【抗がん剤の副作用】がん化学療法とは?副作用の出現時期や症状別の看護
- 公開日: 2016/12/20
がん化学療法とは
がん化学療法、放射線療法、外科療法の3つを合わせて、がんの三大治療法と呼びます。抗がん剤を中心とした薬剤の投与によって、がん細胞の成長過程を阻害し、細胞を破壊する方法が、がん化学療法です。
がん化学療法に用いる薬剤は、大きく分けて細胞障害性抗がん剤と分子標的治療薬があります。細胞障害性抗がん剤は、細胞分裂時に作用して細胞の成長に必要な物質を作らせないことで、がん細胞の増殖を阻害、死滅させます。分子標的薬は、がん細胞に特有の分子や細胞内の増殖・生存シグナルを伝える機能分子といった標的分子に対して作用して、がん細胞を死滅させる薬剤です。
細胞障害性抗がん剤の主な種類 |
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アルキル化薬、白金製剤、代謝拮抗薬、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管作用抗がん薬 |
分子標的薬の主な種類(小分子化合物) | 分子標的薬の主な種類(抗体薬) |
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EGFR阻害薬、HER2阻害薬、BCR/ABL阻害薬、KIT阻害薬 | 細胞表面抗原に対する抗体薬、抗EGFR抗体薬、抗HER2抗体薬 |
がん化学療法を実施すると正常な細胞も攻撃されてしまうため、副作用(有害事象)が生じます。分子標的薬は、細胞障害性抗がん剤に比べると正常な細胞への攻撃が少ないため、副作用が軽くなりますが、細胞障害性抗がん剤を使用したときとは違った副作用が見られることがあります。
また、最近では、経口抗がん剤が開発されたこともあり、がん化学療法は外来や在宅で行うことも多くなってきています。
がん化学療法の基礎知識についてはこちら
副作用ケアに生かす! がん化学療法の基礎知識
副作用が出現する時期
副作用の出現する時期は、その症状によっても違いますし、個人差もありますが、目安として、倦怠感はがん化学療法の直接作用の場合、投与の翌日から1週間ほどは症状が強く表れます。
口腔粘膜炎の場合は、投与後1週間程度で発赤がみられ2週間後に痛みのピークを迎えるといわれています。皮膚や爪の障害は、通常、投与後1〜3週間ほどで出現しますが、初回投与時だけに発疹が出る場合や3週間後になって湿疹が出る場合など、個人差があります。
骨髄抑制は投与後10日〜2週間ほどで出現するとされています。
脱毛は、2〜3週間後に始まり、短期間で一度に抜けます。
早発性の下痢は、抗がん剤投与中から発生することがあり、遅発性の下痢は抗がん剤投与後24時間経ってから発症するものをいいます。また、悪心・嘔吐も投与開始から24時間以内に出現するものを急性悪心・嘔吐といい、投与後24時間以降から始まり、2〜5日ほど続くものを遅発性悪心・嘔吐といいます。
抗がん剤による副作用のケア
がん化学療法でみられる副作用には、以下のようなものがあります。分子標的薬では、手足症候群など、特有の皮膚障害が出現します。
がん化学療法でみられる主な副作用 |
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過敏症、発熱、骨髄抑制、悪心・嘔吐、口腔粘膜炎、下痢、便秘、心障害、間質性肺炎、肝障害、腎障害、出血性膀胱炎、精神神経症状、脱毛、皮膚障害、末梢神経障害、倦怠感 |
口腔粘膜炎
抗がん剤投与によって発生したフリーラジカルが口腔粘膜の組織を破壊することによって口腔粘膜炎を発症します。初期は発赤がみられ、塩味や酸味がしみるようになり、1週間程度で炎症がみられびらんも発生します。2週間程度で潰瘍が形成されると痛みがピークとなります。
抗がん剤治療中は、唾液が減少し口腔内の自浄作用が低下し清潔を保てなくなったり、口腔内が傷つきやすくなったりします。適切な口腔ケアが必要になります。
がん化学療法時の口腔粘膜炎と口腔ケアについて
・がん化学療法による口腔粘膜炎とは?
・がん化学療法による口腔粘膜炎へのケアと注意のポイントは?
・口腔粘膜炎があるときの食事の工夫は?
・化学療法時の口腔トラブルの予防と対処の3つのポイント
・第1回がん患者さんの口腔粘膜感染
下痢・便秘
抗がん剤投与で起こる下痢には、早発性の下痢と遅発性の下痢があります。早発性の下痢は、早ければ抗がん剤の点滴投与中にも起こります。
遅発性の下痢は、患者さんが自宅に帰ってから発症するものをいいます。抗がん剤により腸管粘膜が障害されることなどで起こります。
下痢の症状がひどい場合は、脱水にも気をつける必要があります。また、易感染状態の際に腸管粘膜が障害されると感染症にも注意が必要です。
がん化学療法中の便秘の主な原因は、抗がん剤、抗生物質、麻薬性鎮痛薬、抗うつ薬、制吐薬などの薬剤の作用による腸蠕動の抑制、腹水や腫瘍による通過障害などがあげられます。
下痢・便秘のケア
・【がん治療の副作用】便秘・下痢はなぜ起こる?どう防ぐ?
・がん化学療法中の下痢のケア
リンパ浮腫
浮腫は全身性と局所性に分けられます。さらに局所性の浮腫は、静脈性とリンパ性に分けられます。リンパ浮腫は、主に手術療法でリンパ郭清を行い、それによりリンパ環流障害が起こると生じます。また、放射線療法によっても起こることがあります。リンパ浮腫を生じると皮膚がひ薄化し、バリア機能が低下し、感染への防御力が落ちてしまいます。そのため、予防的スキンケアと感染予防が重要となります。
リンパ浮腫へのケア
・リンパ浮腫の看護|観察項目、ドレナージ、蜂窩織炎などについて
・第15回 リンパ浮腫の予防法と対処法
・浮腫・リンパ浮腫患者さんの感染対策と指導のポイント
脱毛
細胞増殖時に影響を与える抗がん剤は、細胞分裂が著しく成長の早い毛母細胞にも影響しやすいため、脱毛が起こります。
症状は個人差も多いのですが、脱毛が出現しやすい抗がん剤を投与後、2〜3週間後に脱毛が始まります。効果的な予防法はないため、看護師は予想される脱毛の開始時期や再育毛までの期間の容姿を整える情報を提供することが大切になります。
脱毛のケア
・第12回 抗がん剤による「脱毛」への対処法
・脱毛はなぜ起こる?どう対処する?
手足症候群
手足症候群は、細胞障害性抗がん剤と分子標的治療薬どちらにも見られる症状で、手足や爪に紅斑や色素沈着がみられます。さらに進行すると、発赤、腫脹、水疱、びらん、潰瘍を形成します。手足症候群の治療は、まずは抗がん剤を休薬し、症状が軽減したら投薬を再開します。看護師は、がん化学療法中の患者さんの手足や爪などをよく観察することが大切です。
手足症候群のケア
・がん治療中の皮膚障害とスキンケア
・第5回 「手足症候群」をマスターしよう(その1)
・第13回 手足症候群のケアのポイントは?