骨粗鬆症の看護|原因、検査・治療、観察項目、看護計画
- 公開日: 2022/1/31
骨粗鬆症とは
骨粗鬆症について、WHO(世界保健機関)では、「低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患」と定義しています1)。骨折はADL低下や寝たきり状態を引き起こす主な要因の一つです。超高齢社会の日本において、骨粗鬆症への適切なフォローは健康寿命の延伸や高齢者のQOL維持向上を図る糸口となります。
骨粗鬆症の原因、分類
骨粗鬆症は、何らかの原因で破骨細胞による古い骨の吸収(骨吸収)と骨芽細胞による新しい骨の形成(骨形成)のバランスが崩れ、骨密度が低下することで骨折しやすくなります。骨粗鬆症はその原因により、原発性骨粗鬆症と続発性骨粗鬆症に大別されます。
原発性骨粗鬆症
原発性骨粗鬆症は、遺伝的要因、加齢、閉経、生活習慣が原因となり起こります。閉経後骨粗鬆症、男性骨粗鬆症、特発性骨粗鬆症(妊娠後骨粗鬆症)などがあります。
続発性骨粗鬆症
骨脆弱性をきたす特定の原因が認められるものを続発性骨粗鬆症といいます。原因疾患には、次のようなものがあります。
・内分泌性(甲状腺機能亢進症、クッシング症候群、性腺機能低下症など) ・栄養性(胃切除後、吸収不良症候群、ビタミンAあるいはD摂取過剰、ビタミンC欠乏症など) ・薬剤性(ステロイド剤、性ホルモン低下療法治療薬、SSRI、ヘパリンなどの薬剤投与) ・不動性(臥床安静、対麻痺、廃用症候群など) ・先天性(骨形成不全症、マルファン症候群など) ・そのほかの因子(糖尿病、肝疾患、慢性腎臓病など) 【関連記事】 ●骨粗鬆症の原因と分類骨粗鬆症の検査、診断
問診
現在気になっている症状、既往歴、内服歴、家族歴、閉経の有無、食事や運動、生活習慣などについて確認します。
骨密度検査
骨に含まれるミネラル(カルシウム、マグネシウムなど)を調べ、骨の強度を確認します。若年成人の平均骨密度を100%として比較したとき、80%以上で正常、70~80%で骨量減少、70%以下で骨粗鬆症と診断されます。骨密度の測定方法には、次のようなものがあります。
種類 | 方法、特徴 |
---|---|
二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法) | ・2種類のX線を測定部位(腰椎、大腿骨近位部、前腕)に照射し、骨密度を測定する |
超音波法 | ・踵骨に超音波を当てて骨密度を測定する ・X線を使用しないため、妊娠中の検査が可能 |
MD法 | ・X線によりアルミスケールと第2中手骨を同時に撮影。骨とアルミニウムの濃度を比較し、骨密度を測定する |
単純X線(レントゲン)検査
胸椎および腰椎のX線撮影を行うことで、圧迫骨折や変形の有無、空洞化の程度を確認します。
身長測定
25歳頃と比べ、どのくらい身長が低下しているか確認します。25歳時の身長より4cm以上の身長低下を認める場合は、椎体骨折のリスクが2.8倍になるとされています2)。
血液・尿検査
骨代謝マーカー(骨吸収マーカー、骨形成マーカー)の上昇は、骨折予測因子となることがわかっています3)。また、薬物療法を予定している場合や、治療薬を選択する際にも役立ちます。
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薬物療法
骨粗鬆症の薬物療法は、骨吸収と骨形成のバランスを整え、骨折を予防することを目的に導入されます。薬剤の形態や組み合わせは患者さんの状態に合わせて選択されます。主な薬剤の特徴については次のとおりです。
ビスホスホネート製剤
ビスホスホネート製剤は体内に取り込まれると骨表面に吸着し、破骨細胞の働きを抑制します。剤形には錠剤、ゼリー、静脈注射、点滴があり、投与のタイミングも内服薬では1日1回、1週間に1回、4週間に1回、注射剤では月1回、年1回と多岐にわたり、患者さんの状態や生活習慣に合わせた薬剤の選択が可能です。
内服薬の場合は、起床時に水道水(お茶やミネラルウォーターで服用すると、吸収が阻害されるおそれがある)で服用します。服用後は食道への逆流を防ぐため、30分は座位または立位を保ち、水以外の飲食も控える必要があります。また、副作用として、まれに抜歯時に顎骨壊死を起こすケースがあるため、歯科受診の際はビスホスホネート製剤を服用していることを伝えることが大切です。
副甲状腺ホルモン製剤
副甲状腺ホルモン製剤は、骨芽細胞を活性化させ、骨強度を高めます。1日1回の自己注射と、医療機関で週1回投与する方法があります。なお、投与可能期間が生涯で24カ月までと限定されているため、患者さんの理解を得たうえで使用します。
活性型ビタミンD3製剤
破骨細胞の働きを抑制する一方、腸からのカルシウム吸収を促進させます。主な副作用として、高カルシウム血症、急性腎障害、尿路結石などがあり、注意が必要です。
選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)
