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【連載】輸血看護を極めよう!

輸血の副作用|溶血性副作用と非溶血性副作用

  • 公開日: 2022/7/27

 輸血は供血者(献血者)の血液を受血者(患者さん)の体内へ入れる医療行為であり、臓器移植の1つとして考えられています。輸血による副作用は、発熱や蕁麻疹など比較的軽症のものから、アナフィラキシーショック、溶血反応など生命にかかわる重篤なものまで多岐にわたります。輸血を取り扱う私たち看護師は、それを念頭に置いて、安全で適正な輸血を行わなければなりません。そのためには異常の早期発見・早期対応がとても重要です。

 輸血による副作用は、溶血性副作用と非溶血性副作用、副作用の発症時期で分類した即時型副作用と遅発型副作用に大別されます。今回は前者の分類、溶血性副作用と非溶血性副作用について紹介していきたいと思います。

A.溶血性副作用

1.即時型

ABO不適合輸血

 ABO不適合輸血とは、ABO血液型が異なり、交差適合試験が不適合を示す血液を誤って輸血してしまうことをいいます。受血者(患者さん)が輸血された血球に対するIgM抗体を持っているため、即座に抗原抗体反応を生じ、補体が活性化して血管内溶血をきたします。


 重症度は不適合輸血の血液型の組み合わせと輸血量、患者さんの保有する抗体の強さによって異なりますが、初期症状は血管痛、胸痛、背部痛、悪寒などが見られます。その後、チアノーゼや血圧低下などのショック状態となり、対応が遅れると死に至ることもあります。


 このような不適合輸血を予防し安全に輸血を行うために、ダブルチェック(血液製剤受け取り時、部署での使用時、使用直前のベッドサイド)が重要です。当院では、輸血開始前に血液製剤と患者さんのリストバンドを照合するPDA認証を導入しています。

 不適合輸血による初期症状は、輸血早期の観察で発見できます。また、万一、不適合輸血が起こったとしても、輸血量が50mL未満であれば救命できる可能性が高いと言われています1)。輸血開始からの15分間は1mL/分の速度を守り、輸血開始から5分間はベッドサイドから離れず患者さんの状態を観察し、輸血開始から15分経過した時点でもう一度患者さんの状態を観察しましょう。観察項目は、血圧、脈拍、体温、酸素飽和度です。


2.遅発型

遅発性溶血性副作用

 遅発性溶血性副作用のほとんどは、不規則抗体が原因であり、初回輸血によるものは極めてまれです。多く見られる臨床徴候はヘモグロビン濃度の低下と黄疸と発熱で、ヘモグロビン尿が観察されることがあります。多くは血管外溶血ですが、まれに血管内溶血が起こることもあり、腎不全を起こして死亡する症例も報告されています。


※不規則抗体
 過去の輸血(または妊娠等)により、患者さんが自分の保有しない赤血球抗原に対する同種抗体を産生することがあります。これを不規則抗体といいます。不規則抗体が検出された場合には、対応する抗原を持たない赤血球を輸血します。この不規則抗体は、経時的に抗体価(抗体量)が低下し、次の輸血前の検査の際には検出できなくなる場合があります。その状況下で、不規則抗体と対応する抗原を持つ赤血球が輸血されると抗原刺激を受け(二次免疫応答)、輸血後24時間から2週間で速やかに抗体価が上昇し輸血されて患者さんの体内に残存している赤血球と抗原抗体反応が起こる結果、溶血をきたします。

B.非溶血性副作用

1.即時型

アレルギー反応、アナフィラキシーショック

 アレルギー反応は輸血による副作用の中では最も頻度が高い副作用です。発生頻度は赤血球製剤では0.5〜1%、血小板製剤では約3〜4%といわれています。血液製剤中の抗原と患者さんの肥満細胞上のIgEによる抗原抗体反応によって起こるⅠ型アレルギー反応がほとんどです。


 アレルギー反応であれば発熱、蕁麻疹、掻痒感などの症状で、抗ヒスタミン薬や副腎皮質ステロイドの投与で軽快しますが、アナフィラキシーショックで重症になると呼吸困難、血圧や意識レベルが低下し、場合によっては死に至ることがあります。アナフィラキシーの場合には、アドレナリンの筋注(成人の場合0.3mg)を速やかに投与する必要があります。


発熱

 発熱はアレルギー反応で起こる蕁麻疹と並び頻度の高い副作用です。発生頻度は0.1〜0.2%とされています。輸血開始から数時間以内に1℃以上の体温上昇がみられた場合で、輸血以外の原因が否定された場合は非溶血性副作用と考えます。機序として、血液製剤中に含まれている白血球が患者さんの体内で産生したサイトカインの作用や、保管中の輸血バッグ内でのサイトカイン濃度の上昇などが想定されています。2007年から保存前白血球除去が行われるようになってから、発熱副作用は減少しました。


 また、輸血を頻回に必要とする患者さんは、全身状態が不良であったり、易感染状態にある場合も多く、輸血開始前より発熱を認めたたり、輸血中にさらに体温が上昇することも珍しくありません。輸血による副作用なのか鑑別は難しいです。医師に報告しましょう。

細菌感染症

 輸血による重要な副作用に細菌感染症があります。輸血用血液に細菌が混入する経路としては、献血採血時の不十分な消毒や皮膚毛嚢を貫いた採血、無症候の菌血症状態にある献血者からの採血、バッグの破損、輸血口の汚染などがあります2)


