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気管挿管の看護|目的、適応、手順、合併症、看護計画

  • 公開日: 2021/12/31

気管挿管とは

 何らかの原因で気道に閉塞が生じている、または生じる可能性がある患者さんや、人工呼吸管理が必要となった患者さんに対し、気管内にチューブを挿入・留置し、気道を確保する方法です。気管挿管には、「経口気管挿管」と「経鼻気管挿管」の大きく2つがあり、多くの場合、緊急時は経口気管挿管が第一選択とされます。

気管挿管の目的

 気管挿管の主な目的は次のとおりです。

・急変時(緊急時)に気道確保する場合

・全身麻酔下で気道を確保する場合
・人工呼吸器管理が必要な場合

気管挿管の適応

 気管挿管の適応は次のとおりです。頭文字を取り、MOVESと呼ばれます。

MMental status
意識障害
Maintain airway
気道維持(上気道)の問題
OOxygenation
低酸素血症
VVentilation
換気障害
EExpectoration
喀痰排泄の問題
Expected course
今後の悪化が予想される
SShock
ショック

気管挿管の手順と介助(経口気管挿管の場合)

必要物品の準備

●必要物品(吸引チューブ、気管チューブ、バッグバルブマスク、スタイレット、喉頭鏡、ブレード、シリンジ、カフ圧計、円形枕、固定用テープ、喉頭鏡、聴診器、バイトブロック、比色式CO2検出器、キシロカインスプレー、ゴーグル)がそろっているか確認します。
●人工呼吸器が必要になる場合が多いため、挿管準備と並行して用意します。
●バッグバルブマスクを接続し、酸素が供給されるよう準備します。
●吸引器とチューブを準備し、速やかに吸引(口腔内、気管内)が行えるようにします。
●喉頭鏡のライトが点灯するか確認します。
●医師の指示のもと、適切なサイズのブレードを合わせます(患者さんによりブレードのサイズが異なる場合があるため)。
●医師に気管チューブのサイズを確認し、準備します。
●気管チューブ内腔にキシロカインスプレーを噴霧します。スタイレットを先端から2cmあたりまで挿入し、先端がカーブを描くように湾曲させます。
●気管チューブの先端に潤滑剤を塗布します。
●カフの破損がないか調べます。その際、薬剤などとの取り違いを防ぐため、赤色のシリンジを使用します。

手順と介助

患者さんの準備

医師:気管挿管の実施について、患者さんまたは家族に説明し、同意を得ます。
看護師:医師が患者さんの頭側に立てるようにベッドを移動し、患者さんの体位を調整します。
看護師:胸部が見えるように上半身の病衣を外します。
看護師:心電図モニター、パルスオキシメーターを装着します。
看護師:医師の指示のもと、鎮静薬を投与します。

経口挿管の介助

医師または看護師:SpO2を上昇させるために、バッグバルブマスクで換気を行います。
看護師:定期的にモニターを確認し、SpO2の数値を医師に伝えます。
医師:患者さんを開口させます。
看護師:ブレードの先端を挿入方向に向けた状態にして喉頭鏡を渡します。
医師:喉頭鏡を用いて喉頭展開を行います。
看護師:気管チューブを準備します。
看護師:医師の指示に従い甲状軟骨を圧迫し、声帯を見やすくします。
看護師:気管チューブはすぐに挿入できる方向にして手渡します。
看護師:患者さんの右口角を広げ、気管チューブを挿入しやすいよう介助します。
看護師:医師からスタイレットを抜くよう指示が出たらスタイレットを抜きます。
看護師:気管チューブ挿入後、カフに空気を入れます。
医師:患者さんが気管チューブを噛まないようにバイトブロックを入れます。
医師:5点聴診(心窩部、両上肺野、両側胸部)、胸郭の上下運動や動きの対称性、呼気中の二酸化炭素濃度、呼気時の気管チューブのくもりの有無などチェックし、正しく挿管されているか確認します。
医師または看護師:正しく挿管されていたら気管チューブを固定します。
医師または看護師:固定が終わったら、人工呼吸器の準備ができるまで用手換気を続けます。

【関連記事】
【写真でわかる】気管挿管の準備と介助(患者さんの準備)
気管挿管に必要な物品(挿管チューブ、スタイレットなど)10個とその役割
【動画】経口挿管の介助について知っておこう

気管挿管の看護(観察項目、注意点)

挿管前

 気管挿管の遅れは予後にも影響するため、迅速な対応が求められます。チーム内で役割分担を決め、効率的に動けるよう整えつつ、バイタルサインやSpO2値などを確認して状態把握に努めます。

 気管挿管を必要とする患者さんや家族は動揺しやすいため、心情に寄り添い、処置に対する不安を軽減できるようかかわることが大切です。また、同室患者さんがいる場合は、プライバシーの保護と同室患者さんの不安へ配慮するとともに、別の部屋に移動して処置を行うなど、状況に応じて対応します。

挿管処置中

 挿管処置中は迷走神経反射が起こる可能性があります。迷走神経反射が生じると徐脈に移行しやすく、低酸素血症に陥るおそれがあるため、血圧、心拍数、SpO2値を観察し、変化を認めた場合は速やかに医師に報告します。

