イレウス(腸閉塞)とは? 症状・原因・治療法や看護のポイント
- 公開日: 2016/11/21
イレウス(腸閉塞)とは、なんらかの原因で腸管内容物の肛門方向への輸送が障害されることによって起こる疾患です。
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イレウスの分類(種類)
イレウスは、原因によって、機械的イレウスと機能的イレウスの2種類に大別されます。機械的イレウスはさらに閉塞性と絞扼性に分類されます。
Ⅰ機械的イレウス
物理的に腸管が塞がっている状態で、閉塞部の拡張、虚脱が明らかです。イレウスの90%が機械的といわれています。なかでも、手術後の癒着が原因で起こる術後癒着性イレウスが最も多いです。
➀閉塞性(単純性)イレウス
単純性イレウスは腸管癒着、腸管壁の器質的変化、腸管外病変、腸管内異物などが原因で起こります。単純性イレウスは、早期には血行障害を伴わないことが知られています。
■腸管癒着
癒着性イレウスは閉塞性イレウスの中でも最も多くみられます。その多くは腹部手術後に生じた癒着が原因です。癒着は腸管の捻転や屈曲、固定の原因となり結果として通過障害を起こします。
■腸管の器質的変化
イレウスの原因となる腸管の器質的変化では大腸がんが原因である場合が最も多いです。腹部手術の病歴がない中高年の方で、ゆっくりと発症するイレウスの場合は大腸がんの可能性も考慮してください。このような場合は、CTでないと診断に至らないことが多くあります。虚血性腸炎や炎症性腸疾患などが治る過程で生じる腸管の線維化もイレウスの原因となることがあります。
■腸管外病変
がんの腹膜播種や小腸への転移、卵巣がんや子宮がんへのからの浸潤が原因でイレウスが発生することもあります。
■腸管内異物
胃石、胆石、誤飲した異物、寄生虫などが原因でイレウスが生じることもあります。
➁絞扼性(複雑性)イレウス
絞扼性イレウスは癒着による索状物、腸捻転、腸重積、結節形成、ヘルニア嵌頓などが原因で起こります。絞扼性イレウスは、進行が早く、進行すると腸が壊死してしまうため、できるだけ早期に手術をすることが望ましいです。
■索状物
炎症などによって生じた索状物により、腸管や腸間膜が絞扼され、血行障害を起こすことでイレウスを発症します。索状物で形成された隙間に腸管が入り込み、血行障害が生じて壊死が起こることもあります。
■腸捻転
腸管が回転し、腸間膜もねじれ、腸管への血流障害や腸管の狭窄が起こります。S状結腸は可動性が大きく、基部が狭いため、特に軸捻転を起こしやすいことが知られています。
■腸重積
口側の腸管が肛門側の腸管に入り込んで、嵌頓部位で絞扼されることで腸管の血行障害を起こします。成人の腸重積はがんやポリープなどの腫瘍を原因とすることが多いです。
■結節形成
非常に稀な病気ですが、腸管同士が結ばれて結節をつくることで血流障害を起こします。
■ヘルニア嵌頓
ヘルニア嚢に腸管が嵌頓し、ヘルニア門で腸管もしくは腸間膜が絞扼されて腸管の血流障害が起こります。鼠径ヘルニアが多いですが、その中でも大腿ヘルニアが嵌頓しやすいので、注意が必要です。
Ⅱ機能的イレウス
腸管に器質的な変化がなく、腸管の運動障害によって、腸内容物が停滞を起こします。機能的イレウスは、麻痺性と痙攣性に分けられます。
➀麻痺性イレウス
腸管壁の神経や平滑筋が障害されることで腸管運動が麻痺します。麻痺性腸閉塞イレウスは開腹手術後に発症することが最も多いことが知られています。そのほか、腹膜炎や腹腔内出血、尿管結石や胆嚢結石の発作時、中枢神経の異常、腸間膜の血管閉塞などの原因で起こります。
➁痙攣性イレウス
腸管の一部が痙攣を起こして収縮し、腸管内容物の運搬が障害されます。痙攣性イレウスは、手術や外傷、神経障害、中毒などがありますが、発症頻度は低いです。
イレウスの症状
イレウスの症状は、腹部膨満、腹痛、嘔気・嘔吐、排便・排ガスの停止、脱水などがあります。イレウスの原因によって症状が異なるので、注意が必要です。
➀腹部膨満
腸管の内容物が停滞することによって、腸管が拡張し、腹部の膨満感が起こります。閉塞部位が口側の場合は、嘔吐によって腸管内容物が排出されるため膨満感は比較的軽いです。大腸などの肛門側に閉塞が起こった場合には、徐々に腹部の膨満感が起こります。
➁腹痛
イレウスでは、初期には軽度で間欠的な腹痛がみられ、徐々に強くなります。絞扼性イレウスの場合には強く持続的な腹痛を感じることが特徴です。絞扼性イレウスでは早期に血流障害を伴うため激しい腹痛がみられます。
➂嘔気・嘔吐
口側に閉塞が起こると早期に嘔吐がみられ、肛門側に閉塞が起こった場合には、腹部の膨満による嘔気が起こります。
➃排便・排ガスの停止
イレウスでは腸内容物の輸送が障害されるため、排便や排ガスが停止します。ただし、閉塞が完全ではない場合には、排便や排ガスが停止しないこともあります。
⑤脱水
イレウスは腸内容物の停滞によって嘔吐が起こり、水分・電解質を喪失し、脱水が生じます。また、腸管壁の循環障害によって腸管の浮腫が起こった結果、水分・電解質が血管から腸管内に漏出し、大量の水分が溜まるため、脱水を起こします。
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イレウス診断の流れ
イレウスの診断において大切なのは手術歴や症状の問診と腹部の張りを調べる触診です。経験的なものですが、1度イレウスになったことがある患者さんは何度もイレウスになりやすい傾向にあります。
イレウスを見逃さないように身体所見をしっかり確認してください。また、イレウスの診断に必要な検査も確認してみましょう。
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