第4回 無痛分娩後の助産師・看護師のケア・観察ポイント
- 公開日: 2020/1/26
分娩終了後、硬膜外麻酔の局所麻酔薬投与を終了し数時間もたてば、通常硬膜外麻酔の作用はほとんどみられませんが、その後も継続して観察する必要があります。また産後母体の身体の変化が正常な産褥経過であるかどうか、そして育児行動がとれているかどうかを観察し、必要なケアを行います。第4回では、私たちが無痛分娩後に特に注目しているポイント2つを解説します。
<2つのポイント>
・分娩後・無痛分娩後の合併症
・分娩体験の受容へのケア
分娩後・無痛分娩後の合併症
*無痛分娩中の合併症は第5回で解説します。
排尿障害
分娩中に児頭がせまい産道を通る過程で、組織への負担などから分娩後に排尿障害を生じることがあります。主な症状は尿意の減弱や消失、尿閉です。硬膜外麻酔などの無痛分娩を行うと、産後の排尿障害の発生率は増えると報告されています1)。
私たちの身体は200mL程度の尿が膀胱に溜まると尿意を感じるといわれています。もし尿意を感じることができず膀胱充満・膀胱の過伸展が起こると、排尿障害を引き起こしたり、排尿障害の延長、子宮収縮不良の要因ともなりえます。そのため、当院では産後3時間ごとに尿意があるか、自尿が出ているかを確認します。自尿が出ていない場合は、膀胱用超音波画像診断装置などを用いて膀胱に尿が溜まりすぎていないか確認し、自力で尿を出すことができない場合は、導尿を行います。産褥経過によっては膀胱の過伸展予防のために膀胱留置カテーテルを一時的に使用していくことももあります。排尿障害は時間の経過とともに改善していくことが一般的ですが、育児行動の妨げや自尊心への影響も大きいため、分娩後早期からの介入・ケアが大切です。
PDPH:硬膜穿刺後頭痛
硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔といった区域麻酔で無痛分娩を行った後に頭痛が起きた場合、考えられるもっとも一般的なものはPDPH(Post-dural puncture headache:硬膜穿刺後頭痛)です。妊婦のように若い女性では発生率は高く、1%から状況によってそれ以上の発生率といわれています2)。ただし分娩後の頭痛は、頻回授乳の寝不足や産褥高血圧など他の原因も鑑別して治療していく必要があるため、症状を注意深く確認し医師と経過を共有していきます。
硬膜外血腫・膿瘍
区域麻酔で穿刺した際やカテーテルの抜去時に硬膜外腔(解剖については第1回参照)で出血が増え血腫が増大すると、脊髄を圧迫して下肢の運動障害や穿刺部の強い疼痛などがみられる場合があります。硬膜外血腫の発生は極めてまれですが、血が止まりにくい状態(抗血栓薬使用、分娩時の大量出血後など)ではさらに注意が必要です。
硬膜外膿瘍は主に穿刺した部位から感染し硬膜外腔で膿が溜まることです。硬膜外血腫も膿瘍も状況により不可逆的な神経障害・麻痺をきたす可能性があるため、麻酔中、麻酔後と定期的に下肢の動きや感覚、穿刺部の確認をし、症状がある場合は迅速に医師と共有します。
神経障害
区域麻酔による無痛分娩での神経障害は極めてまれで、分娩そのものの影響で下肢のしびれや感覚異常といった症状が起こることがあります。産後の神経障害は、約1%程度の発生率とされ、初産婦、分娩第2期延長がリスク因子で麻酔の有無での発生率に差はないといわれています3)。発生原因はどちらにしても、下肢の運動・感覚障害は産後の育児行動に影響する可能性もあるため注意して確認する必要があります。