がん治療を行っている患者さんへのスキンケア|2023年2月開催セミナーレポート【PR】
- 公開日: 2023/5/24
がん患者さんのスキンケアにかかわる際に知っておきたいこと
がん患者さんの皮膚の特徴
がんの好発年齢は40~50歳代からで、がん患者さんの多くは壮年期以上、特に老年期の患者さんです。加齢に伴い、表皮の基底細胞の分裂能力が低下し、ターンオーバーが延長します。そのため、表皮はどんどん薄くなり、真皮との接着能力が低下するため、わずかな刺激で水疱や表皮剥離などの皮膚障害が発生しやすくなります。角質層での水分保持能力が低下することで、ドライスキンも進んでいきます。
さらに、薬物療法や放射線治療といったがん治療によって、免疫・代謝機能の低下や低栄養が起こりやすくなります。ターミナル期のがん悪液質症候群では、リンパ浮腫による皮膚の菲薄化、脂肪・筋肉の消耗、体重減少による皮膚の脆弱化などがみられます。がん患者さんには、皮膚に悪影響を与える因子が多く存在しています。
がん治療で起こる皮膚症状
がん薬物療法(がん化学療法)の有害事象
がんの薬物療法には、細胞障害性抗がん薬や分子標的薬などが用いられます。細胞障害性抗がん薬は、細胞が分裂して増える過程に作用して、がん細胞を攻撃する薬剤です。細胞増殖が盛んな細胞を障害するため、がん細胞だけでなく正常な細胞まで攻撃してしまいます。皮膚においては、表皮の基底細胞が影響を受け、皮膚の新陳代謝が鈍くなり、汗や皮脂の分泌が少なくなって皮膚バリア機能が低下し、乾燥や亀裂が生じます(表1)。
分子標的薬は、がん細胞がもつ特定の遺伝子やたんぱく質を標的として、ピンポイントで攻撃する薬剤です。標的分子ががん細胞以外の細胞にも存在する場合、正常な細胞も攻撃を受けます。なかでもEGFR阻害薬は、標的分子の上皮成長因子受容体(EGFR)が表皮の基底細胞にも存在しているため、皮膚や毛根、爪の増殖や分化に影響を及ぼします。
がん薬物療法によって皮膚に現れる有害事象を表2にまとめました。
アレルギー反応(過敏症)とインフュージョンリアクション(Infusion Related Reaction: IRR)は、症状に違いはありませんが、アレルギー反応はタキサン系やプラチナ系などの抗がん薬で出現し、IRRは分子標的薬やたんぱく質製剤などの限られた製剤で出現します。IRRの場合、軽度から中等度で軽快しますが、アレルギー反応では重篤化することもあり、注意が必要です。
その他の皮膚に現れる有害事象は、生命に直結することは少ないものの、日常生活に支障をきたし、外見の変化により精神的にダメージを受けることがあるため、注意深い観察が必要です。
細胞障害性抗がん薬 | 細胞が分裂して増える過程に作用して、がん細胞の増殖を抑制する。細胞増殖が盛んな細胞を障害するため、がん細胞だけでなく正常な細胞も障害される。表皮の基底細胞が影響を受けることによって、皮膚のバリア機能が低下し、乾燥や亀裂が生じる | |
分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬 | EGFR阻害薬(セツキシマブ、パニツムマブなど) | がん細胞表面に存在する上皮成長因子受容体(EGFR)に結合することで、細胞増殖のシグナル伝達を遮断し、抗腫瘍作用をもたらす。EGFRは表皮の基底細胞にも存在しているため、皮膚や毛根、爪の増殖や分化に影響を及ぼす |
VEGF阻害薬(ベバシズマブなど) |
血管内皮増殖因子(VEGF)に結合することで、腫瘍組織での血管新生を抑制し、抗腫瘍作用をもたらす。血管新生が阻害されることで、皮膚障害が生じる | |
