中心静脈栄養(TPN)の看護|目的、適応・禁忌、手順・介助、合併症とケア
- 公開日: 2022/5/31
中心静脈栄養とは
中心静脈栄養(Total Parenteral Nutrition:TPN)とは、上大静脈など心臓近くの太い血管にカテーテルを留置し、高濃度の栄養剤を投与する方法です。血流量の多い血管に留置することで高濃度輸液が希釈され、血管や血球へのダメージを抑えることができます。
TPNは、患者さんの状態により在宅でも実施することが可能で、これを在宅中心静脈栄養法(Home Parenteral Nutrition:HPN)と呼びます。
中心静脈栄養の目的
何らかの原因で経口・経腸栄養が困難な患者さんに対し、生命維持に必要な水分・エネルギー・栄養素・電解質を投与することを目的に行います。
中心静脈栄養の適応・禁忌
適応
消化管の機能が十分でない場合、高カロリー輸液を投与する必要がある場合、静脈栄養の投与が2週間以上と長期にわたる場合などです。
具体的な疾患や状態としては、難治性下痢・嘔吐、消化管瘻、消化管閉塞、重症急性膵炎、炎症性腸疾患(クローン病)、経腸栄養不耐症、重症感染症、外科周術期、がん化学療法や放射線療法を行っている患者さん、骨髄移植をした患者さん、妊娠悪祖がある患者さんなどが挙げられます。
禁忌
消化管が十分機能している場合のほか、重篤な腎障害のある患者さん、高窒素血症の患者さん、乏尿を認める患者さん1)などでは禁忌です。
中心静脈カテーテル挿入の手順と介助
必要物品
・プレコーションセット(滅菌ガウン、滅菌帽、滅菌手袋、マスク、ゴーグル)・カテーテルキット〔カテーテル、スタイレット、ガイドワイヤー、穿刺針、注射針(18G、23G)、注射器、ダイレータ、カニューラ、縫合針、縫合糸、ガーゼ、三方活栓、ディスポトレイ〕※
・局所麻酔薬
・ヘパリンロック用シリンジ
・ヘパリン加生理食塩水(20mL、100mL)
・穿刺部消毒セット(消毒薬、綿球、鑷子、トレイ)
・輸液バッグ、輸液セット、点滴台
・ドレッシング材、固定用テープ
・穴あきドレープ、ドレープ
・穿刺時用エコー
・モニター機器(心電図モニター、血圧計、パルスオキシメーター)
※カテーテルキットによって内容が異なるため、適宜準備する
挿入手順と介助
実施者(医師) | 介助者(看護師) | |
---|---|---|
1 | ・患者さんに説明を行い、同意を得る | ・患者さんが処置に同意しているか確認する ・医師からの説明を受け、疑問や不安な点がないか確認する |
2 | ・必要物品を準備し、環境整備を行う ・患者さんの自室で行う場合は、ドレープを広げる場所を確保するため、オーバーテーブルなどを準備しておく | |
3 | ・処置に適した体位に調整するよう、看護師に指示を出す | ・10~20°のトレンデレンブルク体位に調整する ・モニターを装着する |
4 | ・エコーを行い、穿刺部を確認する | |
5 | ・タイムアウトを実施する | ・全員が手を止めて実施する |
6 | ・滅菌ガウン、滅菌帽、滅菌手袋、ゴーグルを装着し、ドレープを広げて必要物品をセットする | ・ガウン装着を介助する |
7 | ・穿刺部を消毒し、穴あきドレープで覆う | ・消毒を介助する |
8 | ・局所麻酔を行う | ・薬液が吸いやすいように保持する ・麻酔薬によるショックの有無を確認する |
9 | ・カテーテルを挿入する | ・カテーテル挿入による合併症の有無を観察する(呼吸数、脈拍、SpO2、呼吸音、咳嗽の有無、疼痛の有無、動悸の有無、意識レベル) ・必要に応じて、患者さんが動かないように保持する |
10 | ・カテーテル先端が正しく静脈内に留置されているか、エコーで確認する | ・カテーテルを挿入した長さを確認し、記録する |
11 | ・ヘパリン生食でフラッシュする ・使用しないルートがある場合もヘパリンを流しておく | ・必要な分量のヘパリンを準備する |
12 | ・カテーテルを縫合固定し、ドレッシング材で保護する | ・縫合介助を行う ・輸液を接続し、指示量の滴下速度に合わせる |
13 | ・胸部レントゲンでカテーテル先端の位置を確認する | |