骨吸収を抑制する作用を持ち、比較的若年の閉経後女性に処方されます。頻度はまれではあるものの、副作用として静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)が挙げられるため、VTEの既往がある患者さんや、長期間の安静臥床が必要な患者さんでは使用できないことがあります。
デノスマブ
デノスマブは、強力な骨吸収抑制作用を持つ4)治療薬です。6カ月に1回投与する皮下注射のため、継続率が高い5)というメリットありますが、低カルシウム血症になりやすく、カルシウムやビタミンDを経口補充し、定期的なモニタリングを行うことが大切です。また、ビスホスホネート製剤と同様、顎骨壊死も重大な副作用として挙げられます。口腔ケアで口腔内を清潔に保ち、定期的な歯科受診で発生を予防します。
【関連記事】 ●骨粗鬆症の予防と治療食事療法
骨粗鬆症の予防・治療に重要な栄養素としてカルシウムがあり、1日あたり700~800mg摂取することが望ましいとされています6)。ただし、健康な骨づくりに必要な栄養素はカルシウムだけではありません。タンパク質やビタミンDのほか、ビタミンB群、ビタミンK、葉酸などの栄養素を含んだバランスのよい食事を心がけ、カルシウムの吸収を阻害する食品(リンを多く含む食品、カフェインを多く含む食品など)の過剰摂取を控えるようにします。摂取量が少ない場合は、ビタミン薬やサプリメントなどの使用が検討されることもあります。
運動療法
閉経後の女性に対する運動介入は、骨密度を上昇させたり、骨折を抑制する効果があるとされています7)。ウォーキング、スクワット、踵上げ運動といった運動習慣をつけることで骨密度の維持・上昇を促すとともに、背筋や大腿部の筋力を安定させ、転倒リスクの低下へとつなげていきます。紫外線への曝露はカルシウムの吸収に役立つビタミンDの生成を促進するため、屋外で身体を動かすよう心がけるのもよいでしょう。
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観察項目、アセスメント
骨粗鬆症の初期段階は自覚症状に乏しく、気付かぬうちに骨折してしまうことがあります。既往歴や内服歴、生活状況などを確認・理解したうえで、身体所見や検査データを組み合わせてアセスメントを行い、リスクのある患者さんを早期に発見し、治療につなげることが重要です。
【主なアセスメント項目】 ・疼痛の有無、部位、痛みの程度 ・姿勢(身長低下や脊柱後彎) ・食生活 ・飲酒歴 ・喫煙歴 ・1日の活動量 ・運動習慣 ・既往歴 ・内服薬の種類と服薬状況 ・骨密度値 ・脆弱性骨折の有無 ・画像データ ・血液・尿検査データ 【関連記事】 ●骨粗鬆症の看護のポイント骨粗鬆症のケア
服薬指導
骨粗鬆症による骨折を防ぐためには、継続的な服薬が欠かせません。しかし、自覚症状を認めない場合、服薬を続ける意味を見出せず、自己判断で中断してしまうことも考えられます。なぜこの薬を服用する必要があるのかを患者さんや家族が正しく理解できるよう促すとともに、患者さんが前向きに治療に向き合っていけるようにサポートすることが大切です。
食事指導
カルシウムを多く含む食品を中心に、タンパク質やビタミンDのほか、ビタミンB群、ビタミンK、葉酸などの栄養素をバランスよく摂取するよう指導します。アルコールは利尿作用があるため、一度体内に吸収されたカルシウムが排泄されてしまう可能性があります。飲み過ぎず、適量を心がけます。
運動指導
継続的な運動は、骨粗鬆症の予防・治療につながります。運動習慣のない患者さんが急に運動量を増やすと、かえって負担になることがあります。掃除や洗濯で身体を動かす、エレベーターやエスカレーターではなく階段を使う、短い距離であれば車を使わずに歩くなど、日常生活でできる運動を取り入れ、無理なく続けられるようにします。
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「骨粗鬆症の治療中でアドヒアランスが低下している患者さん」を例に看護計画を紹介します。
看護問題#アドヒアランス不足による身体損傷リスク状態
看護目標・適切な病識を持ち、治療に対して意欲的になることで骨折などの身体損傷を回避できる
観察計画(O-P) ・疼痛の有無、部位、程度 ・ADL ・認知機能 ・一日の生活リズム ・薬剤投与状況 ・受診状況 ・副作用の有無と程度 ・治療に対する意欲の程度 ・血液検査データ ・画像診断結果 ケア計画・援助計画(T-P) ・骨密度の測定 ・処方された薬剤の残数(残量)確認 ・通院や薬剤投与に対する負担感の程度を確認し、思いの表出があれば傾聴する ・運動や栄養に対する知識の程度を確認する ・生活スタイルに応じた薬剤投与方法に変更できるか医師や薬剤師に相談する ・行動変容のきっかけとなりそうな因子(家族・仕事・趣味・転居など)を探す ・要介護度に応じたサービスの利用と見直しを行う 教育計画(E-P) ・骨粗鬆症に対する知識を補うため、必要に応じて教育入院を検討する ・服薬指導 ・食事指導 ・運動療法(ダイナミックフラミンゴ療法・等尺性背筋運動など) →継続できる運動の方法を指導する →脆弱性骨折を避けられるよう、ボディメカニクスを利用した身体の動かし方を指導する