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【連載】呼吸器3大疾患のケア

【肺炎の看護】肺炎の病態・種類と観察項目

  • 公開日: 2014/1/6

 日本呼吸器学会の成人市中肺炎診断ガイドラインでは、まず非定形肺炎と細菌性肺炎に鑑別してから、治療にあたる方法を採っています。
ここでは、市中肺炎で第一の標的となる細菌性肺炎を中心に、鑑別による治療薬の選択も含めて、そのケアのポイントをピックアップしていきます。


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肺炎とは

病態

 本来、無菌でしっとりした状態に保たれていなければならない肺胞の中に微生物が侵入し、炎症を起こし水分が滲出する、いわば肺胞が痰や分泌物によって水浸しになる急性感染症です。

 一般的に、肺胞の周りの毛細血管や支持組織である間質に炎症があるものは間質性肺炎、肺胞と間質に炎症があるものは肺臓炎といい、肺胞に炎症が起きる肺炎とは区別しています。

症状と所見

 肺炎の中心的な症状は、感染症による発熱です。特に高熱の場合が多いのですが、軽度の発熱の場合もあります。発熱に随伴して、頭痛、食欲不振、全身倦怠感、筋肉痛や関節痛などがみられることがあります。重症例では、意識障害をきたします。脱水を伴う場合、特に高齢者は注意が必要です。

 呼吸器の症状としては、最も多いのは咳であり、マイコプラズマ肺炎やクラミジア肺炎は痰を伴わない咳が多く、それ以外の細菌性の肺炎では膿性痰を伴う咳が多いとされます。基本的に呼吸数が増加して頻呼吸となり、異常呼吸音が聴取されます。

 ただし、高齢者や免疫不全の患者さんでは発熱が軽微、もしくは発熱しないこともあるので注意が必要です。

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診断

 前項で挙げたような症状や所見があり、胸部X線写真で肺胞の浸潤陰影があると、肺炎と診断されます。CTではさらに細かい所見がみられますが、コストが高く一般的には検査されません。血液検査では、白血球数の増加とCRP炎症反応がみられます。

 院内肺炎の場合、長期ステロイド投与や抗がん剤投与、HIVなどによる免疫不全の患者さんなどでは感染を起こしやすい場合があります。また、ニューモシスチス(以前はカリニ肺炎と呼ばれていた)、サイトメガロウイルスなど、通常ではあり得ない微生物で感染を起こすことがあります(日和見感染症)。こうした場合、胸部X線写真に異常陰影が出現しにくいなど、通常の肺炎と異なり診断が困難です。

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治療

 肺炎は感染症なので、抗菌薬療法が主になります。喀痰の培養検査などで原因菌をつきとめたうえ、その菌に有効な抗菌薬を投与することですが、検査結果がわかるまで3~4日間かかるため、外来などではあまり行われていないのが現状です。

 そこで、症状やレントゲンの浸潤陰影の特徴から最も疑わしい病原菌を推定し、経験的に治療薬を選択する「エンピリック療法」が主流になっています。

 一般の細菌、院内感染でみられる難治性の耐性菌であるMRSAや耐性緑膿菌、非定型肺炎と呼ばれるマイコプラズマ、レジオネラ、クラミジア、嫌気性菌(誤嚥性肺炎の原因菌となる)、その他の真菌、ウイルスなど、原因菌によって抗菌薬の選択が変わってきます。

 市中肺炎の患者さんの場合は、ほとんど外来治療ですむ場合が多く、自宅療養が可能か入院が必要かの見極めは、日本呼吸器学会が定めた「市中肺炎診療ガイドラインにおける重症度分類」が一つの目安となります。

 抗菌薬療法のほかに、脱水の補正、必要であれば酸素療法など、肺炎では全身管理も重要になってきます。背景疾患のない若年者の肺炎の場合は重症化、もしくは死に至ることはまれですが、高齢になればなるほど、合併症や他の菌に感染したり誤嚥性肺炎を起こしやすくなり、リスクが高まります。

肺炎の鑑別から始めよう!

肺炎の種類と鑑別方法

 肺炎は感染環境、または発症のタイミングによって、「市中肺炎」と「院内肺炎」の2つに分類されます。

市中肺炎

 病院外で日常生活をしている人が、生活圏に存在する細菌やウイルス、微生物に感染し、病院外から入院後48時間未満までに発症した肺炎のすべてをさします。

 起炎菌としては肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、肺炎桿菌、肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミジア、レジオネラなどがあげられます。一般に市中肺炎の起炎菌は、強毒菌であることが多いものの、抗菌薬の感受性が高いので、治療の効果も高いといえます。

 さらに市中肺炎は、細胞壁合成阻害薬のβラクタム(ペニシリン、セフェム)系抗菌薬で治療ができる一般細菌性肺炎と、これらの抗菌薬が無効でマクロライド系やテトラサイクリン系の抗菌薬などで治療する非定型肺炎に分けられます(図)。

