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【連載】テーマごとにまとまった記事が読める! まとめ記事

便秘(慢性便秘症)の看護|種類・観察項目・看護計画など

  • 公開日: 2020/7/17
  • 更新日: 2024/11/22

*2024年11月22日改訂

便秘(慢性便秘症)とは

 便秘とは、排便回数や排便量が少なく、排泄されるべき便が腸内に停滞した状態をいいます。定期的な排便があっても、硬い便が続いたり、残便感や不快感を伴う場合は便秘といえます。

 2023年7月に発行された『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』では、「本来排出すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・硬便、排泄回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態」と定義しています1)。また、便秘が慢性的に続いて日常生活に支障をきたし、検査や治療などが必要な病態を「慢性便秘症」としています1)

慢性便秘症の分類、種類

原因による分類

 慢性便秘症は、大腸あるいは小腸そのものに原因がある一次性便秘症、他疾患や薬剤などが原因となる二次性便秘症に大別されます(表1)。

一次性便秘症

 一次性便秘症は機能性便秘症、便秘型過敏性腸症候群、非狭窄性器質性便秘症に分類されます。機能性便秘症はさらに、大腸通過正常型、大腸通過遅延型、機能性便排出障害に分けられ(表1)、非狭窄性器質性便秘症は、小腸・結腸障害型と器質性便排出障害(直腸・肛門障害型)に分けられます(表2)。

表1 機能性便秘症の分類

分類主な原因、特徴
大腸通過正常型大腸の糞便移送能が正常であるにもかかわらず、便秘が生じる。主な原因として、食事摂取量(食物繊維摂取不足も含む)が少ないことが挙げられ、便となるものがなく排便回数・排便量が減少したり、便の性状が硬くなり、排便困難をきたす
大腸通過遅延型代謝・内分泌疾患や薬剤などの影響で大腸の糞便移送能が低下し、便が腸内に停滞しやすくなり、排便回数が減少する
機能性便排出障害腹圧(怒責力)や直腸知覚の低下、直腸収縮力の減弱などの機能障害により、排便が困難になる

表2 非狭窄性器質性便秘の分類

分類主な原因、特徴
小腸・結腸障害型慢性偽性腸閉塞症、巨大結腸などにより、小腸・結腸に形態変化や運動障害を認める
器質性便排出障害 (直腸・肛門障害型)直腸瘤、直腸重積、肛門アラカシアなどにより、直腸・肛門に形態変化や運動障害を認める

二次性便秘症

 二次性便秘症は、薬剤性便秘症、症候性便秘症、狭窄性器質性便秘症に分類されます(表3)。薬剤性便秘症には、オピオイド誘発性便秘症も含まれます。

表3 二次性便秘症の分類

分類主な原因、特徴
薬剤性便秘症抗コリン薬、三環系抗うつ薬、抗精神病薬、オピオイドなど、薬剤の副作用として生じる
症候性便秘症糖尿病、甲状腺機能低下症、強皮症、パーキンソン病など、疾患の症状として生じる
狭窄性器質性便秘症大腸がん、腸管炎症など、疾患による腸管の狭窄により生じる

症状による分類

 症状による分類では、排便回数減少型と排便困難型に分けられます(表4)。

症状による分類

分類主な原因、特徴
排便回数減少型巨大結腸などにより大腸が著しく拡張し、糞便の移送が障害され、排便回数が減少する
排便困難型直腸瘤や直腸重積などが原因で直腸の形態が変化し、便の排出が困難になる

高齢者の便秘

 便秘を訴える人の割合は加齢とともに増加し、特に70歳以上になるとその傾向は顕著になります2)

 高齢者の便秘の原因として、加齢に伴う食事摂取量や運動量の低下、筋力の低下などが挙げられます。ほかに、腸管運動機能低下をきたす疾患(糖尿病、甲状腺機能低下症、腎機能障害、パーキンソン病、脳梗塞、不安障害、うつ病など)を有していたり、薬剤の副作用により便秘を生じていることも考えられます。

 便秘を放置し悪化すると、高齢者では腸閉塞や直腸潰瘍、虚血性腸炎といった合併症のリスクが高まります。

便秘の観察項目・アセスメント

 便秘かどうかを判断する目安として排便回数があります。しかし、排便回数は個人差が大きいため、便の性状や腹部状態、食事内容や水分摂取量などの情報もあわせてアセスメントを行っていきます。

