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【連載】スケール・評価基準を使いこなそう!

NPUAP分類|褥瘡の重症度分類

  • 公開日: 2020/7/19

1.「NPUAP分類」は何を判断するもの?

 NPUAP分類はNPUAP(米国褥瘡諮問委員会:National Pressure Ulcer Advisory Panel)が提唱する褥瘡の深達度(深さ)による分類です。

 図1に示すように、ステージⅠ(消退しない発赤)、ステージⅡ(部分欠損)、ステージⅢ(全層皮膚欠損)、ステージⅣ(全層組織欠損)の4段階に分類されていましたが、NPUAPは2009年にEPUAP(欧州褥瘡諮問委員会:European Pressure Ulcer Advisory Panel)と共同で改訂版を出し、米国向け追加のカテゴリとして「皮膚または組織の全層欠損—深さ不明」と「深部組織損傷疑い(suspected DTI)—深さ不明」の2つが追加されました(図1)。

図1 NPUAP/EPUAPによる褥瘡の分類

カテゴリ/ステージⅠ:消退しない発赤

NPUAP分類 カテゴリ/ステージⅠ 消退しない発赤 通常骨突出部に限局された領域に消退しない発赤を伴う損傷のない皮膚。色素の濃い皮膚には明白なる消退は怒らないが、周囲の皮膚と色が異なることがある。
 周囲の組織と比較して疼痛を伴い、硬い、柔らかい、熱感や冷感があるなどの場合がある。カテゴリⅠは日日の色素が濃い患者では発見が困難なことがる「リスクのある」患者とみなされる可能性がある。

カテゴリ/ステージⅡ:部分欠損

NPUAP分類 カテゴリ/ステージⅡ:部分欠損 黄色壊死組織(スラフ)を伴わない、創底が薄赤色の浅い潰瘍として現れる真皮の部分層欠損。皮蓋が破れていないもしくは開放/破裂した、血清または漿液で満たされた水疱を呈することもある。
 スラフまたは皮下出血を伴なわず、光沢や乾燥した浅い潰瘍を呈する。このカテゴリを、皮膚裂傷、テープによる皮膚炎、失禁関連皮膚炎、浸軟、表皮剥離の表現に用いるべきではない。
*皮下出血は深部組織損傷を示す。

カテゴリ/ステージⅢ:全層皮膚欠損

NPUAP分類 カテゴリ/ステージⅢ:全層皮膚欠損 全層皮膚欠損。皮下脂肪は視認できるが、骨、腱、筋肉は露出していない。組織欠損の深度がわからなくなるほどではないがスラフが付着していることがある。ポケットや瘻孔が存在することもある。
 カテゴリ/ステージⅢの褥瘡の深さは、解剖学的位置によりさまざまである。鼻梁部、耳介部、後頭部、踝部には皮下(脂肪)組織がなく、カテゴリ/ステージⅢの褥瘡は浅くなる可能性がある。反対に脂肪層が厚い部位では、カテゴリ/ステージⅢの非常に深い褥瘡が生じる可能性がある。骨/腱は視認できず、直接触知できない。

カテゴリ/ステージⅣ:全層組織欠損

NPUAP分類 カテゴリ/ステージⅣ:全層組織欠損 骨、腱、筋肉のロシュうつを伴う全層組織欠損。スラフまたはエスカー(黒色壊死組織)が付着していることがある。ポケットや瘻孔を伴うことが多い。
 カテゴリ/ステージⅣの褥瘡の深さは解剖学的位置によりさまざまである。鼻梁部、耳介部、後頭部、踝部には皮下(脂肪)組織がなく、カテゴリ/ステージⅣの褥瘡は浅くなる可能性がある。反対に脂肪層が厚い部位では、カテゴリ/ステージⅣの非常に深い褥瘡が生じることがある。カテゴリ/ステージⅣの褥瘡は筋肉や支持組織(筋膜、腱、関節包など)に及び、骨髄炎や骨炎を生じやすくすることもある。骨/筋肉が露出し、視認することや直接触知することができる。

