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【連載】今度こそ「できる!」血糖コントロール

【糖尿病】血糖コントロールの指標と方法(食事・運動・薬物療法)

  • 公開日: 2015/9/1

糖尿病で怖いのは合併症です。血糖コントロールはその予防につながる大切な要素ですが、ただ単に血糖値を下げればよいというわけではありません。血糖値をコントロール「できない!」トラブルを解決する前に、まずは血糖コントロールの基本をおさらいしていきましょう。


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キホン1 「血糖コントロール」は糖尿病合併症予防の合い言葉!

血糖値を下げれば合併症は怖くない!?

糖尿病治療で最も大切なこと、それは「合併症をいかに起こさせないか」ということです。それには血糖コントロールが鍵を握りますが、単に血糖値を下げれば合併症の心配がないという意味ではありません。糖尿病と診断された人の中には、血糖値が下がれば「糖尿病が治る」または「合併症の心配はない」と考える人が意外に多いのです。

しかし、それは大きな誤解。ひとたび空腹時血糖値126mg/dLの川を越えると、もはや戻る(治す)ことはできません。糖尿病はインスリンの分泌の低下、またはインスリン抵抗性の増大によって起こる代謝疾患群であり、血糖コントロールによって血糖値を抑えることはできても不可逆的です。従って、高かった血糖値を一時的に下げたからといって、疾患自体が治ったり、合併症を発症しないわけではないのです。

重要なのは、安定した血糖値の持続(=血糖コントロール)が合併症予防につながるのだということ。そして、医師や看護師など医療者がそれを患者さんに繰り返し伝え続けることです。

そもそも…血糖値上昇とインスリンの関係

体内の主要なエネルギー源となる炭水化物は、胃で消化すると、腸でアミラーゼなどの消化酵素によって小さく分解され、最終的にブドウ糖となって吸収されます。小腸血管から入って門脈に集まったブドウ糖はいったん肝臓に向かい、一部は肝臓の細胞に吸収されますが、大部分は心臓を通って全身に供給されます。

ブドウ糖が血液中に取り込まれたときに、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が上昇するわけですが、これを下げる唯一のホルモンが膵臓のランゲルハンス島β細胞から分泌されるインスリンです。インスリンには、血液中のブドウ糖を細胞(主に筋肉細胞、肝細胞、脳細胞)に取り込むのを助ける役割があり、ブドウ糖が移行することによって血糖値が下がるという現象が生じます。

しかし、糖質や炭水化物の摂り過ぎやまとめ食い、肥満、運動不足といった長年の生活習慣の乱れで、膵臓を酷使、疲弊させると、膵臓が血糖値を下げるのに十分なインスリンを分泌できなかったり、うまく作用しなくなります。こうして高血糖状態が継続する疾患が糖尿病です。

正常な血糖調整の流れ

正常な血糖調整の流れ

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「血糖」の働きとコントロールの必要性

血糖コントロールができないと身体はどうなる?

尿に大量のブドウ糖が出るようになるのは、血糖値が170mg/dLを超えたときで、血糖値が300~400mg/dLの非常に高い状態になると、1日に100g以上のブドウ糖が尿と一緒に排泄されます。これは食事1食分にもなるので、食べてもエネルギー不足となります。

それを補うために、さまざまな臓器で蛋白質や脂肪の分解が亢進し、脂肪や筋肉が消耗して体重が減少します。エネルギー不足から全身倦怠感や疲労感を生じるようになります。

さらに、高血糖は脳神経系にも影響を及ぼし、血糖値が250mg/dLを超えると、思考能力の低下、眠気などが確実に起こります。糖尿病の人が食後に眠くなるのも、高血糖により脳の活動が鈍くなるからです。免疫力の低下も顕著で、風邪をひきやすく、ひくと治りにくくなります。足などにできた傷や水虫が治りにくいのもその影響です。

また、高血糖の状態が続くと、非常に細かい血管が切れたり閉塞したりします。その結果、細かい血管が集まる神経や腎臓、網膜に障害が起こります。

糖尿病合併症の分類

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【ケースで具体的な対処方法を学ぼう!】
こんなときどうする? 低血糖を起こした!
こんなときどうする? シックデイ
こんなときどうする? 妊婦さんの血糖値が高い!
こんなときどうする? 高齢者の血糖コントロールがうまくいかない!

キホン2 血糖コントロールの重要な指標はHbA1c値と血糖値

血糖コントロールの状態はHbA1c値で見極める!