 便の性状は、ブリストルスケールで客観的に確認できます(図)。1または2に該当すれば便秘傾向と考えられます。

図 ブリストルスケール

ブリストルスケール 

【主なアセスメント項目】
・既往歴
・内服歴
・便の性状(硬さ、色、形状、量)
・排便回数
・腹部状態(腸蠕動音、腹部膨満など)
・便秘の随伴症状(嘔気、嘔吐、腹痛、腹部膨満感など)
・排便時の自覚症状(残便感、排便困難感、排便時痛、出血、疲労の程度など)
・排便時の体勢や努責の程度
・便意を感じやすい状況や時間帯
・食事内容
・水分摂取量
・一日の活動量
・便秘への理解度
・下剤または浣腸使用の有無

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【頻回な夜間のトイレ、便秘の看護など】排泄ケアのアセスメントの3つのポイント

便秘(慢性便秘症)のケア

薬剤(下剤)の使用

 慢性便秘症に対して使用される薬剤(下剤)には、膨張性下剤、浸透圧性下剤(塩類下剤、糖類下剤、浸潤性下剤、高分子化合物)、刺激性下剤、粘膜上皮機能変容薬、漢方薬、消化管運動賦活薬、坐薬、浣腸などさまざまな種類があり、原因や患者さんの状態により使い分けられます。下剤の目的や作用機序について理解し、なぜその薬剤が処方されているのか、正しく把握できるようにしましょう。

 副作用にも注意が必要です。例えば、浸透圧性下剤のなかでよく使用される酸化マグネシウムは、副作用として高マグネシウム血症が起こることがあります。長期間服用している場合や腎障害を有する場合、高齢の患者さんなどでは特にリスクが高くなるため、血清マグネシウム値を定期的に確認するとともに、高マグネシウム血症の初期症状(嘔気・嘔吐、徐脈、筋力低下、傾眠など)がみられないか注意深く観察します。

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摘便

 摘便は、肛門から指を入れて便を排泄させるケアです。直腸内に便が貯留し、自然排便ができない場合に行います。

 無理に便を掻き出そうとすると、腸粘膜や肛門を傷つけてしまいます。肛門付近をマッサージして弛緩させ指を挿入しやすくしたり、硬便の場合は指でほぐして、小さい塊にしてから排泄するようにします。ケアを行っている最中は、疼痛や出血などがみられないか確認することも大切です。

 また、摘便は苦痛や羞恥心を伴うため、できるだけ短時間で終わらせるよう心がけます。

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摘便とは|適応・禁忌・手順・コツ〜根拠がわかる看護技術
摘便・浣腸の方法と注意点

浣腸

 肛門にグリセリン液を入れて排便を促します。

 立位では直腸穿孔を起こすリスクが高いため、左側臥位にし、膝を軽く曲げてもらった状態で行います。グリセリン液を満たしたカテーテルを挿入(成人は5~7cm、小児は3~4cm)し、注入します。注入後、すぐに排泄するとグリセリンだけが出てきてしまうことがあります。そのため、注入後1~3分はできるだけ排便を我慢してもらうようにします。排便後は流さないように伝え、量や性状を確認します。

 浣腸による強制排便では、迷走神経反射による血圧低下やショックが起こる可能性があります。バイタルサインの変化、顔色不良や冷汗はみられないかなど、患者さんの状態を観察することが大切です。

 なお、浣腸を連用すると、耐性の増大などにより効果が得られにくく場合があるため、長期連用は避けるようにします。

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温罨法

 熱布や市販の温熱シートなどを腰部または腹部に当て、温熱刺激で腸蠕動を亢進させます。便秘や腹部膨満感、排便日数(回数)の改善効果が期待できます。

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温罨法の手順〜根拠がわかる看護技術

腹部マッサージ

 腹部をマッサージすることで腸管を刺激し、腸蠕動を亢進させます。仰臥位の状態で膝を曲げてもらい、リラックスした体勢で行います。上行結腸、横行結腸、下行結腸の順に、腸の走行に沿って「の」の字を描くように手のひらで軽くマッサージします。そして、S状結腸をゆっくり押します。この手順を繰り返し行います。

