気候・気象と病気の関係
- 公開日: 2016/11/22
冬になると、特定の疾患が多発したり増悪したりする、と経験的に感じている看護師は少なくありません。でも、それらが本当に気象や環境因子の影響を受けていることに関しては、あまり知られていません。今回は、気象病について解説します。
気象病(季節病)という考え方
私たちの身体に備わる免疫力や抵抗力、病因に対する感受性は、季節や気象の影響を大きく受けています。例えば、季節の変わり目や梅雨時に関節が痛む、腰痛がひどくなる、大気が乾燥する冬場にインフルエンザが蔓延する、寒い時季は心筋梗塞の発症が多い、などは一般によく知られている事象です。また、医師の間では、梅雨の谷間の晴れた日に急性虫垂炎の患者さんが増えることが、経験的に知られてきました。
このように、気温や気圧の変化などが身体にストレスを与え、発症リスクを高めたり増悪するものを「気象病」と称します。気象病は正式な病名ではありませんが、外的環境の変化に適応しづらい高齢者などでは、こうした気象要因に着目した観察も有効です。
気象病の研究
気象と病気の関係を研究する学問に「生気象学」というものがあります。発祥地であるドイツでは、早くから気象条件の変化をもとにした健康気象予報サービスが行われていました。現在では、日本でもインターネットなどを中心に、健康天気予報が提供されるようになってきています。
また、脳卒中や心筋梗塞を中心に、その発症と気象要素との関係について調査、研究を行った論文も、国内で多数発表されています。
全国の労災病院で4万6000例を対象に、脳卒中発症の季節性について調査した研究では、脳出血は男女ともに夏少なく冬に多発し、くも膜下出血は女性に多く、夏少なく秋から冬に多発。脳梗塞は全体では明確な季節性は認められないが、ラクナおよびアテローム血栓性梗塞は夏と1月に増加する2峰性がみられ、心原性脳梗塞では冬場のみ多発した、と報告しています(文献1参照)。
同様に、久山町研究では、脳梗塞が11月から3月にかけて多く発症する中で、平均気温の最も低い2月にやや減少傾向がみられたとしています。このことから、1日の気温の変化が激しいときのほうが発症しやすいことが推測されます(Shinkawa A etal.,Stroke 21:1262-7,1990)。
広島市医師会では、心筋梗塞の発症症例と気象条件を解析。その結果から、特に気圧と気温の変化の関与が明らかになったとしています(文献2参照)。同医師会では2003年から平均気温と平均気圧、天気図型を予測することにより3段階の「心筋梗塞予報」を開始し、現在は対象領域を広島市から広島県全域に拡大した「心筋梗塞・脳卒中予報」につなげています。
参考文献
1)豊田章宏:全国労災病院46000例からみた脳卒中発症の季節性(2002-2008年)、脳卒中、33(2)、p.226-
235、2011:3.
2)松村 誠 ほか:心筋梗塞予報、広島医学、57(5)、p.469-475、2004:5.
(ナース専科マガジン2013年12月号より転載)