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胸水の看護|原因と発生のメカニズム、症状、治療、看護のポイント

  • 公開日: 2023/6/24

胸水とは

 肺は胸骨や肋骨、肋間筋や横隔膜などで構成される胸郭の中に存在し、胸膜に覆われています。胸膜は胸郭側にある壁側胸膜と肺側にある臓側胸膜に分かれ、その間の空間である胸膜腔に胸水が存在しています(図)(風船に握り拳を押しつけるとできる風船-空間-風船というイメージ)。水は、正常では10-20mL程度が存在しています。肺の動きに対して壁側胸膜と臓側胸膜の間で潤滑剤のような働きをしています。

図 胸膜と胸水

胸膜と胸水の図
※胸水は通常のCT画像では見えないくらいの量であり、臓側胸膜と壁側胸膜の間の胸膜腔も見えない

胸水の原因と発生のメカニズム、種類

 壁側胸膜と臓側胸膜の間に存在する胸水は、壁側胸膜の毛細血管から出てくる水分と臓側胸膜の毛細血管やリンパ管に吸収されることでバランスが保たれています。水の量は毛細血管からの産生と毛細血管やリンパ管への吸収に影響されるため、産生が過剰になるか、吸収が不十分になるかによって起こり滲出性胸水と漏出性胸水に分けられます。

 滲出性胸水は血管透過性が亢進することで、毛細血管から胸膜腔へ水分が滲み出てその量が吸収を上回ることで、結果的に産生過剰となって起こります。漏出性胸水は心不全に伴う肺静脈圧の上昇膠質浸透圧の低下によって毛細血管から胸膜腔へ水分が漏れ出てリンパ管の吸収を上回り、結果的に産生過剰となります。

 そして、何らかの原因でリンパ管が閉塞するなどの吸収が不十分な状態になることでも胸水は貯留します。

表1 胸水貯留の主な原因疾患

滲出性胸水 漏出性胸水
感染症(細菌性胸膜炎、膿胸、結核性胸膜炎、真菌感染、ウイルス感染など)
がん性胸膜炎
肺血栓塞栓症 など
うっ血性心不全
ネフローゼ症候群
肝硬変
腎不全
低アルブミン血症
無気肺
自己免疫性疾患 など

胸水の症状

 胸水が少量の場合は症状を認めにくいですが、大量に貯留することで肺の拡張が障害され、呼吸困難が生じることがあります。胸膜炎などが原因で胸水が貯留している場合は胸痛が出現する場合があります。

 また、胸水貯留部は肺の空気が少なくなっているので打診で濁音を認めたり、聴診で呼吸音の減弱を認めます。

胸水の診断

 胸水が貯留する原因を検索するために行われる検査は採血、超音波検査、胸部レントゲンなどいくつもあります。そのうち胸水を採取して調べる検査が胸水検査です。滲出性胸水と漏出性胸水では胸水の生じる原因が異なるため、胸水を採取して調べることで胸水に含まれる成分の違いから滲出性胸水もしくは漏出性胸水を判断します。胸膜炎や心不全など胸水貯留の原因が明らかな場合は、原因となる疾患に対する検査が行われるため必ずしも胸水検査が必要になるとは限りません。

 滲出性胸水か漏出性胸水かを判断するために用いられるものがLightの基準(表2)で、血液中と胸水中の蛋白とLDHを用いて滲出性胸水もしくは漏出性胸水を判断します。ただし、原因と胸水の性状が必ずしも合致するとは限らないので、Lightの基準を含めて総合的に判断していくことになります。

表2 Lightの基準

以下の3のうち1つでも陽性
1 総蛋白濃度 胸水/血清>0.5
2 胸水 LDH/血清 LDH>0.6
3 胸水 LDH>血清 LDHの正常上限の2/3以上
Richard W Light:Clinical practice.Pleural effusion.N Engl J Med. 2002;346(25):1971-7.より引用

胸水の治療

 胸水貯留には原因がありますので、その原因に対して治療が行われます。例えば、呼吸困難に対して酸素投与を行なった場合、呼吸困難という症状は緩和されても呼吸困難そのものが解消されるわけではありません。同様に、胸水貯留に対して胸水穿刺や胸腔ドレーンで胸水を排出しても、胸膜炎や心不全といった胸水が貯留する原因が解消されないことには再度胸水は貯留していくことでしょう。

 胸水貯留に伴う症状(呼吸困難や胸痛など)や状態変化が認められている場合は原疾患への治療のほかに対処が必要になります。その際に用いられるものが胸腔ドレーンです。胸膜腔にドレーンを留置して、胸水を排出することで肺の拡張を促します。胸腔ドレーンの目的は胸水や空気を体外に排出する「治療」、胸腔という見えない部分の状態を推測する「情報」の2つがあります。

胸水のある患者さんの看護と観察ポイント

 まずは原疾患に対する看護です。胸水貯留といってもその原因が例えば胸膜炎なのか心不全なのかで継続して観察する部分も行われる治療も変わってきます。そのため胸水貯留の原因はなにか? それに対する治療や検査はどんなことが行われているのか? を把握して看護を実践していく必要があるでしょう。

