バイタルサインとは|目的と測定の仕方、基準値について
- 公開日: 2017/8/12
- 更新日: 2022/4/28
*2019年3月13日改訂
*2020年4月15日改訂
*2022年4月28日改訂
バイタルサインとは
バイタルサインとは「生命徴候」のことで、「脈拍」「呼吸」「体温」「血圧」「意識レベル」の5つがバイタルサインの基本です。病院では基本的に朝・昼・晩と1日3回測定し、記録します。
ICUなど尿道留置カテーテルを挿入している場合は、尿量もバイタルサインとして測定することがあります。
バイタルサインの測定の目的・留意点と基準値
客観的なデータをもとにアセスメントすることで、全身状態の変化や異常の徴候を早期に発見することができると考えられています。バイタルサイン は、基準値から逸脱しているかどうかだけでなく、前回の測定時と比べて変化があるか、前日の測定時と比べて変化があるかをみることも大切です。
基準値の目安 | |
脈拍 | 60〜100回/分 |
呼吸 | 16〜20回/分 |
血圧 | 120/80mmHg以下 (収縮期血圧120mmHg以下かつ 拡張期血圧80mmHg以下) |
体温 | 36〜37℃ |
脈拍測定
血液が心臓の拍動によって動脈に駆出され、末梢血管まで到達するときに起こる波動を触知しているものを「脈拍」と呼びます。
基準値:60~100回/分
頻脈:心臓の拍動頻度がおおよそ100回/分以上と、極端に多い場合
徐脈:心臓の拍動頻度がおおよそ50回/分以下と、極端に少ない場合
【脈拍の基礎をおさえておこう】
●脈拍触診(触知)で知り得る情報をフィジカルアセスメントに生かす
測定位置
脈拍が触れる場所はいくつかありますが、最も脈が触れやすい「橈骨動脈」を選択するのが一般的です。ただし、血圧が60mmHg以下の場合、撓骨動脈では脈拍を触知することができません。また、膝窩動脈・後脛骨動脈・足背動脈は脈拍数の測定に使用することはほとんどなく、主に下腿の循環動態を把握したいときに選択します。
測定方法
計測するときは、まず示指・中指・薬指を軽く当てます。15秒間または30秒間、脈をカウントし、「15秒間測定値×4」または「30秒間測定値×2」で60秒の脈拍数を算出します。ただし、脈拍欠損・不整脈がみられる場合、60秒間継続して測定する必要があります。また、同時に左右差の有無を確認します。
測定のポイント
患者さんの肌に直接触れるため、事前に測定者の手指が冷たくないか確認しておきましょう。
【マンガでおさらいしよう!】
●バイタルサインの基本! 脈拍測定に適した部位と手順
●ねじ子のひみつ手技 動画「バイタルサイン#1」
【英語ではこう伝える!】
●脈拍測定の声かけを英語でするには?(1)
【心不全患者さんの脈拍と血圧からわかること】
●脈拍と血圧からわかる緊急度の目安
血圧測定
血圧とは、1回拍出量×末梢血管抵抗であり、血管内部の圧力のことをいいます。血圧には日内変動があり、昼に高く、夜は低くなる傾向があります。
正常値:120/80mmHg以下(収縮期血圧120 mmHg以下かつ拡張期血圧80mmHg以下)
測定位置
動いた直後は血圧は高くなってしまうので、5分程度安静にしてから、坐位か仰臥位で測定します。また、体勢によって血圧は変動するので、いつも同じ体勢・部位で測定することが大切です。一般的には上腕部で測定します。
日本高血圧学会による「高血圧治療ガイドライン2014」が基準となっています。ガイドラインによると、診察室で測定した血圧(病院・診療所等で医師・看護師により測定された血圧)が140/90mmHg以上、家庭で測定した血圧が135/85mmHg以上を、「高血圧」としています。麻痺、乳がんリンパ節切除、点滴中で上腕部で測定できない場合は、大腿部か下腿部で測定します。
【血圧測定の基本】
●血圧とは?血圧測定に関する注意点
測定方法
血圧の測定方法には、観血的測定法と非観血的測定法があります。観血的測定法は、血管内に管を留置し、血管内に流れる血液の圧を直接測定する方法です。
非観血的測定法では、血圧計を用いて測定します。血圧計には、水銀血圧計や上腕式電子血圧計などがありますが、2020年以降、水銀を使用した機器の製造・輸出入が原則として禁止されるため、日本高血圧学会では、上腕式電子血圧計の使用を推奨しています。
測定のポイント
マンシェットを巻く位置と心臓の高さが同じとなるよう腕の位置や体位を調整します。
【マンガで手順をおさらい!】
●血圧測定の方法|測定部位・手順・注意点【ねじ子】
【在宅での血圧測定】
●血圧計っていろいろとあるけど何が違うの?