14 | ・患者さんに違和感などがないか確認し、合併症の有無を評価する | ・患者さんの状態を観察し、異常があれば速やかに報告する |
15 | ・処置が終了したことを患者さんに伝え、姿勢を楽にしてもらう ・物品を片付ける |
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第17回 中心静脈カテーテル先端の適正位置
中心静脈を使用した投与手順、ポイント
必要物品
・高カロリー輸液製剤(TPN製剤)・輸液セット
・点滴スタンド
・遮光カバー
・聴診器
・ディスポーザブル手袋
・プラスチックエプロン
・アルコール綿
投与手順、ポイント
手順 | ポイント、注意点 | |
---|---|---|
1 | ・医師の指示を確認する | ・TPN製剤の種類、目的、用量、投与経路、投与時間などを確認する |
2 | ・手指衛生を行う | ・接触による感染を予防する |
3 | ・必要物品、TPN製剤を準備する | ・二槽バッグ製剤(バッグ型キット製剤)を使用する場合は、必ず隔壁を開通させ、薬剤を十分混合する。隔壁が未開通の状態で投与すると、高血糖や低血糖などを引き起こすことがある ・混注が必要な場合は、通常、薬剤部で無菌的に行われる ・遮光が必要な薬剤を扱う場合は、遮光カバーを使用する |
4 | ・輸液セットのローラークランプを閉じる ・薬液バッグと輸液セットを接続し、点滴スタンドにかける | |
5 | ・滴下筒を指で押し、1/2~1/3程度、薬液を満たす | |
6 | ・ローラークランプを緩め、空気が入らないように薬液をルートの先端まで満たし、ローラークランプを閉じる | |
7 | ・中心静脈カテーテルの固定状態を確認し、カテーテルと輸液セットを接続する | ・接続部をアルコール綿でしっかり消毒する |
8 | ・ローラークランプを緩め、指示量の滴下速度に合わせる | ・患者さんの状態を観察し、異常があれば速やかに報告する |
中心静脈栄養の観察項目、注意点(カテーテル挿入後)
観察項目
・バイタルサイン(血圧、心拍数、呼吸回数、SpO2、意識レベル)・ショック症状
・呼吸状態
・腹部症状
・不穏症状
・挿入部の発赤、腫脹、熱感、疼痛、浸出液
・皮下気腫
・カテーテル挿入の長さ
・輸液ルート、輸液ポンプの観察
注意点
カテーテル挿入後は合併症をはじめ、さまざまなトラブルが起こるおそれがあるため、患者さんの状態を注意深く観察します。患者さんの様子がいつもと違う場合、バイタルサインに変化を認めた場合は、合併症または何らかのトラブルが生じている可能性があります。速やかに医師に報告し、必要な検査や処置ができるよう準備します。
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中心静脈栄養の主な合併症とケア
感染症
カテーテル挿入部は、適切な消毒とドレッシング材の交換で清潔に保ち、発赤や腫脹、熱感を認めた場合は医師に報告します。また、ルート接続部が汚染されたり外れたりしないように保護する、接続時の清潔操作を怠らないようにするなどの管理も大切です。
閉塞・血栓
血栓によるカテーテル閉塞も合併症のひとつです。血管内に留置したカテーテルの先端にはフィブリンが付着しやすく、そこで血栓が作られることがあります。また、ルートを一時的にロックした際にも閉塞の可能性を考慮しなければなりません。
輸液の滴下異常を認めた場合は、ルートにねじれや屈曲などがないか確かめ、特に問題がない場合は逆流の有無を確認します。逆流を認めた場合は、ヘパリンやウロキナーゼを使用し血栓溶解を試みます。逆流を認めず完全閉塞している場合は、カテーテルの入れ替え、再挿入が必要になります。
低血糖・高血糖
TPNでは、高濃度糖質の投与により容易に高血糖状態となります。また、患者さんの基礎疾患や使用薬剤によってはさらに高血糖のリスクが高まるため、TPNを開始する際は導入期(馴らし期間)を設け、血糖値をモニタリングしながら徐々に投与量を増やしていきます。反対に、TPNからの離脱時には低血糖を起こす可能性があります。急な中止は避け、経口摂取・経腸栄養・末梢静脈栄養を併用しながら徐々に減量します。
代謝異常