 また、胸腔ドレーンが挿入されている患者さんに対する看護も必要になります。胸腔ドレーンの目的は「治療」や「情報」であり、胸腔内にドレーンを留置しているため持続的に胸水は排出されます。

安楽な体位や姿勢

 胸水が貯留している分だけ肺の拡張が妨げられることが考えられるため、肺の拡張を促すことができるような安楽な体位や姿勢を整える必要があります。 例えば心不全で両側に胸水が貯留している場合、臥位姿勢よりも座位姿勢のほうが横隔膜が動きやすく、肺の拡張を促すことができます。

胸水のある患者さんの基本的な観察項目とポイント

バイタルサイン・呼吸状態の確認

 胸水が貯留することで呼吸音に左右差が生じます。さらに貯留している多量の胸水によって呼吸状態が悪化していくため呼吸回数、呼吸様式などを確認します。また、胸水貯留が悪化していく場合は原因によっては病状が進行していく可能性が考えられるためバイタルサインの推移に注意しましょう。

呼吸困難感の有無

 呼吸困難感は、患者さんの主観的な訴えになります。患者さんはさまざまな言葉で訴えてきます。患者さんの訴えを見逃さないようにしましょう。

咳嗽・喀痰の有無

 咳嗽の種類が湿性なのか乾性なのかを確認します。喀痰の性状が粘性なのかどうか、色調が黄色なのか白色なのかなどを見ておきましょう。

胸水の性状や量とその推移

 例えば段々と胸水の量が減少していたり、排液が血性から淡々血性に変化していけば状態が改善してきていると考えられ、急激に排出される胸水の量が減少したら胸腔ドレーンのどこかが閉塞している可能性が考えられます。また、急激に胸水が増えた場合は胸腔ドレーン挿入時の肋間動脈の損傷や肺動脈の損傷の可能性は考えられるため性状が血性なのかを確認します。

呼吸性変動

 胸腔ドレーンの呼吸性変動とは呼吸に連動して水封部液面が上下に動くことを言います。胸腔ドレーンが胸腔内に留置されていると、呼吸に伴う陰圧の変化で水封部液面が上下に動きます。例えばドレーン先端が体外に出ていたり、ドレーンのどこかが閉塞していたりドレーン先端が胸壁に触れていたり肺が十分に拡張してドレーン先端が肺に触れていると上下の動きがなくなります。

エアリーク

 胸腔ドレーンの水封部液面に気泡を認めることを言います。これを認めるということは経路のどこかに空気があることが推測できます。例えば気胸のように肺に穴が空いているのか、胸腔ドレーンの刺入部から空気が入っているのか、ドレーンチューブや接続部の破損があるのか、などが考えられるので、呼吸音の聴診、ドレーン刺入部や接続部の確認などを行います。

皮下気腫

 エアリークのように空気が胸腔ドレーンを通って体内から体外へ排出される場合もあれば、皮下に移動する場合もあります。また、胸腔ドレーンを挿入する際に多少の皮下気腫が発生することが考えられますが、急速に範囲が広がる場合は呼吸状態が悪化する可能性があります。どこに皮下気腫があり、その範囲はどれくらいなのか、挿入された部位の周囲の皮膚を観察していく必要があります。

胸部レントゲン

 適宜、画像検査は行われます。水がどこにあり、どれくらいの量なのか、肺の拡張は促されているか、ドレーン先端位置はどこにあるのかを観察します。

ドレーンの観察

 ドレーンがしっかりと固定されているか、ゆるんでいないかなどを確認します。チューブや排液ボトルの接続部が緩んでいないかも確認しましょう。また、発赤や腫脹など感染の徴候がないかも観察します。

胸腔ドレナージの看護計画

 胸水貯留に対して胸腔ドレーンを挿入している患者さんの看護計画の一例を考えてみます。

 気胸や胸水貯留、出血などによって呼吸困難が生じるため、胸腔ドレーンを挿入して胸腔内の空気や液体を排出させることで肺の拡張を促します。今回は胸水貯留に対して胸腔ドレーンを挿入している患者さんの看護計画を立案してみました。

看護問題

胸水貯留に伴うガス交換障害

看護目標

効果的なガス交換が可能になる

観察計画 O-P

バイタルサイン
呼吸困難感の有無、程度
咳嗽、喀痰の有無、性状、程度
呼吸音の性状、聴取部位、左右差の有無
胸腔ドレーンの排液の性状、量
呼吸性変動、エアリークの有無、程度、推移
皮下気腫の有無、程度、範囲、推移
創部(刺入部)の発赤、腫脹、疼痛の有無、程度
睡眠状況、食事や飲水摂取状況
検査データ(採血、動脈血ガスなど)
画像データ(XP、CTなど)

援助計画 T-P

安楽な姿勢、体位の調整
固定の確認を行い、自己抜去を防ぐ
創部や胸腔ドレーンの汚染や感染に留意する
医師の指示に基づく吸引圧の設定する
必要に応じて、医師の指示に基づく酸素療法の実施

教育計画 E-P

胸腔ドレーンの必要性を説明する
合併症の症状とその予防について説明する
酸素療法の必要性を説明する
創痛を我慢せず伝えてもらうように説明する


図/こさかいずみ

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Lightの基準


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