 細菌感染症の発生頻度は血小板製剤によるものが一番多いといわれています。血小板は低温保存により、生体内における寿命が短縮されること、また静置保存により止血効果が低下することが報告されており、血小板製剤は20〜24℃で振盪保管する必要があります。この細菌が増殖しやすい温度での保存条件が、血小板製剤に細菌感染が多い理由といえるでしょう。

 献血時に混入するアクネ菌・表皮ブドウ球菌は、採血初期の血液に含まれることが多いといわれています。献血時に初流血を25mL除去することで、細菌汚染のリスクを低減させています。

 細菌感染症による副作用は、輸血開始初期から輸血中に多く見られます。輸血中の悪寒戦慄や高熱、血圧低下などの症状を観察した際には、直ちに輸血を中止して医師に報告しましょう。

輸血関連急性肺障害(TRALI:Transfusion-related acute lung injury)

 TRALIとは、輸血後に非心原性肺水腫による呼吸困難を呈する重篤な輸血副作用です。輸血開始後6時間以内に発症し、多くは96時間以内に収束する急性の肺障害で、肺の毛細血管の透過性亢進により肺胞腔内に血管内の水分が移行して肺水腫となります。原因として、輸血バッグ内の抗白血球抗体等が関与しているといわれています。


輸血関連循環過負荷(TACO:Transfusion associated circulatory overload)

 TACOとは、輸血や輸液の過剰な量負荷もしくは過剰な速度負荷のために起こるうっ血性心不全であり、呼吸困難、起坐呼吸、浮腫、血圧上昇などの症状を伴います。特に心機能の低下した高齢者、小児では注意が必要です。


 TRALIとの鑑別が重要で、TACOの治療に用いる利尿薬は、TRALIに対して用いると症状を悪化させるおそれがあるため、注意が必要です(表1)。


表1 TRALIとTACOの違い
輸血関連急性肺障害(TRALI)
輸血関連循環過負荷(TACO)
TRALIは輸血開始〜6時間以内に発症し、多くは96時間以内に収束する急性呼吸障害である。活性化好中球による肺胞隔壁や毛細血管の破綻、それによる透過性亢進が機序と考えられている。輸血量と症状の程度は必ずしも平行せず、TACOとの鑑別上、循環負荷がないことが重要である。
輸血副反応というより、過誤ともいうべき問題である。すなわち、不用意な急速・大量輸血は時に呼吸困難、起座呼吸、浮腫、血圧上昇などの心不全症状をもたらす。この病態をTACOと称し、循環負荷による静水圧の上昇で蛋白や細胞成分の少ない水分が漏出することが機序とされている。特に心機能の低下した高齢者、小児では注意が必要である。

2.遅発型

輸血後移植片対宿主病(PT‐GVHD:Post transfusion graft versus host disease)

 輸血後移植片対宿主病(PT‐GVHD)とは、供血者(献血者)のT細胞が受血者(患者さん)の細胞、組織を攻撃することによって重篤な症状が引き起こされる疾患です。


 PT‐GVHDでは、骨髄をはじめ、皮膚、肝臓、消化管が標的となります。輸血後1~2週間後に発熱や紅斑が出現し、白血球と血小板の急激な減少、肝障害や下痢などの症状が続き、多臓器不全をきたします。有効な治療法が確立されておらず、いったん発症するとほぼ100%死亡するといわれています。


 赤血球製剤と血小板製剤には15~50Gyの放射線照射がPT-GVHD予防に極めて有効で、2000年から導入されています。血液製剤のラベルに「Ir」と記載されています。これが放射線照射済みという意味を示しています。輸血開始前には照射済みであることを確認しましょう。


ウイルス感染症

 輸血による感染症にウイルス感染があります。日本ではHBV、HCV、HEV、HIV、HTLV-1、CMVなどのウイルスが確認されています。ウイルス感染に対する検査の感度には限界があり、感染初期には検出されないというウインドウ期「すり抜け」状態が問題となっていました。しかし、1999年からHBV、HCV、HIVに対して拡散増幅検査(NAT)が導入されるようになってからは、ウインドウ期は短縮されました。さらに、2014年からはプールNATから個別NATに変更され、検査感度があがったため、現在は輸血によるHBV、HCV、HIV感染は極めてまれです。2020年8月からはHEVに対してもNATが導入されています。


 しかし、ウインドウ期がゼロにはなっていないため、輸血後の肝機能の異常をはじめとする何らかの健康障害を認めた場合には、輸血後感染症検査にて確認する必要があります。


引用・参考文献

1)厚生労働科学研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業 医療機関内輸血副作用監視体制に関する研究 :安全な輸血療法ガイド(2021年10月12日閲覧)http://yuketsu.jstmct.or.jp/wp-content/themes/jstmct/images/medical/file/reference/Ref22.pdf
2)日本赤十字社:輸血の副作用:感染症(2021年10月12日閲覧)http://www.jrc.or.jp/mr/reaction/
3)編学会認定・輸血看護師制度カリキュラム委員会,編:看護師のための臨床輸血 第2版,中外医学社,2011.
4)藤田 浩,編:リスクマネジメントに役立つ最新輸血のケアQ&A 第2版.照林社,2008.
5)病気がみえる⑤血液 第2版,メディックメディア,2017.

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