免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ、イピリムマブなど) | がん細胞が免疫系から逃れるためのチェックポイントを阻害し、T細胞による免疫機能を活性化させ、がん細胞への攻撃を促進する。活性化されたT細胞により自己組織が障害を受け、皮膚障害が生じる |
要因 | 有害事象 | 症状 |
アレルギー反応 | 過敏症 | 皮膚の発赤、腫脹、発疹、かゆみなど |
サイトカイン放出 | インフュージョンリアクション | 皮膚の発赤、腫脹、発疹、かゆみなど |
薬剤の全身投与により、細胞組織、標的への影響による反応 | 脱毛 | 頭髪、体毛、眉毛、睫毛が抜けて減少する |
色素沈着 |
皮膚の色がくすむ、黒ずむ、しみができる | |
手足症候群 | 手掌、足底を主体とした皮膚の発赤、表皮剥離、びらん、潰瘍形成、疼痛 | |
ざ瘡様皮疹 | 毛穴に一致した皮膚の発赤、皮疹 | |
皮膚の亀裂 | 皮膚乾燥の悪化により、皮膚に亀裂や裂傷が生じ、痛みを伴う | |
爪の変化 | 爪の変形や変色、二枚爪や爪剥離、爪囲炎 |
がん薬物療法(がん化学療法)の有害事象の発現時期
細胞障害性抗がん薬による有害事象の発現時期を図1に示しました。一方、分子標的薬では特徴的な有害事象がみられます。ざ瘡様皮疹は薬剤投与開始から約1週間後より出現し、皮膚乾燥は4週間ほどで顕在化、爪囲炎は約6~8週間、手足症候群は約1~4週間の間に出現します(図2)。これらの発現時期を把握しておくと、予防的スキンケアの対応や患者さんの皮膚の状態を確認する際に役立ちます。
放射線治療の有害事象
放射線治療では、がん細胞のDNAに損傷を与えて増殖を抑制するため、周囲の正常な細胞にも影響を及ぼします。外照射の場合は、必ず皮膚を通過して治療が行われるため、基底細胞や真皮の微小血管も影響を受けやすくなります。
また、セツキシマブ、ゲフィチニブ、ソラフェニブなどの分子標的薬との併用で皮膚炎が増悪することがあります。さらに、放射線終了後に抗がん薬を投与すると照射野に皮膚炎が再燃することがありますので(リコール現象)、抗がん薬の投与時には、放射線の治療歴を確認しておくことが必要です。
放射線線量と皮膚障害の発現
照射する放射線量が増すごとに、局所の所見や症状も悪化していきます(表3)。照射部位、現在の線量や予定されている線量とともに、症状を注意深く観察していくことが大切です。
放射線量 | 局所所見 | 症状 |
20~30Gy | 発赤、紅斑、脱毛 | 掻痒感、ピリピリ感 |
30~50Gy | 乾燥、落屑 | 熱感、軽度の疼痛 |
50~60Gy | びらん、滲出液、出血 | 強度の掻痒感、疼痛 |
60Gy~ | 壊死、潰瘍 | 疼痛 |
がん患者さんへの予防的スキンケア
スキンケアの基本
皮膚障害によってがん治療が中止となってしまうことは、最も防がなくてはなりません。そのための介入として、皮膚障害が生じやすい状況を理解し、よく観察して、予防的スキンケアにより、皮膚のバリア機能を保ち、体内環境を整えることが非常に重要です。
スキンケアの基本は、洗浄・保湿・保護です。
洗浄
皮膚についた汚れを除去することを目的とします。
がん患者さんの場合、皮膚の緩衝作用(pHを元に戻す作用)が低下しているため、低刺激の洗浄剤(弱酸性や保湿成分入り)を使うとよいでしょう。摩擦の刺激を防ぐために、洗浄剤はよく泡立ててから皮膚の上にのせ、手ですべらせるようにして洗います。泡洗浄剤を使用すると簡便です。爪が当たらないように短く切っておき、ぬるめのお湯(38~40℃程度)を用います。
保湿
皮膚に適度なうるおいを保つことを目的とします。