HbA1c値は、患者さんの過去1~2カ月の平均血糖値を反映する、血糖コントロール状態の重要な指標です。患者個人での値のばらつきが少ない半面、血糖値の日内変動などが把握できないこと、数値に影響を及ぼす血糖以外の因子があることに注意が必要です。例えば、貧血があると、HbA1cは実際より低く表示されます。

HbA1cが利用できない場合には、過去2週間の平均血糖値を反映するグリコアルブミン(GA)[基準値:11~16%]、糖代謝状況の急激な変化を示す1,5-AG(1,5-アンヒドログルシトール)[基準値:14.0μg/mL以上]が参考値となります。

HbA1c値を補完する代謝指標が血糖値

血糖値は、HbA1c値を補完する重要な代謝指標です。空腹時血糖値は代謝状態を示す指標として比較的安定しており、食後2時間血糖値は食事の量や質、治療法などによって変動しやすいものの、心血管疾患のリスクとの関連が指摘されています。患者さんの代謝状態は、HbA1c値、空腹時血糖値、食後2時間血糖値、随時血糖値などから総合的に判断することが求められます。

合併症を起こさない、あるいは進行させないためには、良好な血糖コントロールの持続が不可欠なことはすでに述べてきたとおりです。患者さんの中には、空腹時血糖値が110mg/dL未満になったからといって、治療を止めてしまう人がいるようですが、食後2時間血糖値はどうでしょう。200mg/dLを超えているということはありませんか。このように空腹時血糖ばかりに着目し、結果、放置してしまうことで、合併症を進行させてしまうケースは多いのです。

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血糖測定器による血糖測定の手順・注意点

キホン3 血糖コントロールは食事療法、運動療法、薬物療法の3つ

患者さんの「その気」が治療の継続を左右する

糖尿病はとても治療が難しい疾患の一つです。通常の疾患なら、医師が手術や薬などで直接治療することで結果を得られますが、糖尿病の場合には、まず患者さんが正しい知識を持ち、治療を受ける必要性を納得するところから始めなければならないからです。

つまり、どんなに有効な治療法を提供しようとしても、患者さんが「その気」になり、正しい知識→納得→行動→結果という4つの段階を経ずして、効果ある治療はできません。いかに患者さんのニードに応えるかを考え、その人に合った治療を行わなくてはならないのはそのためです。

2型糖尿病治療の基本は、まずは食事療法と運動療法を行い、良好な血糖値を維持することです。それには不摂生を積み重ねてきたこれまでの生活習慣を改善することが第一。また、初診時にすでに動脈硬化性疾患や網膜症、腎症、神経障害などの合併症を認める場合が少なくないので、それに対する治療もしっかりと行うべきでしょう。

食事療法

食事療法は、糖尿病治療の基本であり、出発点でもあります。食事療法を行うにあたっては、まずは長年にわたる食習慣を見直し、何が問題かを見極めることが大切です。その上で1日の適正なエネルギー量を知り、炭水化物や蛋白質、脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維がバランスよく摂れるようにして、規則正しい食事を心がけるようにします。

適正なエネルギー摂取量は、年齢や性別、肥満度、身体活動、血糖値、合併症の有無などを考慮して決定します。一般的に男性では1400~1800kcal、女性では1200~1600kcalの範囲とされています。

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こんなときどうする? 適切な栄養摂取を理解していない!
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運動療法

運動療法は血糖コントロールだけでなく、合併症の予防にも効果があります。特に手軽に行える有酸素運動のウォーキングがお勧めです。速歩で、ちょうど血糖値が上がってくる時間帯である食後1時間半から2時間くらいまでに、1回20分以上行うのが理想的です。

【ケースで具体的な対処方法を学ぼう!】
こんなときどうする? 運動の目標設定がうまくできない!
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こんなときどうする? 運動を中止すべきときがわからない!

薬物療法

経口血糖降下薬で食後の急激な血糖上昇を押さえる

適応

経口血糖降下薬による治療は、食事療法や運動療法を行っても良好な血糖コントロールが得られない、2型糖尿病の患者さんが中心です。経口血糖降下薬には、作用機序により6種類の薬剤があります(図)。

経口血糖降下薬の種類

一般的には、1種類の経口薬で良好な血糖コントロールが得られない場合は、作用機序の異なった2種類以上の経口薬を併用します。投与は少量から始め、血糖コントロールの状態を観察しながら、徐々に増量していきます。

また、経口血糖下降薬はあくまでもインスリン分泌の促進や、インスリン抵抗性の改善、食後の急激な血糖上昇を改善するためのものであり、インスリン自体を補うものではありません。従って、経口薬を服用していても、食事療法や運動療法は継続的に行います。