【血圧異常にはどう対応する?】
●【血圧異常】異常に高い血圧への対応 7ステップ
呼吸数の測定・呼吸音の聴診
基準値:16~20回/分
呼吸数を計測する際は、計測することを患者さんに伝えてしまうと、意識してしまい自然な呼吸数が測れなくなってしまいます。そのため、脈拍を測っているときに一緒に計測するなどの工夫が必要です。
呼吸音の聴診は、やや大きめな呼吸を繰り返してもらうようにします。左右交互に対称的に聴取し、一カ所につき最低でも1呼吸以上は聴取します。呼吸音の大きさ、左右差の有無、聴取部位などを確認します。また、異常音が聞こえた場合はさらに、副雑音の種類や体位、咳嗽による違いなども確認します。
敗血症の簡便な指標として用いるqSOFAには、呼吸数が含まれており、急変の徴候を掴むためにも呼吸数の測定は欠かせません。
呼吸数≧22/分 |
意識レベルの低下 |
収縮期血圧≦100mmHg |
測定のポイント
呼吸数は患者さんが意識してしまうと本来の呼吸数とは違ってしまうことがあるため、「呼吸数を測りますね」などと伝えてから測るのではなく、意識していない状態の呼吸数をカウントするようにします。
【呼吸音のアセスメントをおさらいしよう】
●呼吸器系のアセスメント(触診編)|触覚振盪音など
●【呼吸】聴診スキルアップ!(聴診部位など)
●正常呼吸音の聴取のしかた
●呼吸音の聴診 5つのポイント
【呼吸音の異常・呼吸の異常への対応について】
●異常呼吸の種類と原因|チェーンストークス呼吸・クスマウル呼吸・ビオー呼吸など
●第6回 異常呼吸音(副雑音)の種類とアセスメント
体温測定
基準値:36~37℃
体温測定は、表面体温、口腔温・腋渦窩温、深部体温の3種類がありますが、医療者が使う「体温」は「深部体温」を指します。体温測定時は、腋窩最深部に体温計の先端を当てるように差し込み、できるだけ密着させて測ります。低体温、熱中症、手術時など、深部体温を測定するときは、温度センサー付きの尿道バルーンを使用したり肛門から計測器を差し込んで測定することがあります。
【体温測定の正しい方法をおさらい】
●バイタルサインの基本! 【体温(深部体温)】の正しい測定法
【体温測定を英語で伝えるには】
●体温測定の声かけを英語でするには?(1)
【手術室での体温測定】
●手術室での患者さんの体温変化と体温管理の必要性
意識レベル
全身状態の評価は、バイタルサインのみでは不十分なため、意識レベルと合わせて評価することが多くあります。
意識レベルの評価
意識レベルを簡易的な方法で調べる場合は、声をかける、刺激をする、痛み刺激を与える、という順で行います。災害時や事故現場などでは、このようにして意識レベルを調べますが、首の骨を折っていることも考えられるので、激しく揺さぶることはしてはいけません。
医療現場では、意識障害と意識レベルを評価し正確に伝えるために、JCS(ジャパン・コーマ・スケール)やGCS(グラスゴー・コーマ・スケール)を使用します。
ジャパン・コーマ・スケール(JCS)の特徴
短時間で簡便に意識レベルの評価を行うことができ、間脳・中脳・延髄への侵襲の目安として判定しやすい指標です。
グラスゴー・コーマ・スケール(GCS)の特徴
「開眼・最良言語反応・最良運動反応」の3側面の総和で評価します。やや複雑であるのと、そのうち1項目でも判定が困難な場合は意味をなさないという問題があります。
【JCSとGCSとは】
●意識レベルの評価法、JCSとGCSの特徴とは?
【意識レベルのアセスメントをマンガでおさらい】
●マンガでわかる! 意識レベルのアセスメント
【意識レベル低下時の急変対応】
●意識レベル低下時の対応の流れ
尿量の測定
尿量は循環動態を確認するために必要な観察項目です。浮腫や脱水の程度の確認や心不全・腎不全、ターミナル期などさまざま疾患の診断や状態把握の指標となっています。
特に、周手術期での尿量管理は重要です。手術による侵襲は術後開創による出血、不感蒸泄、体液のサードスペースへの移行などの影響で体液バランスが著しく変化しています。この変化によって循環血液量が減少すると、それに比例して尿量も減少します。尿量が維持できなければ腎機能不全を引き起こし、生命の危機的状況に陥り術後の経過にも影響を与えます。そのため、術後は1時間当たり「0.5mL×Kg(体重)/h(時間)」の尿量がキープできているかを確認し、利尿剤の投与や輸液量の調整を行います。
基準値:一日の最低必要尿量…体重×0.5mL×24(mL)
【尿量の基準値とサードスペースと輸液管理】
●尿量を「0.5ml×Kg(体重)/h(時間)」に維持するべき理由
●サードスペースってなに?術後の輸液管理はナゼ難しい?
観察項目
バイタルサインを測ること、数値を見るだけではなく、患者さんの顔色など様子を見ることも大切です。また、繰り返しになりますがバイタルサインは、そのときの数値だけではなく、経時的に見て患者さんの状態を把握するよう努めましょう。
バイタルサインの測定の流れ
①患者さんへの説明
これからバイタルサインの測定をすること、測定の目的を伝え、同意を得ます。測定に拒否的な患者さんについては無理強いせず、時間をおいて訪室する、対応者を変える、Drに相談して測定回数や時間帯の変更を検討するなど対策をとるようにしましょう。
②測定を始める
バイタルサイン測定の順序は特に決まっていません。ただ、マンシェットを巻いたり体温計を挟んだりすることが患者さんにとって刺激となり、測定値に影響を及ぼす可能性のある場合は、それらを最後に回しできるだけ侵襲の少ないものから測定するようにします。
また、患者さんによっては測定結果に過敏な反応を示す方もいます。このようなケースは医療者側で情報を共有しておき、測定結果を伝えないか聞かれても基準値に近い値に修正して伝えるなどの配慮を行います。
【小児のバイタルサイン測定の意義・手順はこちら】
●第2回 小児のバイタルサイン測定|意義・目的、測定方法、注意点