保湿剤には軟膏やローションなどがあり、それぞれ特徴があります(表4)。乾燥が強い場合は、まずはクリームやローションで水分を補い、軟膏で皮膚に膜を張るようにすると、保湿作用が高まります。軟膏はべたつくため、就寝前に塗布し、手に塗布する場合は手袋などで保護するとよいでしょう。スキンケアの習慣がなく、保湿剤の塗布を嫌がる患者さんには、保湿作用のある入浴剤も有用です。
成分と作用機序 | 長所・短所 | |
軟膏 | ・油分からなり、脂を皮膚表面に補う。ワセリンなど ・エモリエント作用に優れる |
・コストが安い ・皮膚への刺激が少ない ・べたつく ・衣服などにつくと落ちにくい |
クリーム・ローション | ・水と油を界面活性剤により混合したもの。ヘパリン類似物質含有外用剤、尿素軟膏含有外用剤、セラミド含有外用剤など ・モイスチャライザー作用に優れる |
・べたつきが少ない ・塗りやすい ・保湿作用は高いが、持続時間が短いので数回塗布が必要 |
モイスチャライザー:皮膚に水分を与えることで、皮膚バリア機能を保つ。角質レベルで水分を与える
保湿のポイント
・軟膏やローションなど剤形の違いを考慮し、保湿剤を選択する
・入浴後10~15分以内、少し皮膚が湿っている状態で、手のひらで包み込むように塗布する
・適切な量(1フィンガーチップユニット:成人の両手分の面積に塗ることができる量)
軟膏・クリームの場合:人差し指の先から第一関節までの量
ローションの場合:1円玉大
※ティッシュが皮膚に貼り付く、皮膚にツヤが出る状態も使用量の目安となる
・室内の乾燥にも注意し、加湿器を利用して湿度が40%以下にならないようにする
保護
皮膚への刺激の回避、保護を目的とします。
紫外線(UVA、UVB)予防のため、日焼け止めは屋内、屋外にかかわらず、一年中、使用するようにします。屋内で過ごすことが多い場合、SPF30、PA++の日焼け止めで十分です。一日中、屋外で過ごす場合は、SPF50の日焼け止めを選択します。また排泄物の付着などの物理的刺激を防ぐためには、撥水剤や被膜剤を使用します。そのほかに、外的刺激を防ぐために、衣服や靴下などで皮膚の露出を避けるようにします。
UVA:皮膚の深層に入りこみ、真皮の線維芽細胞を傷つけ、しわやたるみ、しみの要因になる。
UVB:皮膚の表皮にダメージを与える。炎症を起こし、メラニンの過剰産生などしみ・しわ、皮膚がんの要因になる
SPF:UVBに対する防御指標。2〜50、50以上の場合は「50+」と表示、数値が大きいほど防御力が高い
PA:UVAに対する防御指標。PAは「PA+」〜「PA++++」の4段階で表示、「+」が多いほど防御力が高い
スキンケア指導を行うために必要な知識
スキンケアの指導は、患者さんを知り、理解することから始まります。指導前に、男女の違いや患者さんの生活、就業、サポート体制などについて、しっかりと確認しておきましょう(表5)。
表5 スキンケア指導前に知っておくこと
・日常のスキンケア方法
・髪の毛を染めているか、パーマをかけているか
・医師から皮膚障害が出ることを聞いているか
・ケアを手伝ってくれる人はいるか
・毎日入浴・シャワー浴を行っているか
・職場に治療のことを伝えているか
・仕事の場所は屋外か、室内か
男性の場合:髭剃りは電気シェーバーがカミソリか、シェービングクリームは使用しているか
女性の場合:化粧品にこだわりはあるか、ネイリストや化粧品販売員ではないか
こんなときどうする? 事例をもとに考えてみよう
事例①
Aさん(70歳代男性)
使用抗がん薬:分子標的薬(セツキシマブ)
症状:顔面全体に、ざ瘡様皮疹の重症化による痂疲の形成
Aさんには洗顔後に保湿剤を使用する習慣はなく、ざ瘡様皮疹の出現後は痛みと恐怖感から洗顔ができていませんでした。分子標的薬の治療の開始時に予防的に処方された副腎皮質ステロイド外用薬はほとんど使用できていない状態です。
Aさんには、どんなスキンケアを行うとよいでしょうか。
実施したスキンケア