TPNのみでの栄養管理では、多くの栄養素(アミノ酸、脂肪、グルコース、電解質など)を静脈内に直接投与するため、代謝異常が起こりやすくなります。血糖値の異常、水・電解質異常、酸塩基平衡異常などは、比較的高頻度に認められます2)。
バクテリアルトランスロケーション
腸管を使用しない状態が長期間続くと、消化管粘膜の脱落が起こります。これにより粘膜の防御力が低下すると、腸内に生息していた細菌が血中やリンパ組織中に入り込み、体中に行きわたることで敗血症に類した症状を呈する場合があります3)。
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中心静脈(cv)カテーテル|感染リスクに注意する手技の根拠
第17回 中心静脈カテーテル先端の適正位置
第18回 中心静脈カテーテルは定期的に入れ換える必要がある?
看護計画
「中心静脈栄養を行っていて感染リスクが高い患者さん」を例に看護計画を紹介します。
看護問題 #1 中心静脈栄養に伴う感染ハイリスク状態
看護計画
・感染を起こさない
・感染徴候を早期に発見し対処できる
・患者さんが感染を起こさないための清潔行動が行える
観察計画(O-P)
・バイタルサイン
・呼吸状態
・腹部症状
・血液データ(CRP、WBC、TP、Alb)
・痛みの有無、部位、程度
・排泄状況
・睡眠状況
・口腔内の状態
・輸液ルート、輸液ポンプの観察
・挿入部の皮膚状態
ケア計画・援助計画(T-P)
・ルート挿入部の消毒
・輸液バックやルート交換時は手指消毒した上で清潔に実施する
・ADLに応じた清拭介助や口腔ケア
・環境整備
・血液データに応じて個室対応やPPE着用を実施する
・感染徴候を認めた場合は医師に報告し、指示を仰ぐ
教育計画(E-P)
・感染予防対策の必要性について説明する
・体調の変化やカテーテル挿入部位に違和感を抱いたときは医療者に報告するよう伝える
・手洗いやマスクの着用の方法について指導する
・TPNについて説明し、ルートが汚染されないように行動できるように指導する
引用・参考文献
2)日本静脈経腸栄養学会,編:静脈経腸栄養ガイドライン 第3版.照林社,2013,p.156.(2022年5月16日閲覧)https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/PEN/Parenteral_and_Enteral_Nutrition.pdf
3)Deitch EA,et al:The gut as a portal of entry for bacteremia. Role of protein malnutrition. Ann Surg 1987;205(6):681-92.
●日本静脈経腸栄養学会,編:静脈経腸栄養ガイドライン 第3版.照林社,2013.(2022年5月16日閲覧)https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/PEN/Parenteral_and_Enteral_Nutrition.pdf
●日本緩和医療学会,編:終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版.金原出版,2013.(2022年5月16日閲覧)https://www.jspm.ne.jp/guidelines/glhyd/2013/pdf/glhyd2013.pdf
●日本医療安全調査機構,編:中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―.日本医療安全調査機構,2017.(2022年5月13日閲覧)https://www.medsafe.or.jp/uploads/uploads/files/publication/teigen-01.pdf
●日本医療安全調査機構:二槽バッグ製剤(バッグ型キット製剤)の隔壁未開通事例について.(2022年5月16日閲覧)https://www.pmda.go.jp/files/000245542.pdf
●英裕雄,監:在宅中心静脈栄養法(HPN)の手引き.(2022年5月16日閲覧)https://www.otsukakj.jp/healthcare/home_nutrition/hpn.pdf