米国向けの追加カテゴリ

分類不能:皮膚または組織の全層欠損ー深さ不明

NPUAP分類 分類不能:皮膚または組織の全層欠損ー深さ不明 創底にスラフ(黄色、黄褐色、灰色、緑色または茶色)やエスカー(黄褐色、茶色または黒色)が付着し、潰瘍の実際の深さが全くわからなくなっている全層組織欠損。
 スラフやエスカーを十分に除去して創底を露出させないかぎり、正確な深達度は判定できないが、カテゴリ/ステージⅢもしくはⅣの創である。踵に付着した、安定した(発赤や波動がなく、乾燥し、固着し、損傷がない)エスカーは「天然の(生体の)創保護」の役割を果たすので除去すべきではない。

深部組織損傷疑い(suspended DTI)ー深さ不明

NPUAP分類 深部組織損傷疑い(suspended DTI)ー深さ不明 圧力やせん断力によって生じた皮膚軟部組織が損傷に起因する、限局性の紫色または栗色の皮膚変色または血疱。
 隣接する組織と比べ、疼痛、硬結、脆弱、浸潤性で熱感または冷感などの所見が先行して認められる場合がある。深部組織損傷は、皮膚の色素が濃い患者では発見が困難なことがある。進行すると暗色の創底に薄い水疱ができることがある。創がさらに進行すると薄いエスカーで覆われることもある。適切な治療を行っても進行は速く、適切な治療を行っても深い組織が露出することもある。

EPUAP (ヨーロッパ褥瘡諮問委員会)/NPUAP(米国褥瘡諮問委員会)著,宮地良樹,真田弘美,監訳:NPUAP-EPUAP による褥瘡の国際的定義.褥瘡の予防&治療:クイックリファレンスカイド.p.12-3.(2020年6月12日閲覧)https://www.epuap.org/wp-content/uploads/2016/10/japan_quick-reference-guide-jan2016.pdfより引用


 日本褥瘡学会では、1998年に「褥瘡の予防・治療ガイドライン」において、深達度に応じてⅠ度からⅣ度まで褥瘡が分類されました。Ⅰ度(圧迫を除いても白く消退しない発赤、紅斑)、Ⅱ度(真皮までにとどまる皮膚障害、すなわち水疱やびらん、浅い潰瘍)、Ⅲ度(障害が真皮を越え、皮下脂肪層にまで及ぶ褥瘡)、Ⅳ度(障害が筋肉や腱、関節包、骨にまで及ぶ褥瘡)とされました。

 その後、2002年に褥瘡の状態を判定するDESIGN分類が、日本褥瘡学会から提唱されました。しかし、一人の患者さんの褥瘡の経過を追い、改善があるかどうかを判定するのには有効ですが、複数の患者さんの褥瘡を比較することができないという問題があり、2008年にDESIGNが改定され、DESIGN-R®に変更になりました。

 褥瘡は深さだけでなく、大きさやポケット、感染の有無が重症度に影響します。NPUAP分類は、深達度だけを評価しますが、DESIGN-R®は、深さ・滲出液・大きさ・炎症/感染・肉芽組織・壊死組織・ポケットを確認し、重症度と経過を評価するスケールです。

 具体的な項目ごとの内容の違いを表1に示しました。NPUAP分類はDESIGN-R®の「D(Depth:深さ)」に対応していて、例えばNPUAP分類のステージⅠは、DESIGN-R®の「d1」にあたります。NPUAP分類は国際的には広く使用されているスケールですが、日本においては、DESIGN-R®のほうが多くの施設で評価に用いられているといえるでしょう。

表1 NPUAP分類とDESIGN-R®の違い

NPUAP分類 DESIGN-R®
d0:皮膚損傷・発赤なし
DTI疑い(SDTI):深さ判定不明
ステージⅠ:消退しない発赤 d1:持続する発赤
ステージⅡ:部分欠損または水疱 d2:真皮までの損傷
ステージⅢ:全層組織損傷(脂肪層の露出) D3:皮下組織までの損傷
ステージⅣ:全層組織欠損 D4:皮下組織を超える損傷
D5:関節腔・体腔に至る損傷
判定不能:皮膚または組織の全層欠損・深さ判定不能
壊死組織で覆われている全層損傷
U:深さ判定不能の場合

日本褥瘡学会,編:在宅褥瘡予防・治療ガイドブック 第3版.照林社,2015,p.26-7.より引用

2.「NPUAP分類」はこう使う!