使用上の注意点と副作用

経口血糖下降薬は血糖値を下げる薬剤であり、中には低血糖を引き起こす危険性のあるものもあります。そこで、ここでは低血糖の危険があるかないかに分けて説明していきましょう。

低血糖の危険のあるものには、SU薬(スルホニル尿素薬)と速効型インスリン分泌促進薬があります。SU薬は最も古く、最もよく使われているスタンダードな薬で、血糖値を下げる力が強く、ほかの薬に比べて10倍ぐらいの効果があります。

しかし、その一方で低血糖が起きる可能性があり、また長期間の使用で膵臓に負担がかかり、最終的には効かなくなることもあります。その場合は、速やかにインスリンに切り替えます。速効型インスリン分泌促進薬は、SU薬と同じように膵臓からインスリンを分泌させる働きを持ちますが、短時間で効く半面、効果も短時間で消失します。

一方、低血糖の危険がないのは、ビグアナイド薬やインスリン抵抗性改善薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、DPP-4阻害薬です。ビグアナイド薬はインスリンの効果を高める薬で、膵臓に負担をかけず、ダイエット効果もあります。

また、糖尿病の予防効果がある上、副作用がほとんどない安全な薬であることが報告されています。インスリン抵抗性改善薬はインスリンの効果を高める薬ですが、女性に貧血やむくみが出ることがあります。α-グルコシダーゼ阻害薬は炭水化物の分解に関係するα-グルコシダーゼという消化酵素の働きを抑え、ブドウ糖の腸からの吸収を遅らせる薬です。食事の直前に飲みますが、ガスが多くなるという副作用があります。

合併症が進み、血糖値を確実に下げたいときはSU薬が、軽症の人や低血糖が心配な人にはビグアナイド薬が適しています。

【ケースで具体的な対処方法を学ぼう!】
こんなときどうする? 薬物療法を中断してしまった!
こんなときどうする? 経口薬を飲み忘れ・飲み間違えてしまった!

インスリン療法は糖尿病の根本治療

適応
インスリンは膵臓から分泌されるペプチドホルモンの一種で、血糖値の恒常性維持に重要なホルモンです。このインスリンを注射で体外から補給し、体内のインスリンを増加させたり、血糖効果作用により糖毒性を改善し、インスリンの働きをよくするのがインスリン治療であり、いわば糖尿病の根本治療といえます。

2型糖尿病では、食事療法や運動療法、経口血糖降下薬によっても空腹時血糖値が250 mg/dL以上などの著明な高血糖を認める場合や、SU薬の一次無効や二次無効など、経口血糖降下薬では良好な血糖コントロールが得られない場合に適応となるのが一般的です。

ただし、当クリニックでは空腹時血糖値が160mg/dLを超えたら、早期導入を勧めています。また、糖尿病ケトアシドーシスなどの糖尿病昏睡、重症の肝障害や腎障害を合併しているとき、糖尿病合併妊娠では、インスリン治療が必須となります。

インスリン製剤の種類
インスリン治療は、作用発現時間や作用持続時間の違う製剤を組み合わせて、生理的なインスリンのパターンを再現させ、血糖値を安定させる方法です。製剤の種類には、超速効型、速効型、中間型、超速効型または速効型インスリンと中間型インスリンをいろいろな比率で混合した混合型、ほぼ1日にわたり持続的な作用を示す持効型があります。現在、主に使われているのは、超速効型、持効型、混合型の3種類です。

また、インスリン注射のデバイスには、入院中に看護師が使用する、100単位製剤用シリンジに用いて注射されるバイアルや、自己注射に使用されるカートリッジ、使用後に本体ごとすべて使い捨てになるキットなどがあります。この中では、使い捨てのタイプが主流になっています。

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(『ナース専科マガジン』2012年2月号より転載)

参考・引用文献

1)牧田善二 著:糖尿病専門医にまかせなさい、文藝春秋、2009.
2)牧田善二 著:糖尿病はごはんよりステーキを食べなさい、講談社、2010.
3)日本糖尿病学会 編:糖尿病治療ガイド2010、文光堂、2010.
4)日本糖尿病学会 編:糖尿病療養指導の手びき(改訂第3版)、南江堂、2007.
5)日本糖尿病学会 編:科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン、南江堂、2004.
6)森加苗愛 監修:次は必ずうまくいく! 糖尿病と指導の「悩み解消」ポイント、エキスパートナース23(9)、照林社、2007.
7)日本糖尿病学会 編:糖尿病治療の手びき(改訂第55版)、南江堂、2011.
8)門脇 孝、真田弘美 編:すべてがわかる 最新・糖尿病、照林社、2011.

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