非定型肺炎群と細菌性肺炎群の鑑別表

 非定型肺炎の特徴として、発熱が軽度であることと、白血球が正常であること、すりガラス状陰影の胸部X線画像があること、グラム染色で原因菌らしきものがないこと、などが挙げられます。

院内肺炎

 入院して48時間以降に発症した肺炎を「院内肺炎」といい、起炎菌が耐性菌かどうかは問いません。院内肺炎の起炎菌としてはアシネトバクター、エンテロバクター属、緑膿菌などのグラム陽性桿菌などが挙げられます。これらの起炎菌は弱毒菌が目立つものの、抗菌薬の感受性が低く、難治性であることが多いのが特徴です。

 院内肺炎の原因としては、人工呼吸管理中の細菌感染(人工呼吸器関連肺炎:VAP)、院内のMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などの耐性菌、誤嚥などが挙げられます。また、市中肺炎は基礎疾患のない健常者にも発症するのに対して、院内肺炎は基礎疾患との関係が深く、例えば長期ステロイド投与や抗がん剤の投与、HIVなどにより、免疫不全の状態になると発症することがあります。

 院内肺炎の治療は、院内感染で多いとされる緑膿菌に有効で、かつ抗菌域の広い薬剤を用います。特に誤嚥性肺炎が疑われる場合、口腔内、鼻腔常在菌はグラム陽性桿菌がほとんどであるため、初期治療はアンピシリンで十分効果があるとされています。

エンピリック療法

 エンピリック療法とは、細菌培養の結果が出るまでの初期治療で可能性のある起炎菌をできるだけカバーする抗菌薬を投与する方法です。特に肺炎では、まずは細菌性肺炎か非定型肺炎かを鑑別し、それぞれに合った抗菌薬を投与します。

 抗菌薬にはより多くの菌に効く広域抗菌薬と、限定された菌に効く狭域抗菌薬とがあり、エンピリック療法ではある程度広域の薬剤が選ばれます。市中肺炎の場合は、肺炎における抗菌薬選択の指標があり、それに沿って治療を開始するのが望ましいとされています。重症の肺炎では、より抗菌域が広く、強い薬剤を用いるか、いくつかの抗菌薬を併用します。

 また、通院治療と入院治療では、抗菌薬服薬に関する注意点が違ってきます。特に通院治療では、中途半端に抗菌薬を服用すると耐性菌が発生してしまうことや、抗菌薬の副作用を念頭に置いてアセスメントし、指導していきましょう。

肺炎の急変症状に対する観察のポイント

意識レベルの低下

 肺炎で入院中の患者さんにおいて、特に気をつけなければならないのは、動脈血の酸素化です。酸素濃度に気を配り、低酸素にならないように、パルスオキシメーターでこまめにチェックしましょう。また、急に意識レベルが低下した場合は、換気不全を疑います。換気不全かどうかは呼吸数の低下、もしくは動脈血液ガスデータのPaCO2から判断します。動脈血液ガスの正常値を知っておくことが大切です。

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発熱

 発熱中であっても日内変動はみられます。しかし、明らかな変動要因が見当たらないにもかかわらず、急激な上昇(または下降)を示した場合には、血圧など他のバイタルサインもチェックしながら速やかに医師に報告しましょう。敗血症など重篤な合併症が隠れているケースも考えられます。さらに、発熱中は脱水症状に十分に注意しましょう。

 高齢者の場合、肺炎の典型的症状が認められないことも多いので、バイタルサインはもちろんのこと、全身状態の経過観察を注意深く続けましょう。

気を付けたい高齢者の肺炎

 高齢者の場合、苦痛の訴えがあまりなく、その上、発熱、咳、痰、呼吸困難など、肺炎の特徴的な症状自体が出にくかったり、認知症の症状によって自分の状態を表現できない場合があります。そのため体力のない高齢者は、容易に脱水症状に陥る危険性があり、注意が必要です。

 肺炎を早期に発見するためには、食欲不振、無動、意識障害、失禁という4つの項目に注目して観察します。急激な呼吸数の増加や頻脈がみられたときには、ほかのバイタルサインやサチュレーションをチェックし、肺炎が潜在していないかどうかを考えることが大事です。

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 また、高齢者は腎機能が低下しているため、抗菌薬の血中濃度半減期が延長することが多く、体重も減少するため、1回の投与量や投与間隔も、これらを考慮して決定されます。また、副作用にも注意が必要です。

 誤嚥は肺炎の原因の一つですが、高齢者の場合、食事中にものを喉に詰まらせても、少しむせる程度で済んでしまい、自覚していない場合も少なくありません。本人だけでなく、家族にも食事中に何か気になる様子がなかったかどうか、確かめてみましょう。

 顕著な誤嚥がなくても、上気道の分泌物が少しずつ下気道に垂れ込む不顕性誤嚥が圧倒的に多いといわれています。いずれの場合でも、口腔内の清潔を保つことは、明らかに肺炎の予防に効果があることを、繰り返し患者さんに説明してください。

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(『ナース専科マガジン』2012年12月増刊号「一冊まるごと呼吸ケア」より転載)

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