緊急時の輸血の手配、対応を知りたい!|トラブルシューティング
- 公開日: 2024/1/6
緊急時の輸血事故を防ぐために留意すること
緊急時には、迅速冷静な対応が必要となります。特に夜間・休日に急変した患者さんの処置をしながら、口頭で出された指示を受けていると思わぬミスにつながります。
輸血事故を防ぐために、緊急の場面では、特に不適合輸血が起きやすい環境であることを認識しましょう。リーダーが役割分担し、処置は受け持ちナースにまかせ、他のナースは医師の指示受けや外回りを担当します。口頭指示に対しては、必ずメモをとり声に出して復唱し、医師に確認しましょう。また、指示を記録に残すことが重要です。一段落したら、口頭指示が「指示」として記入されているか確認し、必ず記載してもらいましょう。
輸血事故は夜間・休日体制に起きやすく、主な原因は、①バッグの取り違え、②患者さんの取り違え、③血液型誤判定です。当院では、安全に輸血を行うためにダブルチェックとPDA認証を導入しています。この2つで①バッグの取り違え②患者さんの取り違えを予防することができます。
緊急時は使った輸液や輸血のバッグに数字を記載しておく、バッグを保存しておくなど、何をどれだけ使用したか目でわかるように工夫しましょう。
危機的出血は、出血量だけでなく出血の速度も関係します(表1)。
表1 危機的出血と大出血の定義
危機的出血 critical bleeding |
心停止や永久的脳合併症、死亡など重大な永続的後遺症が起こるかもしれない出血 |
150mL/分以上の速度での出血 | |
急激な1,500〜2,000mL以上の出血 | |
出血量だけでなく、出血の速度も考慮される | |
大出血 massive bleeding |
24時間のうちに循環血液量(体重の7%)と同量以上の出血 |
出血が持続すると心拍出量の低下、低血圧の進行、出血傾向の悪化による出血量の増加という悪循環が起こります(図1)。
大出血になりやすい病態として、消化管出血、胸部大動脈瘤に対する人工血管置換術、肝硬変合併肝がんに対する肝切除術、肝移植術、胎盤異常を伴った産科手術などがあります。このような場面での大出血は生命の危機に瀕するため緊急輸血が必要となります。
緊急輸血の流れ
安全な輸血を行うためには、血液型検査だけでなく、赤血球製剤の場合には不規則抗体スクリーニング検査、交差適合試験を実施することが必要です。これらの検査には、40~60分かかるため、時間的余裕がないことがあります。そのような場合に、交差適合試験を省略してABO同型血を輸血することがあります。血液型が確定していない場合や同型血が入手できない場合には、O型赤血球液を輸血する場合があります。スタッフが統一して対応できるよう、救命を最優先とした、各施設に合わせた緊急赤血球輸血対応チャートの作成とシミュレーション教育が必要不可欠です。
(注)院内に血液製剤の在庫がない場合には、注文→血液センターからの配送に時間を要するため、まずは自施設の血液製剤の在庫状況を確認しましょう。血液型や交差適合試験検査にかかる時間を把握しておくことも大切です。
救急新患の患者さんが、出血性ショックなどの病態で、ABO血液型検査を行う時間的余裕がない場合には、
①患者さん・家族にABO血液型不適合による溶血の危険性の少ないO型赤血球液を輸血すること、アルブミン(等張)を使用することを説明し、同意を得ておきます。
②大量出血の場合には、急速輸液や赤血球輸血により希釈性凝固因子欠乏が生じるためAB型新鮮凍結血漿を使用することも合わせて説明します。
③輸血開始前に患者さんから必ず採血をしておきます(事後検査用)。
④交差適合試験を省略した放射線照射済みO型赤血球液を輸血(緊急O型RBC)します。
⑤血液型(ABO血液型、RhD血液型)が判明した時点で、照射済み同型血の輸血(同型未交差RBC)に切り替えます。
⑥同型赤血球液の交差試験適合血が準備でき次第、同型交差済RBCの輸血に切り替えます。
図2 危機的出血への対応
日本麻酔科学会,日本輸血・細胞治療学会:危機的出血への対応ガイドライン(2022年11月25日閲覧)https://anesth.or.jp/files/pdf/kikitekiGL2.pdfより引用
図3 産科危機的出血への対応フローチャート
日本産科婦人科学会,他:産科危機的出血への対応指針 2022.(2022年11月25日閲覧)https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/shusanki_taioushishin2022.pdfより転載