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【連載】最新情報がわかる! 学会・セミナーレポート

子どもにも広がる現代人の角膜の傷の現状と今後のリスク

  • 公開日: 2022/10/18

2022年9月28日、「子どもにも広がる現代人の角膜の傷の現状と今後のリスク」と題した、「現代人の角膜ケア研究室」主催のWEBセミナーが行われました。ここでは、杏林大学医学部眼科学 教授 山田昌和先生と、伊藤医院眼科 副院長 有田玲子先生の講演をレポートします。


デジタル社会の進展で増大する角膜リスク 目の酷使による角膜の傷への影響とその対処法

講演:山田昌和先生(杏林大学医学部眼科学 教授)

生活スタイルの変化と角膜への影響

 生活スタイルの変化は、身体のさまざまな部分に影響を及ぼします。角膜については、使い捨てコンタクトレンズのほかに、パソコンやスマートフォンなどのVDT(Visual Display Terminals)の普及が大きく影響しているとされています。

 VDTの利用時間を経年的に調べたデータによると、2006年はVDTの利用時間が平均67.0分であったのに対し、2022年には254.7分と約3.8倍に拡大していました。利用時間が増大した主な理由はスマートフォンの利用です。今や10~40代の90%以上、50~60代も80%以上がスマートフォンを利用していることがわかっています。

 VDTを利用している間はまばたきが減り、涙液層が不安定化して角膜に乾いた部分が出てきますが、こうした状態が続くと、角膜が剥がれ落ちたり、擦り傷のようなものができたりする「角膜上皮障害」に至ります。ある調査によると、7割近くの眼科医が「角膜上皮障害を伴うドライアイはスマートフォンの普及と関係がある」としています。

 こうした生活スタイルの変化による影響は、大人だけではなく、子どもの日常にも及んできています。文部科学省が打ち出したGIGAスクール構想はタブレット学習を大きく取り入れようというものですが、子どもの目がICT機器に触れる機会がさらに増加する状況が予想されます。

角膜に傷がつくメカニズムとその影響

 角膜は黒目を覆う厚さ0.5mmの薄い透明な組織です。生きた細胞がむき出しになっている繊細な組織のため、まばたきをして涙の膜を作り、乾燥や外部刺激から守らなければなりません。

 涙液は油層、水層、ムチン層の3層からなり、角膜の表面を覆って保護しています。しかし、ドライアイになると涙液層が不安定化し、角膜表面のむき出し部分が急速に広がることから、異物やまばたきそのものでも傷がついてしまう場合があります。

 角膜上皮細胞には自己修復機能があるため、多少ダメージを受けても新しい細胞に置き換わりますが、角膜を傷つける要因が多いと修復が追い付かず、傷が残ります。目が乾く、かすむ、疲れるといった症状が頻繁に起こる場合は角膜に傷がついている可能性があり、単なる疲れや年齢のせいだと思うことには慎重になる必要があります。

 さらに最近では、主に子どもについてですが、角膜に傷がつくことで、近視が進むリスクが高まる可能性が指摘されています。これは、角膜に傷がつくと物が見えづらくなり、目を凝らして物を見るようになる影響で、毛様体筋の緊張が続くためです。また子どもに限らず、角膜の傷を放置すると、角膜上皮びらんや細菌性角膜炎に至り、最悪の場合には失明やそれに近い状態に陥るおそれも考えられます。

 現代人のライフスタイルは目を酷使する場面が多く、角膜に負担がかかります。角膜損傷リスクはさらに増大すると考えられ、悪化を予防するためにも、大人も子どもも角膜を守るアイケアを行うことが重要といえます。

大人も子どもも4人に1人が抱えている! 現代人に知ってほしい角膜の傷のリスク

講演:有田玲子先生(伊藤医院眼科 副院長)