①温タオルを顔に当てて、蒸らすようにして湿らせる
②洗顔をしてもらう
・洗浄剤は泡にして、こすらずにのせる
③洗顔後はタオルでやさしく、押し拭きする
④副腎皮質ステロイド外用薬を塗布する
①~④を毎日実施してもらう
皮膚に皮脂や汚れ、痂疲があると外用薬が浸透しないため、まずは温タオルで角質を柔らかくし、洗顔で皮膚を清潔な状態にして、痂疲を取り除くことが大切です。①~③の手順を繰り返すだけでも、痂疲が剥がれ落ちていきます。また、洗顔前にオリーブオイルを塗布しながら、痂疲を愛護的に除去する方法もあります。
洗顔に抵抗感を示す患者さんもおり、Aさんも洗顔を拒否していましたが、「泡を一瞬つけるだけでよいです。こすらずにのせるだけでいいんですよ」と説明しながら、取り組んでもらい、まずは慣れてもらうことを目標に実施しました。
3日後にはほとんどの痂疲が取れ、2週間後にはなめらかな皮膚の状態になるまで改善しました。
事例②
Bさん(60歳代男性)
使用抗がん薬:分子標的薬(セツキシマブ)
症状:使用開始後84日、側爪郭部に肉芽形成、疼痛あり
爪囲炎の重症度はCTCAE v5.0でGrede 2~3と判断
肉芽が形成され、疼痛を伴う周囲炎です。Bさんにはどんなスキンケアを行ったらよいでしょうか。
実施したスキンケア
①スパイラルテープを貼付し、洗浄する
・洗浄剤は泡にして、こすらずにのせる
②洗浄後はタオルでやさしく、押し拭きする
③スパイラルテープを張り替える
④副腎皮質ステロイド外用薬を塗布する
①~④を毎日実施してもらう
スパイラルテープ(布製の伸縮性のあるテープ)で側爪郭部を広げて洗浄を行った後に、新たにスパイラルテープを巻き直し、外用薬を塗布することで、肉芽に薬が浸透しやすくなります。
220日後には肉芽が消失。時間はかかりましたが、爪囲炎が改善されました。
事例③
Cさん(50歳代男性、頭頸部がん)
放射線治療:外照射60Gy
症状:放射線治療終了後に左右頸部にびらん、疼痛が出現
表皮が剥離し、真皮が見えている状態で強い疼痛があります。Cさんには、どんなスキンケアを行ったらよいでしょうか。
実施したスキンケア
①シャワーで洗浄してもらう
・シャワーの圧は弱め、温度はぬるめにする
・洗浄剤は泡にして、こすらずにのせるだけでよいと説明する
②洗浄後はタオルでやさしく、押し拭きする
③副腎皮質ステロイド外用薬を塗布する
④非固着性ガーゼで覆い、非伸縮性の包帯で固定して保護をする
①~④を毎日実施してもらう
Cさんは痛みのため洗浄を拒否していましたが、軟膏が汚れを吸着してしまうことを根気よく説明し、洗浄をしてもらいました。どうしても洗浄を拒否する患者さんには、洗い流さないタイプの洗浄剤もありますが、刺激を感じることもあるため、注意が必要です。
また、保護をしないと患部に直接刺激があたりますので、必ず非固着性のガーゼを使用し、テープではなく、締め付けを防ぐために非伸縮性の包帯で固定します。
1週間後には疼痛が改善し、滲出液も減少しました。炎症が鎮静化したので、副腎皮質ステロイド外用薬からアズノール軟膏に変更、2週間後には上皮化がみられ、ほぼ治癒に至りました。
まとめ
がん患者さんは、もともと皮膚に悪影響を与える因子が多く、薬物療法や放射線治療により、表皮の基底細胞や標的分子など、皮膚の新陳代謝にかかわるところにも影響が及び、皮膚障害が発生します。
分子標的薬による皮膚障害は、治療効果の高さを表す場合も多く、皮膚障害によって治療が中止になることは避けなければなりません。皮膚の新陳代謝を促進し、皮膚障害を最小限にとどめるためには、やはり洗浄・保湿・保護による予防的スキンケアが重要となってきます。
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