 「ステージⅠ」では、患者さんの皮膚に発赤が見られたら、指またはガラス板を発赤に押し当て、パッと離したときに白くなれば「一時発赤」で、赤いままであればステージⅠの褥瘡となります(図2)。また、発赤の場合は「DTI疑い」の可能性もあるので、発赤を触ってみて熱感や腫脹、硬結があるかを確認してください。

図2 発赤の判定方法
発赤の判定方法

 「ステージⅡ」は部分欠損または水疱です。部分欠損とは真皮までの損傷で皮膚がめくれるなどのびらんの状態をいい、浅い褥瘡がここに分類されます。壊死組織を伴わないのが特徴です。

 「ステージⅢ」は全層皮膚の欠損なので、毛穴があればⅡになりますが、毛穴がなければここに分類します。皮下脂肪までの褥瘡で、骨・腱、筋肉は露出していません。ポケットや、壊死組織がある場合があります。褥瘡と周辺皮膚との段差がみられます。

 「ステージⅣ」は全層欠損であり皮下脂肪以上で、骨や腱、筋肉の露出を伴うものが、ここに分類されます。壊死組織付着や、ポケットを伴うことが多いです。

 分類不能:深さ不明です。創面が柔らかい壊死組織や固い壊死組織に覆われて、創底が見えない状態で深さがわからないためここに分類されます。

 「深部組織損傷疑い(suspected DTI)」は血泡や発赤、びらんなどのような皮膚に紫斑などの変色があるものがここに分類されます。血泡だけなら「Ⅱ」へ、硬結や痛み、熱感が認められる場合はDTIであるといえます。そのため、「赤いな」と思ったら触ってみてください。熱感や腫脹、硬結があれば、深部のほうにかなり炎症があると考えられます。

3.「NPUAP分類」を看護に活かす!

 NPUAP分類により深達度はわかりますが、炎症、感染、浸出液などの量が不明のため、これのみでは治療の判定ができません。DESIGN-R®と一緒に使用することで深さ以外の状態を把握する必要があります。

 またNPUAP分類では、DTI (深部組織損傷)をしっかり理解しておいてほしいと思います。DTIのように一見褥瘡とはわからないものは、まずは触ってみて熱感や疼痛、硬結があるかをみてほしいと思います。

 また術直後や救急で運ばれてきた患者さんで、一見赤くなっているので、ステージⅠだと思っていると、実は深部のところに炎症が広がっていてDTIであったということがあります。

 そのため救急で入ってきた患者さんで、DITの状態が認められたら、家族にはあらかじめ説明しておく必要があります。説明しないままでいると「病院で褥瘡ができた」、「褥瘡がこんなに深くなっているのはケアが悪いからだ」と誤解されてしまうことがあります。特に病棟の看護師は、DTIがどの時点でできたのかをはっきりさせておくことが大切です。

【POINT】NPUAP分類だけでは褥瘡のリスクアセスメントは行えない! NPUAP分類は深達度だけに着目したスケールなので、これだけでは褥瘡のリスクアセスメントは行えません。例えば、リスクアセスメントで栄養が悪ければ、栄養の改善を行う必要がありますが、NPUAP分類では栄養状態の把握は不可能です。また、深達度だけでは患者さんが動けているのか、動けないのかはわかりません。動けているのにエアマットを使って、動けなくしてしまう恐れもあります。

引用・参考文献

1)EPUAP (ヨーロッパ褥瘡諮問委員会)/NPUAP(米国褥瘡諮問委員会)著,宮地良樹,真田弘美,監訳:NPUAP-EPUAP による褥瘡の国際的定義.褥瘡の予防&治療:クイックリファレンスカイド.(2020年6月12日閲覧)https://www.epuap.org/wp-content/uploads/2016/10/japan_quick-reference-guide-jan2016.pdf
2)日本褥瘡学会,編:在宅褥瘡予防・治療ガイドブック 第3版.照林社,2015,p.26-7.

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