 親子の目の酷使と角膜の傷リスクの実態を明らかにするため、小学校高学年(5~6年生)の子どもをもつ30~50代の親500名を対象に調査を実施しました。

目の酷使・症状の実態

 調査結果によると、学校内外を問わず、82%もの子どもが毎日VDTを使用して勉強に取り組んでおり、モニターを見て学ぶスタイルが一般化していることがわかりました。

 VDTの使用時間については、大人が約5時間、子どもは約2.5時間と子ども以上に大人が目を酷使しており、これが常態化していることが明らかになりました。症状としては大人の74.8%、子どもも34.6%が目の疲れを感じており、症状を表現するのがなかなか難しい子どもでも、これだけの割合で自覚症状があることに驚きます。

目の状態

 目の状態を知るための調査としては、自然な状態でまばたきをしない時間を親子で互いに確認する「まばたきテスト」を実施しました。結果、まばたきを10秒我慢できなかった割合は大人が26.6%、子どもが23.8%となり、大人も子どもも4人に1人が涙の乾きやすい状態にあることがわかりました。これは年齢に関係なく、角膜に傷がつくリスクが高い状態であることを強く示唆しています。

アイケアの実態

 アイケアを行っていない人は、大人が約半数、子どもも7割にも上り、まばたきテストで10秒以下だったドライアイのリスクを抱えている人たちでも、アイケアを行えていないことがわかりました。

 ドライアイのリスクを抱える人たちには、アイケアを積極的に取り入れてほしいと思いますが、十分にできていないことについて、眼科医として非常に危惧しています。また、子どもは涙の層が生理学的に厚く、傷つきにくい状態になっているにもかかわらず、大人と同じ割合でドライアイになりやすい状態であることも問題と考えています。

 ほかに、大人にアイケアの習慣がない場合、その子どももアイケアを行えていないという結果も出ています。子どもは乾燥や疲れを表現することが難しいため、大人が気にかけてあげるのとあわせて、子どもの手本となるように、率先してアイケアに努めることが必要といえます。

眼科医がおすすめする角膜ケア

講演:山田昌和先生(杏林大学医学部眼科学 教授)、有田玲子先生(伊藤医院眼科 副院長)

アイケアの考え方

 アイケアの基本的な考え方としては、「自分自身の目のことを少し気にしていたわってあげましょう」ということです。アイケアは一種の予防ですので、習慣化して毎日行うことも大切です。目が疲れる、目がかすむ、まぶしく感じる、しょぼしょぼする、重たい感じがする、痛みがある、ゴロゴロするなどの症状を認める場合は、角膜に傷がある可能性を考えられるようになるとよいでしょう。

 VDT利用時に意識してほしいポイントは次の通りです。

・1時間に1回、4~5分間の休憩をとる
・意識的にまばたきをする
・目先は下向きにする
・エアコンの風が直接当たらない場所で行う
・ディスプレイの照度を適度に設定する(500ルクス以下)

具体的なアイケアの方法

眼周囲を温めるケア

 眼周囲を温めることで、涙の質が上がるとされています。また、副交感神経が優位になりリラックス効果が高まって涙腺から水分も出やすくなります。蒸しタオルを使用する場合は気化熱で熱を奪われないよう、ポリ袋に入れて瞼が濡れないように気を付けます。湯船に浸かりながら首や肩の凝りを改善しつつ、眼周囲を温めるのもおすすめです。

点眼薬の使用

 角膜修復機能を助けるビタミンA入りの点眼薬を使用します。防腐剤は涙を不安定化させるため、防腐剤フリーの製品を選ぶとよいでしょう。目薬は差し過ぎに注意し、用法用量を守るようにします。

まばたきエクササイズ

 まばたきに必要な上下の瞼を動かす眼輪筋のトレーニングです。具体的には、図の①~⑤のトレーニングを行います。5回1セットとして、1時間ごとに実施すると効果的です。トイレやお風呂、家事の合間に行うなど、習慣化して取り組むことが大切です。

図 まばたきエクササイズ

まばたきエクササイズ
「現代人の角膜ケア研究室」より提供

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