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食事指導

 便秘は、偏った食事でも引き起こります。1日3食バランスのよい食事と、水分摂取を心がけるよう指導します。

 食物繊維を豊富に含む食材を積極的に取り入れるのもよいでしょう。食物繊維は水溶性と不溶性の2種類があり、それぞれ違った特徴があります。水溶性は果物や海藻、こんにゃくなどに多く含まれ、水分保持能力が高く、軟便形成を促します。不溶性は消化管内の水分を吸収して便のかさを増やし、排便を促進させます。穀物や豆類・きのこ・芋類・野菜・果物などに多く含まれます。

 ほかに、適度な運動を行い、便意の有無にかかわらず、毎日同じようなタイミングでトイレに行き、排便習慣をつくることも大切です。

看護計画

 「抗がん剤の副作用により便秘を生じている患者さん」を例に、看護計画を紹介します。

看護問題
#1抗がん剤投与に関連した排便の変調(便秘)
#2排便の変調(便秘)に関連した苦痛

看護目標
・便秘が改善する
・便秘に伴う苦痛が軽減する
・患者さんが便秘に対応できる

観察項目
・抗がん剤の種類
・薬物療法で使用している薬剤の種類
・抗がん剤投与前の排便習慣
・便の性状(硬さ、色、形状、量)
・排便回数
・腹部状態(腸蠕動音、腹部膨満など)
・便秘の随伴症状(嘔気、嘔吐、腹痛、腹部膨満感など)
・排便時の自覚症状(残便感、排便困難感、排便時痛、出血、疲労の程度など)
・排便時の体勢や努責の程度
・便意を感じやすい状況や時間帯
・食事摂取状況(in-out量、食事摂取量、食欲の有無)
・安静度
・一日の活動量
・不安や苦痛の有無と表出の程度
・便秘への理解度

ケア計画
・下剤による排便コントロール
・使用薬剤の調整
・温罨法
・腹部マッサージや体位変換で腸蠕動を促す
・腹圧がかけやすい体位を把握する
・毎日同じ時間にトイレ誘導を行う
・患者さんが便意を感じたタイミングでトイレに行ける、安全安楽な排泄環境の整備
・飲水量と食事摂取量のチェック
・水分や食物繊維が摂れる食事内容への変更
・患者さんが食べやすい食事内容への変更
・傾聴

教育計画
・抗がん剤と便秘の関連性を説明し、便秘改善に対する動機づけを行う
・水分摂取の必要性を説明し、意識的に飲水できるよう指導する
・無理のない範囲で離床し、からだを動かすように指導する
・患者さん自身で腹部マッサージが行えるように指導する
・便意を感じたら我慢せずトイレに行く、もしくはナースコールを押すよう指導する
・便意がなくても、一日一回はゆっくりとトイレに座る時間を作るよう指導する
・便秘が悪化したり、便の性状に変化を認めたりした場合は報告するよう指導する
・栄養指導(患者さんの状態に応じた食事)
・服薬指導(下剤の調整など)

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便秘になった患者さんに関する看護計画|大腸がんでオピオイドを使用している患者さん
第1回 オピオイド鎮痛薬と便秘、対策や治療法は?【PR】
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引用・参考文献

1)日本消化管学会,編:便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症.南江堂,2023,p.2.(2024年11月19日閲覧) https://minds.jcqhc.or.jp/common/wp-content/plugins/pdfjs-viewer-shortcode/pdfjs/web/viewer.php?file=https://minds.jcqhc.or.jp/common/summary/pdf/c00812.pdf&dButton=false&pButton=false&oButton=false&sButton=true#zoom=auto&pagemode=none&_wpnonce=3b871a512b
2)厚生労働省:平成28年国民生活基礎調査の概況.(2020年7月6日閲覧)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/16.pdf
●尾髙健夫:慢性便秘の定義と分類.日内会誌 2019;108(1):10-5.
●酸化マグネシウム製剤製造販売会社:酸化マグネシウム製剤 適正使用に関するお願い—高マグネシウム血症—2024年2月(2024年11月19日閲覧) https://www.yoshida-pharm.co.jp/files/information/479.pdf
●日本看護技術学会技術研究成果検討委員会温罨法班:便秘症状の緩和のための温罨法Q&A.(2020年7月6日閲覧)https://jsnas.jp/system/data/20160613221133_ybd1i.pdf

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