性ですが、くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)、脳出血、中枢神経感染症(髄膜炎、脳炎、脊髄炎など)を見逃さないことが重要です。
Bさんは、頭蓋内圧亢進症状(瞳孔不同、対光反射消失、片麻痺、Cushing現象)がなく、シンシナティ病院前脳卒中スケール(cincinnati prehospital stroke scale:CPSS )(表1)も陰性だったため、脳卒中の可能性は低いと考えられました。
表1 シンシナティ病院前脳卒中スケール
顔の歪み (歯を見せるように、あるいは笑ってもらう) | 正常:顔面が左右対称 |
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異常:片側が他側のように動かない | |
上肢挙上 (閉眼させ、10秒以上上肢を挙上させる) | 正常:両側共同様に挙上、あるいは全く挙がらない |
異常:一側が挙がらない、または他側に比較して挙がらない | |
構音障害 | 正常:滞りなく正確に話せる |
異常:不明瞭な言葉、間違った言葉、あるいは全く話せない |
※3つの徴候のうち、1つでも異常を認めた場合は脳卒中を強く疑う
Kothari RU, et al:Cincinnati Prehospital Stroke Scale:reproducibility and validity.Ann Emerg Med 1999;33(4):373-8.を参考に作成
しかし、発症様式に的を絞った問診と身体所見から、普段使用している鎮痛薬が効かず、これまでの頭痛と違い急性・増悪している、嘔気がある、項部硬直がみられる、jolt accentuation(首を左右に振ると頭痛が増強する)陽性など、SAHを疑う特徴的な所見を認めました。
また、Bさんは項部硬直に加えて微熱がみられ、中枢神経感染症を起こしている可能性もあります。髄膜刺激徴候や発熱の有無のほかに、採血の炎症反応を確認し、疑われる場合は髄液検査にて診断します。
ポイント3:急性冠症候群の可能性を確認する
Bさんのように嘔気・嘔吐などの胸部症状がある場合は、急性冠症候群の可能性やSAHによる心電図変化を確認するため、12誘導心電図による評価が必要です。Bさんの場合、糖尿病が既往にあり、急性冠症候群による疼痛が隠れている可能性が考えられます。
非局在性の症状の場合には、糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis:DKA)を否定するため、血糖値や血液ガス分析の結果も確認します。
緊急度を判断する
Bさんは気道・呼吸・循環・意識に異常はありませんでしたが、ソファで座位を保てず、第一印象として準緊急~緊急であると判断しました。著明ではありませんが血圧がやや高く、SAHであった場合には再破裂を起こし、致命的となることが考えられます。
状態に合わせて対処する
BさんはSAHが疑われるため、再破裂の予防が重要です。気道・呼吸・循環の安定化を図るとともに侵襲的な検査や処置は極力避け、目に光を入れないよう照明を調整するなど、安静を保てる環境をつくります。
また、血圧を120 mmHg以下に保つ必要から降圧薬を投与する可能性、嘔吐による窒息や誤嚥に備え、制吐剤などを使用することも考えられます。薬剤投与が迅速に行えるよう静脈路を早期に確保します。脳神経外科医への診察の依頼と同時に、手術の準備も行います。
医師に報告する
簡潔・明瞭に伝えるためにISBARC(表2)が推奨されています。その中でも医師に最も伝えるべき内容は、「A(評価):SAHを疑う患者いる」ことと、「R(提案):診察を依頼する」ことです。それを裏付けるために必要な「S:状況」「B:背景」の内容を抽出し、根幹が伝わるよう工夫します。
表2 ISBARCを用いた報告例
報告例 | |
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Identify (報告者と患者の同定) | ・救急外来の看護師◎◎です。独歩で来院されたBさんについて報告します。 |
Situation (患者さんの状態) | ・強い頭痛と嘔気、髄膜刺激徴候を認めます。 |
Background (入院の理由・臨床経過) | ・片頭痛で普段内服している鎮痛薬を使用しても改善しないほどの強度の頭痛、嘔気があり、jolt accentuationが陽性です。 ・血圧は現在154/54mmHgです。 |
Assessment (状況評価の結論) | ・くも膜下出血の可能性があり、再破裂予防のため安静と降圧の必要があると考えます。 |
Recommendation (提言または具体的な要望・要請) | ・すぐに診察をお願いします。 |
Confirm(指示受け内容の口頭確認) | ・(医師から指示があれば、指示の内容を復唱) |
対応の流れを振り返る
頭痛を訴える患者さんへの対応の流れについて、フローチャートで振り返ります。
引用・参考文献
1)國松淳和:内科で診る不定愁訴 診断マトリックスでよくわかる不定愁訴のミカタ.加藤 温,監.中山書店,2015.p.2.
●日本救急看護学会,監:ファーストエイド すべての看護職のための緊急・応急処置.第2版.へるす出版,2017.
●日本救急医学会,監:救急診療指針 第5版.へるす出版,2018,p.277-80.
●日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会,編:脳卒中治療ガイドライン2015.協和企画,2015.
●American Heart Association:ACLSプロバイダーマニュアル AHAガイドライン2015準拠.シナジー,2017.
●日本救急看護学会,監:ファーストエイド すべての看護職のための緊急・応急処置.第2版.へるす出版,2017,p.57-60.
●前野哲博,編:帰してはいけない外来患者.医学書院,2012,p.48-9.