挿管後

モニタリング、観察

 挿管後は下記の項目について確認を行い、患者さんの状態の変化を観察します。

【挿管後の観察項目】
・バイタルサイン
・意識レベル
・呼吸状態(呼吸数、呼吸パターン、呼吸音、肺雑音、呼吸困難の有無、痰の量・性状)、胸郭の動き
・SpO2
・鎮静の程度
・チアノーゼの有無
・四肢冷感の有無

口腔ケア

 人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia:VAP)予防や口腔内の機能を維持するために、口腔ケアを行うことが重要です。『気管挿管患者の口腔ケア実践ガイド』では、ブラッシング法を用いて入念にケアを行う「ブラッシングケア」を1日に1~2回、口腔粘膜に潤滑材を塗布し簡便にケアを行う「維持ケア」を1日に4~6回実施することが望ましいとしています1)

【関連記事】
気管挿管患者さんのQOLを見据えたケア
第6回 人工呼吸管理中の合併症-VAPとは?(人工呼吸器関連肺炎)

分泌物の吸引

 気管挿管中の患者さんでは、人工呼吸器を装着した状態で行う「閉鎖式吸引」、あるいは人工呼吸器の接続を外して行う「開放式吸引」が実施されます。分泌物や貯留物を機械的に除去することで、窒息や誤嚥の予防、ガス交換の維持・改善などにつなげます。

【関連記事】
吸引(口腔・鼻腔)の看護|気管吸引の目的、手順・方法、コツ
吸引の苦痛を最小限にする6つのコツ
吸引する際に滅菌手袋を用いなければならない場合は?

気管チューブの抜去予防

 気管チューブを留置されることによる不快感や違和感から、自己抜去に至るケースは少なくありません。自己抜去は患者さんに苦痛をもたらすだけでなく、呼吸状態の悪化や低酸素脳症などにつながり、最悪の場合、死に至ることもあります。

 自己抜去のリスクが高いと考えられる場合は、鎮静と身体拘束の必要性についてあらかじめ患者さんと家族に説明し、同意を得ておくことが大切です。また、『人工呼吸中の鎮静のためのガイドライン』では、気管チューブの固定を確実に行うために、医師または看護師2名以上で1日1回はテープ固定を行うのが望ましいとしています2)

気管挿管の合併症とケア

食道挿管

 気管挿管において注意すべき合併症として食道挿管があります。食道挿管に気づかないまま経過すると、低酸素血症に陥り、心停止に移行するおそれがあります。

 挿管後は、5点聴診(心窩部、両上肺野、両側胸部)、胸郭の上下運動や動きの対称性、呼気中の二酸化炭素濃度、呼気時のチューブのくもりの有無などチェックし、正しく挿管されているか確認することが重要です。

歯牙損傷

 咽頭展開や挿管時に、歯の脱臼したり損傷したりすることがあります。動揺歯で起こるリスクが高いため、動揺歯を認めたら糸で固定し、脱臼や損傷を防ぎます。脱臼や損傷した場合は、速やかに取り除きます。

嗄声

 気管チューブの挿入・抜去時に声帯を損傷したり、気管チューブが声帯や嚥下機能を司る神経(反回神経)を圧迫することで起こる反回神経麻痺により、嗄声が生じることがあります。喉の痛みや気になる症状がある場合は、すぐ看護師に伝えてもらうようにします。

看護計画

「気管挿管中で口腔乾燥が強い患者さん」を例に看護計画を紹介します。

口腔乾燥に関連した看護問題
#1 感染ハイリスク状態
#2 口腔機能低下

看護目標
・VAPを起こさない
・口腔ケアを通して口腔機能が維持できる

観察計画(O-P)
・口腔内の状態(乾燥・出血・びらん・歯茎の色・付着物・貯留物・におい)
・舌の状態(色・舌苔・乾燥)
・チューブ固定の状態(深さ・テープ固定部の皮膚状態)
・バイタルサイン
・呼吸状態
・血液データ
・人工呼吸器設定
・カフ圧

ケア計画・援助計画(T-P)
・口腔ケアの実施(ブラッシングケア及び維持ケア)
・乾燥の程度に合わせたケア用品の選択
・保湿剤の塗布
・チューブ固定テープの巻き直し
・口腔ケア後の保清
・口腔内吸引

教育計画(E-P)
・患者さんの状態や今後予想される経過についてご家族へ説明し、口腔内乾燥に対するケアへの協力を仰ぐ

引用文献

1)日本クリティカルケア看護学会 口腔ケア委員会:気管挿管患者の口腔ケア実践ガイド.2021,P.2.(2021年12月28日閲覧)https://www.jaccn.jp/guide/pdf/OralCareGuide_202102.pdf
2)日本呼吸療法医学会 人工呼吸中の鎮静ガイドライン作成委員会:人工呼吸中の鎮静のためのガイドライン.2004.(2021年12月28日閲覧)http://square.umin.ac.jp/jrcm/contents/guide/page03.html

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